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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第4章 リリア侵攻脱出編
47/75

第37話「竜騎襲撃! パルマ島沖追撃戦」

エスパーニャ暦5541年 8月7日 7時00分

パルマ島北西500キロ海上


 魔王船に救助されたエンリケ司令と、その部下3名は、6時には魔王城に到着。ゼルギウスの案内によって、魔王城9階にて見張りを行なうことになった。


 エンリケ司令は、以前の海戦で部下の半数を失った。

 だが、残念ながら落ち込んでいる暇はない。

 今は死んでしまった部下より、生きている部下だ。


 このままレオン王国に戻るには、第3国を経由しなくてはならないし、場合によっては、二度と祖国に戻れないかも知れない。

 となれば、魔王船での部下の食い扶持を確保する必要がある。

 ゆえにエンリケ司令は、魔王様に気に入られようと、仕事の手伝いを申し出たのであった。


 横には、案内してくれたシーリッチのゼルギウスが立っているが、警護を名目とした監視員だということは分かっている。

 むしろエンリケ司令は、彼の前で自分達が役立つと証明するために、張り切ることにした。

 さっそく、持ってきた望遠鏡で上空と海上の監視を行なう。


 エンリケ司令と部下3名は、水船魔法レベル3の「遠見」が使用できる。

 ぶっちゃけ「遠見」のほうが望遠鏡より性能がいいのだが、四六時中魔法を使うわけにはいかないので、補助として望遠鏡が必要なのだ。


 見張りを開始して30分ほど経っただろうか。

 上空を順に望遠鏡で検索していると、埃のような黒い丸が見えた気がした。

 エンリケ司令は、素早くその極小の黒い丸を観察する。

 経験豊富な司令は、嫌な予感がするのを感じる。


「水船魔法――――遠見!」


 エンリケ司令は魔法を発動。

 黒い丸を拡大して、つぶさに観察。

 間違いない、あれは竜騎。

 青色2枚翼のシードラゴン。


「まずい! あれはブロッシュ種!」


 慌ててエンリケ司令は、魔導伝声管に向かい、司令の間に情報を伝達した。


「南9時方向、距離1万メートル。高度2千メートル。アルコン偵察騎発見! こちらに接近中!」





エスパーニャ暦5541年 8月7日 7時40分

カナリア諸島南100キロ海上

魔王船追跡艦隊


 魔王船を追跡していたアルコン海軍。

 第183作戦部隊の分隊は、旗艦マジェンタを先頭に、竜騎母艦3隻、フリゲート艦4隻の単従陣を形成。

 カナリア諸島南沖を北西に航行していた。


 リュック提督が朝食を食べ終わりブリッジに戻る。

 そのすぐ後、副官のギデオンが通信室よりブリッジに入り、リュック提督に報告を行なった。


「提督、当たりです。我が艦隊より北300キロで策敵4番騎が巨大船を発見しました。速力は12ノット以上、西進しています」


「やはりか、全竜騎に発艦準備をさせろ」


「バアルの風が南から迫っています。深追いは危険と考えますが」


「分かっている。本隊もあまり留守するわけにはいかんしな。全力攻撃を1回だけだ。直掩4は残し、余分な偵察騎も出せ。巨大船を観察、可能な限りの情報を集めるよう指示せよ」


「ハッ、了解しました」


 旗艦マジェンタよりの命令を受け、竜騎母艦3隻の艦内で一斉に爆装の準備が開始された。

 各竜騎母艦のドラゴンとワイバーンのドライバー達は、作戦室でブリーフィングを受ける。

 ここデヴァスタシオン級一番艦、デヴァスタシオンでもマクシム作戦士官による説明が開始された。


「先ほど北300キロでターゲットが捕捉された。ターゲットは大型艦1隻。戦闘騎5、爆撃騎9、急降下攻撃騎9で攻撃を行なう。爆撃騎の指揮はフェリクス。急降下攻撃騎の指揮はロイーズに任せる。全体の指揮はフェリクスが行なえ」


