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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第3章 ヒューガ誕生編
33/75

第29話「アイアン・ゲージ」

エスパーニャ暦5541年 8月1日 8時

バレンシア領 プリアナの町 北東5キロ地点


 ここは街道から少し外れた森の中。

 息を潜めた男女2人が、静かに森の中を進んでいく。

 彼らは、しばらく進んで伏せ、林の隙間から様子をうかがった。


「姉御、あそこです」


 そのうちの魔族の男、馬の頭部がそのまま人間の体に乗ったような外見を持つ、獣魔馬頭族の斥候ブラウリオが、指先を差し出す。

 ブラウリオを指差す先には、オークが8匹たむろしていた。


「棍棒オーク4匹、ジャベリンオーク2匹、ソードオーク2匹か。ジャベリンがやっかいね。でも良く見つけたわ」


 姉御と言われた女は、オークを見て戦力を値踏みする。

 その女は、真っ赤なストレートヘアが目立たぬよう、黒頭巾を被った一角魔族だった。


 彼女はリリア所属の冒険者「紅姫と疾風従者」パーティーのリーダー、フローリカ・マリスカル・マッソだ。

 斥候のブラウリオとフローリカは頷き合い、密かに後方へ下がった。




 5分後、なにか会話をしていたらしいオーク8匹は、突如襲撃される。 

 林の間から矢が2本、立て続きに飛んできて、ジャベリンオーク2匹に1本づつ突き刺さる。

 斥候ブラウリオが放った矢だ。


「冷熱魔法――――火矢フーゴ・フレッチャ


 今度は3本の間隔の開いた魔法の火の矢が放たれ、うち2本がジャベリンオーク2匹に命中。

 吹き飛ばされた2匹はそのまま絶命する。

 この魔法を放ったのは、戦闘魔法師バトラ・マギアの森エルフ、イサークだ。


「おらぁ、こいやぁ!」


 大声を出して挑発しつつ、大盾を持った獣魔虎族ドナートと獣魔獅子族フェルミンが、前面に突出する。

 パニックを起こした棍棒オーク4匹が、棍棒を振り回しつつ、2人に突撃する。


「冷熱魔法――――氷矢ヒエロ・フレッチャ


 横合いから、イサークの放った3本の氷矢が飛来。

 棍棒オーク1匹の肩に1本命中、もう1本はオークの胸にもろに命中。

 一撃で相手を沈めた。


 大盾の2人と残りの棍棒オーク2匹が、殴り合いを開始。

 ソードオーク2匹が回り込んで、横から攻撃しようと前進したが、その前にフローリカが立ち塞がる。


 ソードオークは剣を振り上げ、フローリカに切りかかる。

 

ガンッ! ガンッ!


 フローリカは、左手の小型の鉄の盾、バックラーで武器に殴りかかり、相手の攻撃をカットする。

 2匹の攻撃をバックラーで捌きつつ、フローリカは後退した。

 バックラーは盾としては面積が少ないので、相手の攻撃を受けるのではなく、むしろ殴打武器のように使う。

 相手の武器に合わせてカウンターで武器を殴打し、カットを繰り返して攻撃のチャンスを待つのだ。


ヒュッ!


 後方から風切り音が聞こえた瞬間。

 1匹のソードオークの頭部に矢が突き刺さる。

 フローリカとの戦いに夢中になっていたオークは、

 斥候ブラウリオの姿に気がつかなかったのだ。


「そらぁ!」


 フローリカは、バックラーで矢の刺さったオークの顔面を殴りつける。

 身体強化のスキルで、その打撃は強烈なものがあった。

 殴られたオークは、そのまま後ろに倒れ戦闘不能となった。


 残る1匹の剣での攻撃は、バックラーのカウンター打撃で大きく弾かれる。

 その隙をついて、フローリカの片手剣が、ソードオークの頭部に振るわれる。


 戦闘の決着がつき、オーク8匹は全滅した。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第3章 ヒューガ誕生編





