第29話「アイアン・ゲージ」
エスパーニャ暦5541年 8月1日 8時
バレンシア領 プリアナの町 北東5キロ地点
ここは街道から少し外れた森の中。
息を潜めた男女2人が、静かに森の中を進んでいく。
彼らは、しばらく進んで伏せ、林の隙間から様子をうかがった。
「姉御、あそこです」
そのうちの魔族の男、馬の頭部がそのまま人間の体に乗ったような外見を持つ、獣魔馬頭族の斥候ブラウリオが、指先を差し出す。
ブラウリオを指差す先には、オークが8匹たむろしていた。
「棍棒オーク4匹、ジャベリンオーク2匹、ソードオーク2匹か。ジャベリンがやっかいね。でも良く見つけたわ」
姉御と言われた女は、オークを見て戦力を値踏みする。
その女は、真っ赤なストレートヘアが目立たぬよう、黒頭巾を被った一角魔族だった。
彼女はリリア所属の冒険者「紅姫と疾風従者」パーティーのリーダー、フローリカ・マリスカル・マッソだ。
斥候のブラウリオとフローリカは頷き合い、密かに後方へ下がった。
5分後、なにか会話をしていたらしいオーク8匹は、突如襲撃される。
林の間から矢が2本、立て続きに飛んできて、ジャベリンオーク2匹に1本づつ突き刺さる。
斥候ブラウリオが放った矢だ。
「冷熱魔法――――火矢」
今度は3本の間隔の開いた魔法の火の矢が放たれ、うち2本がジャベリンオーク2匹に命中。
吹き飛ばされた2匹はそのまま絶命する。
この魔法を放ったのは、戦闘魔法師の森エルフ、イサークだ。
「おらぁ、こいやぁ!」
大声を出して挑発しつつ、大盾を持った獣魔虎族ドナートと獣魔獅子族フェルミンが、前面に突出する。
パニックを起こした棍棒オーク4匹が、棍棒を振り回しつつ、2人に突撃する。
「冷熱魔法――――氷矢」
横合いから、イサークの放った3本の氷矢が飛来。
棍棒オーク1匹の肩に1本命中、もう1本はオークの胸にもろに命中。
一撃で相手を沈めた。
大盾の2人と残りの棍棒オーク2匹が、殴り合いを開始。
ソードオーク2匹が回り込んで、横から攻撃しようと前進したが、その前にフローリカが立ち塞がる。
ソードオークは剣を振り上げ、フローリカに切りかかる。
ガンッ! ガンッ!
フローリカは、左手の小型の鉄の盾、バックラーで武器に殴りかかり、相手の攻撃をカットする。
2匹の攻撃をバックラーで捌きつつ、フローリカは後退した。
バックラーは盾としては面積が少ないので、相手の攻撃を受けるのではなく、むしろ殴打武器のように使う。
相手の武器に合わせてカウンターで武器を殴打し、カットを繰り返して攻撃のチャンスを待つのだ。
ヒュッ!
後方から風切り音が聞こえた瞬間。
1匹のソードオークの頭部に矢が突き刺さる。
フローリカとの戦いに夢中になっていたオークは、
斥候ブラウリオの姿に気がつかなかったのだ。
「そらぁ!」
フローリカは、バックラーで矢の刺さったオークの顔面を殴りつける。
身体強化のスキルで、その打撃は強烈なものがあった。
殴られたオークは、そのまま後ろに倒れ戦闘不能となった。
残る1匹の剣での攻撃は、バックラーのカウンター打撃で大きく弾かれる。
その隙をついて、フローリカの片手剣が、ソードオークの頭部に振るわれる。
戦闘の決着がつき、オーク8匹は全滅した。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第3章 ヒューガ誕生編
森の中から「紅姫と疾風従者」5名が出てくる。
先頭のリーダー・フローリカが、馬車で待っていた者達に声をかける。
「オークは全部片付けたよ。周りに魔獣はいないようだ。ちょっと休憩させてもらうよ」
「おお、さすがは紅姫。よいですよ。20分ほど休憩しましょう」
髭面商人パコが同意した。
パコはリリアに居を構える商人だ。
今回は領都バレンシアへ、馬車2台を連ねて商品の仕入れに向かう。
メンバーは商人パコに御者2名であり、「紅姫と疾風従者」7名が今回の護衛依頼を受けたのだ。
リリアを出発して、街道を北に向かい1日でプリアナの町に到着。
そこで一泊してから、7時に出発。