「よろしいですか?」


 爆撃騎隊長のフェリクスが手をあげる。


「なんだ?」


「相手は大型艦ということですが、2個飛行隊(スコードロン)を投入とは穏やかではない。ターゲットの正体は一体何なんです?」


 いかに3千トン級の大型艦といえど、単艦ならば投入する戦力は、せいぜい爆撃騎3、急降下攻撃騎3程度だ。

 2個飛行隊(スコードロン)投入は、あきらかにオーバーキルと言えるだろう。


「一切不明だ。分かっていることはバレンシア領、リリアから出航した10万トン以上の巨大船ということだけだ。レオン海軍の秘密兵器の可能性もある」


 その言葉を聞いて、室内は一斉にざわついた。

 マクシム作戦士官は話を続ける。


「そこで諸君らの出番だ。君達には偵察騎も同行する。攻撃と共に可能な限り情報を持ち帰ること。それが今回の君らの目標だ」



 リュック艦隊は旗艦からの「ウェアリング開始」の合図と共に、一斉に左回頭を開始。

 北からの風を受けつつ、一旦風下に向かう。


 充分に加速をつけた艦隊は、再び左回頭を開始、北西に針路を取る。

 北から南に流れる風に45度で向かうことにより、ふんだんに横風を受け、竜騎発進を容易ならしめる為だ。

 最新型の竜騎母艦、デヴァスタシオン級には2基の魔導リフトと4基の発着ポートがある。

 下位デッキから魔導リフトにより、次々と竜騎が甲板に上がってくる。


 爆撃騎隊長フェリクス・ブラジウス・ボクサは、赤い竜体の爆撃騎コードロン種の竜座に搭乗。

 魔導リフトで甲板に上がり、竜体の足で地上走行タキシングを行い、左舷発着ポートに到着。発艦待機を行なう。


 誘導員の「発艦よろし」の合図を受け、フェリクスは竜体を真上に飛ばし、竜騎の発艦を行なった。

 地球の空母なら、発艦すれば艦の前に飛び出すはずだが、この世界の竜騎は、基本横風を受けて発艦するので、フェリクス騎は発艦した直後に、船の左舷後方に流れていく。

 

 飛び上がったフェリクス騎は、高度500メートルに上昇、出撃騎の集結を待って、一路北に向かう。

 編成は爆撃騎9、急降下攻撃騎9の2個飛行隊(スコードロン)。随伴して戦闘騎5、偵察騎2もついてくる。

 時速300キロでの巡航なので、魔王船への攻撃開始は1時間後と推測された。





エスパーニャ暦5541年 8月7日 7時50分

魔王船内 第5デッキ居住区

ガーデンズ・メデューサ・レジデンス 102号室


「……繰り返します。魔王船本営より連絡。領陸軍マリオ司令、ギルドマスター、ホセ・アントニオ。ただちに魔王城5階、司令に間に出頭してください」


 チキータは部屋で毛布に包まれて眠っていたが、今の女のアナウンスの声で起こされた。

 ふと上を見ると、見知らぬ天井が広がっていた。


 そうか。

 昨日この部屋に移ったんだった。

 チキータは昨日のことを思い出す。


 昨日第4デッキにテントを張って休んでいる時に、町長が来た。

 なんでも魔王が、第5デッキに沢山の人が住める住居を作ったと言うのだ。


 さっそくエヴァートン、セレスティーナ、チキータの3人で引越しを開始。

 エントナンスには、蛇女メデューサの大きな石像がある変わったアパートメントだ。

 しかし住居の内装は、これまで見てきた建物をあらゆる意味で凌駕していた。


「これは……すごい住居だな。こんなに綺麗なアパートメントは見たことない」


「そうですわね。少々狭いですが洗練されていますわ。とても船内の施設とは思えません」


 エヴァートンとセレスティーナもしきりに感心していた。

 この立派な住居を、魔王はたった10分で作ってしまったそうだ。

 本当に規格外、とチキータは心底思った。


 魔王ソールヴァルドが、エヴァートンの闘牛仲間であることはチキータも知っている。

 直接話した事はないものの、牧場襲撃の時と、マタドールデビューの時に遠目で見たことはある。

 容姿のいい普通の魔族という印象だったが、まさか彼の正体が魔王だとはまったく思わなかった。


 目が覚めたチキータは部屋からダイニングに出る。

 昨日はとりあえず、洋室2間にセレスとチキータが、ダイニングにエヴァートンが寝ることになった。

 しかし、エヴァートンの姿が見えない。


 チキータが不審に思っていると、セレスティーナの部屋から話声が聞こえてきた。

 エヴァートンとセレスティーナの声が聞こえる。

 チキータはカッとなった。

 自分が寝ている間に、あの女はエヴァートンを自分の部屋に誘い入れたのだ。


「それで…… チキータは……」


 あの女は私のことを話している。

 ああやって、私のある事ない事エヴァートンに吹き込んでいるんだ。

 チキータの心は怒りで震える。


 今日こそセレスティーナと決着をつける。

 決心したチキータはセレスティーナの部屋に入ろうとした。

 その時、拡声魔導伝声管から再び、さっきの女の声でアナウンスが聞こえた。


「魔王船本営より緊急連絡。アルコン竜騎母艦艦隊に本船が捕捉されました。アルコン艦隊による攻撃が予想されます。全冒険者、探索者は魔王城艦尾側コロシアムに集合してください。繰り返します……」





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第4章 リリア侵攻脱出編





「南9時方向、距離1万メートル。高度2千メートル。アルコン偵察騎発見! こちらに接近中!」


 魔導伝声管からの報告を聞き、俺は固まった。

 最悪だ。

 アルコンに見つかったのか!?