 森の中から「紅姫と疾風従者」5名が出てくる。

 先頭のリーダー・フローリカが、馬車で待っていた者達に声をかける。


「オークは全部片付けたよ。周りに魔獣はいないようだ。ちょっと休憩させてもらうよ」


「おお、さすがは紅姫。よいですよ。20分ほど休憩しましょう」


 髭面商人パコが同意した。

 パコはリリアに居を構える商人だ。

 今回は領都バレンシアへ、馬車2台を連ねて商品の仕入れに向かう。

 メンバーは商人パコに御者2名であり、「紅姫と疾風従者」7名が今回の護衛依頼を受けたのだ。



 リリアを出発して、街道を北に向かい1日でプリアナの町に到着。

 そこで一泊してから、7時に出発。

 だが5キロ進んだ時に、斥候ブラウリオが街道近くのオーク達に気づいて、さきほどの戦闘になったのだ。



「姉御、椅子をどうぞ。お茶などいかがでしょうか?」


「ありがと。赤茶を貰うわ」


 ポーターの獣魔兎族、ロサーノがうやうやしく折りたたみ椅子を用意する。

 他のメンバーは地べたに座る。



 安全の保証が無い冒険者家業は、女性にとって辛く厳しい。

 といったことは昔のことで、今はどのパーティーに入ろうが、基本的にお姫様扱いしてくれる。


 原因は最近の仕事の種類の変化であり、昔に比べ女性商人や女役人等の移動も増えており、女冒険者が1名でもいないと、依頼が受けられないことが多いのだ。

 またそういう仕事に限って、楽で収入が良かったりする。


 冒険者を取り巻く環境の変化は、それだけでは無い。

 最近の識字率向上が原因で、冒険者もずいぶん書類仕事が増えてしまった。

 冒険者、探索者、傭兵に対しては、法律の整備も整えられつつあり、書類捌きや、法的手続きができる能力が新たに必要になっている。


 最初期の冒険者は剣と盾を元手に出て、新たな地平を切り開いた。

 第2の波は魔法師で、この登場により出来る仕事の種類が大幅に広がった。

 そして第3の波は「書類仕事」だと言われている。



 フローリカは日本で言うヤンキーみたいな雰囲気だが、こう見えて勉強熱心であり、いくつかのテストをパスし、財産調査、差し押さえ、家宅捜索、辻裁判、捕縛の資格を取っている。

 その為、憲兵補助のような仕事も可能で、このパーティーは高収入の仕事に困ることは無い。

 

 今もフローリカは赤茶を飲みながら書類を見て、今月の法律の変更点などをチェックしている。書類仕事だけでなく、彼女は当然頭も良く回り、腕っぷしも強く。なかなかに貴重な人材なのだ。


 当然、他のメンバーは彼女のことを姫と奉り大切にし、まるで従者のように付き従い様々な世話を焼いてくれる。



「じゃ、そろそろ行こうか」


 休憩を終えた商隊は、再び北に向かって進む。

 特に戦闘もなく、15時には領都バレンシアまであと5キロの地点に着いた。

 目の前の丘の頂上から、人口3万人のバレンシア領最大の都市が見えるはずだ。


 メンバー達は、今日はどこそこの酒場に行こう。と相談している。

 ここまで来れば、領都は目と鼻の先で、皆の気も緩む。と、


ドンッ! ドンドンッ!


 突然大砲が炸裂したような音が響いた。


「な、なんだぁ!?」


 獣魔虎族のドナートが大声を上げる。

 フローリカ達は急いで丘の上に向かった。


 そこから見えた光景は、全員の思考を停止させた。

 大きな川沿いにある領都が燃えていた。

 そこかしらから黒煙があがっている。


 上空では竜騎が舞って、爆弾を領都に落としている。

 海の上には大量の船があり、次々と大砲を撃って港を攻撃していた。

 激しい爆裂音が周囲にこだまする。


「ななな……何がどうなってる!?」


 髭面商人パコが叫ぶ。

 商隊が呆然としていると、すぐ近くを竜騎が通り過ぎた。

 その竜座の横のマークを見て、フローリカが大声を上げる。


「あれは、あれはアルコン帝国の軍隊だ!!」


 全員が驚愕した。

 少なくと今までそんな話は噂話でもなかった。

 ルシタニアがゴチャゴチャしているのは聞いていたが、それは外国の話であり、ここが戦場になるなど誰も想像がつかなかったのだ。

 誰もが呆然とする中、最初に動いたのはフローリカだ。


「パコの旦那。仕事は一旦中止だ。リリアまで逃げよう!」


「わ、分かった。そうするしかないな……」


「リリアは大丈夫なんですか?」


 森エルフのイサークが怯える調子でフローリカに聞く。


「知るかそんなこと! 襲われてないことを祈るんだね」


「そ、そんなぁ……」


「あれを見てみな、小型の船が沢山港に向かってる。あいつら上陸するつもりだ。追いつかれる前にさっさと逃げるよ。急ぎな!」


 フローリカの命令に全員慌てて丘を駆け下りる。

 竜騎の攻撃を受けないように祈りつつ、一行は全力でリリア方面に逃げた。





****


「ではこれより、法的根拠に基づいた、ソールとの正式な婚約契約を執り行いたいと思います。全員拍手!」


 パチパチパチパチパチパチ!