だが5キロ進んだ時に、斥候ブラウリオが街道近くのオーク達に気づいて、さきほどの戦闘になったのだ。
「姉御、椅子をどうぞ。お茶などいかがでしょうか?」
「ありがと。赤茶を貰うわ」
ポーターの獣魔兎族、ロサーノがうやうやしく折りたたみ椅子を用意する。
他のメンバーは地べたに座る。
安全の保証が無い冒険者家業は、女性にとって辛く厳しい。
といったことは昔のことで、今はどのパーティーに入ろうが、基本的にお姫様扱いしてくれる。
原因は最近の仕事の種類の変化であり、昔に比べ女性商人や女役人等の移動も増えており、女冒険者が1名でもいないと、依頼が受けられないことが多いのだ。
またそういう仕事に限って、楽で収入が良かったりする。
冒険者を取り巻く環境の変化は、それだけでは無い。
最近の識字率向上が原因で、冒険者もずいぶん書類仕事が増えてしまった。
冒険者、探索者、傭兵に対しては、法律の整備も整えられつつあり、書類捌きや、法的手続きができる能力が新たに必要になっている。
最初期の冒険者は剣と盾を元手に出て、新たな地平を切り開いた。
第2の波は魔法師で、この登場により出来る仕事の種類が大幅に広がった。
そして第3の波は「書類仕事」だと言われている。
フローリカは日本で言うヤンキーみたいな雰囲気だが、こう見えて勉強熱心であり、いくつかのテストをパスし、財産調査、差し押さえ、家宅捜索、辻裁判、捕縛の資格を取っている。
その為、憲兵補助のような仕事も可能で、このパーティーは高収入の仕事に困ることは無い。
今もフローリカは赤茶を飲みながら書類を見て、今月の法律の変更点などをチェックしている。書類仕事だけでなく、彼女は当然頭も良く回り、腕っぷしも強く。なかなかに貴重な人材なのだ。
当然、他のメンバーは彼女のことを姫と奉り大切にし、まるで従者のように付き従い様々な世話を焼いてくれる。
「じゃ、そろそろ行こうか」
休憩を終えた商隊は、再び北に向かって進む。
特に戦闘もなく、15時には領都バレンシアまであと5キロの地点に着いた。
目の前の丘の頂上から、人口3万人のバレンシア領最大の都市が見えるはずだ。
メンバー達は、今日はどこそこの酒場に行こう。と相談している。
ここまで来れば、領都は目と鼻の先で、皆の気も緩む。と、
ドンッ! ドンドンッ!
突然大砲が炸裂したような音が響いた。
「な、なんだぁ!?」
獣魔虎族のドナートが大声を上げる。
フローリカ達は急いで丘の上に向かった。
そこから見えた光景は、全員の思考を停止させた。
大きな川沿いにある領都が燃えていた。
そこかしらから黒煙があがっている。
上空では竜騎が舞って、爆弾を領都に落としている。
海の上には大量の船があり、次々と大砲を撃って港を攻撃していた。
激しい爆裂音が周囲にこだまする。
「ななな……何がどうなってる!?」
髭面商人パコが叫ぶ。
商隊が呆然としていると、すぐ近くを竜騎が通り過ぎた。
その竜座の横のマークを見て、フローリカが大声を上げる。
「あれは、あれはアルコン帝国の軍隊だ!!」
全員が驚愕した。
少なくと今までそんな話は噂話でもなかった。
ルシタニアがゴチャゴチャしているのは聞いていたが、それは外国の話であり、ここが戦場になるなど誰も想像がつかなかったのだ。
誰もが呆然とする中、最初に動いたのはフローリカだ。
「パコの旦那。仕事は一旦中止だ。リリアまで逃げよう!」
「わ、分かった。そうするしかないな……」
「リリアは大丈夫なんですか?」
森エルフのイサークが怯える調子でフローリカに聞く。
「知るかそんなこと! 襲われてないことを祈るんだね」
「そ、そんなぁ……」
「あれを見てみな、小型の船が沢山港に向かってる。あいつら上陸するつもりだ。追いつかれる前にさっさと逃げるよ。急ぎな!」
フローリカの命令に全員慌てて丘を駆け下りる。
竜騎の攻撃を受けないように祈りつつ、一行は全力でリリア方面に逃げた。
****
「ではこれより、法的根拠に基づいた、ソールとの正式な婚約契約を執り行いたいと思います。全員拍手!」
