表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第5章 レムノス島開発編
60/75

第50話「魔王様、駆逐艦を製造する」

エスパーニャ暦5542年 2月22日 10時00分

レムノス島東15キロ海上


 新造艦の海上公試の為、俺とブレイン、エンリケ局長、水兵達は曳船型マギアランチに乗り込み、魔王船から東5キロの海上で待機していた。

 海上は晴天、とてもよい天気だ。

 試験日和といえる。


「見えてきましたな。あいつが例の新型艦ですか……」


 エンリケ局長の言葉を聞き、俺が魔王船の北側に目を凝らすと、小さな船がこちらに来るのが見える。

 あれが俺とスプリガンで作った新型艦だ。


 最大排水量2400トン。

 総鉄船で海中噴射式の魔導ポンプジェット2基で推進。

 搭載カッター艇4隻。

 魔力を節約するための2本の甲翼帆マスト。


 全長80メートルで、全幅12メートル。

 最大乗員は120名。


 艦橋はかなり前のめりに設置している。

 何故かというと、2本の甲翼帆マストを船体にバランスよく配置するためだ。

 艦橋のすぐ後ろに小型竜騎を2騎搭載可能な格納庫がある。

 無論竜騎発着に必要な竜騎発着ポートを備える。


 カッター艇4隻を搭載し、竜騎格納庫の上と、後部マスト付近にクレーンを3基設置。

 他には貨物用魔導リフト、左舷艦尾に昇降可能なタラップ、折りたたみ式の舷梯げんていをつけた。


 将来の武装のために、船体にはあらかじめスペースをいくつか空けてある。

 艦首甲板には連装5インチ旋回式砲塔を2基つける予定で、両舷には5インチ砲を10基ずつ配置するため、事前に砲門を出すためのハッチをつけておいた。


 魔走と帆走両方が可能な、魔帆船まはんせんだ。

 その名をアーク・デーモン級生体駆逐艦、1番艦アーク・デーモンという。





 俺は去年から、ヒマをみつけてはマギアランチと駆逐艦の模型で水槽実験を繰り返し、船体のデザインを考えていた。

 リリア奪還のために、アルコンとの戦闘を決意した俺は、新たに駆逐艦を作ることにした。

 なぜ魔王船があるのに、小型の戦闘艦を作ろうと考えたか。


 そりゃ、魔王船は武装して竜騎を搭載すれば、とてつもなく強くなるだろう。

 また信じがたいほど打たれ強いはずなので、アルコン艦隊と戦えば無双できると思われる。

 俺には魔王船が沈没する姿など想像することもできない。


 しかしこの世界にはレーダーが存在せず、索敵は目視が主だ。

 いかな魔王船が強くても、目視の索敵範囲はせいぜい20キロ、竜騎を使っても450キロ。

 砲の射程は長くとも8千メートル以内だろう。


 対して、海戦の舞台となるバトルフィールドは、四方5千キロを越える巨大な海だ。

 いくら魔王船が強くとも、たった1艦では戦争にはならない。

 敵の位置が判明しないのなら戦いようがないからな。


 だから魔王船には、どうしてもサポートしてくれる艦隊が必要になる。

 その考えから生まれたのが、この生体駆逐艦だ。



 生体駆逐艦は、1月4日から建造を開始、およそ3ヶ月で完成した。

 まだ武器は入手していないので、非武装である。

 俺は完成してウェルドックの桟橋にたたずむ駆逐艦を確認。


 船内への物資の積み込みは先ほど終わった。

 舷梯げんていを桟橋に伸ばして、作業用スケルトン、ゴーレム、水兵で荷車を使って荷物を運んだ。

 コンテナは無いので、物資は昔ながらの樽と木箱に詰められて保管される。

 手持ちが可能な品は、迷宮の時にも使用した移送リングを使って船内に運ばれた。



 ブレインを連れて、第7デッキの育成室に向かう。

 そこにはヒューガの捕食口があり、その隣には巨大な体になったブレインの分離体がいた。


「大きいな、ブレイン。この分離体はどのくらいの大きさだ?」


