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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第6章 アスティリアス貿易編
67/75

第54話「魔王様、レムノス島に帰郷する」

エスパーニャ暦5542年 7月12日 6時00分

レムノス島 魔王国首都ヴァルドロード東5キロ

魔王船



「魔王船機関停止、アンカー投下!」


 キャプテン・キッドの指示で魔王船の艦首から、アンカーが投下された。

 俺たちは久しぶりにレムノス島に帰ってきた。


 望遠鏡で見ると、ヴァルドロード港に数十人の住人が居て、こちらに手を振っていた。

 うん。皆元気にしていたようだな。


 今回の魔王船の投錨位置は、首都東2キロ海上にした。

 出発前にすでにこの付近の海底は調べて、座礁の心配は無いのは確認しているので、魔王船を港直近に寄せたのだ。

 荷物と人員輸送の効率化のという意味もある。



 魔王船からレムノスを久しぶりに眺めると、いくつか新たに建設している施設が見えた。

 首都はすでに完成しており、今はレムノス島第3期開発をしているようだ。


 首都北部、ヴァルド川付近には、頑丈な防壁に囲まれた基地予定地が見える。

 あの基地はレムノス島の魔王軍総指揮所であり「魔王軍イチカ司令部」となる予定だ。

 さらに川を渡った先には「サーシャ軍事基地」を建設する。


 一方南のレムノス大河には、レムノス村とこちらを繋げる「レムノス大橋」を作っているようだが、今は基礎部分だけが完成しているようだった。


 港の2千トンドックには2隻の完成した駆逐艦が入っている。

 また、10トン級警備艇もすべて完成しているようだった。



 俺は婚約者を引き連れ、マギアランチでヴァルドロード港に上陸。

 レムノス島に残っていた皆の歓迎を受ける。

 イレーネやアベルも元気でやっていた。

 そのまま俺たちは首都の視察を1日行なう。


 中心部は大きな通りになっていて、大通りに隣接する建物はすべて2階建で大きい。

 半分は役所や局の建物で、半分は店舗だ。 

 その他の住宅は全て平屋だが、集合住宅は2階建になっている。

 首都には計画通り4500人が住めるが、半分ほど平屋住宅を潰して集合住宅立て替えれば、2万人程度は住めると予測される。


 その他には、開拓局の横に闘牛場と公園を作った。

 公園は魔王池の影響を受けて設計されたようで、中心に池があって、船乗り場からスワンボートや遊覧ボートに乗ることができる。

 子供が遊べるように、スプリガンが作ったと思われるジャングルジムやブランコなどの遊具も設置されていた。


 首都の所々には空き地があるが、これは将来の拡張工事のためで、工事中は資材置き場になるそうだ。

 通路もすべて石畳で、おおむね首都として最低限の機能はあると思う。



 13日。

 帰ってきた翌日に、さっそく第4回魔王評議会を開催した。

 今回は場所を変え、首都の役所にある大会議場に局長と副局長が集結した。


「さて、これより首都で初めての魔王評議会を開始します。今月末よりレムノス島第3期開発も始めるので、いよいよ国家としての形も整えられると思います。皆さん、これからも頑張っていきましょう!」


 パチパチパチパチ!


 というわけで、主に俺が喋りまくり、貿易に出た時の魔王船の出来事をレムノス居残組の皆に説明した。

 それから今度はイレーネが、魔王船が留守の時のレムノス島の状況を報告する。


「ヒヤッとしたのは、魔王船が出て1ヵ月後のことでした。首都西の森から突然魔獣80匹が来襲してきたのです」


「それはこっちもビックリしました。たしか被害は小さかったんだよね?」


「ええ、4月5日から8日にかけての戦闘で、魔獣は撃退しました。被害は冒険者、探索者に軽傷18名、アンデットファイター8体破壊に止まりました。襲撃を早期に発見できたのが幸いでした」


「それから森を焼いたとか、やっぱ新しい迷宮はあったの?」


「西の森は1週間かけて4分の3を焼却。新たに迷宮を5箇所発見しましたが、人手が足りないので調査に手が回りません。どんな迷宮かは未調査です」


「そうか。今回は移民も連れて来たから、冒険者・探索者見習いだけでなく、農民からも兵士を募集したほうがいいかもね」


「その他の報告ですが、100トン級造船所は順調に稼動。計画通り10トン級警備船は10隻完成。カッター艇24隻完成で、その内20隻は警備船に乗せます。村のほうは3つが完成しており、サティ村は200人、エリザベス村は300人、エリス村は200人が居住可能です」