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な、なんだと。
何を言ってるんだか俺には分からないぜ。
「ちょ、ちょっと……」
「それでは本日の婚約契約ですが、お義父様のアベル様とお義母様であるイレーネ様に見届け人になっていただくことになりました」
「イレーネです。みんなよろしく!」
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「ではこの書類、見届け人証明に両者ともサイン願います」
「はい」
「うん」
2人は役所の紙に自分の名前を書く。
パッツィはニコニコしながら、説明を続ける。
「では、皆の自己紹介を改めて行ないます。私はパッツィ・グラナドス・カランカ。グラナドス家の長女です。ソールの正妻となる予定です。皆さんヨロシクー」
パッツィの紹介に再び拍手が起こる。
「それでは次は妾……ソールは魔王なので、ここでは側室と呼称しますが、書類上は妾で……はい、そうです。それで側室には順位をつけなければいけません。これは重婚制度が適応される正妻、妾関係による取り決めでして、あくまで制度上の話であり、実際は平等に扱われると確約しております。順位はまあ、実家の力関係ですか、ぶっちゃけ経済力と血縁が優先されておりますので、そこは皆さんご理解下さい。ではまず筆頭側室はマリベルさんです。どうぞ」
「はい。今紹介されました、マリベル・ローズブローク・カリオンです。ソールお兄ちゃんの筆頭側室となります。これからもお兄ちゃんを、粉骨砕身支えていきたいと思います」
そういうとマリベルはキラキラした碧眼で俺を見た。
「次は側室第2位、マルガリータです」
「……マルガリータ・アイスコレッタ・リベラです。皆さんヨロシクです。……が、頑張ります」
マルガリータは緊張してるのか、
赤い顔で自己紹介している。
「次は側室第3位、ソフィア」
「ソフィア・エリアス・ガルシアです。やっとソールと婚約できるので幸せ一杯です。これからも剣士として、側室としてソールと共に頑張ります」
一通り紹介が終わり、イレーネが口を開く。
「はい。みんないい娘で本当に良かったわ。これからも色々分からないことが出てくると思うけど、そんな時は私に頼ってね。」
「「「「はい。お義母様!」」」」
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全員が見事に一致してイレーネに返事をし、一糸乱れぬタイミングで拍手をする。
お、お前ら怖えーよ。
一瞬の間が開いたので、俺はパッツィに声をかける。
「お、おおいパッツィ! これはどういうことだ? 俺なんも聞いて無いぞ」
「ああソール。いえ、これはちょっとしたサプライズよ。ビックリしたでしょ?」
そう言うとパッツィは、イタズラ成功。みたいな笑顔を浮かべて俺にウインクし、耳をピコピコさせる。
うっ、そ……そんな可愛い仕草に騙されないぞ。
「いや、待て。物事には順序というものがあるぞ。俺が明確に結婚の約束したのは、パッツィとマリベルだけだし、まだ親にも挨拶してないじゃないか」
そうだよ。
娘さんをボクに下さい。
みたいなイベントは絶対避けて通れないと思うんだ。
そこのところ、どうなのよ?
「したじゃない。全部の家回ったわよ。皆これからも娘を末永くお願いします。って言ってたでしょ?」
な、何……?
ひょっとして、ちょっと前にソフィアやマルガリータの家に呼ばれたのって、そういう意味だったの!?
「みんな魔王の親族になれるから、大喜びしてたわよ」
「な、なんだって。俺が魔王だって言うのバラしちゃったのか!?」
「あぁ、心配しないで。ちゃんとマリオ司令にも許可貰ってるから。結婚式には、ぜひ俺も呼んでくれ、とか言ってたわ」
おい、マリオ司令。
軍事機密とかそういうのはどうでもいいのか?
そりゃ俺が魔王だと知れば、魔族の連中が結婚に反対するわけがないよな。
いや、それならマリベルの場合はなんでアベル父さんが納得してるんだ?