「ハッ、約6トンといったところでしょうか」


「ちょうどいい。3トン分離して駆逐艦に搭載だ。ヒューガから魔法や操船などの技術は受け取っているな?」


「それはもちろん。知識玉にて伝達終了しております」


 このブレイン分離体は、リリア脱出後しばらくして、ブレインの体の一部を分離して育成室で大きくするよう指示したのだ。

 最初はソフトボール大の大きさだったが、ヒューガから栄養をもらって、6トンの大きさになった。


 この分離体3トンを、今から駆逐艦に搭載する。と言っても、通路を進むには大きすぎるので100キロづつ分離し、計30体で行進しての駆逐艦搭載になった。

 第6デッキに向かって、寄生魔獣の列がゾロゾロと歩いていく。この光景を目撃した猟師達は唖然としていた。


 駆逐艦の船体は3デッキに分かれており、艦橋は3階立てだ。

 寄生魔獣の本体は、最下層のデッキに入ってもらった。


 それから寄生魔獣は、駆逐艦の床や装甲の間に広がり、自分の体を駆逐艦内に満たした。

 次に肉配管を形成し、魔導伝声管や浄水、下水、ゴミ輸送配管を艦の内部に張り巡らす。

 艦橋の隙間からも、大きな目玉や肉顔面が外に出てくる。

 これで、この寄生魔獣は駆逐艦全体を掌握した。


 これが俺が作りたかった生体駆逐艦だ。

 ようはミニチュア版のヒューガであり、小さいながらも塩と真水を作ったり、操船したり、武器をコントロールしたりする能力を持つ。

 まるで地球にあるような、コンピュータ制御の人工知能船のような船を、俺は目指した。


「よし、駆逐艦の寄生魔獣よ。今日からお前はアーク・デーモン級生体駆逐艦、アーク・デーモンと名乗れ」


「ハハッ、ありがたき幸せ!」





 話を海上公試に戻そう。

 公試中の駆逐艦は無人で、アーク・デーモンが直接操艦を行なっている。

 公試では船体の運動性能を確認するのが目的で、万が一転覆しても人員に被害が出ないようにした。

 ポンプジェットに使用する5つ星魔力結晶は、レムノス島の迷宮で入手したものと、魔王船宝物庫にあったものを10個食べさせた。


 どれくらい魔力を消耗するか分からないので、とりあえず最低限だ。

 消費具合を見て、5つ星魔力結晶の搭載数を正式に決めることになるだろう。


 エンリケ局長の指示の元、生体駆逐艦はさまざまな航走を見せる。

 最大戦速からの、ポンプジェット逆噴射による急制動。

 高速8の字ターン。

 最大戦速での面舵一杯、取舵一杯。 


 どんな航走でも、生体駆逐艦は安定した挙動を見せた。

 良かった。

 俺も頑張って模型で研究した甲斐があったな。


 次はスピードの計測だ。

 魔王船を物差しにして、端から端まで移動する時間を測って、スピードを割り出す。


 その結果、魔走では最大戦速で18ノット、無動力の2本マスト甲翼帆のみで4~6ノットのスピードが出た。

 駆逐艦に甲翼帆をつけたのは、魔力が切れた時の移動手段、それから魔力の節約のためだ。

 甲翼帆の設計図はバレンシア領海軍が持っていて、それを参考にグスタフが作り、俺が召喚登録をしておいた。


「素晴らしい性能です。さすがは魔王様、こんな凄い船を作るとは!」


 海上公試の結果に、エンリケ局長も満足そうだ。

 公試を終えた駆逐艦はウェルドックに戻し、食料等の物資の詰め込みを開始。



 23日、エンリケ局長と第1水兵隊40名、第2水兵隊36名、ドラゴンドライバー4名、偵察竜騎2騎を搭載したアーク・デーモン級生体駆逐艦は、試験航海の為に、意気揚々と魔王船から出発した。


 試験航海の日程は1週間で、まずバニア島に向かい、そこから大きく南を回り。魔王船に戻ってくる予定だ。

 エスパーニャ大陸では、海に魔獣が出るという話は聞かないが、念のため魔導通信機の届く範囲500キロ以内で航海を行なう。


ウオオオオオォオ!


