第3話「妹誕生」
3歳になった。
ここに来て2年が経過したが、体は順調に育っている。
言葉も不自由なく話せるようになったが、いきなり悠長に喋りだしたら、気持ち悪がられる可能性もあるので、
あえて口数は少なくして子供っぽさを演出している。
これで誤魔化せるかは不明だが。
俺が住んでる家の2階から周りを見渡すと、ある程度町の様子が見える。小規模な港町のような風情だ。
漁港のある素朴な田舎町といった感じかなぁ。
人口は、うーん、よく分からんが千人以上はいるようだ。
この町の標準的な家の造りは少し変わっていて、主に生活の場となる木造2階建ての家に、中庭を隔てて離れた場所に居間や風呂、トイレなどの施設がある石造りの
建物がある。俺の住んでる家も同じような構造だ。
水周りと生活の場が分離してるわけだが、日本でも水洗トイレが普及するまで、トイレが家の外にある所が多かったそうなので、
17世紀程度の文明レベルを考えれば、おかしくは無いか。
前世の記憶のほうだが、何度か記憶が飛んでいきそうな感じになったが、その度に意識を集中して、自分の記憶を脳に縛り付けた。
その努力の甲斐もあって、上手く脳に記憶が定着したようだ。
別に異世界チートをやる気はないが、前世の記憶が有るか無いかで、人生の難易度が変わってしまうので、記憶を失うことだけは避けたかったのだ。
ここで育ててもらっているが、俺はあくまで居候。
いつまでも、ずうずうしくただ飯を食べる訳にはいかない。
できるだけ早い時期に自立し、育ててくれた恩ぐらいは返したいものだ。
前世の記憶はそのために役にたつだろう。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第1章 転生、目指せマタドール編
そんな時期に思わぬ嬉しい事件が起きた。
義理の両親の間に子供が出来たのだ。
正直ホッとした。
両親の子供が、血の繋がっていない俺だけだと、将来的に家庭不和が起こる可能性もあると考えていたが、実子が生まれたのならその懸念は払拭できたと言えるだろう。
出産の時は大騒ぎになった。主に父アベルが。
メイドのナタリアさんが、産婆さんを呼びにいく間、そわそわと部屋を行ったり来たりしていた。
まあ俺には彼の気持ちが完全には分からないだろうが、家長なんだから、もう少しどっしりしてくれないと、母も不安になるだろうに。
その後、産婆さんが到着して本格的な出産が始まった。
幸いなことに安産で、誕生したのは女の子だった。
金髪でかわいらしい母親似の赤ん坊だ。
落ち着いたところで名前が決まった。
新しい家族、俺の妹になる赤ん坊の名前は
「マリベル」となった。
「よろしくね。マリベル」
俺は生まれたばかりのマリベルに話しかける。
フフ、我が妹よ。運が良かったな。
お前にはカッコイイお兄ちゃんがついてるぞ。
2日後、出産が無事終了して、頬がゆるみっぱなしの父アベルは、外出の準備をしていた。
倉庫からデカイ三又槍を取り出して、熱心に整備する。
俺は好奇心を抑えられず聞いてみた。
「お父様、コレは何?」
「おお、ソール。こいつはトライデントっていう三又槍さ。闘牛場で使用するんだ。何せこの町の闘牛場ではピカドールは俺一人だからな。休むわけにはいかなかった。娘の出産に立ち会えないかと思ったが、うまく立ち会えてよかったよ」
えええええっ!
