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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第2章 迷宮探索編
21/75

第19話「人形魔法師」

 マルガリータが家にやって来た。

 探索で使用する人形が完成したので、俺のパーティーに入れて欲しいそうだ。

 んまぁ、俺としては迷宮探索が楽になるので、人数が増えるのは基本的に歓迎だ。

 雑貨迷宮をクリアしたら、

 次は武具迷宮に行くつもりだったしな。

 だが障害もある。


「うん。マルガリータが入るのは基本的に賛成だけど、少し問題がある」


「問題……」


「詳しくは知らないけど、うちの妹とケンカしてるんだろう? 原因は聞かないけど、まずマリベルに話を通さないと、俺の一存では……」


「そ……それは……」


 前からそうだが、マルガリータはあまり顔に表情を出さない娘だ。

 しかし今回は瞳と口調に明らかに動揺の色が見える。

 俺も気を使うし疲れるから、

 こういうことはあまり言いたくないが、放置すると後で絶対問題になるからな。


「まずはマリベルと話し合って、それからまあお試しで入って、君の実際の……。ん。噂をすれば影か……」


 玄関が開いてマリベルが帰ってきた。

 居間まで来てマルガリータを見つけると、マリベルとマルガリータはしばし睨みあう。

 うーむ。やはり関係は修復されてないか。


 俺はマリベルに事情を話す。

 おそらくマリベルは反対すると思ったが、

 返事は意外なものだった。


「分かった。お兄ちゃんもメンバーが増えたほうが良いだろうから、マルガリータが参加するのはいいわ。ただお兄ちゃん。私治療院の仕事は今日で辞めたから、来週から私も参加するわよ」


「そ、そうか……」


 マリベルは冷静に許可を出した。

 マリガリータは驚いた顔をしている。

 そして以前の宣言通り、マリベルも俺のパーティーに参加することになる。


 今のマリベルには有無を言わせぬ意思を感じる。

 俺も消極的にだがマリベルの意思を尊重する。

 俺のパーティーに2人が入るのはいいが、これ、こじれたらやっかいな問題になるぞ。


「それとマルガリータ。後でパッツィさんを挟んで話し合い。場所は牧場で、日時は後で連絡する」


「……パッツィお姉さん?……分かった……」


 へ?

 なんでここでパッツィが出てくるんだ。

 俺そんな話ちっとも聞いて無いぞ。

 どうも俺が知らないところで、何かが動いているようだ。


 パッツィに聞くのもいいが、

 女同士の問題に首を突っ込むのはなぁ。

 しばらくは様子見するか。

 下手につつくと大蛇が出かねない気がする。


 話が終わり、マリベルはきびすを返し部屋に戻る。

 とりあえずマルガリータの訓練時の話を聞きつつ鑑定。



名前 マルガリータ・アイスコレッタ・リベラ

種族 翼魔族

職業 人形魔法師


レベル7


ヴァイタル 54/54


スキルポイント 5P


種族スキル 飛行


スキル(5/9)


【短剣術レベル1】


【人形制作レベル2】【人形操作レベル2】


【人形魔法レベル2】


【裁縫レベル1】



 ふむ。内容は自己申告と一致。

 今年成人の15歳にしてはレベルは高い。

 シッカリと訓練していたようだ。


 肝心の人形を見せてもらう。

 名称は「鮮血の貴婦人 ビビアナ」

 球体関節や形状に改良の後が見られる。

 

 最初に名無しの実験人形で実験を重ね、

 ビビアナは第二世代ヌエボ・タイプ・ドスなのだそうだ。

 可愛らしいドレスの腰に短剣をつけている。


 次は実際の動き。

 スキル「人形操作」で人形を動かしてもらう。

 マリガリータが7歳のときは、目をつむり、両手を合わせて精神集中しなければダメだったが、今は精神を集中させるだけで人形が動かせた。


 鮮血の貴婦人ビビアナは、軽快に走り回り、短剣を振るった。

 なかなかのスピードだ。

 これなら実戦でも問題は無いだろう。


 後はマリガリータの剣の腕だな。

 最悪ゴブリンは倒せる腕がないと厳しい。

 とりあえず迷宮に行って実力の確認だ。

 明日ソフィアとパッツィに連絡するので、マリガリータの参加は3日後ということになった。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第2章 迷宮探索編





