第38話「台風突入! 約束の地は何処へ」
エスパーニャ暦5541年 8月7日 8時50分
パルマ島北西520キロ海上
魔王船甲板上
「バアルの風に突入します。全員退避!!」
マリベルの切迫した声が魔王船上に響いた。
5分前のアナウンスにより、甲板に出ていた迎撃員の半数は船内に避難したが、まだ甲板に残っている者は沢山いた。
彼らは船内入り口に向け、全速力で走り出した。
アナウンスの直後に、魔王船の船外に出るハッチはすべて開放された。
ヒューガが早く避難できるように、全ハッチを開いたのだ。
魔王船は、旋風と暴雨が吹き荒れるバアルの風に、16ノットのスピードで突入。
艦首からみるみる暴風雨に飲み込まれる。
「まずい、バアルの風だ。全騎、散開! 巨大船から離れろ!」
フェリクス隊長の命により、爆撃騎は魔王船近辺から離脱。
もはやここまでと判断し、攻撃隊は全騎集合し、南に向け退却を開始した。
「報告です。アルディ隊3―2撃墜!」
「こちらも1騎やられました。ファントム隊3―2撃墜!」
「クッ、素人に4騎も落とされるとはな。人が沢山乗っているようだが、あいつは一体なんなんだ?」
巨大船に対する答えの無い疑問にフェリクスは悩みつつ、21騎の竜騎は魔王船から遠ざかっていった。
魔王船に横殴りの雷雨が襲い掛かる。
そんな中、魔王城の繋がる通路の外部入り口から、獣魔猫族の娘が船内に飛び込んできた。
「ふぎゃっ!」
タマラは通路に飛び込んだ瞬間に足を滑らせ、しゃちほこの体勢で数メートル床を滑る。
続けて外部入り口から、パッツィが飛び込んできた。
パッツィは肩で息をしながら、ズボンのポケットからタオルを取り出し、髪を拭く。
2人とも全身がビチャビチャだった。
「ふぅ~。正直バアルの風舐めてたわ。地上で経験するのと全然違う……」
「んに…… 本当にゃ。船の上で受けるバアルの風は強烈だにゃ」
リリアに住んでいて、バアルの風に慣れていた2人も強烈な風雨に閉口した。
海の上で経験するバアルの風は、一味も二味も違っている。
山も丘も森も何も無い海上では、台風の風はダイレクトで甲板を襲うのだ。
危うく体が吹き飛ばされそうになった。
「カルメーラ、大丈夫!?」
凄まじい強風と雷雨の中、横殴りの雨に顔面を叩かれながら、ソフィアは叫ぶ。
「だ、大丈夫……」
カルメーラは這いつくばりながら返事をする。
全身がずぶ濡れになりがら、2人はノロノロとコロシアム付近にある、外部入り口に向かって進む。
強風にひっくり返りそうになりながらも、2人はようやく船内に戻ることができた。
司令の間にいる魔王ソールヴァルドは、ブレインから報告を受ける。
「魔王船甲板、魔王城の火災は暴風雨により鎮火。第4デッキ火災も消火しました。現在破損箇所を修復中。魔王城修復に6時間。甲板修復に10時間程度かかる予定です。戦闘結果ですが、アルコン側は、ドラゴンドライバー1名射殺、竜騎3騎撃墜。こちらの被害は、重傷者1名、軽傷6名、スケルトン・ヘビーアーチャー2体破壊となっています」
「甲板の人達は全員船内に入ったか?」
「はい。ソフィア様、パッツィ様も無事です」
「そいつは良かった。海に落ちた奴はいないんだな……」
ソールヴァルドは大きく息を吐いた。
今回の戦闘でも幸いにして死者は出ていない。
出航の時と今回と、きわどい戦闘が続いている。
だがこういう幸運はそうそう続かない。
次の戦闘からは死者が出ることも覚悟しなくてはいけないだろう。
ソールヴァルドは司令の間から、逆巻く暴風雨を見つめながら、そう考えた。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第4章 リリア侵攻脱出編