 俺は伝声管の元へ走り、エンリケ司令に問いかける。


「エンリケ司令。確かですか?」


「発見したのは小型のシードラゴン。ブロッシュ種です。アルコン竜騎母艦の艦載騎と断定します!」


「エンリケ司令。詳しいことが知りたいので、司令の間に降りて来て貰えますか」


「ハッ。了解しました」


 俺は魔王室に入り、紙と筆記具を持って、玉座横のテーブルに着く。

 すると横から声がかかった。


「おーいソール。まだ降りてこないの? 皆朝ごはん食べちゃったよ」


 パッツィ達婚約者が、魔導リフトで上がってきたようだ。

 俺は紙に文字を書き込みつつ、返事をする。


「残念だが食べてる時間がない。アルコンに見つかった」


「本当に!?」


「えぇ~!!」


 パッツィとソフィアが驚く。

 俺は文を書いた紙をマリベルに渡す。


「マリベル、そこに書いている文章を拡声魔導伝声管でアナウンスしてくれ」


「私が?」


「女の声のほうが良く通る」


「分かった」


 マリベルは拡声魔導伝声管に向かい、文章を読み上げる。

 この伝声管は、船内全域に声を届かせることができる。


「魔王船本営より連絡。領陸軍マリオ司令、ギルドマスター、ホセ・アントニオ。ただちに魔王城5階、司令に間に出頭してください。繰り返します……」


 アナウンスをしている間に、エンリケ司令とゼルギウスが階段で降りてきた。

 5分後に、マリオ司令とホセさんも魔導リフトで上がってくる。

 キャプテン・キッドも呼んで、俺達は5人で対応を協議する。

 俺がまず質問した。


「エンリケ司令。艦載騎がやって来たということは、南方向にアルコン艦隊がいるということですね?」


「はい。艦載騎の航続距離は1000キロです。往復500キロですが、魔力の消耗も考え、450キロの範囲で索敵を行ないます。少なくとも魔王船から南へ450キロの範囲で有力なアルコンの竜騎母艦艦隊がいるのは間違いないでしょう」


「こちらを攻撃する可能性は?」


「極めて高いです。おそらく追跡艦隊は、パルマ島南方海域を遊弋していた艦隊と思われます。遠距離を北上してこちらを捕捉したのなら、仕掛けてこないわけが無い。竜騎の巡航速度は200~300キロ。およそ30分から1時間で、魔王船に対する攻撃が開始されると考えます」


 その時、魔導伝声管から見張りの声が届く。


「アルコン偵察騎、魔王船直上。追跡してきます!」


 次に口を開いたのはホセさんだ。


「魔王船に何か武器はないんですか?」


「残念ながら、召喚宝典に登録されていません。武器を召喚するには、新たに登録する必要があります」


「仮にあったとしても600年前です。余り役には立たないでしょうな」


 マリオ司令が予想を話す。

 俺の後ろから今度は、キャプテン・キッドが声をかける。


「魔王様、先ほど水船魔法の天候感知を使用しましたが、バアルの風が接近中です。このまま直進すれば右側正面から突っ込むことになるでしょう」


「本当か? あとどれくらいだ?」


「1時間から1時間半で接触すると思われます」


 やれやれ、忙しくなると立て続けに異変が起きるな。

 マリオ司令が手を上げる。


「失礼、順番に処理しましょう。魔王船は竜騎の攻撃を受けた場合、対抗する武器がありません。全冒険者、探索者と一般人の弓や魔法が扱える人員を甲板に上げて竜騎を牽制することを進言します。ただ攻撃を受けるよりも少しはマシです」


「それは……」


 また危険なことを冒険者や探索者にやらせるのか。

 皆で船内に篭って耐えるのはダメなのか?


「おいキャプテン・キッド。仮に竜騎の攻撃を受けるとして、船は耐えられるのか」


「竜爆弾であれば、あれの主目的は火災です。鉄船の魔王船なら耐えられます。しかし、急降下攻撃騎は脅威です。場合により装甲を抜かれるかも知れません」


 ということは、牽制は無いより有ったほうがマシか。

 あまり時間はない。

 俺はすぐに決断を下す。


「いいでしょう。やりましょう。指揮はマリオ司令、ホセさん。よろしくお願いします」


 さて、後は台風、つまりバアルの風をどうするか?

 俺は脳裏に瞬いた案をエンリケ司令に聞く。


「エンリケ司令。魔王船をこのままバアルの風に突入させたいのですが、可能ですか?」


「突入させるのですか? バアルの風は半時計周りです。右側が風が強く、左側が雨が強いと言われます。どっち側でも危険ですが、バアルの風を抜けるなら常識的には左側に突入しますが、いや、待てよ……。それはあくまで3千トンクラスの常識です。40万トンなら行ける可能性が高い。強風なら竜騎も飛行できない。このままバアルの風右側に突入するのは良い手だと思います。魔王様」