 魔王船から離れていくアーク・デーモン級が「船笛」を鳴らす。

 その雄たけびはヒューガには負けるものの、充分な迫力があった。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第5章 レムノス島開発編





 さて、現在のレムノス島の開拓状況だが、1トン級漁船の増産は順調に進んでおり、週2隻の建造ペースで、すでに6隻が完成。

 完成した先から、どんどん漁民達に使われ、供給される新鮮な魚や干物は順調に増えている。


 首都の完成率は、もうすぐ46%。

 すでに住居や倉庫もかなり立っており、開拓村の住民と資材もほとんどが首都へ移動。

 冒険者と探索者、兵の拠点も首都に移しており、開拓村は牧場以外閑散としている。


 シーエルフのアシュレイ村、シルビア村の缶詰工場はほぼ完成しており、3月1日あたりから生産を開始できそうだ。

 魔王船の缶詰工場も、すでに缶詰生産を行なっているが、まだ生産数は多くは無い。

 もう少し作業を見直して、慣れてくれば生産数も伸びてくるだろう。


 ちなみに2種類の缶詰の正式名称は「魔王のご馳走 コトコト煮込みの魚肉スープ」「魔王のご馳走 コトコト煮込みのムール貝スープ」と決定した。

 元の缶に2種類の正式名称を鍛冶魔法で掘り込み、あとは複写で増産する。

 製造年月日は缶底に焼印で押印することにした。



 2月26日、試験航海3日目。

 俺が執務室で、造船所で次に作る10トン級警備船の設計図を眺めていると、海軍局副局長のガスパールさんと陸軍局局長マリオさんがやって来た。


「どうもお疲れ様です。何かありましたか?」


「それがそのー、先ほど試験航海中のエンリケ司令から連絡がありまして、魔王船より南480キロの海域でアスティリアスの難破船を発見、乗員を救助したそうです」


「へ? ひょっとして内海でですか?」


「そうです。内海です」


「マジですか!!」



 ガスパールさんの言葉に俺はビックリした。

 まだ正式に決まってないが、俺達は超海流を挟んでレムノス側を内海、エスパーニャ大陸側を外海と呼んでいる。

 内海で救助したということは、つまりアスティリアス王国の何者かが木造船で超海流を突破したということだ。

 一体どうやって?