「おはよー。あなたがマルガリータね。」


「おはようございます。……ソフィアお姉さま……パッツィお姉さま」


 初対面のソフィアにマルガリータが挨拶した。

 パッツィは以前、闘牛士デビューの時に会ってる。


 マルガリータは、戦闘魔法師服バトラ・ドレスに身を包み、

 小さなお洒落バックパックに移送リング。

 腰にショートレイピア、頭に大きな帽子、日傘の姿でやって来た。

 顔の気品と相まってまるで貴族の淑女のような雰囲気だ。


 さっそく4名で雑貨迷宮に向かった。

 今回はマルガリータの実力の確認と、レベルアップが目標なので深い階層には潜らない。

 

  

 

 雑貨迷宮第1層。

 前衛をソフィアとマルガリータとして主に戦わせ、

 後衛の俺とパッツィが、後方警戒とマルガリータの様子を見る。


 回廊を進むとさっそく前方から棍棒ゴブリンが4匹来襲。

 棍棒を振り回しながら突っ込んでくる。

 ソフィアとマルガリータが剣を抜く。

 ゴブリンとの距離15メートル。

 

 とマルガリータが1歩踏み出す。

 いきなりマルガリータの体が前に飛び出す。

 後方に埃を少量撒き散らしながら、

 たった1歩で15メートルの距離を縮めた。

 マルガリータは高速で突きを繰り出し、

 棍棒ゴブリンを一息に打ち抜く。


 一撃を与えたマルガリータは後方にステップ。

 と思ったら、再び体を後方に飛ばして、ゴブリンと10メートルほど距離を空ける。

 突きを受けたゴブリンは倒されていた。

 驚いた。見事な一撃離脱だ。

 俺とパッツィは顔を見合わせる。


 ゴブリンはなおも前進を継続。

 ゴブリン2匹はソフィアに向かい、1匹はマルガリータに向かう。

 マルガリータはフッワークを使い、攻撃最適位置に移動。 

 ここは基本どおり。


 ゴブリンはマルガリータに棍棒を振るう。

 マルガリータはショートレイピアで、

 浅い突きを繰り出し、けん制しつつ後退。


 ゴブリンがもう一度棍棒を振るってスキができた瞬間、 

 マルガリータの体は一瞬加速して、ゴブリンの頭を打ち抜き、一撃で倒した。

 ソフィアも2匹を瞬殺して戦闘は終了。


 なるほどなー。

 翼魔族のマルガリータは、

 種族スキルの「飛行」を最大限利用した戦法を作り上げたわけだ。


 飛行能力で急加速して、

 自身の体重も乗せて、強力な突きを放ち、深入りせずに一撃離脱に徹する。

 あの背中の小さい翼だけで飛べるわけじゃないだろう。

 翼となんらかの魔力も伴う現象で、

 マルガリータは急加速や飛行を行なっていると推測できる。


 剣術デストレーサはスラスト動作メインで、カットやマッシュは使わず、ほぼ突きのみに特化。

 マルガリータは体の線が細いので、

 カットしてると腕の負担が大きい。

 加えてショートレイピアはリーチが短い。

 だから剣で相手の攻撃を極力受けずに、力を温存した腕で、致命的な突きに集中する。

 なかなか合理的な戦法だ。

 盾持ちと硬い魔獣以外なら、かなり有効だろう。


 俺が色々考えてる時に、後方からゴブリンが3匹来たが、

 パッツィが弓であっという間に打ち倒す。


 マルガリータを鑑定で見たが、思ったより魔力は消耗していない。

 せいぜい5程度だ。

 種族スキルだから燃費がいいのか。