エスパーニャ暦5541年 8月7日 10時10分
カナリア諸島南100キロ海上
魔王船追跡艦隊
「爆撃騎が4騎やられたか。随分激しい戦闘だったようだな」
リュック提督は、司令室で黒茶を飲みながら副官の報告を聞いた。
「はい。残りの竜騎は全騎収容完了しました。巨大船にはブレスも竜爆弾もあまり効果を発揮しませんでした。鉄甲炸裂弾1発が命中、損傷を与えた模様」
「全鉄製の巨大船。にもかかわらず高い機動性をもつか……」
そう言いながら、リュック提督は偵察騎乗員が羊皮紙に描いた、巨大船のラフスケッチを見つめる。
そのスケッチには、珍妙なデザインの船が描かれていた。
船の中心部に城が立っており、その背後には山や森、池などがある。
これで、この謎の巨大船がレオン王国の秘密兵器である可能性は限りなく低くなった。
いくらなんでも、レオン海軍がこんな奇天烈な構造の船を作るとは思えない。
大きさも30万トン以上で間違いないようだ。
リュック提督の脳裏には、あの伝説の船の名前が浮かんだ。
後は、この船がどの程度レオン王国と繋がっているかだが……
副官がリュック提督に尋ねる。
「このまま追跡を継続しますか?」
「いや、それは無理だ。いつまでも本隊をほっておくわけにはいかんし、補給の問題もある。パルマ島へ撤退する」
「分かりました。巨大船に関するレポートをまとめておきます」
「ああ、後で海軍本部に報告する必要があるな。巨大船は現状では捨て置くしかない。では撤退準備にかかれ」
第183作戦部隊の分隊は、全艦が南東に針路を変更。
パルマ島の本隊にむけて移動を開始した。
エスパーニャ暦5541年 8月7日 10時30分
パルマ島北西540キロ海上
台風内 魔王船
バアルの風の内側では、激しい雷雨が続いていた。
大きくうねる波に、横殴りの雨、天頂は重く湿った雷雲が覆い、時折雷が発光する。
そんな台風の渦中を、巨大な魔王船が悠然と14ノットのスピードで突き進む。
魔王城の一角、司令の間から出て、艦尾側にある休憩室では、マリオ司令、エンリケ司令、シャルル1等竜騎手が床に座って話していた。
「しかし、この船はほとんど揺れないな。バアルの風の真っ只中とはとても思えん。まさに化け物だ」
エンリケ司令は、魔王船に対する驚きを口にする。
向かいに座っているマリオ司令も同調した。
「そうですな。私は陸軍なのであまり船には乗りませんが、平時の3千トン級の船よりは揺れが少ない気がする」
「俺はただただ圧倒されっぱなしですよ。船の中に船が入るとか、知らない奴に言っても誰も信じてくれないでしょうね。アルコンが攻めてきた時にこの船があれば役にたったでしょうに」
金髪イケメンのシャルル1等竜騎手は、肩をすぼめる。
水筒の水を飲んでいたエンリケ司令は反論する。
「おいおい、この魔王船には今武器は積んでないんだぞ」
「そんなものいりませんよ。こいつで体当たりすれば、アルコン艦隊なんて楽々潰せます」
「そりゃそうだろうが、甲板上の施設がボロボロになるわ。ところで、皆はどうするつもりだ。やはり故郷に帰りたいか?」
エンリケ司令の質問に、一瞬の沈黙。
それからマリオ司令とシャルルは答えた。
「帰りたいといえばそうですが、帰れる状況ではない。領主を失い失業中の身ですから、ここに所属して食い扶持を確保しようかと」
「俺も同じです。実家はパルマ島でしてね。これも何かの縁です。魔王様が奪還するなら協力したいですが。そういうエンリケ司令はどうなんですか?」
「レオンは陸軍国なのでね。海軍の規模は小さいし、陸軍と違いポスト競争が厳しい。パトロール艦隊を壊滅させた私は、帰ってもロクな目にあわんだろうな」
