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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第2章 迷宮探索編
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第18話「魔導信管」

 最近はパーティーのありかたで悩みがある。

 現在のパーティー編成は、俺とソフィアが前衛で壁役、パッツィと狩猟犬エスパルダないしパシオンがアタッカーだ。


 悪くは無いのだが、どうしても遠距離火力が不足する。

 俺のパーティーには戦闘魔法師バトラ・マギアがいないのが問題と言える。


 ソフィアは精霊魔法が使えるし、俺も攻撃魔法を覚えてもいいのだが、前衛では使いにくい。


 それに回廊だと、前方、後方どちらでも魔獣が襲ってくる。

 後方から攻撃を受けた時は、パッツィと狩猟犬が凌いでいる間に、俺が前に出て、ソフィアが精霊魔法で援護と言う形になる。


 今はそれでいいけど、階層が深くなって前後同時に攻めてこられると、パッツィがダメージを受ける恐れが高くなる。

 いくら俺が強くても、前後同時に壁役はできない。


 理想的には中衛に戦闘魔法師バトラ・マギアを置いて、前方、後方どちらでも援護させる体制がいいのだが、まだそういうメンバーはいない。


 暫定的にパッツィの火力を上げたいが、パッツィは魔法が使えない。

 昔練習したみたいだが才能が無いそうだ。

 というわけで、何らかの攻撃魔道具を作ってパッツィに持たせるのが現実的と言える。


 まあ案は色々ある。

 手榴弾やバズーカ砲みたいなものなど。

 パッツィが使い慣れた武器を考えると、矢の先端にミニ爆弾をつけるのが良いだろう。


 が、ここで問題に一つ気づいた。

 どんな武器を作るにしろ、普段の携行時は安全で、使う時に確実に作動する、信頼できる信管が必要だ。

 というわけで、

 魔法陣を利用した信管を開発する計画を立てた。



 だが最初で壁にぶち当たる。

 信管を作るには、小型化が必須なのだが、構造上それができない。


 魔法陣の上に魔法陣を重ねると、魔力を流した時にショートするのだ。

 なので厚さ1センチの鉄板を挟むが、それだと重い上に小型化できない。

 まあ何事も実証が必要だ。

 本当にそうなるか実験してみる。


 魔力結晶ボックス、属性変換魔法陣、スイッチボックスを繋げ、+属性の光玉を発生させる魔法陣を2枚重ねる。

 間に鉄板は挟んでいない。

 さあ緊張の一瞬。

 スイッチオーン!


 バチィィ!


 おお、ショートしたぁ。びびる。

 一瞬光って魔法陣が黒焦げになった。

 燃えてるし、コップの水で消火した。


 さて、次はもう一つの案を試してみますか。

 無駄だと思うけど、何事も実証だ。

 今度は+属性の光り玉の魔法陣と、-属性の闇玉の魔法陣を重ねてみる。

 間に鉄板は挟まない。


 +と-を変換する属性変換魔法陣は、使用する魔法文字が少ないので、

 直接光玉、闇玉の魔法陣の中心円に書き込み、属性変換魔法陣を省略した。


『魔力結晶ボックス』―『スイッチボックス』―『+光玉魔法陣』―『-闇玉魔法陣』


 ん。準備完了。

 机の上に置いて俺は立ち上がり、いつでも逃げられる体制でスイッチを入れる。


 スイッチ……オン!


 …………


 ん?

 ショートしないな……

 魔法陣の上には光玉と闇玉が発生している。

 俺はスイッチを切る。


 なるほどー。 

 つまり同属性++、--を重ねた魔法陣だと、間に鉄板を挟まない限りショートする。

 しかし、+-の異属性の魔法陣なら、鉄板を挟まずに重ねてもショートしないのか。



 俺はテキストを引っ張り出し、

 「基礎魔法陣の手引き」「応用魔法陣辞典」を1時間かけて調べて、この現象を説明しているページがあるか探してみたが、どこにも記述は無かった。


 はぁ……


 やっぱ魔法陣作成入門セットのテキストじゃ、専門的な事まで書いてないのか。

 ケチらずに専門書を買えばよかったかな、でも領都まで買いに行くのダルいんだよなぁ。


 まっいっか。

 とにかく鉄板無しで、積層型魔法陣を形成できるのは確認できた。

 あとは魔法陣そのものの縮小ができれば、小型化への道が開ける。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第2章 迷宮探索編





 朝から実験をしていたのだが、気がつくと夕食の時間になっていた。

 実験に夢中で食事を忘れていたわ。

 そういやイレーネが食事か必要か何回か聞いてきたな。

 夕食だけは食べていこう。

 俺は家の2階から居間に向かった。


 中庭を進んでいるとお風呂場からマリベルが出てきた。


「あっ、お兄ちゃん。今日食事もとらず朝からずっと部屋に閉じこもってたでしょ。そんなことしてたら体に悪いわよ」


「ああ悪い。ちょっと実験が面白かったから」


 マリベルはまるでイレーネのような説教を垂れる。

 風呂から上がったばかりのようで、髪は濡れ、うっすらと石鹸の香りがする。

 うむ。こうしてみるとマリベルも随分成長した。

 体を見ると、女としての色気も出はじめている。

 

 ハッ


 いかんいかん。

 妹を見てそんな感情を持つなど。

 兄ちゃんとしてあるまじき事だ。

 どうも前に告白されてから、時々マリベルに女を感じてしまう。


 たしかに「女として好き」とか言われたが、あれはまあ、きっと一時的な気の迷いみたいなものだ。

 ほら、あれだあれ、

 「恋に恋する」って奴だ。

 マリベルもきっとそういう年頃なんだろう。

 それで近くにいる俺にそんな感情を持ったのだろうな。


 このまま放置しておけば、いずれマリベルも落ち着いて、他の誰かに恋することになるだろう。

 体は大きくなってもマリベルはまだ子供だ。

 だから俺は大人の余裕で、マリベルを見守ればいい。


「お兄ちゃん行こ。今度こそご飯食べるよね?」


「もちろん。あー腹減った。」




 