「決まりですね。キャプテン・キッド。最短距離でバアルの風に突入。竜騎の攻撃を振り払うんだ」


 その時、エンリケ司令の後ろに立っていたゼルギウスも手を上げた。


「魔王様。スケルトン・ヘビー・アーチャー全員の指揮を私に任せていただけますでしょうか? 魔王城外側に配置し、竜騎に牽制を行います」


「許可する。双方、配置に戻ってよし、かかれ」


「「御意!」」


 キャプテン・キッドとゼルギウスは速やかに仕事を始める。

 マリオ司令とホセさんも俺と最後の打ち合わせをして、リフトで下に降りる。

 エンリケ司令は階段で上に昇る。元気だなあの人。

 俺は紙を取って、文章を作りマリベルに渡す。

 マリベルは頷いて、拡声魔導伝声管で文章を読み上げた。


「魔王船本営より緊急連絡。アルコン竜騎母艦艦隊に本船が捕捉されました。アルコン艦隊による攻撃が予想されます。全冒険者、探索者は魔王城艦尾側コロシアムに集合してください。繰り返します……」


 俺が玉座に戻ろうとすると、パッツィとソフィアが魔導リフトに向かっているのが見えた。

 俺は2人を呼び止める。


「おいちょっと待て、まさかお前ら甲板に行くつもりじゃないだろうな?」


「出るわよ。魔王の親族だけ出ないんじゃ士気に関わるでしょ」


「うっ…… たしかにそうだけど……」


 パッツィの返事に俺は反論できなかった。

 しかたない。

 大丈夫だと思うが、釘は刺しておこう。


「分かった。だけど危険だと思ったらすぐに船内に避難しろ。絶対だぞ!」


「任せて。じゃあマリベルとマルガリータをヨロシク。チャオ!」


「頑張ってやっつけてくるねー!」


 そう言って2人はリフトで降りていった。

 やれやれだ。

 




エスパーニャ暦5541年 8月7日 8時20分

魔王船南10キロ海上

竜騎攻撃隊


 バアルの風が接近し、雲の動きが早くなる空の下、広大な海洋の上を、計25騎のアルコン帝国の竜騎が、時速300キロで巡航する。

 先行する戦闘騎が、真上に魔法弾マギア・パレットを打ち上げる。

 特に魔導通信機で確認する必要も無い。

 真下にターゲットを発見したのだ。


 今回の攻撃に参加する竜騎は、爆撃騎9、急降下攻撃騎9の2個飛行隊(スコードロン)だ。

 爆撃騎隊隊長はフェリクス。

 爆撃騎は3騎で1小隊を編成しており、ヴァンクール小隊、アルディ小隊、ファントム小隊の3小隊を率いる。

 

 急降下攻撃騎隊隊長はロイーズ。

 こちらも爆撃騎は3騎で1小隊を編成しており、ギャルド小隊、サージュ小隊、フィデール小隊を率いていた。


 フェリクス隊長は、戦闘騎の合図を確認。

 海面に視線を向け、海原を西に向かう巨大船を見た。


「こちらヴァンクール3―1。フェリクスだ。ターゲットを目視タリー。おいロイーズ、こいつは……」


「ギャルド3―1。ロイーズ。たしかにデカ過ぎるな。こいつは10万トン級なんかじゃねぇ…… 30万トン以上、だな」


 2人とも、大洋を進む異形の巨大船を見てしばらく沈黙した。

 今まで2人は、自分が所属しているデヴァスタシオン級竜騎母艦こそ最大の船と信じていたが、下を進む船は、その幻想を粉々に打ち砕いてしまった。


 それと同時に、この船が、どう考えてもレオン王国が作ったとも考えにくかった。

 巨大船の中央には、大きな城が配置されており、その後方には森や山、池などがある。

 エスパーニャ大陸で、こんな変わったデザインの船を作り出す者はいないはずだ。


 一瞬、フェリクスの脳裏に「魔王船」という言葉が浮かんだが、頭を振って否定する。

 冗談じゃない。俺達は現実を生きているのであって、伝説の世界にいるわけじゃない。


「フェリクス? それでどうするつもりだ?」


「そうだな……」


 その巨大船はあまりにも大きすぎて、一体どこを狙えばダメージを与えられるか皆目検討がつかなかった。

 通常の帆船ならば、3本マストの中心線を狙えば、確実にダメージを与えられるのだが。


 それにあの船は、全身が鉄で覆われているようにも見える。

 実際に攻撃してみなければ分からないし、どんな武装を持っているかも分からない。


 つまり現時点では何も分からないのだ。

 とにかく攻撃してみる他は無い。

 フェリクスは覚悟を決めた。


「よし、爆撃騎隊は竜爆弾で船体全域を攻撃してみる。その後ブレス攻撃だ。急降下攻撃隊は、奴の隙をついて攻撃しろ!」


「こちらロイーズ、了解ラジャー・ザット


「対空武装は見えないが、どんな武器を隠しているか分からん。注意しろ。よし、全騎、戦闘展開隊形コンバット・スプレッドをとれ!」


 フェリクスの命令で、攻撃隊は3騎ずつの編隊に別れた。

 戦闘騎、偵察騎は高度を上げる。

 彼らは高みの見物だ。


「では全騎行くぞ。3、2、1、ナウ。散開ブレイク!」





 エンリケ司令と部下3名は、魔王城9階に陣取り、アルコン艦載騎の動向を注視していた。

 敵騎がブレイクしたのを見て、エンリケ司令は魔導伝声管に報告を入れる。


「アルコン艦載騎群、散開。全部で6群に分かれる。以下、急降下攻撃騎を(エフェ)群、(ホタ)群、LI(エジェ)群と呼称。爆撃騎を(セタ)群、(エキス)群、(ウベ)群と呼称する!」