「じゃあここに残ると?」
「パルマやリリアを奪還するには軍隊が必要だ。魔王様が魔王軍を編成する気ならな」
「魔王軍……」
ふいに休憩室のドアが開いて、シーリッチのゼルギウスが声をかけてきた。
「魔王様が司令の間に戻った。来るがいい」
******
俺は玉座に座り皆が来るのを待った。
しばらくして3人の人間族の軍人が現れた。
エンリケ司令とマリオ司令、それに歳若い金髪イケメンだ。
あれが漁船に救出されたシャルル1等竜騎手なのだろう。
シャルル1等竜騎手は俺の前にくると膝を付き頭をたれる。
「魔王様。私はシャルル・ブロート・ベリーと申します。このたびは私を救出していただき、まことにありがとうございます」
「うん。話によれば200時間以上漂流してたとか、大変でしたね」
「ハッ、今生きていられるのは魔王様のお陰です」
「いえいえ、救出したのは漁船ですし。まっ、短い期間の付き合いになるかも知れないですがヨロシク。では行きましょうか」
そういうと俺は、皆を引き連れて海図台に向かった。
海図台にはこの周辺の海図が置かれており、キャプテン・キッドとブレインも待機している。
俺は皆に話しかける。
「では始めましょう。まず現状説明を、現在魔王船はパルマ島北西540キロの位置におり、14ノットで西進中です。2~3日でバアルの風を抜けるでしょうが、そこからどこへ向かうかが今回の議題です。エンリケ司令、聞きますが南にいるアルコン艦隊は、引き下がりますかね?」
「退却した可能性もありますが、それは楽観的に過ぎるでしょう。最悪を想定するべきです。南海域に網を張ってこちらを待ち受けている可能性が高いと思います」
「ということは、南は無理ですね。私としては魔族国バルバドスと交渉したかったところですが……」
ここから約4千キロ南方には魔族国バルバドスという国がある。
名前の通り、前魔王の配下が作った国だ。
現状魔王船を積極的に支援してくれそうな国はここしかない。
しかし今南下するのは危険だ。
また戦闘になる可能性が高い。
武器が準備できてない状態で当たりたくはない。
それに今度こそ死者が出るだろう。
協力してくれてはいるが、冒険者や探索者は俺に忠誠を誓っているわけでもない。
使い潰すような真似はしたくなかった。
しかし困る。
アルコン艦隊が活発に動いている以上、東は論外。
北は陸地の無い魔海域。
南はアルコン艦隊が網を張っている。
現状西進するしかない。
問題はそれだけでは無い。
「マリオ司令。食料の状況を教えて下さい」
「はい。とりあえず塩と水は魔王船から供給されるので問題ありません。脱出時に3週間分の食料を積み込んでいます。出航して2日ですから、残り19日分、節約して25日分といったところでしょうな」
食料も不足している。
困った時には召喚すればしまいだが、行く先も決めてないのに魔力の無駄使いはしたくない。
できれば迷宮があれば、食べ物を補充することができるのだが。
結局はだ。
魔王船にも陸地が、寄港地がなければならない。
ただ生きるだけなら、この魔王船の設備で充分なのだが、戦うための装備を整えるには不十分だ。
アルコンが攻撃を仕掛けてこず、迷宮があって、食料が尽きる前にたどり着ける場所は……
俺は地図上の魔王船の位置から、指で西に向かってなぞる。
そこにはバニア島と名無しの島があった。
エンリケ司令はハッとする。
「ま、まさか、そこは……」
「そのまさかです。ここにたどり着くことはできますか。エンリケ司令?」
「それは、どうでしょうか」
他の皆も押し黙った。