 な、なんだと。

 何を言ってるんだか俺には分からないぜ。


「ちょ、ちょっと……」


「それでは本日の婚約契約ですが、お義父様のアベル様とお義母様であるイレーネ様に見届け人になっていただくことになりました」


「イレーネです。みんなよろしく!」


 パチパチパチパチパチパチ!


「ではこの書類、見届け人証明に両者ともサイン願います」


「はい」


「うん」


 2人は役所の紙に自分の名前を書く。

 パッツィはニコニコしながら、説明を続ける。


「では、皆の自己紹介を改めて行ないます。私はパッツィ・グラナドス・カランカ。グラナドス家の長女です。ソールの正妻となる予定です。皆さんヨロシクー」


 パッツィの紹介に再び拍手が起こる。


「それでは次は妾……ソールは魔王なので、ここでは側室と呼称しますが、書類上は妾で……はい、そうです。それで側室には順位をつけなければいけません。これは重婚制度が適応される正妻、妾関係による取り決めでして、あくまで制度上の話であり、実際は平等に扱われると確約しております。順位はまあ、実家の力関係ですか、ぶっちゃけ経済力と血縁が優先されておりますので、そこは皆さんご理解下さい。ではまず筆頭側室はマリベルさんです。どうぞ」


「はい。今紹介されました、マリベル・ローズブローク・カリオンです。ソールお兄ちゃんの筆頭側室となります。これからもお兄ちゃんを、粉骨砕身支えていきたいと思います」


 そういうとマリベルはキラキラした碧眼で俺を見た。


「次は側室第2位、マルガリータです」


「……マルガリータ・アイスコレッタ・リベラです。皆さんヨロシクです。……が、頑張ります」


 マルガリータは緊張してるのか、

 赤い顔で自己紹介している。


「次は側室第3位、ソフィア」


「ソフィア・エリアス・ガルシアです。やっとソールと婚約できるので幸せ一杯です。これからも剣士として、側室としてソールと共に頑張ります」


 一通り紹介が終わり、イレーネが口を開く。


「はい。みんないい娘で本当に良かったわ。これからも色々分からないことが出てくると思うけど、そんな時は私に頼ってね。」


「「「「はい。お義母様!」」」」


 パチパチパチパチパチパチ!



 全員が見事に一致してイレーネに返事をし、一糸乱れぬタイミングで拍手をする。

 お、お前ら怖えーよ。

 一瞬の間が開いたので、俺はパッツィに声をかける。


「お、おおいパッツィ! これはどういうことだ? 俺なんも聞いて無いぞ」


「ああソール。いえ、これはちょっとしたサプライズよ。ビックリしたでしょ?」


 そう言うとパッツィは、イタズラ成功。みたいな笑顔を浮かべて俺にウインクし、耳をピコピコさせる。

 うっ、そ……そんな可愛い仕草に騙されないぞ。


「いや、待て。物事には順序というものがあるぞ。俺が明確に結婚の約束したのは、パッツィとマリベルだけだし、まだ親にも挨拶してないじゃないか」


 そうだよ。

 娘さんをボクに下さい。

 みたいなイベントは絶対避けて通れないと思うんだ。

 そこのところ、どうなのよ?


「したじゃない。全部の家回ったわよ。皆これからも娘を末永くお願いします。って言ってたでしょ?」


 な、何……?

 ひょっとして、ちょっと前にソフィアやマルガリータの家に呼ばれたのって、そういう意味だったの!?


「みんな魔王の親族になれるから、大喜びしてたわよ」


「な、なんだって。俺が魔王だって言うのバラしちゃったのか!?」


「あぁ、心配しないで。ちゃんとマリオ司令にも許可貰ってるから。結婚式には、ぜひ俺も呼んでくれ、とか言ってたわ」


 おい、マリオ司令。

 軍事機密とかそういうのはどうでもいいのか?

 そりゃ俺が魔王だと知れば、魔族の連中が結婚に反対するわけがないよな。

 いや、それならマリベルの場合はなんでアベル父さんが納得してるんだ?