「父さん、こんなカプセルで流されてきたような、どこの馬の骨か分からない男に、大事な一人娘を渡しちゃっていいんですか?」
「どこの馬の骨って、家族だし魔王じゃないか。これ以上の身分証明がどこにある。ともかく、マリベルにも覚悟はあるみたいだし、皆に説得されてなぁ。知らない男より、お前に託したほうが良いと思ってな。お前ならずっとマリベルを大切にしてくれるだろ?」
「ぐっ……」
ああそうさ。
血は繋がっていなくとも大切な妹だ。
そりゃあ大事にするさ。
するともさ。
「ソール。難しく考えすぎよ。もっと気楽に行きましょ」
「そうですよねお義母様。ソール。レオン王国人の気質は分かってるでしょ。先のことよりその場のノリが優先されるのよ。ルシタニア人やアルコン人じゃないんだから、もっと柔軟にね」
そうなんだよなぁ……
パッツィの言うとおり、この国はラテン系っていうのか、先のことより今の楽しい時間を優先するんだよ。
仕事はそこそこまじめにするんだけど、マリオ司令も視察の間にサッカーとかしたりするだろ、ああいうノリなんだよ。
俺みたいにマジメに考えるのは、堅苦しいってパッツィによく言われる。
このエスパーニャ大陸では、レオン王国の北部やルシタニア、アルコンなんかが俺に近い気質らしいんだ。
厳密には違うけど、日本で言うと東北と沖縄みたいな気質の違いがあるんだよな。
でもさぁ、正直もうちょい時間が欲しいよな。
結婚するのに異存はないんだけどさぁ、18歳で4人の女と婚約するなんて、早過ぎないか。
あと2年ぐらいじっくり交際してから婚約してもいいんだしさ。
ああ、ここは年金はあるけど、医療保険は無かったか。
かわりに寄合という互助団体作って資金を融通しあうのだったな。
ということは、若いうちに子供作りたきゃ、今婚約しといたほうがいいのか。
「というわけでソール、これが正規の婚約契約書となります。本妻と妾の分で、全部で4枚。さあ、魔王らしくパパッてサインしちゃってね」
パッツィはニンマリ笑う。
俺は仕方なしに用意されたペンを取る。
だが体が動かない。
や、やめろぉ!
それにサインするな!
結婚は人生の墓場とよく言われるが、
こいつは墓場なんて生易しいもんじゃねえぞ。
城とか城砦の類だ!!
と俺の本能が騒いでいるのだ。
「どうしたの、早くサインして」
パッツィが俺の耳元で優しい声で催促する。
俺はソフィア達を見た。
ソフィア、マリベル、マルガリータは、まるで鮮血の貴婦人ビビアナのごとく、その顔面に笑顔を貼り付けていた。
怖いよー。
イレーネお母ちゃん、タスケテー。
当のイレーネは、
「さすがはソール。一気に4人と婚約するなんて、これで老後も安泰ね」
とか言ってる。
ふいに耳元で、殺気を感じるパッツィの冷たい声が聞こえた。
「何? サインするのが嫌なの? 私がせっかく一生懸命根回しして準備したのに、初めてもあげたのに、ヤリ捨てるつもりなの?」
椅子に座っていた俺は飛び上がる。
心臓の鼓動音が1オクターブ上昇した。
「うわっ! サインするよ、しますから! ちょっ、ちょっと呼吸を整えてただけだから……」
俺は震える手で、婚約契約書にサインをしていった。
そしてついに、すべての紙へのサインが終わった。
「はい。すべての記入が終了しました。これで婚約成立です!!」
「「「ありがとうソール!」」」
パチパチパチパチパチパチ!