 レオン海軍では、一般的に敵竜騎に対し、スペイン語のアルファベット読みでコードネームを付与している。

 エンリケ司令は報告を継続。


「爆撃騎3群降下、9時方向。距離4千メートル、高度3百。左舷側に接近!」


 エンリケ司令より方向を受けたソールヴァルドはマリベルに指示を出す。

 マリベルは拡声魔導伝声管に飛びつく。


「アルコン艦載騎群が接近中。総員、戦闘準備!!」


 魔王船の迎撃陣は、探索者、冒険者と魔法や矢が使える選抜村民50人だ。

 マリオ司令指揮の元、探索者と冒険者は、魔王城周辺や、廃墟となった元城下町付近に配置。

 村民50人はホセ指揮の元、深魔の森を中心に、魔界山、魔王池付近に布陣している。

 遮蔽物が少ない艦首側、艦尾側の防御は捨てている。


「爆撃騎(セタ)群、魔王城。(エキス)群、艦首。(ウベ)群、艦尾に接近中。9時方向。距離2千。投弾体勢!」


 その報告を聞き、キャプテン・キッドが動く。


「回避運動開始します。機関、最大戦速を維持。取り舵20度」


 魔王船はその巨体をゆっくりと南に回頭。

 しばらくして爆撃騎が魔王船上空に飛来、竜爆弾9発を投下した。

 高度が高いので、魔王船からの反撃は無い。


 隊長率いるヴァンクール隊は、魔王城付近に3発投下。1発は左舷甲板、2発は右舷甲板に命中した。

 アルディ隊は、艦首に3発投下。2発は右舷甲板に命中したものの、1発は魔王船を通り過ぎ、海中に落下した。

 ファントム隊は、艦尾に3発投下。タイミングが早すぎた為に、2発は左舷甲板に命中したものの、1発は手前の海中に落下した。


「ちっ、2発も外したか。あいつがデカすぎて感覚が狂うわ!」


 フェリクスは結果を見て毒づいた。

 普段の訓練では3千トンクラスの船でしか訓練を行なっていないので、あの巨大船では、いかに的が大きくとも感覚は狂いがちになる。

 また命中したとしても、自分が狙った部分からは大きく外れていた。

 直前のキャプテン・キッドの微妙な操艦も地味に効いている。


 命中した竜爆弾は、甲板上で爆発し燃え盛る。

 船上に展開している者達に被害はなかった。


 魔王船の甲板には、ところどころに丸い蓋のようなものがある。

 燃え盛る火の周辺の甲板の蓋が次々に開かれて、突如、目と巨大な口を持つ赤肉のコブのような異形の生き物が頭を出す。

 

 そのコブ達は、口を大きく開くと、火に向かって大量の真水を吐き出し、火災を消火する。

 ヒューガの自動消火システムが働いたのだった。




「急降下攻撃騎LI(エジェ)群。4時方向。距離4千、高度千!」


「急降下攻撃騎(エフェ)群、(ホタ)群、8時方向。距離6千、高度千二百!」


 見張りからの報告を聞いたキャプテン・キッドは、操舵輪を回し、取り舵20度から面舵一杯に舵を切る。

 魔王船は巨大な為、行き足が止まるのに時間がかかる。

 そうして、ようやく船体が右に滑り始めると、キャプテン・キッドが今度は取舵一杯をかけた。


「急降下攻撃騎LI(エジェ)群。6時方向。距離2千、高度800。投弾体勢!」


 右に向かっていた魔王船の行き足は再び鈍くなる。

 見張り員の鋭い声が司令の間に響く。


「急降下攻撃騎LI(エジェ)群。6時方向。距離1千、急降下、来ます!」


 ソールヴァルドは緊張に身を硬くする。

 キャプテン・キッドは渋い声で呟いた。


「こいつは外れる」


 投弾を終了したLI(エジェ)群。フィデール隊は竜首を上げ、反転急上昇をかける。

 その直後、先頭の急降下攻撃騎の5メートル横を、巨大な火球が通り過ぎた。

 フィデール隊の小隊長は叫んだ。


「見たか、今のを!」


「見ました。腕の立つ戦闘魔法師バトラ・マギアがいるようですね。危なかった!」


 3騎の竜騎が飛び去るのをセレスティーナが見ていた。

 急降下攻撃騎の降下のタイミングに合わせて、魔力を2倍に込めた爆発エクスプローションを撃ったのだが、上手く当たらなかった。


「外しましたか…… 船の上では撃ちにくいですわね」


 その直後、魔王船艦尾後方に3つの大きな水柱が立て続けに発生した。


「近弾! 距離200。命中弾なし!」

 

