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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第5章 レムノス島開発編
50/75

第40話「魔王様、領土を獲得する」

エスパーニャ暦5541年 8月16日 12時40分

名無し島東130キロ海上

魔王船 司令の間



「魔王様。名無し島に住民を発見しました。あの島は無人島では無かったようです」


「えっ、本当ですか!?」


 マリオ司令からの、あまりにも予想外の報告に俺は驚いた。

 つまり、超海流を越えたのは、俺達が初めてじゃなかったということか?

 しかしマリオ司令の報告を詳しく聞くと、どうにも腑に落ちない部分がいくつかあった。


「紫色の髪の住民、ですか……」


「はい。エスパーニャ大陸の住民は、人間族にしても魔族にしても、紫色の髪を持った種族はいないはずです」


 だよねぇ。

 俺も見たことないし、魔王船の避難民にもいない。

 ということは未知の種族なのか。


「ともかく、シャルル一等竜騎手達は報告のため現在帰還中であり、詳しいことはシャルルから直接聞く方が良いでしょう」


「そうですね」





 現在魔王船は8ノットで西進して名無し島に向かっている。

 すでにバニア島は通過し、このまま進めば、残り9時間ほどで島に到着する。


 報告から30分後、到着したシャルルが、魔導リフトで司令の間にやって来た。

 俺が座っている玉座の前に来たシャルルは、膝をついて報告を行なう。


「シャルル一等竜騎手、偵察任務を終え、ただいま帰還しました」


「ご苦労様です。では、さっそく報告のほうをお願いします」


「ハッ、まずバニア島、名無し島の状況ですが、双方とも多数の河川、充分な森と平地、港に最適な地形を複数確認しました。農業、漁業も充分に可能です。そして迷宮は推測ですが、バニア島には50程度、名無し島には千程度の迷宮があると思われ、開拓を行なって探索すれば、資材、食料などを充分確保できると思います」


「そいつは良かった! 手付かずの迷宮が千箇所か。大儲けできそうですね。それと、例の住民ですが……」


「はい。我々は偵察騎2騎でかなり綿密に調査しました。が、発見したのは名無し島南部の200名規模の集落1つだけです」


 それからシャルルから、偵察時の状況を詳しく聞いた。

 聞けば聞くほど、おかしいと感じる部分が出てくる。



「それから、集落の南の岩礁にこのようなものを発見しました。下手糞なスケッチですが……」


 そういうとシャルルは羊皮紙に描いたスケッチを差し出す。

 受け取った俺はそのスケッチを見て驚いた。


「こいつは…… 難破船、ですか……」


「ええ、そのようです。正確には分かりませんが、座礁して1年は経っていると思われます。大きさは3千から4千トンの大型艦です」


 俺は羊皮紙に描かれている船を凝視した。

 いや別に、難破船が珍しいわけではない。

 しかし、難破船の構造に俺は驚いたのだ。


 難破船は3本マストの木造船だが、船体中央に砦のような艦橋があり、そのすぐ後ろには庭があって、木のようなものが植えられている。

 規模こそまったく違うが、似ているのだ。

 魔王船の構造に。


 たしか魔王船は西の果ての海からやって来たと伝わっている。

 この難破船は、魔王船と何らかの関わりがあるのだろうか。


「それでこの難破船の乗員が、紫色の髪を持つ住民なのでしょうか?」


「そこまでは分かりません。可能性は高いと思いますが」


 俺の質問にシャルルは首を振る。

 ふむ。直接その集落の住民に聞くしかないか。

 俺はシャルルの隣にいるマリオ司令に羊皮紙を渡す。

 スケッチを見てマリオ司令も唸る。


「うーむ。こいつは確かに構造が魔王船に類似していますな。魔王様、やはり上陸して確認を?」


「やろうと思います。その紫髪の住民と話せば、魔王船がどこで作られたか分かるかも知れません。しかし相手が友好的ならいいですが、戦いになるのは避けたいですね」


 それを聞いていたキャプテン・キッドは、俺に提案を行なう。


「魔王様。魔王船をその集落から見える位置に停泊させましょう。魔王船の威容を見せつけて相手の戦意を奪うべきです」


 なるほど。

 砲艦外交というわけか。

 まあ魔王船には大砲は積んでないが、効果はあるだろう。


「よし、それで行こう。しかしこのままいけば到着は夜中だ。危なくないか」


「今から減速して、明日の朝に集落前の海に投錨できるよう時間を調節します。島から東10キロの位置で停泊します」


 というわけで、上陸は明日の朝に行なうことになった。

 俺は、マリオ司令達、パッツィ達と上陸作戦を立案した。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第5章 レムノス島開発編





