第20話「寄生魔獣召喚」
魔道信管を開発しているのと同時期に、
スキルポイントを使って魔王レベルを上げることにした。
これまで魔王の才、鑑定、魔王軍団とスキルを得たが、そろそろこっちでも戦闘に役立つスキルが出るかも知れない。
まっ、半分は好奇心なんだが。
というわけで、
さっそくスキルポイント30P使用して、特殊種族スキル【魔王レベル3】を4に上げた。
よし、どんなスキルを取得したのか……
レベル4 寄生魔獣召喚 魔王専用魔獣。寄生魔獣を召喚する。
うーん。魔王専用魔獣、か。
また妙なものが出てきたな。
寄生魔獣とか、魔王らしいといえば魔王らしいか。
しかし相変わらず説明が不足してる。
いっぺん試しに召喚してみようか。
俺専用らしいから、少なくとも俺の命令は聞くだろう。
だが念のため、ドアは鍵を閉めて、短剣を取り出してから召喚するとしよう。
精神を集中して「寄生魔獣召喚」と念じる。
すると床に光り輝く魔法陣が形成された。
しばらくすると中心に黒いもやが出現。
1分ほど光って魔法陣は消えた。
中心には10センチほどの肉塊?
みたいなものがあった。
と、その肉塊から目が3つほど開いた。
おお、なんだこいつ?
その肉塊は目を開けると、短い手足がぴょこんと生えた。
それから俺のほうにトテトテ歩いてくる。
俺は短剣を構えて後ずさる。
するとその小さな肉塊は手を着き。
土下座みたいに俺に頭を下げてくる。
「ギッ、ギッ」
喋っているのか鳴いているのか分からないが、どうやら俺に挨拶をしているようだ。
一応俺の命令を聞く気はあるようだな。
さて、どうするか。
「お前、俺の言うこと分かる?」
「ギッ」
肉塊は頷いている。
言葉は理解できるようだな。
少し姿形を観察する。
小さな肉塊に小さな目が3つぐらいある。
口は2つだが、声が出てるのは1つだけだ。
緑色の肉塊だが、血管が浮き出て何か気持ち悪い。
表面には毛が生えていない。
そいつは俺をじっと見ていた。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと俺はポーションの空き瓶を持ってきた。
それを肉塊の横に置いて命令した。
「ここに入れ」
肉塊は素直に空き瓶に入った。
瓶口に網をかぶせて外に出られないようにした。
肉塊は中で座っている。
ふむ。とりあえず俺の命令は素直に聞くようだ。
できれば言葉が喋れればよかったのだが、しばらくこいつを観察することにしよう。
それにしても折角ポイントを消費して手に入れたスキルが、こんな小さい生物の召喚とは。
魔王スキルって案外しょぼいな。
こんなに小さいので何すりゃいいんだか。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第2章 迷宮探索編
5月12日
魔道信管の研究がひと段落。
瓶をみると肉塊は目を閉じて眠っていた。
フフ、なんか子供の時飼ってたハムスターを思い出すな。
そうだ、こいつに餌をやってみるか。
俺は炒り豆を瓶に4粒ほど与えた。
肉塊は目覚めて、上手そうにポリポリ豆を食った。
なかなかいい食べっぷりだ。
おちょこのような小さな容器に水を入れて与える。
これもガブガブ飲んでる。
ふむ。こうして見ると見た目グロテスクだが、動きは愛嬌がある。
さらに豆と水を与えた。
5月14日
帰ってから机の引き出しの奥から例の生物を出す。
留守の時は厳重に封印してる。
マリベルに見つかったらヤバイからね。
ここから外に出てはいけないと指示してるが、肉塊は分かってるのか大人しくしている。
今まで適当に餌をやってるが、
なんでも食べるようだ。
嫌いなものはないのだろうか?
大人しいけど、他に芸はできないだろうか。
とりあえず戯れに木片を瓶に放り込む。
ゲッ!
肉塊は木片を掴むとムシャムシャと食った。
なんだこいつ。
お腹壊したりしないのか?
