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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第4章 リリア侵攻脱出編
41/75

第31話「魔王船出航準備! ヒューガ鳴動」

エスパーニャ暦5541年 8月2日 6時

リリア方面防衛軍 陸軍基地


 リリアに朝が訪れる。

 小鳥のさえずりが森のほうから聞こえる。

 これだけ見れば、いつもと変わらない日常なのだが、残念ながら昨日から事態は大きく変化しているのだ。


 ここは、リリアから少し離れた領軍の陸軍基地。

 軍事基地としては小さなもので、外から見れば、建物が2棟と兵舎。馬車と車両2台が見える。

 すぐ隣には領軍海軍基地があるが、こちらは建物が1棟、竜巣ドームが1つのみ。随分とこじんまりとした基地に見えた。


 俺達ケンタウロ・マキアのメンバーと、ギルドマスターのホセさん。職員のロッシさんで朝一番で基地にやって来た。

 理由は、この陸軍基地の司令、マリオ・ベルモンテ・カンポさんに呼ばれたから。


 今から俺達は、この基地にあるという、8つ星魔力結晶を回収。

 雑貨迷宮を討伐して、魔王船に8つ星魔力結晶を運び込むのだ。



 基地から、軍服を着た軍人が2名出てくる。

 基地司令のマリオさんと副官のサンチョさんだ。


「皆さんおはよう。朝早くご足労いただき、ありがとうございます。では中に……」


 マリオさんの案内のもと、俺達は基地内部に入る。

 建物内では、忙しく職員や兵が動き回っている。

 机に突っ伏して、眠っている人も沢山いた。


「皆、昨日から徹夜でしてね。まぁ、軍人が忙しいのは、ロクな事態では無いですがね」


 副官のサンチョさんが説明した。

 そりゃアルコン軍が大規模に攻めてきたもんな。

 軍人さんも大変だわ。



 俺達は基地の一画にある、地下壕の入り口に着いた。

 そこから階段を下りて地下に入る。


 やはり8つ星魔力結晶を保管しているためか、入り口の頑丈な鉄の扉を3枚も開けて、やっと地下通路に入ることができた。

 その通路は20メートルほどで、先に分厚い鉄の扉がまだあった。

 扉の前に、監視をしている兵が2人立っている。


「この先です。ソール君、体調はどうですか?」


 先頭に立って案内しながら、マリオ司令は俺に話しかける。

 司令も疲れているのか、生気があまり感じられない。


「いいほうだと思います。でも、あまり眠れなかったですが……」


「今回の作戦はあなたが鍵になりますからね。体調には注意して下さい。気持ちは分かりますよ」


 俺達は話しながら通路を進む。


「しかし、こんな所に8つ星魔力結晶があるなんて驚きです」


「200年ほど前に、この周辺で魔力結晶迷宮を討伐した際に入手したものです。その時に出来た拠点がリリア村だったそうで」


「それにしても、俺が魔王船を見つけて、リリアの基地に8つ星魔力結晶があるのは、出来すぎな気がするのですが……」


「それは私も思いました。討伐された魔力結晶迷宮は、あの雑貨迷宮の近くにあったそうです。多分ですが、前魔王は、8つ星魔力結晶がある迷宮を見て、ここに魔王船を封じたのではないでしょうか? このリリア付近に、他の地域よりも多く魔族が住んでいるのも、その証だと」


「でも、魔王船をどこに隠したかは誰も知らなかった……」


「恐らく何らかの理由で失伝したのでしょうな。その後で、バレンシア領軍が8つ星魔力結晶を回収。一時領都に保管されていたようですが、30年前にここに移された。」


「政治的な理由と…… 目立つからですか?」


「その通り。前領主の目論見通り、リリアへの攻撃は後回しにされました。まさか、こんなちっぽけな基地に、伝説級の魔力結晶があるなど誰も想像できませんからね」


「たしかに、あるのがバレると政治的な影響が大きいですね。だから隠蔽するしかない」


「ソールヴァルド君は聡明ですな。今だから言いますが、領主に知らせるため報告書を作成していました。魔王船と魔王をどう利用するか考えていました。しかし、今となっては…… 送れなくて良かったと思います。おかげで、アルコンには魔王船の存在を秘密に出来ました」