エスパーニャ暦5541年 8月17日 9時00分

名無し島東10キロ海上

魔王船 司令の間


「機関停止。これより投錨する。アンカー投下」


「アンカー投下」


 キャプテン・キッドの命令により、錨が海中に投下された。

 リリアから出発して12日目。

 魔王船は出航してから初めて停泊することになった。


 停泊場所は名無し島の南端、集落と目と鼻の先だ。

 俺は司令の間横の見張り台に出て、島を望遠鏡で監視しているエンリケ司令に声をかけた。


「様子はどうですか?」


「先ほど、3人の紫髪の住民が海岸近くで、こちらを観察しておりました。どうも全員女のようですな。他に異常は無しです」


「そうですか。ではそろそろ行って来ます」


「魔王様。お気をつけて」


 俺は挨拶を終え、パッツィ、ソフィア、シーリッチのゼルギウス、スケルトンファイター2体、スケルトンアーチャー2体を引きつれ艦尾ウェルドッグに向かう。

 20分ほどテクテク歩いてやっとウェルドッグに着いた。

 相変わらず距離が長い。

 召喚で動く歩道でも付けたい所だ。



 ウェルドッグには俺の護衛として、冒険者パーティー「紅姫と疾風従者」探索者パーティー「迷宮のランセ」が待っていた。

 俺はまずフローリカさん達に挨拶する。


「今回は護衛依頼引き受けて貰ってありがとうございます」


「いいってことよ。魔王様のお願いとあっちゃ引き受けない訳にはいかねぇからな」


 そう言うとフローリカさんは、俺の肩を軽くポンポン叩いてニヤニヤしながら俺を見つめる。

 むっ。何か狙われている悪寒。

 俺は気にせずエヴァートンに挨拶する。


「よぉエヴァートン。久しぶり、元気にしてた? 護衛よろしくな」


「ソールヴァルドさん。いえ、魔王様。よろしくお願いします。まさかこんな立場になるとは思いませんでしたね」


「ああ、お互いにな。アルコンが来なけりゃ今でもリリアで闘牛士やってたろうにねぇ……」


 俺とエヴァートンが話していると、横から金髪美少女が声をかけてきた。

 彼女は闘牛ギルドのマスターの娘だ。

 何回か見たことある。

 名前はなんだ?

