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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第2章 迷宮探索編
24/75

第22話「第10層」

 マリベルを庇って、マルガリータがファイヤーアントの火玉を受けてしまった。

 マリベルは急いで駆け寄り、火玉が命中した腹に手を当て、魔法を必死にかける。


回復レキューパ回復レキューパ回復レキューパ


 鑑定で見ると、マルガリータのヴァイタルが半減していたが、回復魔法により7割まで復活した。


「マルガリータ、大丈夫か?」


「……はい」


 よし、意識はしっかりしているようだ。

 マルガリータの戦闘魔法師服バトラ・ドレスは、腹の部分が黒焦げになっていた。

 目標の8層もクリアしているし、今はマルガリータの治療を最優先するべきだ。

 俺は撤退を決断する。


「皆、すぐに撤退してマルガリータを治療院に連れて行く。ソフィア、パッツィはドロップ品の回収。マリベルは周辺警戒。マルガリータは俺が運ぶ」


 ドロップ品を回収し終えた俺たちは、地上に戻った。

 夕方にはリリアの町に到着。

 マルガリータを治療院に運んだ。


 幸いなことに、マリベルが回復魔法をかけたおかげで、傷や火傷は無かったが、大事をとって数時間の安静と薬の処置となった。


「帰りが遅くなるから、今からマルガリータの家に状況を説明しに行こうと思うんだが……」


「うん。皆行ってきていいよ。ここは私に任せて」


 マルガリータをマリベルに任せ、俺たちはマルガリータの家に状況を連絡。

 すぐに治療院に戻った。


 マルガリータは回復したらしく、ベッドに座ってマリベルとなにやら話していた。

 俺に気がついたマルガリータが謝ってきた。


「……ソールお兄様。迷惑かけました。……すみません」


「いや、いいって。とにかく無事で良かった。それに妹を助けてくれたんだ。こっちこそ感謝してるよ」


 俺がそう言うと、マルガリータは少し微笑みを浮かべる。

 マリベルも優しい目でマルガリータを見てる。

 以前に比べると、二人の緊張感も柔らかくなったように思えた。



 それで今回のマルガリータの件で考えたのだが、攻撃でダメージを受けたり、肉体労働などで仕事を失敗したりする時は、自覚は無いが大抵、肉体的、精神的に疲れが溜まっている時が多い。