 マリオ局長が続きを説明する。


「とはいえ、難破船はボロボロで、マストは3本とも折れ、舵は故障。食糧も使い果たしてしまったようです。どうやら外海で海賊に襲われたようですな」


「ほう。海賊ですか……」


「通信に寄れば、現在、生体駆逐艦は救助した乗員と共に、魔王船に向けて北上中とのことで、28日には魔王船に帰還するとのことです」


「しかし僥倖ですね。ここ半年はレムノスに引きこもってましたが、外部の情報が手に入る」


「たしかに。通信によれば難破船は商船で、バートウィッスル商会の船だとか。色々な情報が手に入りそうです」


「そこは有名なんですか?」


「ええ、本店はバルバドスで、アスティリアスやレオンでも、手広く商売をやっているようです。レオン軍の物資調達で名は聞いたことがあります」


 おお、こいつは期待できそうだな。

 聞きたいことが山のようにあるぞ。

 おまけに魔族国バルバドスの商会か。

 バルバドスにツテが出来るな。



 それから2日後、予定通り生体駆逐艦アーク・デーモンが魔王船に戻ってきた。

 俺は司令の間の見張り台から、その様子を見る。


 駆逐艦艦橋の肉顔面や隙間からニョリニョロ出ている目玉がシュールだ。

 それにしても生きている駆逐艦か。

 遭難者はこの駆逐艦を見て、どう思ったんだろうな。


 生体駆逐艦は無事ウェルドックに収容された。

 しばらくして魔王城受付からエンリケ局長の連絡が来た。

 バートウィッスル商会の長と遭難船船長が礼を述べたいとのこと。

 俺は面会を許可し、謁見の間に向かう。



 俺は謁見の間の玉座に座り、両側を警備のメイドナイト2人とリビング・アーマーが固める。

 しばらく待っていると、エンリケ局長、それと魔族の女、人間族の中年の男がやってきた。

 3人は膝をついて頭を下げる。

 俺はとりあえずエンリケ局長に話しかけた。


「エンリケ局長。お疲れ様でした。航海のほうはどうだったでしょうか」


「はい。とても順調でした。魔走、帆走、竜騎での偵察、カッター艇での救出。細かい改善点はあるものの、おおむね水準以上です。細かい報告はまた後ほどに」


「分かりました。それで後ろの2人が件の遭難者の人達ですか?」


「ええ、魔族の女性がバートウィッスル商会の支店長で、人間族の男性が船長です」


 エンリケ局長の紹介を受けて、2人は自己紹介をする。


「お初にお目にかかります魔王様。私はバートウィッスル商会、アスティリアス支店の支店長、ベルタ・バートウィッスル・ブルックと申します。今回は救助していただき、まことにありがとうございます」


 魔族の女性の方は若い獣魔羊族だ。

 頭に見事にカールした2本の羊角がついてる。

 あの角に引っ掛けてタオルでも干せそうだな。


 髪の毛は白色で瞳は黒。

 全体として実に羊っぽいが、印象はしっかりお姉さん、みたいな感じだな。

 さすがは支店長。


「救助していただき感謝しております。私は300トン級商業輸送船アッシャー号の船長、コーマック・キャボット・カラハーです」


 船長のほうは、金髪に髭、がっしりとした体格。

 いかにも海の男といった感じで、ベテラン船長の風格がある。


「お二人とも大丈夫そうですね。聞いた話では海賊に襲われたとか。大変でしたね」


「はい。それはもう……」



 ここからは情報収集タイムだ。

 まずレオン王国の現状だが、おおむねこちらの予想通りだ。

 バレンシアとパルマ島はアルコンの占領下で、事態は動いていない。


 バートウィッスル商会は、日本で言う総合商社のような大きな商会で、自身は迷宮のドロップ品や食糧等を扱うが、各国に支店があり、中継ぎでどんなものでも揃えることが出来るそうである。各国の武器商人とも親しく、バルバドスでトップの商会なのだそう。


 そのバートウィッスル商会の分析でも、戦争は確実に起きるが、開戦は時期尚早という判断らしい。

 なぜ「戦争が確実に起きる」と言えるかだが、現在レオン王国から物凄い数の物資の注文が、アスティリアスや他国に来ているらしい。


 あまりにも注文数が多く、とても捌けなくてレオン支店もてんてこ舞いの状況。

 そこでアスティリアス支店から、商品を送るついでに人も送り込もうと、300トン級商業輸送船4隻でレオン王国に向かったのだが、途中で海賊に襲われたのだ。


「私どもの分析では、レオン王国はアルコンとの全面戦争を覚悟していると思われます。すでに物資の調達を開始しており、国家予算の執行も行なっています。少なくともバレンシアとパルマを奪還するまで、動きは止まらないでしょう」



 ベルタ支店長はそう断言した。

 海賊に関しては、最近アルマダ海に頻繁に出没しているとの情報もあり、充分警戒しているつもりだったが、竜騎と海賊船の襲撃で、アッシャー号以外の3隻は物資を奪われ、沈められたらしい。