 村はすでに農業用水路を引いており、畑も土木魔法によって耕しは終了しているようだ。

 入植に関してはまず、マッドロックの移民達をサティ村 エリザベス村に放り込み、エリス村にはバルバドス移民の1角魔族を入れることにした。

 あとのバルバドス移民は、次の村が出来るまで魔王船で待機してもらう。



 14日。

 マギアランチを使用して、購入した食糧などの物資をヴァルドロード港の倉庫に運ぶ。

 すべてを運び終わるには1週間程度の時間が必要だ。

 俺はその間に新しいコンセプトの兵器を開発する。


 魔王船でレムノス島に帰る間に、俺は魔王船左舷甲板に怪しげな小屋を建て、その中で小型マギアエンジンを開発していたのだ。

 構造そのものは魔導扇風機に類似しており、鉄の筒の前部で魔力で空気を吸引し、圧縮して後部から噴出す。

 様々な形と制御魔法陣を試して、最終的にそこそこの推力を持ったエンジンが開発できたと思う。


 次は本体の作成。 

 大型の流線型の鉄の筒を作成。

 内部にミスリル線を張り巡らし、小型魔導モーターで垂直・水平に取り付けた操舵翼をコントロールする。

 そして胴体の左右に小型マギアエンジンを2基つけて完成。


 こいつは船に搭載する対空兵器で、発射されれば自動追尾で竜騎へ向かう。

 すなわちこれは、艦対空生体ミサイル「シーダーツ」と名づけたマギア・ミサイルだ。


 それでどうやって誘導を行なうかだが、寄生魔獣を誘導シーカーとして利用する。

 シーダーツ弾頭には穴が開いており、ブレイン分離体がその中に入り、誘導追尾、魔導モーターによる操舵翼操作を行う。

 発射されたシーダーツは、弾頭の寄生魔獣の肉眼によって目標を捕捉、操舵翼でミサイルを操り、命中した途端に自爆して「爆発エクスプローション魔法」で竜騎を破壊する。



 ここで問題になるのが、寄生魔獣をカミカゼ特攻させるところだ。

 敵を倒すために自分が自爆しなくてはならない。

 その辺のことをブレインに質問してみた。


「まったく問題ありません。我々は群体生命体ですので、全滅しない限り『死んだ』ということにはなりません。失礼ながら、魔王様は我々に名前を授けていただいておりますが、我々から見れば、その行為は奇異なものです。人間に例えて言うなら髪の毛や体毛1本1本に名前を付けるようなものです。人間が髪の毛や爪を切った所で、その髪の毛や爪が死んだ。という表現にはならないと思います」


 というわけで、寄生魔獣としては、魔王様の役に立つのなら自爆攻撃も喜んで行なう。

 ということになるらしい。


 さっそく俺は弾頭に詰められた寄生魔獣に「テストパイロット君」と名前を付け、ミサイルの打ち出し試験を行なった。

 魔王船左舷甲板から数度ミサイルを発射して、爆発は無しで飛翔性能を確認。

 充分に実戦で使用可能なレベルと判断した。


 ただし高性能とは言いがたい。

 ミサイルの速度は時速550キロ程度で、急降下する竜騎より平均100キロ早く、有効射程距離は2000メートルだ。

 

 速度はいいとして、射程距離が短い。

 充分そうに見えるが、あくまで水平に飛行しての射程が2千メートルだ。

 相手の爆撃騎が高度500で飛んできた場合は、500メートル上に駆け上るので、水平射程は1500メートルになる。


 問題は急降下攻撃騎で、あいつは平均して高度千を飛んでくるので、ミサイルで千メートル上に昇れば、水平射程では800~900メートルにしかならないだろう。つまり、急降下攻撃騎を攻撃するために、水平距離千メートル前後でミサイルを発射した時には、すでに相手は急降下を開始している。この状況ではミサイルが当たらない可能性も出てくる。