 マルガリータも探索者になって日が浅いし、マリベルも気疲れや訓練疲れもあるだろう。

 ヴァイタルの数値だけで、全ての疲労を把握できるとは思えない。


 というわけで、今後の雑貨迷宮へ入るスケジュールだが、休日を多めに取ってから第10層攻略を目指す方が、より安全で効率的だろうと思う。


「それで今後のスケジュールだけど、明日から2日休みのつもりだったけど、4日間休みにしよう。皆十分休養を取ってから第10層に挑む方が良いと思う」


 全員特に反対は無かったので、

 明日から4日間休養を取ることとした。


 それから全員でマルガリータを家に送った。

 マルガリータの母に謝っておいたが、探索者になったのだから危険はつきもの、人形魔法師として着々と実力はつけているので、むしろこちらこそ感謝している。

 と言われた。


 だがマルガリータの家は資産家だからな。

 もともと探索者になる必要性はない。

 最悪マルガリータが辞める可能性も考慮に入れたほうが良いだろう。



 翌日、マリベルと共にマルガリータの様子を見に行った。

 マルガリータは「薔薇の吸血姫オルエッタ」の衣装をチクチク縫っていた。

 既にオルエッタの胴体は完成しており、俺が作っておいた魔法陣も組み込まれていた。

 明日から稼動実験を行なうつもりだとか。

 4日後には実戦に投入したいらしい。


 探索者を辞めるつもりはなさそうだ。

 むしろ、やる気まんまんだな。

 あまり根を詰めないように言って、マルガリータの人形工房を後にした。




 久しぶりのまとまった休日。

 マルガリータじゃないが、俺も新型武器の開発にいそしんだ。

 手甲剣セスタ・エスパーダの改造だ。


 鍛冶魔法を活用して、薄い金属板を追加。

 手甲剣の上部に空きスペースを設けた。

 当然そのスペースに入るのは……


「おいブレイン、試しにこの中に入ってみてくれ」


「ハッ、魔王様」


 1号、2号が合体したブレインは器用に変形して、新たに作った手甲剣の空きスペースに収まる。

 俺は試しに手甲剣を装着してブンブン振ってみた。

 少し重くなったが、身体強化があるので、それほど重量が増加したようには感じない。

 使えるな。


 これで寄生魔獣に命令すれば冷熱魔法が撃てる、簡易生体マジックウェポンが完成した。


「いいかブレイン。次に迷宮に行く時はお前も連れて行くが、よっぽどのことが無い限り喋るなよ」


「了解しました。目立たぬようにします」


 まあブレインは、これまでも俺のいいつけをキチンと守っている。

 大丈夫だと思うのだが一抹の不安はある。

 こいつにも感情はあるようだが、

 人間とは違う感情や思考パターンを持っているのだ。

 妙なことをしなければよいが……





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第2章 迷宮探索編





 4日後、十分休養を得た俺たちは総合ギルド前に集合する。

 マルガリータは開発中の人形「薔薇の吸血姫オルエッタ」の最終調整に手間取っているためお休みとなった。


 というわけで、今回は4人で雑貨迷宮に向かう。

 今日と明日の目標は第6層までの攻略。

 これで魔獣の数を減らして、3日目に一気に第10層に達して、雑貨迷宮攻略を完了する予定だ。


 やはり5人パーティーだと、手間の割りに雑貨迷宮では儲けが薄すぎる。

 さっさと攻略を終わらせて武具迷宮に向かうべきだろう。



 攻略1日目。特に問題も起きず、6層までの魔獣をくまなく倒す。

 製造していた爆裂矢6本をパッツィに渡す。


 攻略2日目。マリガリータと合流。

 1層で「薔薇の吸血姫オルエッタ」実戦デビュー。

 結果は良好。

 この日も徹底的に魔獣を狩り、6層までの敵を全滅。


 攻略3日目。一気に攻略するべく気合を入れて迷宮に潜る。

 やはり回復が間に合わないのか6層までの魔獣はまばらだ。

 昼11時には8層に到着した。 



 最近はソフィアとパッツィの成長が著しい。

 弓術や剣術は、レベルアップすれば確実に実力が上がるが、レベル3でも素人から見ればあまり動きに違いが無いように見える。


 がここに身体強化レベル3が加わると、その動きはまったく違って見える。

 ソフィアが剣を振る時の動作も、パッツィが矢をつがえる動作も、モーションブラーのように腕がブレて見えることがある。

 人外じみた動きだな。


 マリベルとマルガリータも魔法レベルが1つ上がっている。

 特にマルガリータは人形魔法レベル4の人形魂ドール・ソウルが、使用できるようになっている。

 

 この魔法は名前の通り、

 人形に仮初の魂を入れてゴーレム化する魔法だ。

 効果は24時間で、単純な命令を理解する。

 今も「鮮血の貴婦人ビビアナ」が、マルガリータの後をテクテク歩いて周辺の警戒をしている。


 防御はビビアナに任せて、

 マルガリータ自身は、人形操作で「薔薇の吸血姫オルエッタ」をコントロールする。




 さて因縁の第8層のボス、

 ファイヤーアントに再挑戦。

 今回はファイヤーアントの前へ立たないように、二手に分かれて全員でボスの両サイドに突撃した。


 ボヒュン

 と空気を裂く音が聞こえ、

 赤い髪をたなびかせた人形「薔薇の吸血姫オルエッタ」が飛翔しながら俺たちを追い越す。


 オルエッタは3つ星魔力結晶を2個搭載している。

 これにより耐久力の上昇と、風雷魔法の風による飛翔が使用できるようになった。

 反面、オルエッタの稼働時間は短いが、ここぞと言う時の高速機動戦に使えるのでボス戦で重宝するだろう。


「人形魔法―――――打撃力付与アタック・コンセゾン


 空中を飛翔するオルエッタの持つ短剣が鈍く光る。

 オルエッタは急降下して体を高速回転させながら、ファイヤーアントの尻尾に猛スピードでぶつかり、みごとに尻尾を切り飛ばす。

 パッツィとソフィアは剣で足に斬りかかる。


「光闇魔法―――――攻撃力付与ストライキング


 マリベルが俺の武器に魔法をかける。

 俺はそのまま手甲剣セスタ・エスパーダをファイヤーアントの首に突き刺し、引き抜いて上段から首を切り落とした。

 ファイヤーアントは倒れ、ドロップアイテムを残し消滅する。


 戦闘は2分で終了。

 弱点が分かっていればこんなもんだ。

 とはいえ、雑貨迷宮でオルエッタを使うのはもったいない。

 赤字もいいところだ。

 研究用の投資と考えたほうが良いだろうな。

 まあマルガリータは金持ちなので何も言うまい。

 俺たちは小休止ののち第9層に進んだ。


 