ピカドール…。知ってる。
騎乗闘牛士のことだ。
「ではお父様は、お馬さんに乗って槍で牛を刺す人なんですか?」
「そうだ。よく知ってるな。子供も生まれたことだし、お父さん今から頑張って仕事してくるわ」
やっぱり間違いない。
同じ家に2年も住んでいて気がつかなかったとは。
まあ、俺が自由に動いたり喋りだしたのは最近だし、母との会話も聞いていたが、闘牛場のスタッフの仕事してると勘違いしてたわ。
まさか闘牛士だとは……
スペインとシステムが同じなら、闘牛は基本毎日あるわけでは無く、季節ごとに闘牛祭が開かれ、その時に集中して開催されるはず。
俺は居間での朝食の後は、中庭を渡ってナタリアさんと家の中に入るので、父の出勤風景は見ていなかったわけだ。
うむむ……
父の出勤を見送ってから、俺は居間の椅子に寝転がって光の存在のことを考える。
最近いくつかの記憶を思い出したのだ。
耳に残るフレーズはこれ
「すべては君の自由意志が尊重されるが、肉体には肉体の運命がある」
俺はあの光の間で、自分が死んだということを教えられ、転生のチャンスを与えられた。
憶えてはいないが、どんな運命が待っているかも教えられたと思う。
そして俺は、すべてを知ったうえで新しい人生を始めると決断した。
俺は頭の6本の角を触る。
多分、これが肉体の運命、なのだろうな。
まっいっか。
先のことは思い悩んでもしかたない。
俺は気を取り直し
起き上がって、母親の元に駆け出した。
この数日後、俺は俺の運命を知ることになる。
****
3日後、昼間俺が居間にいると、メイドのナタリアさんが買い物袋を持って家に帰ってきた。
最初は午前中の勤務だけだったが、母イレーネが出産して間もないということもあり、これから数ヶ月ほどは朝から夕方まで、家にいてくれるらしい。
ナタリアさんは、台所にある棒のようなものを取り出し、かまどに火をつける。
その棒は一番上の持ち手が拳銃のような形になっており、ナタリアさんが掴んで薪に近づけると、銃口にあたる部分から火が出てきて、薪に点火した。
これ前から気になっていたので、ナタリアさんに尋ねてみる。
「ナタリアさん。その棒はどうして火が出るのでしょう?」
「ソール様。これは生活魔法を使用するための魔道具です。迷宮で取れるアイテムで、自分の魔力を流すと使用できます」
出たぜファンタジー定番の迷宮。
この魔道具は迷宮で魔獣を倒すと入手できるドロップアイテムで、大量に入手できるらしく、安価で店で購入できるのだとか。
「よいですかソール様。人は誰でも魔力をもっています。そして属性は+と-があります。+属性は右半身、-属性は左半身に宿り、手から魔力を放出します」
そして、今ナタリアさんが持っている生活魔法杖は「水火生活杖」と言い、+属性で火が出て、-属性で水が出るのだそうだ。
ナタリアさんが右手に杖を持って、魔力を流すと銃口部分から小さな火が出た。
左手に持って魔力を流すと、今度は水がドバッと出た。
魔法スゲー。
「ボクもやってみていい?」
俺は可愛くキャピッとお願いしてみた。
許可か出たので、さっそく杖を右手に握る。
「ソール様、体の中の力を杖に流し込む感じで使えます。魔法となれば特別な勉強が必要ですが、魔力を流すだけなら誰でも出来ますよ」
俺は言われた通り精神を集中させて、流し込むイメージを考えた。
すると杖から火がでた。
おお、これが魔法なのか。
魔法童貞の俺は激しく感動した。
「ソール様はまだ3歳ですから、大人が見ている場所でしか使ってはいけませんよ」
「はーい」
俺は元気よく挨拶して、お礼にナタリアさんの昼食作りを手伝った。
夕方、夕食を作り終えたナタリアさんが帰り、
入れ違いに父が帰ってきた。
「お帰りなさーい」
「おうソール。いい子にしてたか? こいつはおみやげだよ」
そう言うと父は薄い金属性のプレートを渡してきた。
「知り合いにタダで貰ったんだ。と言っても銅貨1枚の安物だが、ステータスプレートって言ってな。そこに魔力を流すと自分の情報が見れるんだ」
おお、今度はステータスか。
俺は金属プレートを受け取った。
「その情報は、自分にしか見えないが、好きな項目を他人に見せることもできる。まあステータス見ても、お前の歳じゃ字は読めないだろうがな」
俺はステータスプレートに魔力を流した。
するとプレートに文字が浮かび上がる。
全部こっちの言語だが、スラスラと読めた。
「じゃあイレーネにご飯持っていってやらないとな……」
「…………」
父は出来た夕食を母の元に運んでいったが、
俺はそれどころではなかった。
なんなんだ。
なんなんだこれは!
ステータスプレートにはこう表示されていた。
名前 ソールヴァルド・ローズブローク・カリオン
種族 ヴァイキング
職業 魔王
レベル1
ヴァイタル 20/24
スキルポイント 60P
特殊種族スキル 【魔王レベル1】
特殊種族魔法 【封印中】
スキル(0/20)
職業は魔王!
魔王って…
魔王って、あの魔王だよな。
これが俺が親に捨てられた原因か。
「すべては君の自由意志が尊重されるが、肉体には肉体の運命がある」
あのフレーズが頭に響いた。
これが…
俺の肉体の運命… か…
第3話「妹誕生」
⇒第4話「初めての闘牛場」