 司令の間に見張りの声が響く。

 魔王船はその巨体ゆえ、舵が効き始めるまで時間差がある。

 よって操艦は先の先を読んで行なう必要があるのだ。


 先ほどは急降下をかけた時点で、魔王船が取り舵に逃げ軸線が狂ったので、フィデール隊が放った鉄甲炸裂弾3発は全弾外れ、艦尾の至近距離で水柱を作るに止まった。

 今回はキャプテン・キッドの読み勝ちだ。

 玉座に座るソールヴァルドは、何コイツスゲー! と言った表情でスケルトン船長を見つめた。




「爆撃騎(セタ)群、(エキス)群、(ウベ)群。3時方向。距離3千メートル、高度100、ブレス攻撃態勢。右舷側に接近!」


 先ほど竜爆弾を投下した爆撃騎が戻ってきたのだ。

 キャプテン・キッドは舵を戻し、面舵5度の「当て舵」をとる。

 現状では爆撃騎の攻撃は無視し、急降下騎の攻撃を回避することをキャプテン・キッドは優先した。



 爆撃騎(セタ)群、フェリクス隊長率いるヴァンクール隊は、ブレス攻撃を行なうため魔王城に肉薄する。

 城からは盛んに矢が射られた。

 ゼルギウス率いるスケルトン・ヘビー・アーチャーの迎撃だ。

 ヴァンクール隊は迎撃を物ともせずブレスを発射する。

 

