第21話「マリベルの参加」
風雷魔法を勉強し始め、約2週間で魔法を習得した。
ルーン魔法の思考加速も使いつつ、習得を早めたのだが、
それでもヒラメキが来るまで、かなり時間がかかった。
自分で召喚しといてなんだが、冷熱魔法を3日で覚えたブレインは規格外の存在といえよう。
俺よりチートなんじゃないか。
マルガリータの壊れた人形の修理と改造も上手くいってる。
「鮮血の貴婦人ビビアナ」の球体関節を金属に変更。
内部のゴムは強力で太いものに変えた。
それから胴体に3つ星魔力結晶を入れ、魔法陣を組み込み、
人形魔法である防御力付与を出力10分の1で使えるようにした。
これで人形の腹のスイッチを入れる事で、人形の耐久力を常に上げていくことができる。
その分魔力結晶の金がかかってしまうが、マルガリータの家はお金持ちなので問題ないらしい。
だったら探索者になる必要が無いのではないかと思ったが、球体関節などの新技術が次々開発されるので、マルガリータの親も、パーティーへの参加を応援してるそうだ。
すでに愛玩用の人形にも球体関節を組み込み、販売してアイスコレッタ家は大いに儲けている。
礼として、後でアイスコレッタ家から、何か色々くれるらしい。
なんとなく妙な予感はするのだがな。
まあともかく、
第三世代「鮮血の貴婦人 ビビアナ改」は無事に完成した。
外見は変化なしだが、魔力結晶を入れる都合上、全長は30センチから40センチに大きくなった。
そしてマルガリータと俺で、すでに次の人形の案も固めつつあった。
次の人形は大幅に軽量化して、空中機動で魔獣を攻撃する計画だ。
名前は「薔薇の吸血姫 オルエッタ」になる予定。
まあ完成にはしばらく時間がかかるだろう。
そして本日、雑貨迷宮へ行く日のだが、
俺のパーティーに新しいメンバーが加わった。
「みなさん、どうぞよろしくお願いします」
俺の義理の妹、マリベル・ローズブローク・カリオンの参加だ。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第2章 迷宮探索編
早朝、総合ギルド前にてメンバー全員が集合した。
マリベルは白い僧侶服の上に皮の鎧、
頭に仏教の僧侶のような白い大きな笠。
中心に握り手のある長い鉄棒を持っていた。
典型的な神聖魔法師の格好だ。
かぶっている大きな笠の下には、金髪、青い目のいつものマリベルの顔が見える。
あいかわらず可愛いが、凛としていて、俺としては「マリベルも大人になったなぁ」と、感慨深いものを感じる。
「これからよろしくね、マリベル」
「皆でがんばろー」
「……よろしく」
パッツィ、ソフィア、マルガリータが返事を返す。
マルガリータは無表情だ。
間にパッツィが入って仲裁しているようだが、
やっぱまだ、わだかまりがあるんだろうか。
とりあえずマリベルの現在の能力の確認。
マリベルは「カナリア棒術」「光闇魔法」「水船魔法」を習得しているそうだ。
鑑定で確認。
名前 マリベル・ローズブローク・カリオン
種族 人間族
職業 神聖魔法師
レベル9
ヴァイタル 72/72
スキルポイント 22P
種族スキル 耐寒
スキル(5/9)
【カナリア棒術レベル2】
【光闇魔法レベル3】【水船魔法レベル2】
【家事レベル1】【裁縫レベル1】
うん?
