第11話「一撃刺殺」
…………
暗闇の静寂、だけど遠くから人の声が聞こえる。
あれは、誰の声だろう?
肩が揺らされる感覚。
ふいに俺の意識は覚醒に向かう。
「ソール、ソール、大丈夫!?」
うっすらと目を開けると、そこに心配した顔をしたパッツィがいた。
「んん……、パッツィ……か」
「気がついたのねソール。大丈夫!?」
「多分ね。なんか一瞬……気絶したみたいだけど」
「うん。数分意識が無かったと思う。本当に大丈夫?」
パッツィはしきりに俺の体を触って、傷がないか確認する。
俺は上半身を起こそうとするが、体の色々な所が痛んだ。
「くっ……。大丈夫だけど、何箇所か打撲してるみたいだな……」
「ソール。無理はやめて。一応切り傷や出血は無いみたいだけど、後で治療院に行ったほうが良いわ」
上半身をなんとか起こした俺は、周りの様子を見る。
魔牛は興奮が冷めないのか、柵の中を走り回っていた。
俺はその様子をぼんやり眺める。
「ソール。今日は闘牛技の訓練だけじゃなくて、一撃刺殺もやろうとしてたんでしょ?」
「ああ、うん……」
そう俺が言うと、はあっ、とパッツィは大きくため息をつく。
「ソールが闘牛ギルドに入って1年未満よね。そりゃ才能があるのは分かるけど、少し焦りすぎじゃない?」
「たしかに、そうかも知れない……」
「一撃刺殺は失敗すると肩に大きな損傷を受けることが多いのよ。損傷が深ければ魔法でも治療に長時間かかるわ。闘牛ギルドでも一撃刺殺の訓練は1人でするのは禁止されてるはずよ」
「ああ、そうだね……」
「だったらなんで、こんな無茶なことするのよ!」
パッツィは本気で怒っていた。
青い目に涙が溜まっていた。
ああ、悪いことをしたな。
いままで問題もなく進んでたから、調子に乗りすぎた。
ここは謝っておかないと。
「ごめんパッツィ。俺少し調子に乗っていたよ。気も焦ってたのかも知れない……」
「どうして……?」
「俺さ。捨て子だったんだよね。人間族の家族に拾われて育てられた。基本的には居候だから、早く自立したくて色々焦りすぎたんだと思う」
そうだ。
家族はずっと居ていいと言ってるが、やっぱ助けられっぱなし、て言うのはダメだと思う。
最近金貨10枚は渡したけど、まだ恩は全然返しきれていない。
だから早く自立して、家族を安心させたい。
前世では流されて生活して、親孝行なんてこれっぽっちもしてないしね。
今生も色々流されているが、後悔しないよう最低限のことはやりたかった。
まっ、それで無意識に焦ってこのザマだ。
もう少し慎重にやるべきだったな。
若い肉体に気持ちが引きずられている所もあるだろう。
今度から安全対策はしっかりしておこう。
よし。反省。反省。
が、パッツィの顔を見てビックリした。
パッツィの狼耳は萎れて、青い瞳からボロボロ涙がこぼれる。
へ? なんかリアクション大きすぎる気がするんだけど。
するといきなりパッツィを俺を抱きしめた。
胸が強く俺に当たる。
「ちょっ……」
「ぐすっ。ごめんソール。私嫌なこと質問しちゃったね。あなたの気持ちが完全に分かるって言ったらウソになるけど。寂しかったんだね」
「あ、あの……」
「本当の両親に会いたいって想いが強くて、早く自立したくて焦って、それでこんなことを……」
そういうとパッツィはさらに強く俺を抱きしめる。
俺の体にパッツィの胸が思いきり当たるのだが。
予想以上に巨乳だな、彼女。
い、いや、そういうことじゃ無くて、なんか俺と微妙に解釈が違うというか……
パッツィの髪はいい匂いがする。顔が近い。
そして優しげに俺の頭を撫でる
「事情は分かったわ。でも今度から一人で一撃刺殺の訓練はやめて。誰か付き添いを、いないなら私が見てあげるから」
「う……うん」
「大丈夫よ。それじゃあ町の治療院にいきましょう。私もついてくわ」
その後、パッツィは俺の荷物を持って、肩車して治療院までまで運んでくれた。
俺が荷物を持つといったんだが、パッツィは頑なに拒否した。