 襲ってきた竜騎は、南方産の爆撃竜騎6、海賊船4隻。

 俺は疑問に思ったことをエンリケ局長に聞く。 


「局長。海賊は竜騎母艦を使用することがあるのですか?」


「まさか。竜騎を4騎程度積めるドラゴン・クルーザーを使って、偵察、通信ぐらいは出来るでしょうが、それ以上の戦力はないはずです。だいたい金が無いから商船を襲うのであって、金のかかる装備を揃えたら本末転倒ですな」


「うーん。しかし現実に戦力はあるわけで ……ということは私掠しりゃく船でしょうか?」


「ベルタ女史によれば、アルコンは否定しているとか。しかし非公式ならば充分ありえるかと。竜騎は南方の闇商人にツテがあれば揃えることが出来るでしょう」



 私掠しりゃく船とは、戦争中の国が個人の船に「私掠免許」を与え、敵国の船を沈めたり物資を奪ったりすることを正式に認める免許。

 やってることは海賊っぽいが、れっきとした国が認めた業務だ。

 とはいえ、アルコンは否定しているので、今回は誰が見ても海賊行為だろう。

 しかしアルコンが関わっている可能性は濃厚だねぇ。


「局長。なぜアルコンは関わりを否定するのでしょうか。私掠船だと堂々と言えばいいのに」


「恐らくですが、アルコンの軍人が直接関わっている可能性が高いですな」


 やっぱりか。

 アルコンは、今はレオンとの全面戦争はできないし、他の国も敵に回したくは無い。

 だがレオン王国は、色々な国に物資を注文して集めている。


 だから非公式の私掠船。

 つまり海賊を利用、隠れ蓑にして、レオンの通商妨害を行なっているということだ。

 多分竜騎に乗っているのは、アルコンの軍人だろう。

 戦争の準備が整うまでの時間稼ぎだね。



 それから話題は、海賊に襲われた後の話になる。

 海賊の襲撃から逃れたアッシャー号は、マストは3本とも折れ、舵も破壊された。

 追跡してきた海賊船は、本隊から離れすぎたせいか、アッシャー号をそれ以上襲わずに引き返したそうだ。


 そこから長い漂流生活の始まりだ。

 海賊の攻撃でゴーレム鳩や通信機も壊れたので救援も呼べない。

 海流と風まかせに船は南西に20日ほど流された。


 そして超海流に引き寄せられて、船は突入。

 奇跡的に突破に成功。

 超海流を突破してから3日後に、うちの駆逐艦の偵察竜騎に発見されたという。

 しかし、なぜ木造船が超海流を突破できたのか?