 俺達は奥の扉に到着した。

 マリオ司令が何やら書類を示し、門番の兵はそれを確認。

 扉の鍵を解除して、分厚い鉄の扉を扉を開け放つ。


「こ…… これは…… 凄いわ」


 横に居たパッツィがそれを見て絶句する。

 扉の奥の台座には、オレンジ色の直径1・5メートルの巨大な魔力結晶が置かれていた。


 俺達が普段見ることができる魔力結晶は、最大でも4つ星クラス。

 せいぜいソフトボールくらいの大きさだが、こいつは常識ハズレのデカさだ。

 この距離でも魔力をビンビン感じる。

 さすが伝説級。


「我がベルモンテ家は、代々8つ星魔力結晶を守ってきました。伯爵が死亡した時には、命令がない限り、私の裁量で8つ星魔力結晶を自由にすることができます。私は魔王様に、この8つ星魔力結晶を委ねたいと思います」


 マリオ・ベルモンテ司令は、まだ意志が衰えていない目で俺を見つめる。

 俺はそんな彼の目をまっすぐ見て、頷いた。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第4章 リリア侵攻脱出編





「だがもし、我が領軍が8つ星魔力結晶を保管しているとしたら、ソールヴァルド君。君はどうする?」


「えっ……?」


 その時、マリオ司令はとんでもないことを言い出した。

 領軍が8つ星魔力結晶を持っているのだ。

 これで魔王船を動かすことが出来る。


 しかし、魔王船を動かすと、必然的に俺達はアルコン軍と戦うことになるだろう。



 別に……

 別に今更、人を殺した。殺されたで俺は悩まない。

 なにせ俺は一度死んでるわけだしな。


 俺が死ねば、またお定まりの光の部屋に行って、どこかの世界に飛ばされるだけだ。

 それは相手を殺しても同じことだ。

 光の記憶によれば、殺し合いをすれば、必然的にカルマは発生することになるがね。

 しかし、それも自分の選択の結果だ。

 だが……


 俺は、パッツィ、ソフィア、マリベル、マルガリータの顔を見る。


 魔王船を動かすということは、地球に例えると、個人でロシア並みの大きさの国にケンカを売る。ということだ。

 俺はそれでも構わないが、果たして彼女達まで守りきることができるのか?


 部屋を重苦しい空気が支配する。

 と、パッツィが口を開いた。


「ソール。あまり深刻に考えないで、あなたが好きな方を選択すればいいと思うわよ」


「パッツィ……」


「簡単なことよ。止まっていれば火達磨になる。動けば血達磨になる。どっちにしたって人は死ぬんだから。だったらソールがしたい方を選べばいい」


「究極の選択だな」


「でも私は、私は魔王の正妻よ。あなたがどんな選択をしても、たとえ地獄の底に沈もうとソールについて行く。でも他の皆は逃げていいからね。側室にそこまで責任は負わさない」


「バッ、私だって!」


 パッツィの言葉を聞いて、ソフィアも声を上げる。

 マリベルとマリガリータも続いた。


「お兄ちゃん。私もついていくわよ」


「……私はソールお兄様の妻。夫の後に続くのは当然……」


 本当にお前らは、物好きな奴らだ。

 俺と心中するつもりかよ。

 だが、皆の気持ちはよく分かった。

 