マリベルは年齢のわりにレベルが高いな。
マルガリータより高いぞ。
それにスキルポイントも結構ある。
ああっ! そうか。
最初から俺のスキル「魔王軍団」の影響を受けてるのか。
俺とマリベルは家族だから、自動的にマリベルも魔王の傘下にされたんだ。
でもイレーネの時は仮パーティ組んでからだよなぁ。
兄弟として育ったせいかも知れない。
まっ、細かいことはいいか。
光闇魔法に関しては、
神聖魔法師なら必ず使える。
教会や治療院で、アシュタルテ教の信徒に対して希望すれば教育してもらえるからだ。
お金もそこそこ掛かるが、イレーネやアベルが出してくれた。
この世界の宗教だが、レオン王国の国教は地母神アシュタルテだ。
暴風の神バアルの妹でもある。
この付近だとレオン王国とルシタニア王国が信仰してる。
北方のアルコン帝国は豊饒の女神キュベレーを信仰し、南方の島国、アスティリアス王国は、蛇女メリュジーヌを信仰しているそうだ。
さらに南に下ると、バアル教が国教の国が多くある。
ところで……
「それにしても、なんで水船魔法も覚えてるんだ?」
「治療院の先生に教えて貰ったのよ。探索者や冒険者を職業にするなら何かと便利だってね。治療でも使うし」
なるほど、水船魔法は水と船関連の魔法になる。
覚えていれば、魔法で水が生み出せるし、野営や治療にも便利な魔法なのだ。
弓の準備が終わったらしいパッツィが声をかける。
「ソール、そろそろ出発しよ。実力の確認は雑貨迷宮に行ってから」
というわけで、
メンバーが5人になった俺たちのパーティーは、
一路雑貨迷宮に向けて歩き出す。
歩きながらマリベルに、本当は「魔王軍団」のスキルだが、神様の加護ということにしているスキルについて説明する。
話を聞いてマリベルは驚愕した。
「ええ! 私レベル上がるの早かったし、スキルポイントも8Pだから不思議に思ってたけど、お兄ちゃんが原因だったんだ」
「ああ、まさかマリベルが探索者になるとは思わなかったから、あえて話さなかった」
「はあっ…… お兄ちゃんて昔から凄かったけど神様の加護か。でもまだ隠してることあるでしょ?」
「えっ、いやぁさすがに、無いよ」
「へー、まあいいけど……」
グッ、さすがに付き合いが長いせいか、マリベルは色々鋭いな。
そのうち俺が魔王だとバレる気がする。
****
雑貨迷宮に着いた。
今回はマリベルの腕を見るのが目的なので、1~3層まで探索することにする。
前衛はパッツィの指示で、マリベルとマルガリータが務める。
中衛は俺とパッツィ、後衛にソフィアの編成だ。
さっそく回廊でゴブリン6匹が攻めてきた。
前衛の二人はレイピアと鉄棒を構える。
マリベルは棒術の訓練で、地上でゴブリンと戦った経験があるので落ち着いていた。
2人とも魔法や人形は使わない。
まあ棍棒ゴブリンは使う程の相手ではないが、
お兄ちゃんとしては、
妹に危ないことはして欲しくないんだよなぁ。
まずはマルガリータが先手、急加速で1匹を倒す。
マリベルにも3匹のゴブリンが襲い掛かる。
マリベルは、鉄棒をクルクルと回転させながら待つ。
射程に入った瞬間、鉄棒を突き出し相手の顔面に突きを入れ、棒をかえして反対側で胸に打撃を入れる。
ゴブリンはあっという間に倒れる。
2匹目が飛び掛るが、
マリベルは後退しつつ、中段から突き、腕を打ち抜きゴブリンは棍棒を落とす。
そこからマリベルは、鉄棒を中心付近に持ち直し、鉄棒の端でゴブリンの胴体に高速で4回打撃を与える。
ゴブリンが倒れると、迫ってくる3匹目に上段から強烈な突きを放ち、顔面に打撃を与え、鉄棒を回転させ足を打ちすえる突きを放つ。