 翌日から雑貨迷宮に数日入り、次の休日に俺は魔法陣の小型化を試みた。


 通常魔法が発動する魔法陣を作るときは、タテヨコ20センチ以上のミスリル薄板に、筆で3重の円を描き、魔法文字を書き込む。


 俺は魔法陣をタテヨコ5センチまで縮小するつもりだ。

 ただ、このサイズだと3重円を描けないので、思い切って分割して、1重円3つの積層魔法陣にする。


 ただこうなると、小さすぎて、筆では魔法文字が書けないため、つまようじで文字を書く羽目になった。

 なんというか、前の世界では、米に小さな文字を書く人がいたが、ああいう職人になった気分だ。


 ミスリル小魔導線をピンセットで掴み、四苦八苦しつつ各魔法陣を繋げ、光玉の積層魔法陣が完成。

 こうして、魔法陣の大幅な小型化に成功した。


 

 次は矢の先端につける弾頭を製作する。

 まずは木を樽型に加工。

 2つに割り、中をくり貫く。

 そこに「魔力結晶ボックス」を入れ、次に魔力を通さないようにする「魔力阻害魔法陣」を繋げる。

 最後に光玉魔法の積層魔法陣を組み込めば、魔法陣関連は完成だ。


 木製樽型弾頭の先端は押しボタン式にして、裏に釘を仕込んで、釘の下に「魔力阻害魔法陣」が来るように調整。

 魔力結晶ボックスに2つ星魔力結晶を入れて、蓋を閉じる。


 これで試作光球弾頭が完成した。

 この弾頭を矢の先端に取り付ける。

 とりあえず2本作った。


 使用方法だが、矢を発射してターゲットに命中すると、弾頭の押しボタンが押し込まれる。

 するとボタンの裏についている、内部の釘が押し込まれ、「魔力阻害魔法陣」に釘で穴が開く。


 魔法陣は書かれている板が、曲がったり、穴が開くと機能停止するので、「魔力阻害魔法陣」は壊れ、2つ星魔力結晶の魔力が積層魔法陣に流れて、光玉魔法が発動するというわけだ。


 地球で言うと、着発信管? だっけか。

 それと似たような方式になる。


 さっそく完成した2本の矢を持って中庭に移動。

 倉庫にあった狩猟用ショート・ボウを引っ張り出し、壁に向かって矢を射る。


 ボンッ。と壁に弾頭が命中すると、矢が光りだした。

 おお、1発目で成功か。すごいじゃん。

 2発目も無事成功したが、衝撃が強かったのか、木製の弾頭にヒビが入った。


 この積層魔法陣の部分を爆発魔法にでも変更すれば、パッツィの強力な武器になるだろう。

 この方式の信管を魔導着発信管。

 矢のほうは魔法矢マジカル・フレッチャ

 と名づけよう。



 昼飯を食ってから、魔法矢マジカル・フレッチャを4つ製作する。

 強度の問題があるので、木製から鉄製樽型弾頭に変更。

 積層魔法陣は冷熱魔法の爆発エクスプローションにした。


 魔法師が撃てば大きな破壊力を持つ爆発魔法だが、2つ星魔力結晶の魔力は小さいので、半分程度の威力しか出ないと思われる。


 安全のため、セーフティロックを追加し、さらに木製ケースに2本セットで矢を入れて、弾頭に不要な衝撃を与えないようにした。


 む。急いで作ったがもう夕方だ。

 俺は爆裂矢をもってグラナドス牧場に向かった。





****


 グラナドス牧場にいくと、よく休憩に使うベンチにパッツィがいた。

 足を組んで暇そうに本を読んでいた。


「ようパッツィ」


「んん、ソールじゃない。どうしたの? 寂しくなった?」


「いやあの……。パッツィの為に新しい武器を作ったんだ」


 俺に抱きついてくるパッツィにムラムラしつつも、魔法矢マジカル・フレッチャのことをパッツィに説明。

 牧場から少し離れた森の入り口で、試射を行なうことになった。


 夕闇がせまりつつある森、その1本の木に向かってパッツィが弓を引き絞る。

 そして狙いをつけた爆裂矢が、弓から放たれる。


 ドーンッ!


 木に着弾した弾頭は小爆発を起こす。

 うん。やはり爆発力は小さいな。

 

「こんな武器を作るなんて凄いよ。さすがソールだわ!」


「ありがとう。爆発は小さいけど、迷宮での使用ならちょうどいいね」


 そうだな。

 あんまり爆発が大きいと、迷宮の酸素がなくなるかも知れないしな。

 パッツィは興奮しつつ、もう1本ためし撃ちをした。

 2本目も安定して爆発した。

 こいつは使える。


 俺はとりあえず残った2本セットの木製ケースをパッツィに渡した。

 明日から腰にぶら下げて、迷宮に持っていくことになった。


 その後は……

 まあ太陽が沈むまでイチャイチャしたさ。



 翌日。迷宮に潜って16時ごろ家に帰宅。

 今回は爆裂矢は使用しなかった。

 まあ使うとしたら、もう少し下の階層だろうな。

 部屋で装備を整備していると来客が来た。


「お兄様……、新しい人形……できた」


 やってきたのはマルガリータだった。

 球体関節の真新しい人形を持っている。

 こいつが例の戦闘用人形というわけか。


「……親の許可は取りました。私も探索者になります。……お兄様のパーティに入れてください」





    第18話 「魔導信管」

   ⇒第19話 「人形魔法師」


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