皆が一斉に拍手し、祝福をくれた。
そう、俺を取り囲む鉄檻が成立した瞬間だった。
パッツィが話を続ける。
「あっ、それと言い忘れてたけど、これは法的な契約だから、契約中に浮気すれば姦通罪が適応される可能性があるわ。気をつけてね。重婚寄合の資金執行は、私の権限だけど、お義母様と相談して柔軟に運用するから安心して。あと、個々の婚約解消は全員の承認が必要よ。」
何か聞き捨てならない言葉があったような気がするが、今の俺にはもうどうでもいい。
フフッ、燃え尽きちまったぜ。何もかも……
「それでは続けてエンゲージリングの交換を行ないます。マリガリータ」
「はい……」
パッツィに呼ばれてマルガリータが出てくる。
マルガリータは黒い木の箱を取り出し、蓋を開ける。
その中には、5つの高級そうな指輪が入っていた。
「わぁー、素敵ねー」
「凄いー。キラキラ宝石の指輪だぁ」
マリベルとソフィアが驚嘆の声を上げる。
マルガリータは指輪の解説を始める。
「こちらは名工に作らせた婚約指輪『星』となります。……愛と星をテーマにした指輪です。輪の部分は、上質の鉄で、状態維持と輝きの魔法付与が行なわれています。輪の模様は、華麗・清純・永遠という花言葉を持つユリをイメージした『リリウム』という紋様が刻まれています」
説明を聞きながら、俺は指輪を手に取り、現実逃避気味に熱心に見入る。
ふうん。指輪にも色々技術があるんだなぁ。
輪の部分が鉄とは思えない輝きになってる。
「……デザインは、リングの真中にダイヤモンドをあしらった、ソリティア方式です。探索者であることを考え、定番の立て爪方式では無く、ベゼル留めにしています。……このベゼル留めは突起がないので、引っかかりにくく、戦闘の邪魔になりません。……以上です」
うん。
普段口数が少ないマリガリータにしては頑張った。
それにしてもダイヤモンドの指輪かー。
随分高いんだろうな。
気になるのは……
「うーん。マルガリータ。普通エンゲージリングって男が買って贈るもんじゃない?」
「……お兄様、それはお気になさらないで下さい。私の家は、お兄様から教えて貰った球体関節人形でかなり儲かりました。……これはアイスコレッタ家からの恩返しです。間接的にお兄様が購入したとも言えます。 ……ですので、お兄様には結婚指輪を贈っていただければ充分と考えます」
「そういうこと、事前に決めたし、私達にも不満はないものね」
パッツィ達も、これで充分満足しているようだ。
ならばいいか。
しかしマリッジリングか。
これのおかげで、随分とハードルが上がってる気がするがな。
俺は手に取ったアイアン・エンゲージリングを見つめた。
「じゃあさっそく、指輪をソールにつけてもらいましょう!」
というわけで、俺は皆の左手の薬指に、指輪を嵌めていった、俺には代表してパッツィが指輪を嵌めてくれる。
皆で和やかな雰囲気に中、お茶を飲みつつ休憩。
ガランゴロン
「はーい」
誰か来たようだ。
マリベルが玄関に向かった。
やって来たのは、ギルドのサブマスター、獣魔猫族の女性ロッシさんだ。
「皆様、お忙しいところ申し訳ありません。ケンタウロ・マキアのメンバーに緊急の呼び出しがかかっています。すぐに来ていただけないでしょうか?」
はて、緊急の呼び出しとか。
何かあったんだろうか?
とりあえず皆で総合ギルドに向かった。
「おっ来たか、さっそくだが奥の部屋に行こう」
出迎えたギルドマスター、ホセさんが、以前行ったことのある奥の部屋に案内してくれる。
そこには、またしても軍人。
マリオ司令と副官が待っていた。
「やあ久しぶりだねソールヴァルド君。いきなり呼びつけて悪かった」
俺達は顔を見合わせ、何事かと緊張して席についた。
「あまり時間が無いのでね。単刀直入に行こう。本日早朝よりアルコン帝国軍がバレンシア領に侵攻を開始した。町のいくつかは、すでに陥落している」
「へ?」
俺はあまりのことに絶句した。
部屋の空気が凍りつく。
****
バレンシア領は大陸から突き出した半島である。
半島と大陸とのつなぎ目部分であるロルカの町に、アルコン帝国海軍、第184作戦部隊のネルピオ・ロルカ攻略艦隊及び攻略支援艦隊が襲いかかった。
短時間の激しい空中戦の後、ネルピオ大海岸に続々とアルコン兵が上陸。
総兵力1000名の部隊の攻撃に、ネルピオとロルカは陥落。
アルコン軍は街道を遮断した。
この遮断により、バレンシア領は大陸から切り離され、陸の孤島となった。
すなわち、バレンシア領民が、誰も逃げることができない鉄檻に閉じ込められたのだ。
第29話「アイアン・ゲージ」
⇒第30話「コークスクリュー」