そう、このバニア島の東海には、誰でも知っている有名な難所があるのだ。
その名を「超海流」と呼ぶ。
この「超海流」は、バニア島北2千キロあたりから南に下り、バニア島東50キロ付近を通過して南に向かう海流だ。
「超海流」という名がつく通り、これは地球ではありえないような海流で、北から南に向かって30ノット。時速約55キロで潮流が流れている。
超海流の幅は数キロに及び、これまで数々のエスパーニャ大陸の冒険家が船で横断に挑んだが、ことごとく海の藻屑に消えた。
さすがファンタジーの世界と言いたいところだが、この世界でも存在感は強烈で、海の難所といったら誰でもコレが最初に頭に浮かぶ。
この超海流を越えた所には、小さな島、バニア島が、さらに奥には、名前が無い大きな島がある。
バニア島のほうは、50年程前に探検家のバニアさんが、竜騎を利用して5分間の着陸に成功したのが命名起源だ。
超海流の手前まで船で行き、竜騎で渡ったわけだ。
しかし奥の大きな島には誰も上陸しておらず、名無しの島のままだ。
「エンリケ司令。ここを渡ろうとした最後の冒険家は、どうなったでしょう?」
「はい。最後に超海流を渡ろうとした冒険家は8年前にいました。アンドニという男でして、当時最新の硬翼帆を備えた船で横断に挑戦しましたが、海流の中心付近でコントロールを失い、なぜだか船体が破損して右舷に転覆して沈没しました。アンドニは今も行方不明です」
エンリケ司令は、顔をしかめながら話す。
「なるほど。で、その超海流をこの魔王船で突破できるでしょうか?」
「それは…… あくまで個人的な意見ですが、突破できると考えます」
その答えを聞いたマリオ司令とシャルルは目を剥いた。
そして2人は、オイ、マジかよこいつ。という顔でエンリケ司令を見る。
「すでに経験済みの通り、この魔王船はバアルの風の中でもビクともしていません。これまで超海流突破に挑戦してきた船はすべて木製です。しかし、魔王船は総鉄船であり魔走で16ノットものスピードが出ます。この船なら超海流も突破できるはずです。もしこの船でダメなら、人間は永久にここを船で越えられないでしょう」
「なるほど、その通りだと思います」
「ええ、ええ。こいつは超海流を征服する最大のチャンスです。横断に成功すれば、エスパーニャ大陸の人間で初めて我々が、前人未到の地に足を踏み入れることになるのです。これを海の男のロマンと言わずして、何と言えば良いのでしょう! 魔王様、これは我々の名を歴史に残すチャンスですぞ! ……オホン、失礼」
エンリケ司令は話しているうちに段々ヒートアップしてきたが、マリオ司令とシャルルの冷たい視線を感じて縮こまった。
次はキャプテン・キッドに聞いてみる。
「おいキャプテン・キッド。お前はこの超海流を越えられると思うか?」
「勿論です魔王様。この魔王船と私の操艦技術が合わされば、超海流ごとき障害など易々と打ち破れます。ここを突破して偉大なる魔王様の名声を世に轟かせると共に、魔王様には歴史に名を刻んでいただきたい! フフフ……」
召喚した時からそうだが、こいつは相変わらず自信満々だな。
しかし、朝の竜騎の襲撃の時にこいつが見せた腕は本物だ。
それなりに確信はあるのだろうな。
よし、俺の腹は決まった。
「分かった。では我々はこれより西に向かって進み、超海流を突破することに挑戦する!」
「「ハッ!」」
キャプテン・キッドとエンリケ司令は笑顔で答えた。
こいつらは気が合いそうだな。
だがマリオ司令とシャルルは心配顔だ。
俺は一応フォローを入れておく。
「ああ、マリオ司令、シャルルさん。そんなに心配しないでください。無茶はしませんので、危なくなったらすぐに海流を離脱します」