「局長。なぜアッシャー号は超海流を突破できたんですか?」


「それなんですが、突入した時には、食糧や酒はほぼ尽きていました。折れたマストは3本とも捨て、商品も燃えたので海に投棄しています」


「ああ、そうか。つまり喫水線が浅くなったのか!」


「その通りです。だから海底岩石が船底をくぐったのだと思います」


「しかし、船に何も装備が無いのでコントロールは不可能、突破は運任せですね」


 ベルタ支店長も感想を述べる。


「はい。神の奇跡に感謝しています。超海流では船体が凄い勢いでクルクル回ったので生きた心地がしませんでした」



 とんでもない幸運がいくつも重なって、アッシャー号乗員は無事にここへ辿りついたわけか。

 しかもバルバドスの大手商会の船だ、商売に欲しかった良いツテが手に入った。

 俺も強運だな。


 いや、ちょっと待てよ。

 これが光の記憶が言っていた、想念を集めることによる運アップ効果か。

 ならば、ならば乗るしかないな、このビックウェーブに。

 俺はベルタ支店長に話しかける。


「皆さんの事情は分かりました。ご安心ください。皆さんを魔王船でアスティリアスかバルバドス、お好きな方へ送り届けることを約束しましょう」


「ああ、何と言ったらいいか…… ありがとうございます。魔王様」


「いえいえ、で、その代わりと言ってはなんですが、ベルタさん。こちらとバルバドスの商売を取り持って欲しいのですが」


「商売……ですか。それは私も商人ですから、良い商品があるのなら協力したいとは思いますが」


「とりあえず開発した商品をプロの目で見ていただけますか? おい、ラ・ミーナ。今すぐパッツィとセシリータさんを呼んで来い」



 というわけで、さっそくベルタ支店長と共に第6デッキ産業区に向かい、商品を色々見てもらった。

 反応が良かったのは、魔道具の扇風機と缶詰だ。


「この扇風機はいいですね、確実に売れそうです。他の魔道具も需要先を的確に把握できればおそらく売れるでしょう。それと缶詰ですね。これは凄い発明です。魔法も使わず長期保存できるなんて、これは絶対に売れます。軍にセールスをかけましょう」


「良かった。とりあえず売れそうですね」


「しかしこれ、魔王様が発明したのでしょう? あの…… こう言っては何ですが、魔王様にこんな才能があるとは思いませんでした」


「まあ歴史書みれば、結構魔王は武闘派な感じですからねぇ」


「ところで魔王様は、バルバドスにも来訪する予定なんですよね?」


「ええ、そのつもりですが、なんかまずいですか?」


「いえ…… 魔王船の事もありますし、多分バルバドスは、上へ下への大騒ぎになるかと思いまして」


「まあ、そうでしょうね」


 そりゃ600年ぶりの魔王と魔王船の来訪だからな。

 大騒ぎにもなるだろうさ。

 しかし時間もないので、俺はこのまま突っ走ることにしている。


 後はパッツィとセシリータさんにベルタ支店長を任せ、魔王船やレムノス島の案内、商談などをやってもらうことにした。




 俺は緊急で、第3回魔王評議会の開催を宣言。

 翌日29日に、魔王城6階で再び会議を開く。

 俺は集まった局長達に、バートウィッスル商会の遭難、救出の顛末と、現状のレオン王国の説明を行なった。


「というわけで、バルバドスとの商売のツテも出来たので、漠然と魔王船の出発は4月と考えていましたが、急きょ予定を繰り上げ、3月の頭にバルバドスに向かおうと考えています」


 イレーネが手を上げて質問する。


「ちょっといいですか、なぜ予定を早めるのですか? 首都はまだ半分しか完成してないんですけど」


「それは移動生産貿易を行なうためで、作りながらゆっくり移動するので、バルバドス到着に3ヶ月程度かかるからです。できればバアルの風のシーズンに入る前にレムノス島に帰還したい。それに商売のタイミングもある」 


「タイミング?」


 イレーネの問いかけに、セシリータ局長が答える。


「今現在レオン王国から、バートウィッスル商会に大量に輸送の仕事が来ています。魔王船なら一度に大量に運べます。この輸送の仕事と商品販売で、大きな利益が見込めると貿易局では判断しています」


「なるほど。それで私達は留守番てわけね。ソール、開拓局としては充分な食糧と兵力の提供をお願いするわ」


「それはもちろん。魔王船の余剰食糧をレムノス島に移動、アンデットを中心に兵を送るつもりです。父さん、母さん。よろしくお願いします」


「分かったわ。アスティリアス北部から、ここにゴーレム鳩がギリギリ届くはずだから、通信の手はずを整えておいて」


「了解です。他に意見のある方いませんか? いませんね? では3月初頭に出発ということで段取りを組みましょう」



 というわけで、全局一斉に魔王船出発の為の準備に入った。

 3月1日。

 レムノス島シーエルフのアシュレイ村、シルビア村で缶詰の生産が本格的にスタート。

 魔王船からはマギアランチによって、余剰の食糧が次々にレムノス島に運びこまれる。


 その合間を縫って、魔王船の造船所で、駆逐艦の船体と資材を2隻分召喚。

 レムノス島の2千トンドック2箇所に運び込む。

 俺たちが出かけている間に、スプリガンに駆逐艦を作ってもらうのだ。



 兵力の派遣はスケルトンが中心で、リッチのディータ、シーリッチのゼルギウス、スケルトンファイター40名、スケルトンアーチャー10名、スケルトンヘビーアーチャー20名をレムノス島に送る。