「ハッ、そんな矢の攻撃が当たるかよ!」


 ヴァンクール隊3番騎のドラゴンドライバーが吼える。

 が、発射された矢が運悪く、吼えたドライバーに真っ直ぐに向かってきた。

 ドライバーは顔面に飛んでくる矢を見る。

 それが彼が見たこの世での最後の光景となった。


 時速350キロで進む爆撃騎のドラゴンドライバーに、時速80キロでヘビーアローが飛んでくる。

 双方は相対速度430キロで衝突。

 ヘビーアローはドラゴンドライバーのクリアシールドと竜座兜をあっさり打ち抜き、ドライバーは即死した。


「クソ、やられたか! ヴァンクール3―3。ドライバー・キル!」


 フェリクス隊長は後方を確認して叫んだ。

 主を失ったドラゴンは、シンクロが切れていずこかへ飛び去る。

 一方魔王城には側面に3発のブレスが命中。

 司令の間は震動した。


「魔王城にブレス3発命中。小規模な火災が発生。現在消火中。被害軽徴の模様」


 ブレインに報告に、ソールヴァルドは安堵した。

 再び見張りの声が届く。


「爆撃騎(エキス)群。3時方向、深魔の森。(ウベ)群。旧城下町方面に来ます!」


 魔王城後方の深魔の森周辺には、各村から選抜された、腕利きの猟師や狩人、元冒険者などが待ち受けていた。

 まず森エルフが射程が長い精霊魔法を(エキス)群に放つ。

 6種類の精霊魔法で攻撃に使用できるのは、赤、白、黄の3種類であり、それらに魔力を2~3倍込めて、射程と速度を上げて発射した。

 コロシアム付近に陣取っていたソフィアとカルメーラも精霊赤魔法を放つ。

 しかし、


「くっ、当たらない!」


 タイミングよく放ったつもりだが、竜騎の近くに誘導すると火玉との距離が随分開いていることに驚く。

 目測が上手く行かないのだ。

 村民達も矢を放つが、全弾外れてしまった。


 地面が時速30キロで平面移動し、竜騎が時速350キロ程度で立体移動するため、狙いが上手く定まらない。

 船から魔法を撃つことに慣れている海洋冒険者でもない限り、そう簡単には命中させることは出来ないのだ。


 爆撃騎は3発ブレスを発射。

 1発は魔王山に、2発は深魔の森に命中した。

 森で火災が発生し、村民の1人が火に包まれるも、魔王池に飛び込んで消火に成功した。




 続けて(ウベ)群の爆撃騎3騎が旧城下町方面に飛来。

 戦闘魔法師バトラ・マギア達が懸命に魔法を放つ。


 パッツィとタマラは弓を構えて矢をつがえる。

 パッツィの持っている矢は、弾頭が樽型の不思議な形だった為、タマラは首を傾げるが、竜騎が迫っているので捨て置くことにした。


 戦闘魔法師バトラ・マギア達は一計を案じ、命中を度外視して、竜騎の飛行コースよりやや上側に向かって魔法を打ち上げる。

 こうすることにより、竜騎の高度を下げさせ、矢の射程に誘い込もうというのだ。

 この作戦が上手く行き、ファントム隊3番騎の高度を下げさせることに成功した。


 その3番騎に、狙い済ましたパッツィとタマラの矢が、必中距離で襲い掛かる。

 同時にファントム隊もブレスを発射。


 タマラの矢は竜体に見事に命中したものの、ドラゴンの鱗に弾かれる。

 パッツィの矢は、竜体と翼の継ぎ目に吸い込まれるように命中。

 その瞬間。

 矢が爆発して竜騎の翼が弾け飛んだ。

 3番騎はスピンしながら落下し海面に激突する。


「にゃ、にゃんだぁ!? 矢が爆発したにゃ!」


「凄いぞ。竜騎を1匹仕留めやがった!」


「何だいまの? 魔法か!?」


 目撃していた周囲の冒険者、探索者は歓声をあげる。

 皆の士気は大いに上昇した。


「「「オーレィ!!」」」


 竜騎のブレスは1発が旧城下町に、2発が魔王城円筒城壁に命中した。


「こちらフャントム隊。フャントム3―3、撃墜ショットダウン!」


「なんだと、また落とされたのか!?」


 対空兵器は持っていないものの、相手は予想以上に善戦している。

 フェリクス隊長は驚くものの、まだブレスは1発撃てる。

 再び魔王船に引き返して、ブレス攻撃することを全騎に命じた。




「急降下攻撃騎(エフェ)群、4時方向。距離3千、高度900!」


「急降下攻撃騎(ホタ)群、8時方向。距離2千、高度800!」


 見張りの報告を聞いたキャプテン・キッドは、間髪を入れず面舵一杯に舵を切る。


(ホタ)群、投弾体勢、急降下!」


 見張り員の叫びが司令の間に響く。

 急降下攻撃騎サージュ隊は、3発の鉄甲炸裂弾を投下した。

 しかし、魔王船の動きが一呼吸早く、魔王船の左舷ギリギリの海面に3発の盛大な水柱が発生する。


「近弾、距離100! 命中弾なし!」


 かろうじて魔王船は攻撃をかわしたが、実はこれがロイーズ隊長の罠だったのだ。


「よし、かかった! 3、2、1、ナウ。ダイブ! ダイブ!」


 急降下攻撃騎のロイーズ隊長は僚騎に攻撃を指示。

 3騎で魔王船に向け、急降下を開始する。


 始めにサージュ隊の攻撃で、魔王船に面舵を切らして、攻撃を回避した直後にロイーズ隊長率いるギャルド隊で魔王城に鉄甲炸裂弾を食らわせるのだ。

 冒険者や探索者が城周辺に陣取っていることから、ロイーズ隊長は城を重要拠点と判断したのだ。


(エフェ)群、本船直上、急降下!」


 見張り員の絶叫が響き渡る。

 面舵で攻撃を回避した直後であり、このタイミングでは急降下攻撃の回避は間に合わない。

 しかし、キャプテンキッドは取舵一杯を切り、命令を発する。


「左舷ポンプジェット。最微速減速デットスローダウン!」


「左舷ポンプジェット減速、最微速デットスロー!」



 その頃、ご都合主義の女神は疲れ果てていた。

 見えざる世界で、魔王船の乗員達の運命を掴もうと懸命に腕を伸ばしていたのだが、魔王の加護にことごとく弾かれていた為だ。

 船の中にいる乗員はもちろんのこと、甲板の乗員にも手が届かない。


 ご都合主義の女神は、おもむろに置手紙を置いた。

 そこには「実家に帰ります」と記されていた。

 彼女はとぼとぼと歩きながら、その場を去った。

 ご都合主義の女神は、見えざる世界の実家に引きこもったのだ。



「なんだと!」


 ロイーズ隊長率いるギャルド隊3騎は、ダイブブレーキをかけつつ猛スピードで魔王城に向けて急降下していたが、巨大船は異様な動きを見せる。