 燃費も悪い。

 推進用には5つ星魔力結晶、爆発には4つ星魔力結晶を使用するが、1回の飛行で5つ星魔力結晶は使い切ってしまう。

 4つ星魔力結晶を使用しての爆発は、それほど大きくないが、鉄製胴体も同時に飛び散るので竜騎を撃墜する破壊力はあるだろう。

 ともあれ今後「艦対空生体ミサイル、シーダーツ」を改良して、さらに射程を伸ばしたミサイルを開発しなければならない。


 とりあえず俺はシーダーツの採用を決定。

 固定式ランチャーを製造し、駆逐艦に搭載することにした。

 様子を見てから、後で魔王船にも搭載する予定だ。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第6章 アスティリアス貿易編





 7月20日。

 魔王船からの物資の輸送は終了。

 それから魔王船と首都で大面接会を実施した。


 各局の局員200名と兵士200名の募集だ。

 今回は2千名近くの応募があった。

 ファンタジーの世界でも公務員が人気なのか、世知辛い世の中だねぇ。


 さて、食糧も充分にあるので、その間俺は召喚組の増員を行なった。

 まずはスプリガン。

 現状100名だが、新たに200名を召喚、全部で300名とした。

 これからさらに大きく開発するし、将来の造船要員でもある。


 バトラメイドは70名から200名に増員。

 100名は魔王船とレムノス島の各種設備を警備、残り100名は魔王軍海兵隊に所属させるつもりだ。


 獣魔ハムスター族は、6種4名だが、キンクマ種以外は20名に増員。

 頭の切れるキンクマ種は、官僚業等に使うため、100名増員とした。



 23日。

 首都の財務局建物内に、リバースエンジニアリングした魔導造幣機3つを設置。

 魔王船で召喚して、船と車でここまで運んできたのだ。

 この造幣機で、魔王国の金貨、銀貨、銅貨を生産する。


 金貨の含有比率は30パーセントと低めに設定。

 ちなみにアスティリアスやレオン金貨はほぼ100パーセントの純金だ。

 魔王通貨は外貨との取引を禁止している。

 まあ超海流がある為に、レムノス島はセルフ鎖国しているようなものなので、交換したくてもできないが。


 今回の通貨で買えるのは道具、武器などの物だけにして、食糧は配給を継続する。通貨の供給量が少ないため、残念ながら月給制へ移行することは出来なかった。


 製造した金貨を袋へ詰め、全員に配布を開始。

 今回は幹部・兵士・冒険者・探索者に魔王金貨400枚。

 一般に魔王金貨200枚を一律で配る。


 バルバドスから呼んだ経済専門家によれば、しばらくはこれで持つが、1年以内にさらに魔王通貨を供給することを勧められた。

 同時に外貨もある程度流通させたほうが良いのだそうだ。


 現在の魔王国は自力が小さいので、まずは農業、産業を大きくして人口を増やし、規模を大きくして魔王通貨の信用を増大させるのを優先。

 のちに金貨の金比率を高めて、魔王通貨の価値を上げる予定だ。

 