 たしかセレスなんちゃらだったよな。


「おはようございます魔王様。セレスティーナでございます。どうぞお見知りおきを」


「どうもご丁寧に。よろしくお願いします」


「私はチキータと言います。どうぞヨロシク」


「はい。護衛よろしくお願いします」


 そうだセレスティーナだわ。

 赤毛の美少女のほうがチキータと言うのか。

 この娘人見知りするのか、あまり俺のほうは見ない。



 ウェルドッグには4隻のカッター艇が待機している。

 1隻につき、スケルトン上級船員1名 スケルトン船員6名が乗っていて、俺達を岸まで運んでくれる手はずだ。


「では、そろそろ行きましょうか」


 俺達はそれぞれカッター艇に乗り込み、ウェルドッグから外海に出た。

 俺の乗っているカッター艇には、ソフィアとパッツィが同乗する。

 俺とパッツィは王と妃扱いなので、武器は短剣のみ。

 ソフィアが護衛として完全武装している。


 朝の爽やかな潮の香りの中を4隻のカッター艇が突き進む。

 疲れを知らないスケルトン船員達は、ペースを一切変えずにオールを漕いでいる。

 すげぇな。

 まるでエンジン付きのボートだわ。

 この分なら岸まで40分という所か。


 魔王船から出発して、半分の航程を進んだ所で、真上を竜騎が2騎通り過ぎた。

 あれにはシャルルさん達が乗っているはずだ。

 集落の上空で旋回して、もし戦闘になったら急降下で脅してくれるそうだ。



 太陽が上がり始める中、エメラルドグリーンと真っ白なコントラストが映える、名無し島の美しい砂浜に俺達のカッター艇が到着。

 まず「紅姫と疾風従者」が、陸に上がり周囲を警戒。

 安全を確認してから、全員が上陸した。


「おいゼルギウス。お前達はここで待機。カッター艇を守れ」


「ハッ、了解しました」


 まあこいつらはアンデッド組は留守番だ。

 こいつらが前に出ると交渉、交流どころか戦闘になりかねん。


 上陸を終えた俺達は、一路集落の方向に歩き出す。

 後ろを見ると、巨大な魔王船が停泊しているのが見える。

 やっぱ凄いなあの船は、威圧感がハンパない。


 しばらく前進すると、前方から紫色の髪の人間が3人現れた。

 さて、ファーストコンタクトだ。

 少なくとも会話は問題ない。

 この世界で喋る言葉には少量の魔力が含まれているようで、言語が違っても意志疎通ができる。

 さすがに書き文字は勉強しないと分からんがね。


 紫色の髪の人間は、3人とも女のようだ。

 そのままゆっくり近づくと、真ん中の女が剣を構えて叫んだ。


「止まれ、何者だ!」


 よし、言葉は通じる。

 鋭い誰何の声に、フローリカ、ソフィア、エヴァートンが柄に手をかけるが、俺が右手で静止する。


「俺達は戦いに来たわけじゃない。そちらと友好と交渉を望んでいる。俺は魔王ソールヴァルドだ」


「魔王!?」


 女は驚いた顔をしている。

 しかしこの女は美人だな。

 ノーメイクでこれ程とは。

 鑑定。



名前 キーラ・カネルヴァ

種族 人間族

職業 守護剣士


レベル12


ヴァイタル 107/107


スキルポイント 10P


種族スキル 耐暑


スキル(3/9)


【剣術レベル3】【盾術レベル2】


【冷熱魔法レベル2】



 おおおっ。

 姓が一つしかない。

 エスパーニャ大陸ならどの国でも、父方、母方の姓がつく。

 それが付いていないということは、エスパーニャ大陸以外の出身だな。

 

 それにしても職業が守護剣士か。

 聞いたこと無い職業だな。

 他の2人はレベル11だった。

 まあ、たいして強くは無い。


 3人はガウンのような服を着ていた。

 遠目から見えると着物のようにも見えたが、よく見ると違う。

 なんというかな、そう、モンゴルの民族衣装ぽいね。

 それにヨーロピアン成分が少し含まれている感じ。


 下はブカブカなズボンで、裾をブーツの中に突っ込んでいる。

 とび職の人が着ているズボンのようだ。


 俺はいぶかしむ女剣士に、ステータスボードの職業、名前の欄のみ見せてやる。

 ステータスボードは不思議で、表示される言語は、理解できる言語に自動的に変換されるのだ。


「そちらの責任者にお会いして、色々と情報交換したいのだが」

 

「少し待て」


 ステータスボードを確認した彼女は、1人で小走りに集落に向かった。

 皆でしばらく待っていると、彼女が走って戻ってきた。


「いいだろう。イーリス様との面会を許可する。全員村までついて来い」


 イーリス様というのが、ここのトップか。

 守護剣士の先導で、俺達は集落の前にやって来た。


「集落の中に入れるのは2人のみ。武装は認めない。武器は外してくれ」


 その言葉にソフィアは懸念を示すが、説得して俺とパッツィが集落に入ることになった。

 彼女達と俺とのレベル差は大きいので、イザとなったら威圧で全員を倒すこともできるだろう。

 守護剣士の案内で、俺達は集落の門をくぐり、中心部に向かう。

 歩きながら、俺は家の様子を見たり、住民を鑑定したりして様子を見る。



 家はなんというか、報告の通り素人大工が作ったような感じで、サイズが合っていなかったり、傾いたりしている。

 住民は不思議なことに、全員が紫髪の女だ。男の姿は無い。


 女は全員若い。

 下は12歳から上は20歳くらいまでか。

 そして全員が一定水準以上の美しさだ。

 並以下レベルの外見の女はいなかった。


 家の入り口の隙間から、子供が数人こちらを凝視していた。

 特にパッツィの動物耳と尻尾を興味深そうに見ている。

 なんだお前ら、もふもふ好きなのか。

 だがお前らにはやらんぞ。


 中心部にたどり着くと、石の上に女が一人座っていた。

 明らかに周りとグレードの違う服を着て、頭に縦に長い帽子をかぶっている。

 すんげぇグラマラスな美人だ。

 彼女がイーリス様なのだろう。

 鑑定。



名前 イーリス・アールトラハティ

種族 人間族

職業 アールトラハティ王第3夫人


レベル14


ヴァイタル 119/119


スキルポイント 0P


種族スキル 耐暑


スキル(5/9)


【短剣術レベル3】


【光闇魔法レベル2】


【王族レベル3】



 うーん。王族か。

 こんな絶海の孤島には似合わないな。

 やはり、船で遭難して、ここに辿り着いたと見て正解だろうな。


 後ろのパッツィは膝をついた。

 だが俺は仁王立ちだ。

 俺だって王様なんだからね。

 イーリス様は口を開いた。


「これは遠路はるばる。と言えるか分かりませんが、よくいらっしゃいました。わたくしは、アースガルズ大陸のレムノス王国、アールトラハティ大王の第3夫人、イーリス・アールトラハティといいます」


 何、アースガルズ大陸!?

