第17話「好調な進撃」
俺達のパーティー「ケンタウロ・マキア」
俺とソフィアとパッツィの3人パーティーとなった。
その他にパッツィは、重装甲狩猟犬エスパルダも連れて来ているので、3人+1匹となる。
3人で潜る初日は、主にパッツィのレベルを上げるために、1~3層をメインにゴブリンを狩った。
加護のことは話したので、自分の予想以上の高速レベルアップにパッツィはえらく驚き喜んだ。
2日目は3層までの魔獣を全滅させつつ4層へ、3人と1匹で回廊を進む。
「むっ、来たぞ。バットが前方から6匹。」
俺とソフィアは剣を構える。
パッツィは冷静に矢を放ち、こちらに接近してくるまでにバットを3匹仕留めた。
残りの3匹が俺達を襲う。
事前の作戦通り、俺とソフィアとエスパルダが走り回り、陽動を行いパッツィを支援する。
パッツィは再び矢で1匹を落とす。
1匹が俺に突っ込んできたが、すでに対策は立ててある。
「ハァッ!!」
俺は裂ぱくの気合をバットにぶつける。
ルーン魔法の威圧を使用したのだ。
威圧を受けたバットは動きが鈍くなる。
俺はそのまま手甲剣でバットを切り裂いた。
ソフィアはレイピアではなく、短剣でバットを突いて倒す。
後方からバット2匹が飛来したものの、パッツィの矢であっさり倒せた。
やっぱり飛び道具があると便利だな。
俺達の対策とあいまって、4層もサクサクと攻略が進んでいく。
4層のドロップ品は、
皿、木皿、陶器皿、お椀、木コップ、金属コップ、じょうろ、等。
食器類が多いな。
4層のボスはビックバット。
素早さはバットと同等だが、的が大きいのでパッツィの矢が当たりまくる。
墜落したところを俺とソフィアでタコ殴りにして倒す。
ドロップ品の水筒5個を回収した。
この時点で16時を越えたので、町に帰還することにする。
俺はこれまでの戦いで、レベルが3上昇して25になっている。
スキルポイントは使用せず保留。
レベル25
ヴァイタル 386/386
ソフィアは、レベル16に達しイレーネを追い抜いた。
そして新たなスキル【身体強化】を取得。
エルフで身体強化は珍しいそうだ。
まあ代わりに精霊魔法は苦手らしいが。
スキルポイントを使用し、
剣術レベルを4に、
身体強化レベルを2に強化した。
名前 ソフィア・エリアス・ガルシア
種族 森エルフ
職業 剣士
レベル16
ヴァイタル 142/142
スキルポイント 10P
種族スキル 精霊赤魔法
スキル(5/9)
【剣術レベル4】【短剣術レベル3】【身体強化レベル2】
【家事レベル1】【裁縫レベル1】
パッツィも以前より大きく成長。
スキルポイントで、
剣術と弓術を強化。
名前 パッツィ・グラナドス・カランカ
種族 獣魔狼族
職業 猟師
レベル11
ヴァイタル 89/89
スキルポイント 7P
種族スキル ハンドラー
スキル(7/9)
【剣術レベル2】【弓術レベル3】
【身体強化レベル2】【猟師レベル2】
【家畜飼育レベル1】【商人レベル1】
【経営レベル1】
エスパルダは中型の白いブルドックだ。
ついでにエスパルダも……
重装甲狩猟犬 エスパルダ
レベル4
ヴァイタル 38/38
種族スキル 重装甲
スキル(2/4)
【体当たりレベル2】【噛み付きレベル2】
動物にはスキルポイントは無いのだな。
おそらくレベルが一定に上がるとスキルレベルが上がるのだろう。
動物のステータスが知りたい場合は、動物専用のステータスボードがあり、それに噛み付くとステータスが分かる。
町に帰りギルド前で解散する時に、パッツィがソフィアに
「少し話がある。来な」
「……うん」
と言ってソフィアを連れていってしまった。
大丈夫だろうか?