だってしょうがないじゃん。
危険はあるけど、問題を解決するのはこの方法が一番なんだから。
と、エンリケ司令は何か思いついたようだ。
「あっそうだ。魔王様、超海流の500キロ手前に魔海暖流と言う、毎時5ノットで北から南に向かう海流があります。ここで漁をしてはどうでしょう? 上手くすれば回遊魚を捕まえることが出来るかもしれません。この付近はあまり漁船も寄り付きませんし、邪魔は入らないでしょう」
「それいいですね。沢山取れれば干物にしてもいいですし、やりましょう」
というわけで、漁のあとで超海流を突破して、無人島を調査する計画が決定した。
その後、8月8日~9日は、薄暗い天候の中、ひたすら台風の中を魔王船は14ノットで西進し続けた。
8月10日。やっと魔王船はバアルの風を突破することができた。
魔王船の周辺は見渡す限り、エメラルドグリーンの大海が広がっているだけ。
掃天の青空に夏のギラギラとした日差しが魔王船を照らした。
雲もほとんどなくなった。
はぁ、トロピカルな感じだなぁ。
遊びに来たんなら最高だったんだが。
で、その間に俺にも驚くべき変化があった。
それはレベルアップだ。
パッツィが竜騎を2騎落として、レベルが一気に5上がって喜んでいたので、俺も久しぶりにステータスプレートを見てみた。
すると俺のレベルが31から41に上がっていたのだ。
一気に10レベルアップ!
俺何もしてないのにな。
思い当たる事と言ったら、やはり竜騎を3つ落としたことか。
俺が倒したわけじゃないが、魔王船の「武器」で敵を倒すと、経験値が共有されて俺の経験になるのかも知れない。
なるほどな。
俺が真のチートになるには、魔王船とセットじゃなければならないのか。
ヴァイタルなんか623だぞ。
だんだん人外の領域に近づいてきたな。
さて、太陽が出てきたら、あの約束を果たさなければならない。
パッツィ達に立派な家を建てる約束だ。
立てる場所は、魔王城艦首方向にある旧城下町とした。
ここは外気と直接触れる場所で、住居を建てるなら魔王船内で最高の立地だ。
ただ爆撃を受ける可能性があるので、ブレインに聞いてみたら、
「問題ありません。そこには可動式天井があります。戦闘になった場合は旧城下町全体を閉じればよいのです。可動式天井は第3デッキの2倍の厚みがありますので、鉄甲炸裂弾でも抜くことはできないでしょう」
ということなので、安心して建てられるようだ。
俺はパッツィ達を連れて、旧城下町にやって来た。
まずは召喚宝典を出して、メニューでリセットを行い、瓦礫を撤去。
それから新しい住居メニューを呼び出す。
居住区ブロックを押して、クオリティ・最高級を選択。
ハイクラス・デザイナーズ後宮住宅に決定。
■シーサイドパティオ・アイリス
・居住可能人数
お妃1名
側室6名
従者20名
中庭付きの大型住宅。
後宮住宅として、お妃、側室が快適な生活を送れます。
豪華な謁見室、応接室等も完備し、後宮機能も充実。
サッカーも出来るほど大きな中庭。
別館には従者用住宅も付きます。
離れにはオプションで、工房、カフェテリア、倉庫なども設置可能。
警備室も入り口にあってセキュリティーも万全。
温かみのある生活の場と、非日常空間のコラボレーション後宮住宅です。
・主な施設
入口 警備員詰所
本館 お妃、側室住宅、謁見室、応接室、ゲストルーム等
別館 従者用住宅
・オプション
工房
カフェテリア
倉庫
お花畑
樹木
芝生
噴水
家庭菜園
悪魔像
警備用ゴーレム
戦闘訓練所
さっきパッツィ達と相談して決めた後宮住宅だ。