 おっ、前からゴブリン3匹が来た。

 丁度いい。


「マルガリータ。次は人形で戦ってくれ」


「はい。……お兄様」


 マルガリータは移送リングから人形を取り出す。

 いよいよ鮮血の貴婦人ビビアナちゃんのデビュー戦だ。

 マルガリータが精神を集中すると、

 ビビアナがひょっこりと起きて、

 腰の短剣を引き抜き、スルスルとゴブリンに走っていく。

 

「人形魔法――――闇短矢ダークボルト


 ゴブリンとの距離10メートルで、ビビアナは両手を突き出し、魔法の黒い矢を放つ。

 ゴブリン1匹の胴体に命中。

 転倒して呻いている。1匹を戦闘不能にした。

 なるほど、攻撃魔法も人形から出すのか。


 さらに前進してくるゴブリン2匹、

 そのうち1匹にビビアナは接近。足元に切りかかった。


 ザシュッと小気味良い音を出して、ゴブリンの足が切り裂かれる。

 短剣を振り抜いたビビアナは、水平に2回体を回転させ着地。

 背後から再び足を裂く。


 この2回の攻撃でゴブリンは仰向けに転倒。

 ビビアナは背中に乗り、何度も短剣を突き刺す。

 やべー、怖えー。


 薄暗い迷宮で、うっすらと笑顔を浮かべた西洋人形が、

 金髪の髪を振り乱しながら、表情を変えずひたすら短剣を突き立てるんだぜ。

 ホラー映画そのまんまだな。

 しかしビビアナでは一撃で敵は倒せんか、

 やはり人形は攻撃力がやや低いな。


 止めをさしたビビアナは、最後の1匹を追跡する。

 ゴブリンはソフィアに向かっており、そのままソフィアと切り結ぶ。

 ソフィアはカットに専念。

 後方から来るビビアナを待つ。


「人形魔法――――打撃力付与アタック・コンセゾン


 マルガリータが人形魔法を使うと短剣がにぶい光りを放つ。

 ビビアナが短剣を横なぎに払うと、ゴブリンの右足が引き千切られ、そのまま足が吹っ飛んだ。


 なるほど、攻撃力を上げる魔法もあるのか。

 通常攻撃の数倍の威力があるな。

 ビビアナは倒れたゴブリンの首に切りかかり、首を斬り飛ばして倒す。


 うむ。人形のほうも中々使えそうだ。

 今回のマルガリータの魔力消費は20ほど。

 この分だと人形を使っての全力戦闘は1~2回が限度だろう。

 倉庫に魔力回復薬を多めに備蓄だな。

 

 人形での戦闘を確認した俺たちは、

 マルガリータに魔力回復薬を飲ませて前進。

 ソフィア、マルガリータを前衛にボス部屋に向かう。


 ボスのハンマーゴブリン戦では、マルガリータだけで戦う。

 まず人形で足にダメージを与え、剣でマルガリータが止めをさす。

 楽勝だった。


 人形は全長が30センチしかないので、

 足元をビビアナにウロチョロされ、

 ハンマーゴブリンも人形を攻撃しづらかったようだ。


 俺たちはここで一旦地上に戻って、早めの昼飯にする。

 昼食後にパッツィとソフィアに意見を聞く。


「うん。パーティーに入れて問題ない。あの突きも人形も凄いわ」


「合格。あの娘昔チラッと見たことあるけど、あんな特技があったのねー」


 2人の賛同もあったので、マルガリータを正式にうちのパーティーに入れることにした。


 その後、マルガリータに加護とポイントの話をして、午後から迷宮3層までマルガリータをメインに戦わせ、レベルを11まで上げることができた。




****

 