 ゆえに次の貿易ではもっと収益を上げなければならない。

 やれやれ、国を作るってのは大変なもんだ。

 まだまだ先は長いな。



 魔王通貨発行の後に、俺たちは首都ヴァルドロードにて記念式典を開催。

 大勢の住民が集まる中で演説を行い、皆に食べ物と酒を振舞う。

 一体感のあるよいお祭りになった。



 25日。

 いよいよレムノス島第3期開発計画が本格的に始動。

 これでレムノス島開発は大きな区切りを迎えるだろう。


 まずは2千トンドックのすぐ北で、スプリガン主体で3千トンドック2基の建設を開始。

 100トン級造船所では180トン級輸送船の生産を開始した。

 この輸送船は、近い将来バニア島との間を往復して、バニア島開発の役に立つだろう。

 超海流に程近いバニア島は、外海の敵に対応するため要塞化するつもりだ。



 29日。

 完成したシーダーツとランチャーを駆逐艦に組み込む改装を開始。

 8月に公試を行い、搭載武器の評価を行なう。





エスパーニャ暦5542年 8月1日 10時20分

レムノス島 魔王国首都ヴァルドロード

西部上流街道


 ここは首都ヴァルドロード西門から出た先にある街道。

 マッドロックから来た移民団は、車や馬車に乗せられて、入植の為サティ村とエリザベス村に移動していた。


 北部移民団の団長を務めるまだ18歳の若い女性、アニス・マーケット・ティードは車の中から外の様子を見る。

 すぐ傍らにいる10歳の妹プリシーが、退屈そうに足をブラブラしていた。

 なだらかな平原が続く地形に、まだ真新しい街道が続き、そこをマッドロックの移民を乗せた車10台、馬車10台が進んでいく。

 アニスはゆっくり流れる景色を見ながら、これまでの出来事を思い返す。



 彼女の故郷は、アスティリアス王国ダービー領内陸の小さな農村、バベット村だ。

 農作物の収穫は少なく、長く続いた不況の影響で、この付近の農村で人余りが起きていた。

 一昔前なら余った人間は奴隷商に売られていたが、今はそのようなことは禁止されている。


 よって農村から溢れた人々は町に出て、冒険者や探索者をやったり、町で働いたりして生計を立てる必要がある。

 しかし、領都でも仕事が豊富にあるわけでは無いので、大抵は低賃金の貧しい暮らしを送るしかない。

 アニスは18歳で次女であり、他の農村に嫁げるアテもないので、そろそろバベット村から外に出なければならない。


 そんな時に、軍服を着た2人の男が村にやって来た。

 彼らは最近建国された魔王国ヴァルドロードの軍人と名乗り、移民の募集広告を付近の村に配っていた。

 アニスは両親に呼ばれ、その広告を渡され移民を勧められた。



 アニスは広告を読んで、その破格の内容に驚いた。

 充実の農民移民プラン「らくらく農民パック」なら、家や農具がタダで、耕し済み畑まで手に入る。

 しかし移住先は、超海流の先にあるレムノス島というところだ。

 一度渡ってしまえば、2度と故郷には戻れないだろう。


 アニスは一度も村の外に出たことのない純朴な女だが、それでもこの内容は「旨すぎる」話だと思った。

 相手は魔王国だ。

 魔王国を統べる魔王と言えば、あの覇王と激しく戦った伝説を何回か聞いたことがある。

 子供の頃には母親が「いうこと聞かない悪い子は魔王に食べられちゃうよ」とよく躾られた。


 おそらくこの旨い話に乗って魔王国に行けば、未開拓地に放り出され、魔族の厳しい監視の元、ムチで打たれながら馬車馬のように働かされるだろう。

 超海流の先で、レムノス島の周囲は海だ。

 逃げる場所はどこにもない。


 だが出来立ての国なので、そこまで酷くは無い可能性もある。

 色々と考えてみたが、アニスには判断はつかなかった。 

 何せアニスは魔王も魔族も、一度も自分の目で見たことはないのだから。


 アニスはよくよく考え、そして結局、移民に出ることを了承した。

 自分が出て行けば、バベット村の負担は軽くなると考えたからだ。

 それにどこへ行っても結果はさして変わらないように思えた。

 ならば、一縷の望みをかけて新天地に向かうのもいい気がした。


 しかし両親は、一緒に10歳になる妹のプリシーも移民に出すと言い出した。

 アニスは最初難色を示したものの、結局姉妹で村を出ることになった。



 移民団はバベット村周辺の余った人間を抽出して組織され、アニスは北部移民団190名の団長になった。

 団長になった理由は単純に一番年長者だったからだ。

 移民の平均年齢は13~17歳で、アニスだけが18歳だった。


 引率のエンリケ局長に連れられて、移民団は馬車に乗って領都エプソムダービーの港に向かう。

 離れていくバベット村を見ながら、アニスはたとえどんな目に遭っても小さな妹だけは守る。

 と心に誓った。


「わぁ~。凄いねおねえちゃん。海って大きいのね」


 初めての都会を通過し、これまた初めての海を見て、妹のプリシーははしゃいだ。

 すでに港には、武器を携えた長身のメイドのような格好した魔族や、長い耳や動物耳を持った魔族が沢山いた。

 アニスは人生の中で初めて見た魔族たちを、思わず見つめてしまう。

 