 なら俺は、皆が幸せになる可能性が高い道を選ぼう。

 その道がどんなに血塗れの道でも。


 俺は正面に向き直った。


「マリオさん。魔王船を動かしましょう。」





 オレンジ色の巨大な魔力結晶を見ながら、俺は昨日の出来事を反芻した。

 俺はマリオ司令の思いに応える。


「必ず魔王船を動かし、皆を脱出させます!」


「ああ、頼んだ。魔王様」



 俺達の脱出作戦はスタートした。

 まずは8つ星魔力結晶をここから魔王船まで運ぶ。

 2人の門番が魔力結晶を大きな皮袋に包み、外に運び出した。


 俺達は、領軍の馬車2台に分乗し、雑貨迷宮に向かう。

 護衛に騎兵4名がついた。

 マリオ司令も一緒についてくることになった。


 馬車の車窓からリリアの町を見る。

 いつものように町の人達は動き出している。

 まだ皆、アルコンが攻めて来たことを知らないのだ。

 だが噂はいずれ皆の元に届くだろう。

 マリオ司令は、夕方から戒厳令を敷くそうだ。



 雑貨迷宮に30分で到着。

 領軍も迷宮鍵は持っているそうで、皆次々に10層に転移する。


 前衛は俺達ケンタウロ・マキア+ロッシさん。

 中衛はホセさんと魔力結晶を抱えた領兵2人。

 後衛はマリオ司令と馬を下りた騎兵4人。


 俺達は、かつてないスピードで回廊を突破。

 キングゴブリンと対戦し、これを打ち倒す。


 魔力結晶の台座でロッシさんが、魔道具をかざして呪文を唱えると、台座を守る結界が消滅。

 ホセさんが5つ星魔力結晶を台座から外した。

 これで雑貨迷宮の討伐は終了。

 迷宮内の魔獣も消えた。


 2週間もすれば、この迷宮は消え去ることになるだろう。

 少なくとも500年以上続いた、歴史ある迷宮が1つ消える。

 だが俺達に別れを惜しむ時間はない。



 部屋の奥に向かい、手甲剣に組み込んだブレインに命令し、魔王船への通路を開けさせる。

 そこから全員で通路を進む。

 はじめて見る長い通路に領兵も驚いていた。


 30分後、魔王船に到着。

 階段を下り、第7デッキ、ヒューガの部屋に到着。

 領兵がおっかなビックリで、8つ星魔力結晶をヒューガの前に置く。



 すでにブレインからテレパシーで概要を伝えられているのか、ヒューガに驚きの色は無い。

 と俺は思うが、こんだけ目玉やら口が多いとさっぱり分からん。

 俺はヒューガに命令する。


「ヒューガ、この8つ星魔力結晶を飲み込め、可能な限り早く魔王船を出航可能な状態にするんだ」


 俺の命令を聞き、ヒューガの赤いグロテスクな筋肉が震える。

 そして触手が2本伸びてきて、8つ星魔力結晶に絡みつく。

 魔力結晶を持ち上げたヒューガは、大きな口でそれを飲み込んだ。


 直後からヒューガの体が光りだす。

 部屋内の魔素も密度がだんだんと濃くなってきた。


 そして、ヒューガは吼えた。


ゥォオオオオオオオオオオオオォォォゥゥ!!!!


 空気がビリビリと震える。

 俺達は耳を押さえて耐える。

 微妙に船体も揺れてる気がする。

 ブレインが告げる。


「魔王様。ヒューガより連絡。8つ星魔力結晶の魔力の吸収を開始。出航可能まで72時間かかります!」


「分かった。72時間。ちょうど3日間か。今が8月2日の9時だから、出航可能になるのは8月5日の9時あたりになるのか」


 俺達の会話を聞いていたマリオ司令が、話に入る。


「そこがタイムリミットだな。それまでに可能な限り沢山の人を避難させなければならない。次の段階に進もう」


 そう言うと、マリオ司令は、領兵に帰還準備をさせる。

 俺達との細かい打ち合わせは馬車内で行なった。

 後は行動あるのみ。

 マリオ司令は、パッツィに話しかける。


「パッツィさん。帰りは馬車1台と騎兵4名を牧場に送ります。荷物の輸送を手伝わせて下さい」


「分かりました。ありがとうございます」


「いや、避難するためには魔王船に可能な限り食料や家畜を詰め込む必要がありますからな。礼には及びません」


 マリベルが俺に駆け寄って来る。


「じゃあお兄ちゃん。私達もそろそろ行くね」


「ああ、父さんや母さんをよろしく頼む。ついでに俺の部屋の荷物も」



 魔王船の起動に成功すれば、今までの話をケンタウロ・マキアの家族に限り明かしてもいいことになっている。

 マリベル達は今からリリアに戻り、家族と脱出準備をする。

 俺達の家族が避難民第1陣となるのだ。


 俺は魔王船に1人残り、出航準備をする手筈だ

 皆と別れの挨拶をする。


 マリオ司令とパッツィ達、ギルドの皆が次々と階段を登っていく。

 俺はヒューガの前に1人立つ。




「さて、そろそろ始めるか。おいブレイン、出て来い」


「ハッ、魔王様!」


 手甲剣からブレインが飛び出し、床に着地する。

 張り切ってるのか、なんだか嬉しそうだ。


「それではヒューガ、後を頼んだぞ」


 俺はそう言い残し、ヒューガの部屋から出て、艦首側に通路を進む。

 100メートルほど進むと、分厚い鉄の扉があった。

 近づくと勝手に二重の鉄扉が開く。

 おお、自動ドアか?