鉄棒がゴブリンの足に命中、
その瞬間マリベルは鉄棒を跳ね上げ、ゴブリンのあごを砕いて3匹目を沈める。
マルガリータもゴブリンを倒して戦闘は終了。
はーっ、流れるような鉄棒の動きだったな。
たいしたもんだ。
これがカナリア棒術か。
間近で見たのは初めてだ。
総合剣術の棒術だと、棒の端を両手に持っての突きがメインになるのだが、
カナリア棒術では、棒の中心付近を両手か片手で握り、棒の両端で敵に打撃を与える方法が主となる。
神聖魔法師専用の棒術だ。
名前の通り、カナリア諸島の原住民が使っている棒術で、総合剣術とは系統が異なる。
カナリア棒術は、複雑な技を使うので、素人が覚えるのは難しいが、自在に操るマリベルを見れば、相当の修練を積んだのが分かる。
俺はマリベルが心配で駆け寄る。
「マリベル大丈夫か、ケガはないか?」
「もうお兄ちゃん。私は子供じゃないのよ。今の戦闘だって楽勝だったでしょ」
「うん。でも心配だったし……」
「まったく…… でも、ありがとうお兄ちゃん」
マリベルは笑顔を浮かべる。
俺は視線を感じてふと振り返ると、
パッツィとソフィアが、
何か微笑ましいものを見るように俺たちを見ていた。
マルガリータは無表情で眺めていたが、俺と目線が合うと、フイッと目線を逸らした。
それから1層の探索を進め、ボス部屋では、ハンマーゴブリンとマリベルが1対1で対決。
危なげなく勝利した。
そのまま3層までクリアして、マリベルのレベルは12まで上昇。
地上に出て昼休憩とした。
たわいのない会話をしながら昼食。
食後、マリベルとマルガリータは、俺たちと離れた所で少し話をしていた。
俺が注視していると、俺の肩に手が乗せられる。
振り向くとパッツィが、笑顔で横に首を振る。
あまり心配するなと言うことか。
そうだな、ああやって少しずつ打ち解けて、
仲を修復してもらいたいもんだ。
そして午後からは、マリベルに余裕があったので4層まで入った。
翌日は5層までクリアした。
5層のボス、ビックマンティス戦では、マリベルが体当たりを受けて打撲した。
俺は心配でハラハラしたが、マリベルは自分で、光闇魔法の回復をかけ事なきを得た。
やはり回復魔法は便利だな。
パーティーの経戦能力も大幅に上がる。
今日で迷宮は連続3日目だ。
1~5層の魔獣は大分減らしたので、今日は目標を8層突破とした。
いよいよ雑貨迷宮も終盤にさしかかる。
午前中は特に問題も無く、順調に5層まで突破。
6層の回廊の敵を倒してから、安全な部屋で昼休憩。
午後から2時間で6~7層を突破。
初めての第8層に足を踏み入れる。
第8層の魔獣はビックアントとポイズンアント。
全高150センチはある大型蟻だ。
幸い装甲厚が薄いため、パッツィの矢も通用する。
パッツィに優先的にポイズンアントを狙わせ、接近戦でビックアントを片付ける。
この戦法で一度も毒を受けることなく、順調に攻略は進む。
この階層の主なドロップ品は、低級ポーション、薬草、毒消し丸薬、鉢植え、植物増強剤、スコップ、腐葉土などなど。
このあたりから、俺のレベルアップの速度が再び早くなった。
8層のボス部屋にたどり着く。
俺たちはボス部屋に突入する。
前衛は俺とソフィア。遊撃はパッツィとマルガリータ。
後衛にマリベルという配置でボス戦に挑む。
俺たちが部屋に踏み込むと、部屋の中心部で大きな黒いもやが発生して、8層のボスが出現した。
ファイヤーアントだ。
ファイヤーアントは横幅が3メートルほどある巨大蟻だ。