 魔王船に乗船するため、引率として金髪の人間族の女がやって来た。

 名をマリベルといい、魔王の筆頭側室なのだそうだ。

 なるほど、魔王の愛人になって出世する。

 そんな生き方もあるんだとアニスは感心した。



 しばらくしてアニス達は船に乗せられ、魔王船に向かった。

 事前に説明は受けていたが、魔王船のあまりの巨大さに圧倒され、移民たちは口を開けて魔王船を見つめるのみだった。


「凄い大きなお船だよ、信じらんない!」


「本当にね。まさか船の中に港があるなんて、村の人に言っても誰も信じてくれないわ」


 アニス達は驚愕しつつも魔王船に乗船。

 1つ上のデッキに昇るとさらに驚きの光景を目にした。

 なんと船の中に大きな町があったのだ。

 商店街には大勢の人が闊歩していた。


 想像していたより人間族の数が多く、魔族と人間族が仲良く暮らす姿を見て、アニスはカルチャーショックを受ける。

 それから移民団は居住区に案内され、大きな石造りのアパートメントで暮らすことになった。


 部屋の設備の説明も受けたが、火をつけるコンロや水洗トイレなど、貴族が使うような高級な魔道具が自由に使えるのでアニスは2度ビックリだ。

 説明が終わり部屋に姉妹だけになり、荷物を置いたアニスは妹と共に床に座り、一緒にしばらく放心した。

 アニス達の今の気持ちは、地球でいうなら、寂れた片田舎から突如最新鋭の宇宙船内に住むことになり、恥をかかないように四苦八苦して、精神的に疲労した感じによく似ていた。