町の中じゃ注目を浴びるから、恥ずかしかった。
俺のケガは打撲のみで、回復魔法でほとんど治ったが、念の為薬を処方してもらう。
これで金貨1枚が飛んでいった。医療費はなかなか高い。
最終的にパッツィは、俺の家まで来てイレーネに事情を話した。
もちろん、打撲の件だけで余計なことは言わない。
というわけでイレーネからも少しお説教を受けることになった。
パッツィには感謝を言って別れた。
あとでお礼をしておかないとね。
結局、俺に前世の記憶があるため、パッツィとの認識に誤差が生じたのだろう。
俺が認識している家族は、前世の家族と今生の義理の家族だけだ。
ぶっちゃけ生みの親なんかどうでもいいんだが、
普通に考えると、生みの親を探していると考えられても、不思議ではないか。
その後、パッツィの様子が明らかに変わった。
彼女の中の何が変わったか分からないが、とても距離が近くなった。
訓練に行くたびに抱きつかれるし、手を握られる。
うーん。可愛いなぁ。
これが、これが噂に聞くリア充の生活なのか。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第1章 転生、目指せマタドール編
小型の片手剣と盾を持ったゴブリンが襲いかかる。
俺は手甲剣で相手の盾を弾き、空いた隙間に突きを入れる。
ここは雑貨迷宮第3層。
今日は闘牛ギルドの青毛の同僚エヴァートンと共に来てる。
ともに闘牛ギルドに合格した仲だが、今回はエヴァートンの要請で、一緒に迷宮に潜り、迷宮のイロハを教えている。
ことの始めは俺が魔牛を買ったところからだ。
「ソールさん魔牛買ったんですか。いいなぁ、狩りだとなかなか儲からないからなぁ」
「じゃあ迷宮行く? 雑貨迷宮だと頑張れば1日銀貨5枚いくし、週5でいけば1ヶ月で金貨10枚いけるだろ」
ということで2人で3層まで潜ることにした。
エヴァートンは狩りの途中で魔獣と何度か戦ったことがあるので、手馴れたものだ。
特に問題も無く、3層まで降りることができた。
エヴァートンの武器は弓と剣。
俺みたいに、闘牛士の探索者スタイルをとることはない。
まあ、この格好は金がかかるからな。
親が闘牛士じゃないと、なかなか揃わんだろう。
これだって父アベルのお古だしな。
エヴァートンはソロで入ることを前提に、主に剣で戦っていた。
第3層の敵は、シールドと片手剣を装備したファイターゴブリン。
ドロップ品は、まな板、フライパン、鍋、ナイフ、フォーク、スプーン等の食器類だ。
俺達は敵を撃破しつつボス部屋に入る。
現れた敵はスピアゴブリン。
槍を回転させる姿は立派だが、そんなに強くはない。
俺が赤盾で挑発しつつ攻撃を受け、後ろからエヴァートンが斬りつける。
スピアゴブリンは利き腕を斬られ、槍を地面に落とす。
後は2人でめった斬りで沈める。
ドロップ品は、フライパン5個。
こいつは1個銅2枚で売れる。
雑貨にしてはなかなかいい値段だ。
「まっ、ソロで入るなら第3層までだな。エヴァートンの腕なら、攻撃を受けることは滅多にないだろう」
「ありがとう、週5で入って魔牛を買う資金を貯めるよ」
「ああ、でもできればパーティを組んだ方がより安心だよ。ギルドで探したらどうだろう?」
「なるほど、パーティか。時間があれば探してみる」
こうしてエヴァートンとの臨時コンビも終了。
俺は再びソロで雑貨迷宮にひたすら入る。
こういう地味なレベル上げは大好きなほうだ。
現在のステータス。
レベル19
ヴァイタル 286/286
スキルポイント 50P
特殊種族スキル 【魔王レベル3】
特殊種族魔法 【封印中】
スキル(6/20)
【特殊剣術レベル4】【盾術レベル2】【身体強化レベル3】
【鍛冶魔法レベル3】【土木魔法レベル2】
【魔法陣作成レベル2】
さすがに3層までだと、レベルアップの速度も緩やかになる。
スキルポイントは貯まってるけど、ここは温存。