「父さん、こんなカプセルで流されてきたような、どこの馬の骨か分からない男に、大事な一人娘を渡しちゃっていいんですか?」


「どこの馬の骨って、家族だし魔王じゃないか。これ以上の身分証明がどこにある。ともかく、マリベルにも覚悟はあるみたいだし、皆に説得されてなぁ。知らない男より、お前に託したほうが良いと思ってな。お前ならずっとマリベルを大切にしてくれるだろ?」


「ぐっ……」


 ああそうさ。

 血は繋がっていなくとも大切な妹だ。

 そりゃあ大事にするさ。

 するともさ。


「ソール。難しく考えすぎよ。もっと気楽に行きましょ」


「そうですよねお義母様。ソール。レオン王国人の気質は分かってるでしょ。先のことよりその場のノリが優先されるのよ。ルシタニア人やアルコン人じゃないんだから、もっと柔軟にね」


 そうなんだよなぁ……

 パッツィの言うとおり、この国はラテン系っていうのか、先のことより今の楽しい時間を優先するんだよ。

 仕事はそこそこまじめにするんだけど、マリオ司令も視察の間にサッカーとかしたりするだろ、ああいうノリなんだよ。


 俺みたいにマジメに考えるのは、堅苦しいってパッツィによく言われる。

 このエスパーニャ大陸では、レオン王国の北部やルシタニア、アルコンなんかが俺に近い気質らしいんだ。

 厳密には違うけど、日本で言うと東北と沖縄みたいな気質の違いがあるんだよな。


 でもさぁ、正直もうちょい時間が欲しいよな。

 結婚するのに異存はないんだけどさぁ、18歳で4人の女と婚約するなんて、早過ぎないか。

 あと2年ぐらいじっくり交際してから婚約してもいいんだしさ。


 ああ、ここは年金はあるけど、医療保険は無かったか。

 かわりに寄合という互助団体作って資金を融通しあうのだったな。

 ということは、若いうちに子供作りたきゃ、今婚約しといたほうがいいのか。


「というわけでソール、これが正規の婚約契約書となります。本妻と妾の分で、全部で4枚。さあ、魔王らしくパパッてサインしちゃってね」


 パッツィはニンマリ笑う。

 俺は仕方なしに用意されたペンを取る。

 だが体が動かない。



 や、やめろぉ!

 それにサインするな!

 結婚は人生の墓場とよく言われるが、

 こいつは墓場なんて生易しいもんじゃねえぞ。

 城とか城砦の類だ!! 



 と俺の本能が騒いでいるのだ。


「どうしたの、早くサインして」


 パッツィが俺の耳元で優しい声で催促する。

 俺はソフィア達を見た。

 ソフィア、マリベル、マルガリータは、まるで鮮血の貴婦人ビビアナのごとく、その顔面に笑顔を貼り付けていた。


 怖いよー。

 イレーネお母ちゃん、タスケテー。

 当のイレーネは、


「さすがはソール。一気に4人と婚約するなんて、これで老後も安泰ね」


 とか言ってる。

 ふいに耳元で、殺気を感じるパッツィの冷たい声が聞こえた。


「何? サインするのが嫌なの? 私がせっかく一生懸命根回しして準備したのに、初めてもあげたのに、ヤリ捨てるつもりなの?」


 椅子に座っていた俺は飛び上がる。

 心臓の鼓動音が1オクターブ上昇した。


「うわっ! サインするよ、しますから! ちょっ、ちょっと呼吸を整えてただけだから……」


 俺は震える手で、婚約契約書にサインをしていった。

 そしてついに、すべての紙へのサインが終わった。



「はい。すべての記入が終了しました。これで婚約成立です!!」


「「「ありがとうソール!」」」


 パチパチパチパチパチパチ!


 皆が一斉に拍手し、祝福をくれた。

 そう、俺を取り囲む鉄檻アイアン・ゲージが成立した瞬間だった。

 パッツィが話を続ける。


「あっ、それと言い忘れてたけど、これは法的な契約だから、契約中に浮気すれば姦通罪が適応される可能性があるわ。気をつけてね。重婚寄合の資金執行は、私の権限だけど、お義母様と相談して柔軟に運用するから安心して。あと、個々の婚約解消は全員の承認が必要よ。」