 空になった開拓村を駐屯地として使用するつもりだ。


 魔王船警備の穴の開いた所は、バトラメイド50名を新たに召喚して埋める。

 これで魔王船にはメイドナイト2名、バトラメイド70名での警備体制が敷かれた。


 開拓体制だが、スプリガン100名の再配置を行なった。

 魔王船20名、1号二千トンドック20名、2号二千トンドック20名、首都開発30名とし、開拓局に預けるのが10名、作業用スケルトン50体とした。

 開拓局に預けた人員は、首都付近の村や畑を作ったり、レムノス大河を渡る橋を作る予定だ。



 3月4日夕方。

 俺とブレインは、スケルトン部隊の駐屯地になっている開拓村の倉庫に向かう。

 倉庫には檻に入った100匹の旅行鳩とパッツィがいた。

 パッツィに頼んで、旅行鳩を事前に捕獲して貰ったのだ。


「とりあえず旅行鳩を、タマラにも手伝ってもらって100匹捕まえたわ。こんなに沢山どうする気?」


「そいつは秘密だ。軍事機密というやつだよ。とりあえずタマラには秘密にしろと言っておいてくれ」


「ふーん、分かった。あの娘に口止めしとくわ」


 仕事が終わったパッツィはすぐに魔王船に帰った。

 俺は開拓村で時間を潰し、深夜になって再び倉庫に戻った。

 周りには誰も近づけさせないように、ディータに指示している。


 どうしてこんなに厳重な秘密にしているかというと、いよいよブレインに『本業』をやらせる為だ。

 倉庫の周りに誰もいないことを確認した俺はブレインに指示を出す。


「よし、やるぞブレイン。あの旅行鳩の脳を乗っ取れ」


「ハハッ」



 ブレインの体の一部が分離、みるみる細切れになり、イモムシのような形になって檻に入っていく。

 それを餌だと思った旅行鳩は次々に食べ、しばらくして暴れ出し、急に倒れていく。

 うわー、コエー。


 ブレインの話では、口から体内に侵入して脳を乗っ取るのだそうだ。

 俺はその様子をみながらガクブルする。

 これは人間だけは寄生させたくないな。

 マジで気持ち悪いわ。

 100匹の旅行鳩はすべて倒れ、しばらくして同じタイミングで立ち上がった。


「魔王様。すべての旅行鳩の脳の支配を完了しました」


「そ、そうか。問題ないな?」


「はい。いささか体に入った寄生魔獣のサイズが小さいですが、スパイ活動は充分可能でしょう」



 地球にも同じ名前の鳩がいたような気がするが、旅行鳩はここエスパーニャ大陸では大変ポピュラーな鳥だ。

 その名の通り大陸や島を移動する渡り鳥だ。

 移動速度は最大で時速100キロにも及ぶ。


 旅行鳩には種類がいくつかあって、寒いところを好む種もいる。

 そして生態や渡りの期間など細かいことは研究されていない。

 つまりどこの場所にいても不自然では無いのだ。 


 そこに着目した俺は、この鳩をスパイとして利用することに決めた。

 広範囲の軍事情報を集めるのに必要な処置だ。



 俺とブレインは2手に分かれ、旅行鳩の檻を開けていく。

 檻からぞろぞろと旅行鳩が出てきて、俺の前で整列して頭を下げる。

 その鳩たちの前で俺は命令を発した。 


「よし、それでは作戦開始だ。ただちに出発して、情報収集を行なえ」


 鳩たちはまるで軍隊のように整列して歩き、倉庫の外に出る。

 外は日の出の時間が来て、夜が明け始めた。


 その薄暗い空に次々に旅行鳩が飛び立っていった。