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第2章 迷宮探索編
3日目。
連日ゴブリンを全滅させたのが原因か、今回は1~3層にゴブリンは、まばらにしかいなかった。
そのため午前中に第5層に到達した。
昨日ソフィアとパッツィが何を話したか知らないが、
別段二人は険悪な雰囲気でも無い。
というかむしろ緊張は解けつつあるようだ。
何があったか今度パッツィに聞いてみよう。
ピョンピョン ドガッ
ピョンピョン ドガッ
俺達は5層で不思議な光景を見る。
回廊で巨大なノミが5匹跳ねながら、こっちに向かってくる。
体長1メートル半の巨大昆虫だ、
立派な太ももと頑丈な頭を持っている。
その気になればこのノミは、10メートルぐらいジャンプできるだろうが、迷宮の天井高は5メートルしかなく途中で頭をぶつけて落ちてくる。
なるほど、頑丈な頭が必要なわけだ。
気を取り直して俺達は突撃。
まあ、たいして強くなかった。
ジャンプに気をつけて、着地地点で待って攻撃すれば、あっさり倒せる。
だが俺達は巨大ノミのドロップ品を見てビックリした。
パッツィもドロップ品を回収しながら感心する。
「ちょっとソール、これトイレットペーパーね」
「ああ、まさかドロップ品とは。どっかで作ったものかと思っていた」
この世界で赤ん坊の時から、何かと世話になったトイレットペーパー。
地球のとは違い、木の芯に紙が巻かれたものだ。
どこかの工場で生産してると思い込んでいたから、まさか迷宮産とは思わなかった。
トイレットペーパーは雑貨屋で買うと結構高い。
ということは、売値もけっこういい線いくだろうが、俺達は売らずに、自分のものにすることにした。
あれば非常に便利だからな。
というわけで、この階では徹底的に巨大ノミを狩った。
よこせトイレットペーパー!!
5層のドロップ品はトイレットペーパー以外に、バスタオル、タオル、ハンカチ、ティッシュボックスなど。
ボスはビックマンティスだったが、苦戦もせず勝利。
6層へ向かう。
6層の魔獣はレッドスパイダーだった。
短距離をピョンピョン跳ねるので、最初は上手く攻撃を当てられなかったが、慣れてくると簡単に倒せる。
しかし慣れるまでに俺とソフィアは、1回ずつ体当たりを食らった。
「よしソフィア、左右から挟み撃ちだ。パッツィは矢で攻撃!」
6層のボスはキングスパイダー。でかい蜘蛛だ。
左右から剣で足を斬り飛ばす。
キングスパイダーはお尻をパッツィに向け、網状の糸を放射した。
パッツィは横に逃げ無事だったが、後を追っていたエスパルダが糸に絡まる。
「キャンキャン!」
エスパルダは身動きできず転げまわる。
俺達は連続攻撃で足を飛ばして、キングスパイダーの動きを止める。
最後はパッツィの矢で仕留めた。
「「「オーレィ!!」」」
パッツィが入って一気に6層まで突破。
たいした苦戦も無い好調な進撃と言える。
というか俺達のレベルが高すぎるせいか。
夕方になったので帰還。明日は休日だ。
******
本日は休日なので、短剣を改造して護拳付き短剣を作る。
ソフィアが使う湾曲短剣では手が守れないため、マンゴーシュのような短剣を目指す。
久々の鍛冶魔法だ。もちろん2本作る。
パッツィにも作っておかないと後ですねるからな。
午後に中央広場で待ち合わせ、ソフィアとパッツィに出来立ての護拳付き短剣を渡す。
その後ベンチに座ってしばしお喋り。両手に花状態でキャッキャッウフフしてると、向こうから買い物帰りのおばさ……
もといイレーネがやって来た。
「あらぁソール、モテモテね。3人とも家こない?」
というわけで、急きょ家でお茶会が開かれることになった。
居間でお茶とお茶請けが並べられる。
イレーネの対面にソフィア、俺、パッツィの順に座る。
「はい。あーんしてソール」
2人に交互にクッキーやら豆やらを食べさせてもらう。
イレーネはその光景を見てニヤニヤしながら、2人と会話を楽しむ。
俺はあまり話さなかったが、3人は盛り上がっていた。
16時、マリベルが帰ってきて、中庭を歩きながらこちらを見た。
挨拶でもするかと思ったが、プイッと無視して、家に入っていった。
なんだよあいつ。
態度悪いな。
17時、ソフィア、パッツィ帰宅。
イレーネは夕食の準備。
俺は自分の部屋に向かうために、
中庭を渡り家に入る。
1階でマリベルが椅子に座って本を読んでいた。
なんか機嫌悪そうな感じだが、せっかくソフィアとパッツィが来てたのに、挨拶もしないのは失礼だし気も悪い。
ここはお兄ちゃんらしく説教をしておこう。
「おいマリベル。客としてソフィアとパッツィが来てたんだから挨拶ぐらいしろよ」
「…………」
「今日、外でなんか嫌な事があったのかも知れないけど、だからといって……」
「お兄ちゃんのバカぁ!!」
ドゴッォ!