 7月2日。

 魔王船はダービー領近海から出発。

 レムノス島を目指す。


 姉妹は魔王船の自然区画から、離れていくアスティリアスを見つめる。

 それからは馴れない魔王船での生活だったが、子供の順応は早いもので、妹のプリシーは、同じ年頃の人間族や魔族の子供と公園で遊んだり、魔王船内を探検したりしていた。



 7月11日。

 魔王船は超海流に到着。

 アニスとプリシーは甲板に出て、超海流の雄大な光景を目撃する。

 周りを見れば、マッドロックの移民たちも数多く甲板に出ていた。


 果たして無事に突破できるか。

 アニスは内心ドキドキしていたが、魔王船はあっさり超海流を抜けて航行を続ける。

 ここを抜けたからには、もう二度とバベット村に戻ることは無い。

 アニスは故郷に永遠の別れを告げる。





「うーん。やっと着いたぁ!」


 エリザベス村に到着し、退屈していたプリシーは一番に車から降りる。

 アニスは村の様子を見てまたまた驚く。


 村を囲む立派な壁に大きな平屋住宅、整備された井戸に石畳の村道。

 ぶっちゃけバベット村より遥かに立派な村だった。

 畑は移民広告通り耕し済みの畑があり、畑の面積はバベット村の倍はある。


 アニスは団長なので、村長が住むための大きな家があてがわれた。

 そこは普段住む住居と、客や冒険者を泊めることが出来る離れ、集会所があった。


「まあ余り時間がなかったものでな。家はやっつけ仕事になってしまった。少々みすぼらしいが我慢してくれ」


 と、案内に来ていた魔族のスプリガンの言葉を聞いて、アニスは呆れた。

 どう考えても、ここの家は故郷バベット村より数段グレードが高い。

 壁も分厚く、柱も太く頑丈で、少々の自然災害ではビクともしなさそうだ。

 これでみすぼらしいなら、バベット村の自宅は犬小屋かなんかだろう。

 アニスはスプリガンの基準がかなりおかしいことに気付いた。


 数日後、マッドロックの移民達の移住は無事終了。

 予想していたような魔族の監視は無かった。

 駐屯している陸軍の兵士が4名いるが、彼らは魔獣を見張るために外を巡回している。


 アニスは集会所に皆を集めて、これからの仕事の打ち合わせをする。

 道具はすべて揃っているので、後は仕事をするだけだ。

 皆若いといっても、幼少のころから農業の仕事はしているし、必要な知識も持っている。

 後は実践して年貢を納め、余分に野菜を作って、首都に行商に出るのも良いだろう。


 アニスはここに来て良かったと思う。

 明るい未来が見えて来たような気がして、アニスは妹と笑い合った。





エスパーニャ暦5542年 8月2日 14時20分

レムノス島 東海上50キロ


 真新しい武器を搭載した生体駆逐艦アーク・デーモンが、帆に風を受け、海中のポンプジェットを噴射させつつ、海上を疾駆する。

 今回駆逐艦は予定された武装をすべて装備し、海上の試射にて公試を行なう。

 俺はブレイン、エンリケ局長と共に、魔王船の司令の間よりはるかに狭い駆逐艦ブリッジに陣取る。


 駆逐艦ブリッジには、局長席がある、その真横には台座があり、その上に駆逐艦をコントロールしている寄生魔獣アーク・デーモンが乗っていた。

 局長や艦長と円滑にコミュニケーションを行なうために作られた、特製の寄生魔獣台座だ。



 この駆逐艦は、魔王海軍が誇る最新鋭の駆逐艦で、大きくは外海艦という区分となる。

 外海艦とは超海流を突破可能な艦のことで、条件は総鉄船で、魔走が可能で、最大速度が12ノット以上出るのが条件だ。

 以上の条件があるので、外海で活動可能な魔王海軍の艦数は少なくなることが予想され、個々の艦は汎用性、多機能化を重視している。


「セイリングカット。戦闘態勢に移行せよ。第2戦闘速度!」


「セイリングカット、硬翼帆たため。戦闘態勢、完全魔走へ移行、第2戦闘速度へ。2分で達せ!」


 生体駆逐艦アーク・デーモンが展開していた硬翼帆が、魔導モーターの起動によりスルスルと降ろされ、下段に格納される。

 海中ポンプジェットは出力を上げ、唸りながら駆逐艦を14ノットに加速させる。

 駆逐艦アーク・デーモン級1番艦、アーク・デーモンの諸元は以下の通り。



排水量

基準 1800トン

満載 2400トン


全長 80メートル

全幅 12メートル

喫水 2メートル


主機関  魔導ポンプジェット2基2軸

     甲翼帆 マスト2本

最大魔走速度  18ノット

最大帆走速度  4~6ノット

最大魔帆走速度 20ノット

航続距離 魔力結晶による


最大乗員 120人


兵装   両用5インチ旋回式連装砲塔 2基

     対艦5インチ固定砲    20門

     対空20連装投射機     6基

     対空5インチ臼砲      4基

     シーダーツ固定ランチャー  2基(4発×2 8発)


艦載機  小型竜騎2騎


艦載艦艇 カッター艇4隻


その他  貨物用魔導リフト

     竜騎発着ポート1基

     クレーン3基


装甲種別 鋼鉄、アダマンタイト、ミスリル複合装甲


寄生魔獣重量 3トン



 今回装備した武装の説明。

 まずは両用5インチ旋回式連装砲塔2基4門。

 5インチ・マギア砲4門で、対空・対艦攻撃を行なう。

 対空弾は開発中であり、今のところ対艦攻撃のみ可能だ。

 ブリッジの前、艦首側に設置している。


 次は対艦5インチ固定砲。

 竜騎格納庫、発着ポートの下デッキ、両舷に10門ずつ搭載。

 従来の戦列艦と同様に、横一列に砲が並ぶ砲列甲板となっている。

 プロは砲列甲板のことをガン・デッキと呼ぶようなので、これからはガン・デッキと言うようにしよう。

 そっちのほうが格好いい。



 このように駆逐艦の主力砲は5インチ・マギア砲だが、5インチ砲弾は種類が豊富で、生産数も多く、どこの国でも輸出しているので調達が容易だ。

 戦争ではこれが割りと重要なので、駆逐艦は5インチ砲主体となったのだ。


 5インチ・マギア砲の有効射程は3千メートル。

 実際は4千メートルまで届くが、命中率が極端に下がるので、3千メートル以上の攻撃ではぶどう弾オンリーとなる。

 弾丸は今は球形が廃れ、先が尖がった弾になっている。


 造船迷宮では特製船舶塗料が取れ、こいつを船底に塗ると海面との摩擦が低減して船の速度向上が見込めるが、この効果は砲弾にも有効で、砲弾も一般的にこの特製船舶塗料が全面に塗られている。

