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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第1章 転生、目指せマタドール編
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第12話「マタドールデビュー」

 闘牛士、一撃刺殺のスキルを体得して1年。

 俺は16歳になった。

 今は夏、ここはリリアの町の第4級格式闘牛場「リリア闘牛場」


 初めてこの世界で闘牛を見て、闘牛士を志して早11年の歳月が過ぎた。

 再び俺はこの闘技場に立っている。

 ただし今回は観客としてでは無く、闘牛士マタドールとしてだ。


 最大千人が入るリリア闘牛場だが、今年の夏の闘牛祭はほぼ満員となっている。

 現在中級の闘牛士マタドールのメインの闘牛が行なわれている。

 あれが終われば、俺とエヴァートンの番になる。


 エヴァートンも苦労の甲斐があって、今年の初めに一撃刺殺のスキルを習得している。

 俺はここ1年、あいかわらず雑貨迷宮3層までを、週3で入っているがレベルは3つしか上がっていない。

 がんばって投擲槍と湾曲短剣ファルカタで敵を沢山倒し、投擲槍と短剣術のスキルを手に入れた。

 大分スキル欄もにぎやかになってきたな。


 貯まったスキルポイントを利用し、闘牛士、一撃刺殺、投擲槍のレベルを2に上昇。

 鍛冶魔法レベルも4に上げた。

 今後は魔法を中心にレベルを上げるつもりだ。



レベル22


ヴァイタル 341/341


スキルポイント 20P


特殊種族スキル 【魔王レベル3】

特殊種族魔法  【封印中】


スキル(10/20)

【特殊剣術レベル4】【盾術レベル2】【身体強化レベル3】

【投擲槍レベル2】【短剣術レベル1】


【闘牛士レベル2】【一撃刺殺レベル2】


【鍛冶魔法レベル4】【土木魔法レベル2】


【魔法陣作成レベル2】



 ええ? 1年も経ってるのに大してレベル上がってないって?

 いまだに第3層までしか行ってないのかだって?

 ちゃんと週3で迷宮行ってますよ。


 まあ、ほら、俺色々忙しいじゃん。リア充じゃん。

 パッツィとおてて繋いで町をぶらついたり、牧場で練習したりさ。

 誰もいない物陰でパッツィとぺろちゅーしたりとか。

 

 べ、別にグラナドス牧場に入り浸ってるわけじゃないよ。

 パッツィの大きな胸をマッサージ。とか別にしてないしね。

 いやだなぁ、ボクは至ってマジメに取り組んでますよ。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第1章 転生、目指せマタドール編