 何か聞き捨てならない言葉があったような気がするが、今の俺にはもうどうでもいい。

 フフッ、燃え尽きちまったぜ。何もかも……



「それでは続けてエンゲージリングの交換を行ないます。マリガリータ」


「はい……」


 パッツィに呼ばれてマルガリータが出てくる。

 マルガリータは黒い木の箱を取り出し、蓋を開ける。

 その中には、5つの高級そうな指輪が入っていた。


「わぁー、素敵ねー」


「凄いー。キラキラ宝石の指輪だぁ」


 マリベルとソフィアが驚嘆の声を上げる。

 マルガリータは指輪の解説を始める。


「こちらは名工マエストロに作らせた婚約指輪『エステラ』となります。……アモーレエステラをテーマにした指輪です。輪の部分は、上質の鉄で、状態維持と輝きの魔法付与が行なわれています。輪の模様は、華麗・清純・永遠という花言葉を持つユリをイメージした『リリウム』という紋様が刻まれています」


 説明を聞きながら、俺は指輪を手に取り、現実逃避気味に熱心に見入る。

 ふうん。指輪にも色々技術があるんだなぁ。

 輪の部分が鉄とは思えない輝きになってる。


「……デザインは、リングの真中にダイヤモンドをあしらった、ソリティア方式です。探索者であることを考え、定番の立て爪方式では無く、ベゼル留めにしています。……このベゼル留めは突起がないので、引っかかりにくく、戦闘の邪魔になりません。……以上です」


 うん。

 普段口数が少ないマリガリータにしては頑張った。

 それにしてもダイヤモンドの指輪かー。

 随分高いんだろうな。

 気になるのは……


「うーん。マルガリータ。普通エンゲージリングって男が買って贈るもんじゃない?」


「……お兄様、それはお気になさらないで下さい。私の家は、お兄様から教えて貰った球体関節人形でかなり儲かりました。……これはアイスコレッタ家からの恩返しです。間接的にお兄様が購入したとも言えます。 ……ですので、お兄様には結婚指輪マリッジリングを贈っていただければ充分と考えます」


「そういうこと、事前に決めたし、私達にも不満はないものね」


 パッツィ達も、これで充分満足しているようだ。

 ならばいいか。

 しかしマリッジリングか。

 これのおかげで、随分とハードルが上がってる気がするがな。

 俺は手に取ったアイアン・エンゲージリングを見つめた。



「じゃあさっそく、指輪をソールにつけてもらいましょう!」


 というわけで、俺は皆の左手の薬指に、指輪を嵌めていった、俺には代表してパッツィが指輪を嵌めてくれる。

 皆で和やかな雰囲気に中、お茶を飲みつつ休憩。


ガランゴロン


「はーい」


 誰か来たようだ。

 マリベルが玄関に向かった。

 やって来たのは、ギルドのサブマスター、獣魔猫族の女性ロッシさんだ。


「皆様、お忙しいところ申し訳ありません。ケンタウロ・マキアのメンバーに緊急の呼び出しがかかっています。すぐに来ていただけないでしょうか?」


 はて、緊急の呼び出しとか。

 何かあったんだろうか?

 とりあえず皆で総合ギルドに向かった。


「おっ来たか、さっそくだが奥の部屋に行こう」


 出迎えたギルドマスター、ホセさんが、以前行ったことのある奥の部屋に案内してくれる。

 そこには、またしても軍人。

 マリオ司令と副官が待っていた。



「やあ久しぶりだねソールヴァルド君。いきなり呼びつけて悪かった」


 俺達は顔を見合わせ、何事かと緊張して席についた。


「あまり時間が無いのでね。単刀直入に行こう。本日早朝よりアルコン帝国軍がバレンシア領に侵攻を開始した。町のいくつかは、すでに陥落している」


「へ?」


 俺はあまりのことに絶句した。

 部屋の空気が凍りつく。




****

 バレンシア領は大陸から突き出した半島である。

 半島と大陸とのつなぎ目部分であるロルカの町に、アルコン帝国海軍、第184作戦部隊のネルピオ・ロルカ攻略艦隊及び攻略支援艦隊が襲いかかった。


 短時間の激しい空中戦の後、ネルピオ大海岸に続々とアルコン兵が上陸。

 総兵力1000名の部隊の攻撃に、ネルピオとロルカは陥落。

 アルコン軍は街道を遮断した。


 この遮断により、バレンシア領は大陸から切り離され、陸の孤島となった。

 すなわち、バレンシア領民が、誰も逃げることができない鉄檻アイアン・ゲージに閉じ込められたのだ。




    第29話「アイアン・ゲージ」

   ⇒第30話「コークスクリュー」


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