 このため、地球で帆船時代に使用されていた砲よりは射程は長いはずだ。


 しかし、砲にライフリングは刻んでいないので、地球の現代砲に比べれば命中率は低い。

 なのでガンデッキで沢山砲を並べて、数うちゃ当たる理論で命中率向上を図っている。

 これに関しては、あとほど改良するつもりだ。



 駆逐艦の対艦装備は以上。

 次は対空装備だ。


 まずは陸軍でも海軍でも幅広く使われる対空臼砲。

 釘や鉄くずが詰まった木製弾頭を装填、発射してそれらを前面に撒き散らし、竜騎にダメージを与える面制圧兵器だ。

 これで竜騎を即撃墜することは出来ないが、ドライバーに加わる心理的圧力はかなり高い。


 欠点は射程の短さで、有効射程300メートル。

 固定砲なので、竜騎を追尾して発射することはできない。



 対空20連装投射機。

 こいつは木製ラックに長槍を20本を装填。

 強力な風魔法で槍を上空に打ち出し、竜騎を攻撃する。


 20連装投射機と40連装投射機の2種類がある。

 槍が尽きると木製ラックごと交換する。


 長所は対空臼砲より格段に軽いことで、人力で竜騎を追尾しながら攻撃可能。

 弾はともかく槍状のものならなんでも良いので、自作や改良が容易なこと。

 斜め上にも打ち上げられるので、急降下攻撃騎にも対応できる。


 欠点はやはり射程の短さで、有効射程は300メートル。

 狙いもつけにくいので、牽制目的で無い場合は、投射機3基で1騎の竜騎を狙う。


 現在この世界で主に使用されるのはこれらの対空兵器だ。

 射程は短いものの、竜騎に対してはかなり効果があり、有ると無いのとでは損害を受ける確率がまるで違う。

 ただ、急降下攻撃騎には少々非力に思えるが。



 というわけで新たに俺が開発したのが、生体対空誘導ミサイル、シーダーツだ。

 射程2000メートルの飛距離を誇り、急降下爆撃騎に対し、これまでより大きな効果を得るだろう。

 破壊力も大きく、当たれば1撃で竜騎を撃墜可能だ。


 欠点としては誘導シーカーが寄生魔獣で、量産数に限界があり、肉眼での誘導なのでレーダー誘導より命中率は落ちるだろう。

 夜間での使用もできないが、竜騎も夜間は飛ぶことがないので、問題は少ないと思う。


 駆逐艦ブリッジの両舷に固定ランチャーで4発ずつ装備されている。

 使い切れば、補給は港か魔王船ウェルドックで行なうしかなく、自動装填装置も考えてはいるが、甲板スペースの都合上、駆逐艦への搭載は無理と思われる。

 巡洋艦専門の装備となるだろう。



「左砲戦用意。弾種、通常弾」


「左砲戦用ー意。弾種、通常弾!」


 エンリケ局長の指令により、艦首の連装5インチ砲が左に旋回を始める。

 左舷のガンデッキ開口部より、次々に砲の先端が船外に飛び出す。


 ブリッジ最上部の隙間より、アーク・デーモンの目玉がニョロニョロと2つ出てきて、横に大きく広がり測距体制に入る。

 これはブレインがやっていた測距儀ごっこの成果だ。

 この測距儀ごっこの技術は、知識玉でブレインからアーク・デーモンに譲渡された。


 連装5インチ砲は、アーク・デーモンが作業用スケルトンを操り弾を装填する。

 固定5インチ砲、対空兵器は人がやっているが、これも後でスケルトンに置き換える。


 このようにして人員を節約して、短期間で大量の戦闘艦を運用可能にするつもりだ。

 なにせあまり時間が無いから、沢山人を育てることができない。

 最終的には、乗員120人中、人は20名程度にして、他はスケルトンに任せ運用艦数を水増ししないとな。


「左舷1番大砲から10番大砲まで射撃準備完了!」


「敵1番艦。距離2千メートル、速力10ノット、測距完了。連装5インチ砲1番、2番、射撃準備完了!」


 魔導伝声管と寄生魔獣より次々に報告が入る。

 艦長が攻撃開始を指示。


「砲撃開始! 撃ちぃ~方~始め!」


 ドンッ! ドドォォン!


 轟音がブリッジに響き、左舷に閃光がほとばしり、駆逐艦が震動で揺れる。

 すげぇ~、大迫力だな!

 やっぱ軍艦はこうでなくっちゃな!


 発射煙が海風に流され、駆逐艦は次々に架空の敵に砲弾を浴びせる。


「敵竜騎接近、爆撃騎1騎を視認。4時の方向、距離6千メートル、高度500!」


「射撃中止、対空戦闘用ー意!」


「面舵一杯、針路300度!」


「対空兵器、シーダーツ射撃準備完了。シーダーツ目標を捕捉!」


「シーダーツ、ファイア!」


 ブリッジ右舷から発射音が響き、シーダーツ1発が、鋭い飛翔音を響かせ、上空に駆け上る。

 今回は爆発はさせず、海中落下後、シーダーツの寄生魔獣が浮き袋を作り海上を漂流、あとにクレーンで回収する。


「敵竜騎なおも接近、距離600メートル、高度400!」


「近接対空戦闘、撃ちぃ~方~始め!」


ドンドンッ! ドドドッ!