 その巨体に似合わない速度で、急激に船体が左に滑り始めたのだ。


「クソが!」


 このままでは、完全に軸線を外されてしまう。

 帆船の挙動しか知らないロイーズは完全に虚を突かれた。

 だが彼は諦めない。

 ロイーズはタイミングを1テンポ早めて、投下レバーを引いた。


 ギャルド隊3騎は、3発の鉄甲炸裂弾を魔王船に投下。

 2発は魔王船の右舷の至近距離に着弾、海面に大きな水柱を作る。

 そして1発は右舷の竜騎着艦ポートに炸裂した。


 その命中した1発は、ロイーズが放った弾だ、

 爆発した瞬間、魔王船が少し震動し大きな爆発音が響き渡る。

 その爆撃痕の上をギャルド隊3騎が通過、急上昇して離脱していった。


「魔王様、やられました。第3デッキの装甲を抜かれたようです。第4デッキに火災発生」


「そうか。住民を第5デッキに移動させて正解だったな」


「しかし損害は思ったより軽徴です。現在上級スケルトン船員が急行中。じきに消火されるでしょう」


 どんな攻撃でも弾き返せる。

 それが魔王船伝説の触れ込みだったが、やはり完璧な物などありはしない。

 600年の時の流れの前では、魔王船も無敵とは言いがたいものとなったのかも知れない。

 ソールヴァルドは心を引き締めた。




「その爆発する矢はなんなのにゃ?」


「へへーん。いいでしょ。私の彼が作ってくれたのよ!」


 旧城下町城壁付近にいたタマラとパッツィは、竜騎の来ない間に、矢の準備をしつつ会話を弾ませる。


「魔王様が作ってくれたのにゃ。パッツィ、あちきにも魔王様を紹「嫌です!」


「友達じゃにゃいか!!」


「はぁ…… タマラ。女の友情なんかはね。男が絡むと簡単に壊れるもんなのよ」


「なんだかえらく説得力があるにゃ」


「実例は目の前で見たことあるしね。ところで、魔王様を紹介してタマラは何するつもり?」


「あちきも魔王様の側室になるにゃ!」


「却下」


「あちきとパッツィの仲じゃにゃいか!」


「嫌です。私は友情より男を取ります。タマラと竿姉妹になるつもりはありません」


「竿姉妹って何かにゃ!?」


「そんなことより、左からまた竜騎が来るわよ。もうしつこいったら」


 左舷を見ると、ドラゴン7騎が低空でこちらに向かっているのが見えた。

 パッツィは腰の木のケースから魔法矢マジカルフレッチャを抜き取ると、1本を自分に、1本をタマラに渡す。


「パッツィ、これは?」


「安全装置は解除してる。勝負よタマラ。先に竜騎を落とした方が勝ち。あんたが勝ったら魔王様を紹介してあげる!」


「さすがパッツィにゃ! 頑張るにゃ!」


 気合充分のタマラは、矢をつがえて臨戦態勢をとった。

 その目は殺る気に燃えていた。




「爆撃騎(セタ)群、(エキス)群、(ウベ)群。9時方向。距離2千メートル、高度100、ブレス攻撃態勢。左舷側に接近!」


 フェリクス隊長率いるヴァンクール隊は、猛スピードで魔王城に接近。

 ゼルギウス率いる迎撃陣は、ヘビーアローを発射して牽制するも、魔王城側面に再びブレス2発を食らう。

 ゼルギウスは状況を司令の間に伝えた。

 

「魔王様。矢切れです。迎撃不能!」


 操艦しているキャプテン・キッドが、ソールヴァルドに振り返り、目前に台風が迫っていることを報告する。


「魔王様。あと5分でバアルの風に突入します!」


 司令の間から見れば、魔王船の前面が真っ白になっていた。

 内部は相当荒れていることが予想された。

 ソールヴァルドは、頷いてマリベルに指示を出す。

 マリベルは拡声魔導伝声管に向かってアナウンスする。


「5分後にバアルの風に突入します。甲板上に出ている皆さんは、直ちに退避してください!」



 ヴァンクール隊が飛び去った後、続けてアルディ隊が深魔の森方面に飛来した。

 森エルフ達が精霊魔法を放つが、今度は戦法を変え、真上に打ち上げてから弧を描くように落として、竜騎の上に降り注ぐよう誘導した。

 大量の魔力を使用したので、今の攻撃で大半の森エルフの魔力が切れる。


 この攻撃に驚いたアルディ隊の竜騎は、焦って高度を落とした。

 甲板との距離30メートル。

 甲板の上にはセレスティーナが扇子ロッドを構えて待っていた。

 30メートルは彼女にとって必中距離だ。


「冷熱魔法――――爆発エクスプローション!」


 セレスティーナが撃った大きな火球が、竜騎に命中。

 竜騎は火に包まれて、海面に激突した。

 ブレスは1発のみ魔王山に命中。



 アルディ隊が飛び去り、今度はファントム隊が城下町方面に突っ込んでくる。

 これで最後の攻撃だと皆分かっていたので、迎撃陣は魔力を限界まで込めて魔法を放つ。


 ファントム隊2騎のうち1騎に魔法攻撃が集中。

 そのうち氷剣ヒエロ・エスパーダ石散弾ストーン・ショットが竜体と翼に命中、ファントム3―2は高度を落とした。

 そこに、チャンスを待っていたパッツィとタマラが爆裂矢を放った。


「よしっ!」


「行くにゃ!」


 気合が入ったタマラの矢は、竜騎の1メートル左を掠め、海面に落ちて爆発。

 パッツィの放った矢は、見事に竜体に命中。

 止めを射された竜騎は海面に落ちていく。


「う~、にゃ~! 外したにゃ!」


「よっしゃ、ざーんねんでした、タマラ!」


 ブレスは1発が右舷甲板に命中するも、被害なし。

 ガッツポーズをしたパッツィにマリベルの切迫したアナウンスが響く。


「バアルの風に突入します。全員退避!!」


 パッツィとタマラが艦首方向を見ると、前方から凄まじい雨風が迫ってくるのが見えた。

 2人は全力で、魔王船の艦内入り口に向かって走る。


「まずい!」


「急ぐにゃ!」


 コロシアム側にいたソフィア、カルメーラ組もアナウンスを聞き全力で走るが、途中で強風と横殴りの雨をモロに受けてしまう。

 そのバアルの風は、地上で受けるより遥かに強力だった。


「ぐうっ!」


「ソフィア!」


 尋常で無い強風を受け、2人は後方に吹っ飛ばされた。




    第37話 「竜騎襲撃! パルマ島沖追撃戦」

   ⇒第38話 「台風突入! 約束の地は何処へ」


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