5月16日
あれから瓶に色々放り込んだが、
こいつはことごとく全て食べた。
鉄片、木片、銅、肉、野菜、塩、油。
なんの脈絡もない物を与えたが、
体に取り込んでも平気なようだ。
気がついたんだが、こいつ体が一回り大きくなった気がする。
5月20日
最初は10センチ四方の大きさだったが、
こいつはいつのまにかソフトボール程度の大きさになっている。
「……マオーサマ」
「うおっ、喋った。お前喋れるのかよ!」
いきなり肉塊が喋ったのでビックリした。
心臓に悪いわ。
「ワタシ……カラダチイサイ……シャベレナイ。オオキクナル……コトバ、ジョウズ」
「ああ、つまり体が大きくなると上手く喋れるわけか」
「タダシイ……エサ……モットタベル」
というわけで、本日よりこいつの食べ物を倍に増やすことになった。
まず上手く言葉を話せるようになってから事情聴取を行なう方針だ。
5月24日
寄生魔獣と呼ばれる生物は順調に育ち、ポーション瓶一杯に大きくなった。
血管が走る肌に目が6つ。口が4つ形成されている。
言葉も流暢に話せるようになった。
「これまでの無礼の数々お許し下さい魔王サマ。体が小さいとウマク喋れないものでして、改めて魔王様に忠誠をチカイます」
「ああ。気にしなくていい」
それから俺は寄生魔獣に様々な質問をした。
これにより基本的な事柄が判明した。
・魔界から魔王、つまり俺に召喚された
・体を大きくするには様々な材料による餌が必要
・体が大きくなるほど、知能と力が上がる
・体は柔らかく、人間程度の耐久力しかない
・体の体積が大きくなると、分裂・増殖が可能
ここでもっとも肝心なことを聞かなければならない。
あまり気は進まんがね。
「ところで、あの、お前寄生魔獣だよな、ひょっとして脳とか乗っ取れる?」
「はい。魔王様のメイレイとあれば、鼠以上の大きさの脳なら、どんな生物でも乗っ取れます。」
ああ、どうやらやってしまったようだ。
魔王の配下らしいといればらしいが、
とんでもない生き物を俺は召喚したらしい。
某漫画の寄生生物は数が増えないのが欠点だったが、こいつは餌さえあれば無限増殖が可能だ。
その気になれば、この惑星の生物を丸ごと乗っ取る。
といった2流SF映画みたいなことも出来るのか。
と思ったが、彼によればそれは難しいらしい。
脳を乗っ取っても、知性や腕力が上昇することはない。
餌を大量に集めて一気に増殖するのは手間がかかる。
寄生魔獣本体の動きや強さが、人間と同程度。
魔力の流れが通常生物と違うので、識別用の魔道具を開発されると見分けがつく。
のような理由により、
10年かけても精精レオン王国の4分の1程度を支配下に置ければいいとこらしい。
なので効果的な使い方としては、
スポット的に、敵勢力に送り込んでの情報収集がメインとなるそうだ。
とりあえず俺の命令しか聞かないそうなので、
安心して良さそうだが、危険な魔獣を召喚してしまったなぁ。
5月25日
「ところで魔界ってどんなとこ?」
俺は情報収集のため、寄生魔獣と雑談を試みる。
「地下にあります。山、海、川があり、マグマが明かりです。魔素が濃いので地上の生物は住めません」
「ふうん。魔界を統治する王様はいるのかな?」
「はい。魔界皇がおります。しかしそれ以上の魔界皇の情報は禁則事項のため、地上に出ると記憶が消去されます」
魔界の一般的な生物は、
魔素を体とした不定形な精神生命体だそうだ。
そして召喚魔法を使うと、魔界の生物が地上に移動。
地上で活動するための肉体を得て、召喚されるらしい。
「現在地上で生活する魔族も、元は前魔王から召喚されたものです。肉体の構成は魔王様が操作できます」
「つまり、魔族は一種の人工生命体なのか……」
うーん。まだ魔界に関しては情報が不足してる。
まだ細かい部分をこいつに質問しないといけないな。
ところで、
「お前に名前はないのか? 寄生魔獣って言いにくいんだけど」
「私は群体生命体ですので、名はありません」
だが俺が呼びにくいので、名前を付けてあげよう。
そうだな、こいつの外観は、
なんとなく脳みそに似てる気がするので「ブレイン」と名づけよう。
「ならお前の名前は今日からブレインだ。ブレインと名乗れ」