 対艦攻撃音より小規模な発射音が連続で聞こえる。

 空中に鉄片がばら撒かれ、槍60本が空中を切り裂いて撃ち出される。

 これもなかなか凄い光景だな。



 というわけで、武器の試射は問題なくすべて終了。

 駆逐艦の武装はこれで決定した。

 すでに完成しているアーク・デーモン級2番艦、3番艦もすぐに改装が開始される。


 寄生魔獣アーク・デーモンが経験した情報は、知識玉でブレインやヒューガに伝達されフィードバックされる。

 まずは小さな艦で試してから、大きな艦に適応させる。

 これが一番失敗が少ない方法なのだ。





 8月3日。

 2千トンドックより駆逐艦2隻を引き出し、新たに駆逐艦2隻の建造を開始。

 武器改装は魔王船の造船所で行い、遅れて魔王船でも駆逐艦を1隻建造する。


 4日。

 魔王船がレムノスに出発した時に放ったスパイ鳩の内、6羽がレムノス島に帰還した。

 ブレインが結果報告を行なう。


「報告します魔王様、スパイ鳩100羽のうち視察地に無事到着したのは86羽。24羽は鳩のまま、46羽は魔獣に食われて寄生成功、4羽は失敗しました」


「分かった。なかなかの成功率だな。しかし全体をカバーするにはまだ足りない。第2波、第3波を送り込むべきか。収集した情報はすべて紙に書いといてくれ」


「御意」



 3千トンドック2基の建設を実施。

 8月は丸々この工事に費やす。

 スプリガンを動員、俺も手伝って29日に3千トンドックは完成した。


 偵察スパイ鳩第2陣100羽が出発。

 あいかわらず夜中に、開拓村から空に放った。


 30日からさっそく3千トン級ドックで魔王海軍の新型艦、デーモン・ロード級生体巡洋艦、多目的生体輸送船スフィア級の建造を開始した。



 9月1日、今日から首都北部2キロ先で、魔王軍のレムノス島総指揮所「魔王軍イチカ司令部」の建設を開始。

 同時に、ヴァルド川北で「サーシャ軍事基地」の建設を開始した。


 イチカ司令部は壁まで出来ているので、完成は早いだろう。

 建設はスプリガンに任せ、俺はその間新兵器開発にいそしむ。

 グフフ、いよいよ魔王船にも武装を施す時がやって来たのだ。



 9月29日。

 魔王軍イチカ司令部が完成した。

 サーシャ軍事基地はもうちょいかかる。


 サーシャ軍事基地を作りつつ、村の建設を開始。

 エリザベス村等がある南に新たに村を3つ作る。

 規模はローラ村200名、アイラ村200名、ビアンカ村200名程度。

 さっさとバルバドスの移民を入れないとね。


 シルビア村とアシュレイ村の中間にも、シーエルフ50名が住む、リン村を建設する。

 10月10日、サーシャ軍事基地完成。

 13日より、レムノス大河を渡るレムノス大橋の建造を開始。



 11月2日。

 駆逐艦3隻が新たに完成。

 これで駆逐艦は全部で6隻になった。

 まだまだ作るよ。

 名称はこんな感じにしてみた。


アーク・デーモン級駆逐艦

 1番艦 アーク・デーモン

 2番艦 サスペリア

 3番艦 シャイニング

 4番艦 キャリー

 5番艦 バタリアン

 6番艦 ゾンゲリア



 11月24日。

 ローラ村、アイラ村、ビアンカ村、リン村すべて完成した。

 そしてレムノス大橋も完成。

 木造だが鉄で補強しているので、車も通ることができる。

 橋の完成にともない、スケルトン渡し舟は廃止した。



 それにしてももう11月か。

 時が過ぎるのは早いねぇ。

 体感時間は数ヶ月程度にしか感じなかったわ。


 エスパーニャ暦5542年ももう終わりだ。

 大晦日のパーティーの準備をしとかないとな。



    第54話 「魔王様、レムノス島に帰郷する」

   ⇒第55話 「魔王様、新兵器を作る」



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