 ブレインの話によればヒューガが開けてくれたそうだ。



 俺は開いた扉から中に入った。

 その部屋は幅40メートル、長さ100メートルの大きな空間だ。

 手前に台座、奥の床に直径30メートルの大きな魔法陣が描かれている。


 ここが「召喚の間」

 ここなら一気に大量の召喚が可能らしい。

 俺は右手を差し出して、命令を出した。


「出でよ、召喚宝典!」


 俺の右手が光り輝き、大きな薄い長方形の物体が出現する。

 その物体は、色は鈍い金色でA3サイズのパッドのような形状だ。

 地球でいうタッチパネルディスプレイだな。


 こいつが召喚宝典。

 魔王のみが召喚可能な魔道具だ。

 この召喚宝典には、現時点で召喚可能な下僕や設備のリストがある。

 そのリストから選んで、召喚を実行できるのだ。



 パネルに触れてちょっと操作してみる。

 召喚対象…… 多いな。

 細かい文字がズラズラ出てくる。

 これ読み込むのに相当時間がかかるな。

 俺は召喚宝典を台座の上に置いて、ブレインに顔を向ける。


「ブレイン。船を動かす必要最低限の乗員を教えてくれ」


「ハッ、まずスケルトン船長が1名絶対に必要です。残りは航海士3名、上級船員30名、船員50名がいれば、滞りなく出航作業が出来るでしょう」


「ふむ。まずは船長か」


「それに加え、警備人員も必要です。そうですな。リッチ2名、シーリッチ2名をリーダーに、スケルトンファイター40名、スケルトンアーチャー10名、スケルトンヘビーアーチャー20名、リビング・アーマーは4体もあれば、最低限の警備は可能です」


「よし、それでいこう」


 やはりこういう事はブレインに聞くに限る。

 最低限の人数にこだわっているのは、魔力をどれだけ食うか分からんからだ。

 とえあえず最少人数を出して、魔力に余裕があるなら増員する。

 初めての経験だから、何事も慎重に、だ。



「えーと、まずは船長だな。……あった。これだ。召喚っと」


 俺は召喚宝典を指で押して、スケルトン船長の召喚を決定した。

 すると床に描かれた魔法陣が光り、1分ほどしてスケルトン船長が召喚された。

 おお、こいつはまたピカピカなスケルトンだな。

 召喚されたスケルトン船長は、俺の前で跪く。


「魔王様、召喚していただき感謝します。魔王様に永遠の忠誠を。アルコン帝国如き、この魔王船で叩き潰してみせましょうぞ」


 凄く威勢のいい言葉だな。

 こいつもアルコンや今の状況は知っているようだ。

 ということはブレインと同じで、召喚時点までの記憶を俺と共有しているということか。

 名前を聞いてみたが、やはり名無しのようだ。


「では魔王の名において、お前に名前を授ける。お前の名前は今日から『キャプテン・キッド』だ」


「ハハッ、ありがたき幸せ!」


 スケルトン船長、キャプテン・キッドは、頭を深く下げる。

 まあ名づけは適当だけどさ、骸骨船長ときたら、俺のイメージはキャプテン・キッドなんだよなぁ。

 と、忘れていた。

 鑑定。



名前 キャプテン・キッド

種族 ハイメタル・スケルトン(銀)

職業 船長


レベル24

ヴァイタル 214/214

スキルポイント 0P

種族スキル 耐久力


スキル(6/9)

【剣術レベル4】【短剣術レベル2】

【船長レベル5】

【操艦レベル5】【指揮レベル4】

【水船魔法レベル5】



 おお、なかなか強いじゃん。

 ハイメタル・スケルトンかー。

 たしかに、キャプテン・キッドの体は銀色にピカピカ光っている。

 船長らしい立派な帽子に服。

 腰に海賊刀カトラスと短剣を差している。


 しかしレベル24のわりに、スキルレベル5が3つもある。

 これはどういうことだ?