「……ごほっ!」
マリベルはいきなり立ち上がって、八極拳ばりの肘打ちを俺のみぞおちに決め、走って階段を登る。
マリベルぅ。
何いきなり暴力振るってんだよ。
もう許さん、こらしめてやる。
「マリベル、待てよ!」
俺も走って階段を登る。
身体強化レベル3を舐めるなよ。
2階に着くとマリベルは自分の部屋に入ろうとしていたので、入る前に捕まえて、廊下の壁にマリベルを押し付けた。
「おいマリベル、いくらなんでも悪ふざけが過ぎるだろう! いい加減に……えっ?」
マリベルは顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
いや、何で泣いてるの?
俺なんかした?
「ヒック…… お兄ちゃんが他の娘とイチャつくのを見るのは嫌ぁ! ……ぐすっ」
マリベルは涙を流しながら叫ぶ。
ええ、何?
そりゃ俺も2人同時に付き合う感じになったのは問題だと……
いや待てそうじゃないよな。
でもマリベルは妹だし、別に俺が彼女連れてきても関係ないよね?
分からん。
分からんが、目の前でマリベルは苦しんでいる。
なんとかしてやりたい。
俺は思わずマリベルを抱きしめた。
マリベルも俺にしがみついて泣いた。
しばらくして落ち着いてから、マリベルがつぶやく。
「お兄ちゃん……。好き……」
俺のことが好きなのか。
うん。俺も妹のマリベルが好きだよ。
「ん、俺も好きだよ」
「違う、私は女としてお兄ちゃんが好きなの……」
「えっ?」
なに言ってるんだマリベル。
それは……まずいだろ。
「いや、その……あの……俺たちは、兄妹だよ……」
「……お兄ちゃんと血は繋がっていない。結婚できるもん」
俺はその言葉を聞いて衝撃を受けた。
俺と血が繋がっていないことは、まあ、そうだな。
この歳ならマリベルも知ってて当然だろう。
でも、俺のことを……そんな風に……
俺とマリベルとの思い出が浮かぶ。
俺の後をちょこちょことついてきたマリベル。
一緒にいたずらして逃げたマリベル。
ボール遊びを一緒にしたマリベル。
泣いているマリベルを慰める俺。
マリベル、俺の、俺の大切な妹。
だけど今の言葉で、俺のマリベルへのイメージが、粉々に砕け散ったように感じた。
一人の女性として、女として、
俺の恋人になりたい……のか?
マリベルと俺は沈黙の廊下で佇む。
しばらくしてマリベルが俺から体を離した。
泣きはらした目で俺を見て微笑む。
「私……、今色々と訓練してるの。探索者になるから、お兄ちゃんのパーティーに……入れてよね。……ちゃお」
そういうとマリベルは自分の部屋に戻った。
それから1時間後、何食わぬ顔で俺とマリベルは夕食を摂る。
その後のマリベルは態度も普通に戻った。
最近マリベルが治療院のバイトに行ってるのは知ってる。
他に何をしているか、それとなくイレーネに聞いた。
どうやらバイトだけでなく、棒術や魔法の訓練もしてるらしい。
マリベルは探索者を本気で目指しているようだ。
俺は、
俺は彼女の想いに応えるべきなのか……
第17話 「好調な進撃」
⇒第18話 「魔導信管」