 9層の魔獣はビックスラッグとジャイアントトードだ。

 回廊をしばらく進むと襲ってきた。

 ジャイアントトードはデカイ蛙で、

 カメレオンのように舌を飛ばして攻撃してくる。


 初見で俺とソフィアはモロにその攻撃を食らった。

 地味に痛い。大人の男の全力パンチぐらいの威力がある。


 が、ジャイアントトードは舌を出す時に、目をつむって口を開く予備動作があるので、それが分かると攻撃を食らうこともなくなった。


 ビックスラッグはただの大きいナメクジだ。

 動きは鈍いし、攻撃はかみつきだけで、たいして強くは無いが、最低3~4回突かないと倒せない。

 ただの大きいナメクジのくせに結構硬い。


 9層のドロップ品は、木の人形、ぬいぐるみ、ゴムボール、ラケット、モンスターカード、チェスセット、水鉄砲、凧、糸巻きなど。

 遊具類だけだな。

 ほとんどが二束三文だが、チェスセットはなかなか高級な品で、売値が高い。


 モンスターカードは、迷宮に出てくる魔獣のステータスや生態が細かに記載される。

 レアカードや未知のカードは高く売れるようだ。

 ゴムボールはサッカーサイズなら高く売れる。


 俺たちはたいして苦戦もせずに、回廊と部屋の敵を潰してボス部屋にたどり着く。

 9層のボスはブリザードリザート。

 アイスブレスを噴く大型トカゲだ。

 俺たちは魔法で先制。


「風雷魔法――――雷撃トール!」


「――――精霊赤魔法!」


「人形魔法――――闇短矢ダークボルト


「光闇魔法――――光矢ラズ・フレッチャ!」



 ブリザードリザートは集中的に顔面に魔法を食らい視力を失った。


「エスパルダ! 横から顔面に体当たり攻撃!」


「わぉん!」


 重装甲犬エスパルダが突進し、頭部に体当たり。

 ブリザードリザートの頭を揺さぶる。

 頭部に攻撃を集中したのは、アイスブレスを吐かせないためだ。


 その隙に全員で取り囲んでトカゲをボコボコに殴る。

 ブリザードリザートは抵抗むなしく沈んだ。

 今回は、魔法の攻撃力も上がっていたし、トカゲはファイヤーアントのような厚い装甲をまとっていなかったので楽に勝てたな。

 まだファイヤーアントのほうが強いわ。



 第9層を突破し、階段の部屋で昼休憩。

 まだ誰も疲れは見せていない。

 次の1層で攻略完了なので皆テンションが高めだ。

 うん。この勢いなら10層突破は間違いないだろう。

 昼食が終わってから俺は皆に声をかける。


「よし、皆聞いてくれ。ようやく雑貨迷宮第10層にたどり着いた。ここまで来れたのは皆のおかげだ。知っての通り、俺はどこから来たかも分からない捨て子だったが、皆のおかげで闘牛士にも成れたし、迷宮もあと1歩で攻略できる。こんな俺に皆良くしてくれて、ありがとう」


「いいのよ。水臭いこと言わないで、みんなソールが好きでついて来てるんだから」


 パッツィが俺にウインクする。

 俺は順番に皆に声をかけた。


「パッツィ、色々世話になって感謝してる。君がいなかったら闘牛士になれなかったよ」


「うん。私もソールに感謝してる。おかげで大分強くなったしね。これからも一緒よ」


「ソフィア。君が最初のパーティーメンバーで良かった。これからも頼りにしてるよ」


「もっと褒めてー。私もソールが大好きよ。今度デートしよー」


「マルガリータ。君との人形作りは面白い。俺も魔法陣の勉強になったよ」


「……感謝しますお兄様。新たな人形作りの世界を見せてくれて……今後もよろしくお願いします」


「最後にマリベル。まあまだ色々あるけど……。お前が妹で本当に良かった」


「フフ…… たしかに色々あるわね、でもお兄ちゃん。これからはカッコイイお兄ちゃんになってね」


「バカ言え、俺はもともとカッコイイ!」


 この発言で皆爆笑、それから皆でしばし談笑。

 時計を見ると午後13時を回っていた。

 出発準備はすでに済んでいる。


「皆そろそろ時間だ。雑貨迷宮を攻略して、夕方前にはリリアに帰るぞ。それでは出発!」


「おうっ!」


「うん!」


「「はいっ!」」



 俺たちはやる気まんまんで10層に降りる。

 盛大にフラグをばら撒きながら……


 え……


 何も起きないよね?




    第22話 「第10層」

   ⇒第23話 「VSキングゴブリン」


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