情報が正しければ、口から火玉を吐き、装甲が厚く、蟻のクセに長い尻尾で攻撃してくるとか。
通常攻撃だとファイヤーアントはかなり耐久力が高く、苦戦する魔獣だそうだが、まずはこちらが先手を取らせてもらう。
「風雷魔法――――風刃!」
「―――――精霊赤魔法!」
「人形魔法――――闇短矢」
「光闇魔法――――生命力吸収」
俺が放った風刃が、ファイヤーアントの顔面を切り裂くが、厚い装甲に阻まれ、それほどのダメージは無い。
ソフィアとマルガリータが放った火の玉と闇短矢は脚部に命中、足2本を吹き飛ばすのに成功。
マリベルは生命力吸収で、ファイヤーアントの体力を奪う。
見た目には分からないが、スタミナを確実に減少させる。
パッツィは俺が作った爆裂矢を放ち、
ファイヤーアントの胴体に命中、小爆発が発生。
「よし、みんな行くぞ!」
掛け声とともに、俺とソフィアが突撃。
ファイヤーアントはこちらを見て口を開く。
口には赤い炎が見えた。
火玉を吐くつもりか、そうはさせん。
俺は全速で駆け寄り、手甲剣を思い切り斬りあげ、ファイヤーアントのあごを打ち上げる。
ファイヤーアントは火玉を吐いたが、
俺の与えた打撃で頭が上を向いてしまったため、
火玉は天井にぶつかって小爆発を起こす。
その隙に俺とソフィアは、
ファイヤーアントの両サイドに陣取り足を攻撃する。
「人形魔法――――打撃力付与」
俺の背後からついてきた「鮮血の貴婦人ビビアナ」の持っていた短剣が鈍く光り、ファイヤーアントに斬りかかり足を飛ばした。
俺とソフィアも1本ずつ足を切断する。
ファイヤーアントは、蟻に似使わない硬い尻尾を鞭のようにふるい、ソフィアの背中を打った。
「グッ!」
ソフィアは横に数メートル吹き飛び、膝を折って地面に足をつける。
ソフィアの元へ、マリベルとパッツィ、軽装甲犬が走り寄る。
「光闇魔法――――回復」
マリベルはソフィアの背中に手を触れて、魔法でダメージを回復させた。
「パシオン! 尻尾の根元に爪攻撃!」
今回パッツィが連れて来た軽装甲犬パシオンは、命令を受け素早くファイヤーアントに接近、高くジャンプして、尻尾に光る爪を振り下ろす。
ブチッ!
鈍い音が響いてファイヤーアントの尻尾が、根元から千切れる。
パッツィは刀を抜き、
ソフィアの代わりにファイヤーアントの足に斬りかかる。
苦しいのか、残った足でファイヤーアントはしきりに動き回る。
「光闇魔法――――攻撃力付与」
俺の手甲剣にマリベルの魔法がかかり、
鈍く光って、一時的に攻撃力が上昇した。
俺はその剣でファイヤーアントの足を切り飛ばし、止めに首に手甲剣を突きたてようとした。
とその瞬間。
ファイヤーアントの口から火玉が発射された。
その射線上にいるのは……
マリベル、危ない!!
発射された火玉がまっすぐマリベルに向かう、ダメだ、当たる!
と俺が思ったが、突然横から黒い影が飛び出し、マリベルを突き飛ばす。
マリベルは横に飛ばされ、射線から逃れた。
だが黒い影に火玉が命中した。
突然飛び出して来たのはマルガリータだったのだ。
命中した火玉はマルガリータの腹に命中、小爆発を起こして、マルガリータは後方に6メートル吹き飛んだ。
「マルガリータぁ!!」
マリベルの絶叫が聞こえる。
「このっ!」
頭にきた俺は、
手甲剣をファイヤーアントに突き立て、引き抜いて大上段から振り下ろし、ファイヤーアントの首を切り落とした。
止めを刺し、ファイヤーアントはドロップ品を残して消滅する。
マリベルは倒れたマルガリータに走り寄った。
第21話 「マリベルの参加」
⇒第22話 「第10層」