 彼らは、バニア島、ドルレオン島、アスティリアスと島伝いに移動し、最終的にはパルマ島、バレンシア、ルシタニア、アルコン南部で情報収集を行なう。

 旅行鳩は味が良いので、現地について情報収集が終わった後は、わざと犬や熊、魔獣等に食べられて相手の脳を乗っ取り、引き続きスパイとして活動してもらうつもりだ。


 半年後に10羽がレムノスに戻り、集めた情報をブレインに渡す。

 本当なら魔王船でアスティリアスに近づいてから鳩を放したほうが良いが、それでは目立つからな。

 だからアンデッド以外、誰もいない開拓村から出発させることにした。


 俺は空を見上げたが、飛んでいく鳩は、もう見えなくなっていた。





エスパーニャ暦5542年 3月10日 9時00分

レムノス島東10キロ海上


「魔王船出航、15分前です」


 魔王船にマリベルのアナウンスが流れる。

 2月末に出航を決定してから、約11日で魔王船出航に漕ぎ着けることができた。


「アンカー巻上げ開始!」


 キャプテン・キッドの命令で、上級スケルトン船員が慌しく動く。

 そこへ報告のためにパッツィがやって来た。


「人員、物資の移動はすべて完了したわ。レムノスの造船所は、これまでに1トン級漁船8隻を建造、10隻作ってから10トン級警備船の造船に移るそうよ。首都の完成率は50%。開拓局は、このまま第2期開発を続行する予定。6月に首都はほぼ完成するはず」


「そうか。ではそのくらいの時期にはレムノス島に帰らないとな」


 俺はしばしパッツィの報告を受ける。

 その間に、魔王船出航の最終準備は終わった。

 最後のアナウンスが流れる。


「魔王船出航、3分前です」


 作業を終えたキャプテン・キッドが玉座にやって来て、膝をつく。


「魔王様、出航準備完了しました」


「よし、では出発しよう!」


「御意」


 俺の許可を受けたキャプテン・キッドは、操舵輪を握り命令を発する。


「魔王船出航する。舵中央。両舷前進微速」


「両舷前進微速!」


 去年の8月末にレムノス島に到着してから、実に7ヶ月ぶりに魔王船は動き出した。

 半速に加速しつつ、魔王船はゆっくりとレムノス島を離れる。

 見張り台にいるエンリケ局長より、魔導伝声管で報告が入った。


「レムノス島、首都ヴァルドロード港付近に多数の人影、手を振っています」



 俺は婚約者達と左舷の見張り台に出た。

 港の付近には開拓局の面々と、冒険者、探索者、スプリガン、漁民、スケルトン、居残り兵士達がこちらに向けて盛んに手を振っている。


 魔王船の甲板に出ている住民や俺たちも、手を振り返した。

 シーエルフの村の人々も、1トン級漁船の上から手を振ってくれた。

 レムノス村の紫髪の女達も海岸に出て見送ってくれる。

 待っててくれ皆、たっぷりお土産持って来てやるからな。


 

 俺の胸から熱いものがこみ上げてくる。

 これはリリアを離れる時にも感じたものだ。


 だが今回は状況が違う。

 今回は新しいスタートラインを切る、祝いの門出なのだ。

 俺は力一杯手を振り、レムノス島にしばしの別れをつげる。


 アルコン艦隊は今のところ引っ込んでるらしいが、果たして外海ではどんな冒険が待っているか。

 俺は期待と不安を胸に、離れていくレムノス島を見つめた。





    第50話 「魔王様、駆逐艦を製造する」

   ⇒第51話 「魔王様、国交を樹立する」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