 休日、俺は新たに取り寄せた本で風雷魔法を勉強する。

 パーティーの遠距離攻撃力が不足しているので、それを補うためだ。


 正直、あまりスキルを取りすぎると、

 まわせるポイントが少なくなるので器用貧乏になりがちだが、

 人形魔法師が加わったとはいえ、もう少し攻撃の手数は用意しておいてもいいと思う。


 次回からのパーティー編成は、

 前衛が俺とソフィア、中衛にパッツィ、後衛にマルガリータとする予定だ。

 これで前後同時攻撃でもある程度対応できる。




 翌日は一気に第7層まで潜った。

 7層の敵はビックビートルで、大きいカブト虫みたいな奴だ。

 パッツィの弓とは相性が悪く、1体潰すのに矢が数本かかる。

 なので、接近戦による突き攻撃がメインになった。


 主なドロップ品は、飴、のど飴、クッキー、チョコ、迷宮のおいしい水、迷宮茶、角砂糖、黒砂糖、ガムなど。

 食い物ばっかだな。

 でも迷宮のおいしい水で淹れる迷宮茶はマジで上手いよ。

 雑貨屋でも高級品として売ってる。


 7層を最短距離で突き進みボス戦。

 この階のボスはアーマービートル。

 ビックビートルの装甲強化版だ。

 突進攻撃をしてくる。


 俺とソフィアが両サイドを挟み、

 ひたすら足を攻撃して切断しようと試みるが、

 足も結構な硬さがあった。


 パッツィは矢での攻撃を諦め、

 後方から海賊刀カトラスで殴りかかる。

 途中突進でマルガリータの人形が破損したものの、足をすべて切断することに成功。 


 移動できないアーマービートルをそのまま全員タコ殴りで倒した。

 ふう。

 さすがに雑貨迷宮でも7層にもなれば、

 それなりの魔獣が出てくるな。


 回収した人形は、人形魔法の人形修理ドール・リペアをかける。

 ヒビや傷等は修理できたが、切断された右腕は戻らなかった。

 破損した「鮮血の貴婦人ビビアナ」は、

 次の休日で俺とマルガリータの技術を合わせ、耐久力を増す改造を施すつもりだ。

 楽しみ。




 夕方、雑貨迷宮7層まで攻略した俺たちは、リリアの町に帰還する。

 ギルドでドロップ品の売却を済ませ、外に出ると何故かマリベルがいた。

 パッツィが俺の肩に手をかけ


「ソール。私達ちょっと用事があるから、先に帰っててくれる?」


 と言ってきた。

 了承するとパッツィを先頭に、全員が中央通りに向かった。

 マリベルも一緒だ。

 ははぁ、前に牧場で話しうんぬん言ってたな。

 それ関連か。


 興味を持った俺は、見つからないよう尾行することにした。

 しばらく進むと、俺もよく知るお店に皆が入っていった。

 俺の家族が外食でよく利用する「メルルーサ」だ。


 ここは昼は喫茶店で、夜は居酒屋になる。

 ちなみに「メルルーサ」とはタラの仲間の魚のことだ。

 この店のメルルーサの白身フライが看板メニューで上手いんだよ。


 俺は建物の影から内部をうかがう。

 窓際の席に着いたソフィアは緑豆を食ってて、

 マリベルとマルガリータは、お茶を飲みながら神妙な顔でパッツィを見てる。


 パッツィはお茶を飲みながら、

 なにやら楽しそうに喋っている。

 なるほど、パッツィが音頭をとって

 女子会みたいなのを開いているのか。


 ま、あの面子ならパッツィがリーダーシップを執るだろうな。

 なんかカリスマ性があるんだよな。


 何話してるか気にはなるが、

 楽しそうな雰囲気なので問題無いだろう。

 俺は1人で帰ろう……


 べ、別に寂しいわけじゃないんだからね!

 誤解しないでよね!




   第19話 「人形魔法師」

  ⇒第20話 「寄生魔獣召喚」


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