「魔王様の直接召喚に限り、レベルとスキルポイントは無視されます。お望みの能力、レベルを持った下僕を召喚できるわけです。ただ、高いレベルにすればするほど、召喚にかかる魔力は増加します」


 ブレインが疑問に答える。

 なるほど、初回に限る特典というわけか。

 さて、時間も無いことだし、ドンドン召喚しよう。


 俺はまとめて、スケルトン航海士3名、スケルトン上級船員30名、スケルトン船員50名を召喚した。

 さすがに召喚に時間がかかる。

 10分ほどかけて全員召喚を完了。

 さっそく鑑定で見てみる。



■スケルトン航海士


名前 航海士1号

種族 ハイスケルトン

職業 航海士


レベル18

ヴァイタル 148/148

スキルポイント 0P

種族スキル 高知能


スキル(4/9)

【剣術レベル2】【短剣術レベル2】

【航海士レベル5】

【指揮レベル2】


――――――――――――――――


■スケルトン上級船員


名前 上級船員1号

種族 ハイスケルトン

職業 上級船員


レベル16

ヴァイタル 121/121

スキルポイント 0P

種族スキル 高知能


スキル(5/9)

【剣術レベル1】【短剣術レベル1】

【船員レベル3】

【指揮レベル1】

【水船魔法レベル4】


――――――――――――――――


■スケルトン船員


名前 船員1号

種族 スケルトン

職業 船員


レベル12

ヴァイタル 92/92

スキルポイント 0P

種族スキル 無


スキル(5/9)

【剣術レベル1】【短剣術レベル1】

【船員レベル2】

【水船魔法レベル2】



 へぇ、皆船員だけど、一応戦闘力はあるわけだ。

 しかし種族のハイメタル・スケルトン、ハイスケルトン、スケルトンの違いはなんなのか?

 さっそくブレインに聞いてみた。


「ハイメタル・スケルトンはスケルトン最上位です。次点がハイスケルトンで、両方とも自我を持ち喋ることができます。スケルトン、メタルスケルトンは、自我も無く喋れません。上位スケルトン・ネクロマンサー・リッチの命令に従います」


 なるほど。

 しかしこんだけスケルトンが並ぶと壮観だな。

 俺はキャプテン・キッドに確認を取る。


「これで全員だが、数は間に合いそうか」


「充分であると考えます。足りなければ後で増員すれば良いでしょう。では時間も押していますので、さっそく作業に当たらせます」


 そう言うと、キャプテン・キッドは、召喚したスケルトンに指示を出した。


「上級船員3名は私の補佐に着け、上級船員10名は魔王城の修復と清掃。上級船員7名は、船体の修復の指揮を取れ。上級船員1名は、船員10名を率いてチームを作れ。そうだ。全部で10チームで船体修復を行なう。よろしい。では魔王様の為に、直ちに修復を開始せよ!」


 キャプテン・キッドが命令を下すと、スケルトン船員達は召喚の間から出て行き、速やかに作業に移る。

 なかなか統率された動きだ。

 今度は警備のスケルトンを召喚するとしよう。


 今度はいきなり、まとめて召喚だ。

 再び10分間の召喚で、全員の召喚を完了した。

 鑑定。



■リッチ


名前 リッチ1号

種族 スケルトン・ウォーロード

職業 リッチ


レベル20

ヴァイタル 179/179

スキルポイント 0P

種族スキル 回復力増大


スキル(4/9)

【杖術レベル2】

【指揮レベル2】

【死霊魔法レベル5】

【聖邪魔法レベル5】


――――――――――――――――


■シーリッチ


名前 シーリッチ1号

種族 スケルトン・ウォーロード

職業 シーリッチ


レベル20

ヴァイタル 181/181

スキルポイント 0P

種族スキル 回復力増大


スキル(4/9)

【杖術レベル2】

【指揮レベル2】

【死霊魔法レベル5】

【竜飛魔法レベル5】


――――――――――――――――


■スケルトンファイター


名前 戦士1号

種族 スケルトン

職業 ファイター


レベル10

ヴァイタル 74/74

スキルポイント 0P

種族スキル 無


スキル(3/9)