 レムノス王国?


 どっちも聞いたこともない名前だ。

 彼女達は、そこから来たというのか。

 おっと、こちらも自己紹介しなくちゃ。


「ご丁寧にどうも。俺はソールヴァルド・ローズブローク・カリオン。魔王です。エスパーニャ大陸から魔王船でやって来ました。今回は皆さんへの挨拶と交渉や情報交換をしにやって来ました」


「えすぱーにゃ……大陸ですか。それにしても魔王様ですか。なんとも運命の妙というべきか……」


「それはどういう意味でしょうか?」


「我々は魔王を知っております。レムノス王国が建国される前。650年前に、その地で巨大なドックが作られ、魔王船が造船されたとか。魔王と魔族は、その完成した魔王船に乗って、東に向かったと伝承に伝わっています。残された巨大ドック内部に我々の先祖が都市を作り、レムノス王国の首都としました」



 なんと。

 魔王船の誕生場所が判明してしまった。

 違う大陸で作られたとは。


「ということは、やはり南にある難破船で、あなた方はこの島に来られたのですか?」


 そう聞くと、イーリスは悲しげな顔をして質問に答えた。


「ちょうど1年半前。我が国は北のヴォルガ・ブルガール公国と戦争になり敗北したのです。大王と我々は船で脱出し、魔封じの海に逃げようとしましたが、大王様の船は攻撃を受け沈没。わたくし達が乗っていた後宮船イルマタルだけが逃げおおせることができました」


「魔封じの海とは?」


「ここより西にある魔法を封じ込める海です。年中霧に包まれ、大きな威力の魔法が使えない海域です。生活魔法杖程度は使用できますが、魔導羅針儀が使用できず、天測もできないので、船の現在位置が分からなくなります」


 そいつはキツイ海域だな。

 よくそんな所を脱出できたもんだ。


「船をやみくもに進めても意味がありません。ですので我々は帆を畳み、思い切って海流に任せてみました。すると数ヶ月経ってから、奇跡的に魔封じの海を脱出することが出来たのです。それから東に1週間ほど進んで、嵐に巻き込まれた時にこの島を見つけました。船は戦闘で損傷して嵐に耐えられなかったので、わざと座礁させて島に上陸したのです」