あとで一撃刺殺のスキルが手に入るかも知れないからな。
それにしてもヴァイタル286か。
こんな数値、町の人じゃ見たこと無いな。
すでに人外の領域なのか。
その後、1ヶ月程でエヴァートンも魔牛を買えた。
縁あってパーティーメンバーも見つかったようで、人間族の女の子2人組だそうだ。
うむ。正しくテンプレな奴だ。
俺より先にハーレムを作るとは。
いやいや、別に俺はハーレム目指しているわけじゃないが。
それから時間は流れ、季節は春から夏へ。
俺とエヴァートンは、闘牛士補佐としてリリア闘牛場でデビューした。
夏の闘牛祭。1週間だけだが、俺達はそつなく仕事をこなした。
今回は脇役としての出場だが、来年には下級で闘牛士として出演したいもんだ。
夏の終わり、海風が心地いい頃、俺は闘牛道具を持ち、グラナドス牧場に向かっている。
そう。今回はリベンジだ。
もう一度、一撃刺殺に挑戦する。
これまでに模擬剣を使って、何度も魔牛に突き刺す訓練を、エヴァートンと一緒にしていた。
今回は準備も万端。
パッツィも呼んで、もしもの時のために待機してもらう。
「おはようソール。今回は無茶しないでね」
「分かってる。今日こそ決めるよ」
パッツィは俺の手を握って、自分の胸に持ってくる。
暖かさが伝わり、俺の胸が高鳴る。
いかん。理性が飛んで抱きしめてしまいたくなる。
「さ、さて行くかな」
「うん。魔牛はもう出してるわ」
俺は闘牛剣と半円赤布を持ち、魔牛の待つ柵の中に入る。
しばし魔牛のにらみ合い。
そして対決が始まった。
魔牛が突進を繰り返す。
俺は反射的に半円赤布を振り、突進をさばく。
もはや馴れたものだ。
実際に闘牛場で演技しているつもりで、闘牛技を繰り出す。
今回は念入りに12分かけて、魔牛の体力を削る。
そして魔牛が立ち止まり、頭を下にさげる。
ここだ。
俺は闘牛剣を高く掲げる。
集中力が上がっていく。
魔牛は俺を見据える。
魔牛にも分かるのだろうか?
ここが勝負の時だと。
魔牛が後ろ足を蹴り上げ、土ぼこりを舞い散らせながら突進してくる。
俺の心は静か。
波立ちひとつしない。
俺は半円赤布をふるい、魔牛の進路をずらす。
魔牛の背が見えた。
その瞬間、膨大な情報が俺の頭に流れ込む。
だが俺の心は動揺しない。
見えた。
俺の頭の中が魔牛の骨格を完全に把握した。
肉のしなり、骨格のきしみ。
その全てが見える。
中心の心臓、そこへ至るルートが見える。
俺は迷い無く剣を打ち下ろす。
勝負は一瞬で決まった。
魔牛と俺は交差し、離れる。
俺は振り返る。
魔牛の動きは静止してる。
それからゆっくりと魔牛は倒れ、ズンッという響きと共に横倒しになった。
俺の剣は一撃で魔牛の心臓を貫いたのだ。
「やったぁ、ソール凄い!」
パッツィの声が届く。
俺はパッツィに手を振ってから、ステータスプレートを確認する。
よしっ!
俺は【闘牛士レベル1】【一撃刺殺レベル1】のスキルを無事に獲得しているのを確認した。
俺は魔牛へ向き、頭を下げ、しばし黙祷する。
魔牛と人間は決して仲良くはできない。
お前は俺のことが嫌いだったろうが、お前のおかげで俺は闘牛士になれた。
だからお前に感謝を捧げる。
それは自己満足に過ぎないかも知れないが、今の俺の正直な想いだ。
柵を出るとパッツィが抱きついてきた。
俺もパッツィに腰をまわして抱きつく。
「おめでとうソール。闘牛士のスキル。手に入れたのね」
「ああ。パッツィ、君のおかげだよ」
パッツィは蒼い瞳で俺を見つめる。俺も見つめ返す。
どちらともなく、俺達は口づけした。
最初は軽いキス。
「フフ、これ私のファーストキス。信じてくれる?」
「ああ、俺もファーストキスだよ。信じる」
それから再び俺達は濃厚なキスをする。
俺は唇を吸って、彼女も吸う。
そして自然に舌をからめる。
俺達は何度も何度もキスを重ねた。
パッツィの尻尾は、物凄い勢いで横に振られていた。
第11話「一撃刺殺」
⇒第12話「マタドールデビュー」