【剣術レベル3】【短剣術レベル2】

【盾術レベル1】


――――――――――――――――


■スケルトンアーチャー


名前 弓士1号

種族 スケルトン

職業 アーチャー


レベル10

ヴァイタル 76/76

スキルポイント 0P

種族スキル 無


スキル(2/9)

【弓術レベル3】【短剣術レベル2】



――――――――――――――――


■スケルトンヘビーアーチャー


名前 強弓士1号

種族 メタル・スケルトン(鉄)

職業 ヘビーアーチャー


レベル12

ヴァイタル 102/102

スキルポイント 0P

種族スキル 耐久力


スキル(3/9)

【強弓術レベル3】【短剣術レベル2】

【身体強化レベル2】


――――――――――――――――


■リビング・アーマー


名前 死霊鎧1号

種族 アンデッドゴーレム

職業 リビング・アーマー


レベル16

ヴァイタル 131/131

スキルポイント 0P

種族スキル 防御力


スキル(2/9)

【剣術レベル3】【盾術レベル3】




 ほほぉ、全員そこそこ戦える戦力だな。リッチやリビング・アーマーって職業なのか?

 種族にスケルトン・ウォーロードとかあったので、ブレインに聞いたが、戦闘寄りのハイスケルトンとのこと。


 とりあえず指揮を執るリッチ達に名前をつけた。

 リッチ2名には「ディータ」「ヴァルター」の名前を授け、シーリッチ2名には「ゼルギウス」「エッケハルト」の名前を授ける。

 警備配置はブレインと相談して決めた。


「まずはリッチのディータ。お前はスケルトンファイター10名 リビング・アーマー2体を率い、俺の護衛だ」


「ハッ、身に余る光栄でございます」


「リッチのヴァルターは、スケルトンファイター10名、スケルトンアーチャー5名、リビング・アーマー2体を率いて、魔王城ホール入り口の警護」


「お任せ下さい。鼠1匹通させません」


「ああ、だが俺の親族は通してくれよ?」


「無論です。魔王様の許可の上で通します」


「次にシーリッチのエッケハルト、スケルトンファイター10名、スケルトンアーチャー5名、スケルトンヘビーアーチャー5名で、魔王城周辺の警備に当たれ」


「承知しました」


「シーリッチのゼルギウス、スケルトンファイター10名、スケルトンヘビーアーチャー15名を率いて、魔王船左舷で岸壁警備だ。アルコンが来たら攻撃してよい」


「ハッ、魔王様に仇名す敵を討ち取ってご覧にいれましょう!」


「それでは配置に着け!」


 俺の命令で、骨の軍団は召喚の間から出ていく。

 うん。

 初期配置はこんなもんでいいだろう。



 だが今更だが、こんだけ呼び出して反乱は起きないものか?

 ブレインに小声で聞いてみた。


「魔王様が直接呼び出した配下は魂が繋がっており、その可能性はありません。前魔王の下僕の子孫は、反乱の可能性があります。しかし、魔王様がアルコンとの対決姿勢を維持する限りは、反乱の可能性は低いと考えられます」


 なるほどな。

 では俺の周りは、しばらくは召喚組で固めているほうが安全だな。

 