「なるほど。大変でしたね」


「はい。それはもう。最初は乗員が320名いましたが、戦闘での戦死が84名。その傷が元の病死が21名出て、島に上陸できたのは215名となりました」


「後宮船イルマタルとは、あの南にある難破船のことですね?」


「そうです。後宮船ですので、船の船長、水兵、侍女等、全員が女です」


「随分と魔王船に構造が似ているので驚きました」


「あれは伝承にある魔王船を模している船でして、我が大陸ではレムノス方式と呼ばれていました」


 なるほど。

 元ネタは魔王船なのか。

 それに後宮船とは面白いコンセプトの船だな。


 きっとレムノス王国中の美しい女を集めたんだろう。

 だからこの集落の人達は全員美しいわけか。


 村の人数を正直に明かしたのは、昨日の空からの偵察のおかげだろうね。

 空から見られると誤魔化しようがないからな。


 疑問なのは、魔王船はどのルートを使ってエスパーニャ大陸へ来たかだ。

 魔導ポンプジェットで帆も無いから、魔封じの海は渡れまい。


 イーリスに聞くと、アースガルズ大陸北東海域には「さ迷いの海」という幽霊船が沢山出る海域もあるのだそうだ。


 エスパーニャの研究では、魔王船は魔海域から来た可能性が高い。とされていたので、そっちの北ルートのほうがありそうだが。

 まあいつか謎が解明されるにせよ、それは大分先のことになるだろうがな。



「我々の現状はこのようなものです。今度は魔王様の話をお聞かせ願いますでしょうか?」


「分かりました。と、その前に、パッツィ」


 パッツィは、背中にしょっているデカイ革カバンから小さな樽や瓶を出す。


「これは友好のための献上品です。ぶどう酒樽、塩瓶、低位ポーション10本となります。つまらない物ですが、お納めください」


「これはありがとうございます。塩と薬は不足していたので助かります」



 それから、今度は俺達のこれまでの出来事をイーリスに話した。

 イーリスは時に感心しながら、時に俺を質問攻めにしながら、俺の話を聞いていた。


「それにしても、エスパーニャ大陸ですか。まさかもう一つ大陸があったとは考えもしませんでした。」


 イーリスはそう言うと上を向き、上空を旋回している竜騎を見た。


「あのように人が竜を使役できるとは知りませんでした。レオン王国、一度見てみたいものですね」




 さて、一通りの情報交換は終わった。

 次にいよいよ本題の交渉に入る。


「イーリスさん。我々は西と東の大陸から戦災により脱出を余儀なくされた似た者同士です。そこでお願いがあるのですが」


「お願い。ですか……」


「はい。川を挟んで北側の領域を魔王の領土としたいのです。南側は今まで通り、あなた方の領土で結構です。お互いに助け合いませんか?」


 その提案を聞いたイーリスさんは、しばらく沈黙。

 それからゆっくりと口を開いた。


「少し…… 考える時間を1日ください」




 本日の交渉はこれで終わった。

 俺達は魔王船に引き上げる。

 明日同じ時間に訪問して返事を聞く約束だ。



 そして翌日、レムノス側はその提案を受け入れた。

 この結果に俺は胸を撫で下ろした。

 最悪、相手が拒絶しようが、開発は強行するつもりだったからだ。


 まあ、向こうとしても戦力差が大きすぎるので、敵対よりは友好を選ばざるえない状況だったのだろう。

 こちらは俺やパッツィ、軍人達、リリア町長などと一緒にレムノス側と細かい部分を交渉し、友好条約を締結した。

 内容はおおざっぱに以下の通り。



・本島の名称はレムノス島と命名する。

・レムノス島南部のレムノス大河より北は魔王領土。南はレムノス領土とする。

・魔王はレムノス民に、食料、治療師の派遣などの支援を行なう。

・お互いの交流を盛んにするため、レムノス大河を渡る交通手段を魔王側が用意する。

・2ヶ月に1度会議を行い、お互いの意志と要望を確認する。



 まあこれが妥当な落とし所だろう。

 俺とイーリスは、友好条約の書類にサインして握手をする。


 うん。

 あとはレムノス島を開発して、組織を作り、貿易と情報収集を行い、魔王船の武器を充実させる。

 魔王軍も編成する必要があるだろうな。


 レオン王国が勝つなら、バレンシアが奪還された後に魔王船で住民を運べばいいだけだ。

 だがレオン王国が負けるなら、俺達が横槍を入れて、アルコンを潰さないとダメだろう。

 どうなるか分からんが、いずれにせよ先は長いな。

 俺が平穏な生活に戻るのはいつの事になるやら。





 それにしても女しかいない島か。

 俺としては、平賀源内の小説に出てきた「女護が島」を思い出してしかたない。

 あれはラノベの源流と言ってもいいんじゃないかと思う。


 小説の名は、風流志道軒傳ふうりゅうしどうけんでんといい、平賀源内が風来山人ふうらいさんじんというペンネームで書いた。

 内容は、町で精力剤を売り歩く、坊さんの格好をした普通の男、深井浅之進の冒険物語。


 深井浅之進がある時、仙人から手に入れた不思議な羽扇の力で、日本中の色街漫遊を行なう。

 その後、巨人国、小人国、脚長・手長国などを冒険して、最後辺りで「女護が島」に漂着する。


 んまぁ、ぶっちゃけガリヴァー旅行記の影響を受けてるね。

 そのガリヴァー旅行記もロビンソン・クルーソーの影響を受けてるらしいが。


 微妙にガリヴァー旅行記をパクリつつも、ハーレム展開するのがこの小説の特徴で、明治時代まで有名だったようだ。

 たしか最後の方で、乗っていた気球が壊れて「女護が島」に上陸。

 そこには女しか住んでいないので「男娼屋」を開いて毎日女の相手をしてたとか。

 

 レムノス島を考えると、俺はつい「女護が島」を連想してしまう。

 うちの魔王船からも、ハーレム目指して島に移住する奴が出てくるだろうなぁ。



    第40話 「魔王様、領土を獲得する」

   ⇒第41話 「魔王様、魔王軍を作る」



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