 観客席を見てみると、イレーネと妹と友達、パッツィが一緒に手を振っていた。

 俺も振り返す。「がんばれー」とか叫んでる。

 妹の友達には例の翼魔族の人形使いもいた。

 あの格好は遠くからでも目立つな。


 今回、闘牛士マタドールデビューするにあたり、

 グラナドス牧場から新たに250キロ級魔牛を購入。

 下級だと自分で牛を用意しなければいけない。

 もちろん闘牛の出演料など出るわけも無い。


 駆け出しは自分ですべて用意しなくてはいけないのだ。

 それで、出演してスター性があれば、貴族のパトロンがついて、正闘牛士として飯が食えるかもね。

 という厳しい世界、狭き門なのだ。

 まあ俺のはただの趣味だがね。


 俺が闘牛士マタドールデビューすることが決まると、母イレーネがよせばいいのに、わざわざ「光のドレス」を新調してくれた。

 あれ安いのでも金貨15枚以上するからな。

 父のお古でいいと言ったんだが、母は「一生の思い出になるから」と職人に頼んでしまった。

 というわけで、俺は新品のドレスを着ている。

 黒い生地に、白と金の刺繍が施されている見事な一品だ。

 そしてその下にピカピカの白銀軽鎧を着てる。

 カッコイイけどなんか照れるね。


 装備の点検をしてると、観客席から大きな歓声が聞こえる。

 どうやらメインイベントが終わったようだ。

 いよいよ俺の出番か。

 俺の後にはエヴァートンが続く。

 エヴァートンと父アベルが声をかける。


「ソールヴァルドさん、いよいよですね。俺も緊張してきた」


「まあ落ち着いてな、ケガだけはしないように」


「はい、分かりました。では行ってきます」


 俺は闘牛場の中央に進み出る。

 別に呼び出しがあるわけではない。

 闘技場に入るときに配られるプログラムに、あらかじめ書かれているからだ。

 鐘の音がカンカンと鳴り響く。

 俺が購入した250キロ級魔牛が奥から現れる。


 奴はゆっくりと闘牛場の中央にやってくる。

 しばし対峙。

 俺はゆっくりと半円赤布ムレータを構える。

 魔牛は俺を見据えながら、足で地面を擦る。


 魔牛が突進開始。

 俺は何百回と繰り返した闘牛技ランセを繰り出す。

 足をほとんど動かさず、突進をかわし続ける。

 右、左、左、右。

 魔牛は俺の半円赤布ムレータに翻弄される。

 突進による砂埃を、

 海風が押し流す。


 俺は何故、闘牛士マタドールを目指したのか。

 親孝行? 夢? 趣味?

 それもあるだろう。

 だがそれは言い訳だ。


 地球で俺は世界に関心を失っていた。

 挫折して、日々の業務に終われ、ただ時間だけが流れる。

 俺は何を望んでいたのか?

 自分の心に触れられない。

 俺は何も分からなくなった。


 だが俺は戻ってきた。

 形は変われど戻ってきた。


 この世界で関心を失うこと。

 繋がりが消えるのが怖かった。

 だから目指した。

 闘牛士マタドールを。


 努力したことが報われるならば。

 世界に繋がれるならば。

 俺は再び高く飛べる。

 世界を通じて俺を知る。

 俺の魂を知る。

 それが復活の時。



 俺は場外を見る。

 闘牛士補佐スバルテルノが赤旗を振っている。

 10分が経過した。

 俺は魔牛をさばき続ける。

 さらに2分が経過。

 制限時間は15分。

 あと3分。


 魔牛は少し離れ、再び俺を睨みつける。

 4本の角を持つ頭が下がる。

 ここだ。


 俺は闘牛剣エストケ半円赤布ムレータを持ち替える。

 右手で闘牛剣エストケを高く掲げる。

 残り1分。


 魔牛が突進してきた。

 俺はギリギリで右横を魔牛が通り過ぎるように誘導する。

 俺の頭に心臓にいたるルートが現れる。

 今っ!!