「魔王様、そろそろ魔王城に入りましょう。あちらで指揮を執るのが効率的です」


 待っていたキャプテン・キッドが、俺に提案する。

 俺は了承し、召喚の間を出た。


「ヒューガから連絡です。船内の魔導リフトは全て使用可能です。リフトで移動しましょう」


「おお、そりゃありがたい」


 ブレインの報告に俺は喜ぶ。

 いいかげん階段登りはやめたい所だった。

 俺は、ブレインとキャプテン・キッド、護衛達を連れて、魔導リフトに向かった。





エスパーニャ暦5541年 8月2日 15時

リリアの町 総合ギルド


 総合ギルドのギルドマスター、ホセ・アントニオとサブマスター、ロッシ・コダスは、魔王船の起動を見届けてから、10時半にはリリアに戻っていた。


 さっそく、ギルド職員に状況を説明。

 アルコン帝国侵攻と魔王船での脱出作戦を聞き、職員達は驚天動地の驚きを見せた。


 すでに昨日から、冒険者、探索者には自宅待機命令を出している。

 探索者の方は、全員家に居ることは確認済みだ。


 冒険者は、昨日の時点で3チームがリリアにいた。

 外に出ていた2チームは、今日の朝から昼にかけてリリアに戻ってきた。

 最後のチーム「紅姫と疾風従者」は絶望的だ。

 計算してみると、ちょうど彼らが領都に居る時に、アルコンの攻撃は始まっている。


 こいつは諦めるしかない。

 だがあいつらなら、そう簡単にはくたばるまい。

 と、ホセは淡い希望を持つことにした。

 


 残念ながらホセには、行方不明のパーティーを心配している暇は無い。

 昨日から働きづめでろくに寝ていないし、これから脱出のための荷物整理を行なわなければならない。

 夜には、全探索者と冒険者をかき集めて、説明会を行なう予定だ。

 ギルドの職員は、外に出て走り回ったり、ギルドで荷物整理をしている。


 ホセも依頼伝票やドロップ品の整理を受付カウンターで行なっていた。

 そこへ突然、


「おい、おっさん、生きてるか!?」


ドンッ!


 ギルドの扉を乱暴に開け放ち、1人の一角魔族の女が入ってきた。

 真っ赤なストレートヘアの冒険者。

 「紅姫と疾風従者」のリーダー、フローリカだ。

 ホセは驚いた。


「おい、フローリカじゃないか。生きてるかだって? それはこっちの台詞だ。くたばったかと思ったぞ!」


「そりゃとんでもなかったぞ。いきなりアルコンの攻撃がはじまったからなぁ。死ぬかと思ったわ」


 フローリカと話していると、他のメンバーと髭面商人パコもギルドに入ってきた。

 全員が疲れきった表情をしていた。


 フローリカの話では、領都に向かっている途中でオークが出現。

 討伐して、いつもより到着が遅れたとの事。

 おかげで領都に入る前にアルコンの攻撃が始まり、フローリカ達は命からがら逃げることができたらしい。


「というわけだ。私らはオークのおかげで助かった。だとしても、あんな豚の出来損ないに感謝はしないがな!」


 そう言うとフローリカはヘラヘラ笑った。

 それから真顔になり、閑散としたギルドを見回し、ホセに尋ねる。


「おいおっさん。年末大掃除か? それともアルコンへの降伏準備か?」


「なに言ってる。脱出準備だよ……」


「脱出?! どうやってだ。陸路でバレンシアから出れるのか?」


「そりゃ無理な相談だな。さっき領兵が情報を流してくれたが、今さっきエルチェとネルピオが爆撃を食らったらしい。有力なアルコン艦隊が真っ直ぐロルカに向かってる。こっちが着く前にアルコンに街道は封鎖されるだろう」


「マジかよ……」


 フローリカを始め、パーティーの面々と髭面商人パコの顔が引きつった。

 ホセは少し笑顔を浮かべて、話を続ける。


「だが幸いにも脱出手段はある。船で逃げるんだ」


「船だぁ!?」


 フローリカが素っ頓狂な声を上げる。


「おい正気かよおっさん。アルコンは海から来たんだぞ。ノコノコ海なんかに出たら、あっという間に沈められるぞ」


「まっ、普通の船ならな」


「どういうことだよ?」


 フローリカは目を細め、何故か小声でホセに疑問を呈した。


「そいつは本日19時にギルドにて説明を行なう。リリアの全冒険者、探索者に集まって貰ってからだ」


「ケッ、もったいぶりやがって!」


「俺から言えるアドバイスは、とにかく食い物を集めて、貸し倉庫にぶち込んでおけ。後は寝ることだ。そして今から4時間後に絶対ギルドに来い」


「あぁ、あ~、分かったよ、おっさん」


 そう言うとフローリカは、だるそうにヒラヒラ手を振り、ギルドの外に出ていく。

 メンバーと商人もその後に続いた。


 ホセはその姿を見送りながら、ため息をついた。




    第31話 「魔王船出航準備! ヒューガ鳴動」

   ⇒第32話 「黄昏のリリア! 避難準備を開始せよ」




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