オプションはすべて付けて召喚ボタンを押した。
旧城下町の面積の半分が輝き出す。
たっぷり30分を使って、召喚は完了した。
さっそく俺達は建物内部を見てみた。
そこは想像を絶する豪華絢爛な屋敷だった。
高級家具も付いていた。
「凄いわー。本当にここに住んでいいの?」
「うわー。あたしこんな豪華な家入ったことない!」
「はぁ、お兄ちゃんて、本当なんでもありなのね」
「……凄い。さすがお兄様」
婚約者達はピョンピョン飛び跳ねて喜んでくれた。
魔王の甲斐性を見せることが出来て、俺も満足だ。
次に俺達は、残りの旧城下町の面積を使って高級住宅を呼び出す。
これは婚約者達の家族が住む住宅だ。
もちろんアベルとイレーネも住むことになる。
居住区ブロック、クオリティ・高級を選択。
庭付き2階建て高級住宅を指定。
沢山あるリストから、5つの住宅を選んだ。
■大海洋の家
高級感のある総タイル貼り住宅。
魔王船最上グレードの品質。
開放感溢れる上質な生活があなたの元に。
■安心家族の家
充実したパブリックなスペース。
充分な収納空間がある住宅。
家族との幸せな生活をサポートします。
■シーテラス
スマートでおおらかな住宅。
6つの選べるライフプラン。
スタイリッシュな外観の住宅です。
■木麗ロイヤルハウス
ロハス風シンプルモダンな家。
木造の温かみのある住宅です。
■キューブモダン
シンプルで機能的な美しい住宅。
白を基調としたプライベート空間を重視した住宅です。
まあ、なんだか○マホームの家の名前っぽいのが気になるが、とりあえず召喚。
30分をかけて召喚を終了。
外観も内装も、日本の高級住宅に引けをとらない感じだ。
大海洋の家にはマリガリータの家族が、安心家族の家にはパッツィの家族が、木麗ロイヤルハウスにはソフィアのお母さんが、キューブモダンにはローズブローク家が、それぞれ入ることになった。
シーテラスが余るが、後でゲストハウスにするなり、従者を住まわせるなりして役に立つだろう。
さっそく全員で、魔王城1階からこちらへの引越し作業を開始。
俺も手伝うことにした。
エスパーニャ暦5541年 8月13日 5時30分
パルマ島北西3000キロ海上
魔海暖流
魔王船がリリアを出発して8日。
ついに魔王船は、超海流から500キロ東の魔海暖流にやって来た。
魔王船艦尾のウェルドッグが開かれ、そこから漁民が乗ったカッター艇12隻が出発。
カッター艇に漁具を詰め込んで、久しぶりの漁をする。
幸いなことに、魔海暖流には回遊魚が沢山泳いでいた。
この付近には誰も漁にこない為、魚は入れ食い状態だった。
カッター艇より漁民のほうが数が多かったので、数時間ごとの交代で、朝から晩まで休むことなく漁は続いた。
魚は主にブリやアジ等が獲れたが、地球の魚とまったく同じかどうかは定かではない。
ウェルドッグに持ち帰られた魚は、開きにして水洗いして、ヒューガ製の真水と塩で作られた10~15%の塩水に30分ほど漬けられる。
芯まで塩が回ると、取り出して水洗いを行い、風が通り、日が当たる場所に干す。
今回はヒューガ左舷第3甲板に魚が大量に干された。
表面が乾燥して完成した干物は、次々に船内に運ばれて、各家庭に運ばれた。
魚は2日間で12800匹を捕獲でき、およそ1週間分の食料となる。
獲れたての魚は、焼かれて皆で食べたので、実際の漁獲量はもっと多かったはずである。
食料の調達を終えた魔王船は、超海流に向かって出発した。
果たして魔王船は超海流を突破することが出来るのか?
第38話 「台風突入! 約束の地は何処へ」
⇒第39話 「新天地への試練! 超海流を突破せよ」