 闘牛剣エストケを振り下ろす。

 俺と魔牛が交差。

 剣は根元まで打ち込まれる。

 時間が静止。

 そして再び流れる。


 俺が振り返ると、魔牛はゆっくりと倒れていった。

 ズン

 と地面が震える。

 歓声が大きく響く。

 時間内ギリギリで倒せた。

 危なかったな。


 俺は観客に挨拶して、グランドから退場。

 続けてエヴァートンが、緊張した面持ちで準備をする。

 こうして俺の闘牛士マタドールデビューが終わった。




****


「「「乾杯サルー」」」


 夕方、デビューを家族で祝うために、居間でささやかな宴をすることになった。

 テーブルには肉の盛り合わせや、シーフードパエリアなど、豪華な食べ物が並んでいる。

 乾杯の後、俺と両親はぶどう酒。マリベルは未成年なのでジュースを飲んだ。


「ソール。闘牛士マタドールデビューおめでとう。良く頑張ったわね」


「お前も立派になったもんだ。俺も鼻が高い」


「お兄ちゃん。おめでとう」


 家族が口々に褒めてくれる。

 うん。もっと俺を称えてくれていいぞ。

 俺は褒めて伸びるタイプだからな。


「それでソールがデビューした記念に、プレゼント用意しましたー」


 パチパチパチ……


 イレーネがそう言ったので、俺は空気を読んで1ミリ秒の反射速度で拍手をした。

 おい、やってんの俺だけかよ。


「はい。ソールにこれをプレゼント」


「あ、ありがとう。大事にするよ」


 手渡されたのは、上質の皮でなめしたチョッキだった。

 本当母さんてチョッキ好きだよね。

 これで11着目だ。

 俺の洋服ダンスはチョッキで一杯だぜ。


「はい。お兄ちゃんにお守りあげるね」


「ありがとうマリベル」


 我が妹からは、小さな磁器でできた「フラマン」という種類のお守りを貰った。

 なんでもガリシア領で伝わる「サルガデロスのお守り」というやつらしい。


 お守りは何種類かあって、フラマンの意味は、

 「道に迷ったり、踏み外させようとするものからの守護」らしい。

 え、えらく意味深なお守りだな。

 マリベルさん。


「俺からはこれ。ソールは人形好きだから」


「ありがとう父さん」


 父からは木彫りの魔牛彫刻を貰った。

 これはよく特徴を捉えているな。


 それからしばし歓談。

 闘牛技などの練習時の失敗談やエヴァートンのハーレムに関して会話する。

 食事が進んで皆がほろ酔いなった時、イレーネから突然話を振られる。


「ところでさ。あの娘とどこまでいってるの?」


「えっ、あの娘って?」


「とぼけないでよ、グラナドス牧場の娘のことよ。随分仲が良さそうだったけど」


「ええ、パッツィのことか。うーんと……」


「結婚するの?」


 俺はぶどう酒を吹き出した。


「うん。あそこの家族は評判がいいからな。婿に行く気なら口ぞえしてやるが」


 いかん。父さんまで何を言い出すのか。

 いくらなんでも16歳で結婚なんか早すぎるだろうが。

 イレーネはニヤつきながら追撃してくる。


「でも嫌じゃないんでしょ。この前は町で腕組んで歩いてたじゃない。」


「ええ! 見てたのか……それ……」


「ペロチューはした?」


「ペ、ペ、ペ、ペロチューって……」


「ああ、ペロチューまではしたんだ。気をつけなさいよ。避妊薬は治療院で手に入るから」


 いかん。イレーネの返しが早くてボロが出まくる。

 ハッ! そのために事前に酒を俺に仕込んだのか。

 やけに酒を勧めてくると思ったら、まんまとイレーネの術中にはまった。


 見ろよ。 

 マリベルが屠殺寸前の豚を見るような顔で俺を見つめてるじゃないか。

 カッコイイお兄ちゃんの株が下がりまくりだ。

 しかし親がこんな話を振ってくるとは、日本の親とは大違いだ。


 俺は顔を真っ赤にしながらも、なんとか誤魔化し、自分の部屋に退避した。

 ふう、今日はもう色々疲れたわ。

 さっさと寝よっと……




 チュンチュンチュン。

 朝だ。

 昨日は16年ぶりの酒でいい感じに酔って眠れた。

 目覚めがえらく気持ちいいわ。

 俺は1階に降りて、水差しからコップに水を入れて飲み干す。

 上手い。


 んん?

 あれなんかおかしいな?

 なんだろう……


 ええ、何か大きなものが入れ替わったような。

 いや、ごっそり抜け落ちた感じか?


 首を捻りつつ俺は2階の部屋に戻る。

 んっ?

 んんんんん?


 どこがおかしいか記憶をたぐってみる。

 ええと闘牛士マタドールデビュー。

 パッツィと出会って、その前は探索者登録。

 その前は母と雑貨迷宮。

 妹が生まれて

 俺がカプセルに流されて、光の部屋。

 そして前世……




 あああああああああっ!

 分かったぁ!!


 俺の……

 俺の日本での記憶が……

 ぶっ飛んでる。




 あー。

 マジかよ……





    第12話「マタドールデビュー」

   ⇒第13話 「少女剣士」


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