「素晴らしい。私のようなものに名を頂けるとは、魔王様、感謝いたします!」
ブレインは平身低頭して俺に感謝を捧げる。
が、それ以上は何も起きない。
なんだ、魔王が名づけるとパワーアップするんじゃなかったのか。
5月28日
ブレインと名づけた寄生魔獣は、すくすくと育っている。
すでにポーション瓶から溢れそうだ。
しまった、これでは狭い瓶口から出れないじゃないか。
割るしかないのか。
と思いきや、ブレインは体を変形させて、
スルリと出てしまった。
ブレインはスライムのように自在に体の形を変化させることができるのだ。
他に特技はないか聞いてみると、
「テレパシー」と「知識玉」が使えるらしい。
「テレパシー」は周囲500キロにいる同種の仲間と、自由に通信ができる能力だ。
ただし比較的簡単な内容に限る。
複雑で膨大な情報や専門的な知識は「知識玉」を使う。
寄生魔獣の体の一部に情報を凝縮し、玉にして分離し、受け手の寄生魔獣に食べさせて短時間で情報を伝達するのだ。
なるほど、寄生魔獣は戦闘より情報処理が得意なのだな。
6月1日
今日、稼いだ金の計算をしていたら、
ブレインが暗算で即座に計算してくれた。
こいつは数字にも強いのか。
試しに1000桁の計算を20個同時に行う。
ブレインが触手20本にペンを持って、
同時計算で数秒で回答を書いた。
全問正解。
凄い計算能力だな。
バイオ・コンピュータていうのは
ブレインみたいな奴のことを言うのだろう。
いいかげんブレインも大きくなりすぎたので、2つに分離させて、ブレイン1号、2号と呼ぶことにした。
ブレイン1号はいままで通りポーション瓶に、2号は鍵付の木の箱に入れて、餌を沢山やるので箱一杯に大きくなるように命令した。
あとで実験に使うのだ。
「ん。ブレイン、そろそろ妹が戻ってくるから瓶に戻れ」
「はい。マリベル様ですな」
「あれ、お前に妹の名前教えたっけ?」
「いえ、私は召喚された時点までの魔王様の記憶を共有しています」
「んんん、じゃあ俺の前世の記憶も?」
「はい。知っています」
ブレイン自体も魔界から地上に召喚されてきたので、
俺が転生の記憶を持っていても、たいして驚いてはいなかった。
とりあえずブレインには転生のことは口止めしておく。
6月5日
寄生魔獣は魔法も使えるそうなので、
以前買った「冷熱魔法」の本を読ませる。
はたしてどの程度の日数で魔法を覚えられるだろうか。
6月8日
こ……こいつ。
冷熱魔法を3日で覚えやがった。
なんというスピードだ。
ありえない、凄すぎだろ。
俺だったら習得に2~3週間かかるぞ。
寄生魔獣のヴァイタルはレベル制ではなく、体の大きさによってのみ決まるようだ。
体が大きくなるほど魔力総量は増え、高レベルの魔法が使える。
さっそく魔法を使わせてみたいが、
ブレイン1号だけでは魔力が足りず魔法が使えない。
なので太らせたブレイン2号も使う。
というわけで、ブレインを町の外に連れ出し、森の入り口で魔法の試射を行なう。
ブレイン1号と2号を合体させ、
全長40センチになった合体ブレインは立ち上がり、木に向かって魔法を放つ。
冷熱魔法レベル1の火玉だ。
火の玉はきちんと発射され、
木にぶつかって小爆発を起こした。
ブレインは4発撃って魔力切れになった。
6月9日
ブレインの新たな能力を発見した。
ブレインは肌に細かいヒダを作り、
滑り止めの効果を得ることができるのだ。
これでポーションの瓶とピタリと一体化したブレインは、簡単に外すことができず、指で掻き出したり、スプーンを突っ込んだりするが、どうやっても取れなかった。
すごい張り付きだな。
この能力で面白いアイデアを思いついた。
ブレインを武器に組み込むのだ。
手甲剣に余分な隙間を作り、その中にブレインを組み込んで、魔法を使用させれば、火の玉が飛び出る簡易マジックウェポンになる。
マジックウェポンはこの辺に売って無いし、きっと値段も高いだろう。
それを少々手間と金がかかるが、安価でできるのは非常に魅力的だ。
というわけで、
俺はさっそく新たな武器の改造計画を考えた。
第20話 「寄生魔獣召喚」
⇒第21話 「マリベルの参加」




