第10話「探索者登録」
15歳になった。
この世界では、社会的に大人になる年齢だ。
俺はさっそく総合ギルドで、探索者の本登録を終わらせる。
今回は探索者ギルドカードも発行してもらう。
これで俺も正式な探索者になったのだ。
本登録なので、ステータスボードを職員に見せる必要があったのだが、
項目の表示と非表示は切り替えられるので、
魔王に関連する項目は、非表示にして提示して誤魔化した。
探索者の等級は、1つ星から5つ星の5段階に分かれている。
この等級は、現在の攻略可能階層に応じて決められる。
ちなみに、俺は等級は1つ星探索者であり、母イレーネは2つ星探索者になる。
☆ 3階層まで攻略
☆☆ 10階層まで攻略
☆☆☆ 20階層まで攻略
☆☆☆☆ 30階層まで攻略(エキスパート級)
☆☆☆☆☆ 40階層以上攻略(マエストロ級)
あくまで実力を見る単純な指標であり、星が多いからといって何か優遇措置があるわけでは無い。
が、当然5つ星ともなれば実力者として名声を得て、様々な所から声をかけられるわけで、仕事の口が増えるのは間違いない。
星の昇格は、ギルドが検討して上げるか下げるかを判断する。
指定階層を突破したとしても、必ず上昇するわけではないのだ。
たとえば3つ星探索者2人と1つ星探索者2人でパーティを組んで、30階層を突破する。
この場合、3つ星探索者は4つ星に昇格する可能性が高いが、1つ星探索者が昇格できるかは微妙だ。
昇格の判断基準は、指定階層突破の他に、ギルドへの貢献度。本人の態度。レベル。苦情なども勘案されて決定される。
ただ、細かい部分は一切公表されないので、昇格できなくても本人に理由が説明されることは、ほとんど無いらしい。
これに不満を持つ探索者も少なくは無いが、
結局力関係はギルドのほうが上なので、文句は受付られない。
なお探索者は5段階評価だが、冒険者と傭兵は10段階評価であるとのこと。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第1章 転生、目指せマタドール編
薄暗い通路、その先からパタパタとデカイ昆虫が飛んでくる。
綺麗な鱗粉が光を反射、その飛翔する昆虫がキラキラ光り、幻想的な光景を写す。
本来ならうっとりとその光景を眺めたいが、残念ながらこのデカイ昆虫は「ビックモス」という魔獣だ。
俺は手甲剣で、そいつを叩き斬る。
一撃で死んだその巨大蛾は、黒霧につつまれ消滅。
ドロップ品に毛糸玉が残った。
毛糸玉を拾って隣の母イレーネに渡す。
ここはリリアの町の南にある雑貨迷宮第2層だ。
「それにしても2年前に比べたら、凄く成長したわね。この調子なら探索者でも大金が稼げるわね」
「うーん。そうなのかなぁ。でも調子乗りすぎないように気をつけますよ」
盛んに褒めてくるイレーネに返事をする。
イレーネは褒めて成長させる教育方針なのか。
いずれにせよイレーネとは本日で最後の迷宮探索だ。
これからしばらくは俺一人で迷宮に潜ることになる。
イレーネには許可を貰ってるが、できれば3層以上はパーティを組んで挑んで欲しいのだそうだ。
「それにしても、この迷宮はいつ来ても誰もいないですね」
「しょうがないわよ。儲からないんだから」
俺達が週1~2回程度のペースで雑貨迷宮へ来ているのだが、
この2年間、他の探索者を見たことはない。
とはいえ、1ヶ月に一度はベテラン探索者が現状確認に来るし、
初心者がやって来ることもあるらしいが、
頻度が少なすぎて、出会う確率は低いらしい。
この雑貨迷宮は1日6時間近く潜っても、儲けは銀貨4~5枚程度だ。
リリアの町の北には、武具迷宮という、ドロップ品が武具の迷宮がある。
全30階層で、こちらなら平均金貨3~4枚は稼げるし、
20階層以上なら金貨10~20枚は狙えるそうなのだ。
なので、リリアの町の探索者は、ほとんど武具迷宮に向かうそうだ。
「でも武具迷宮行くのなら、せめて雑貨迷宮ぐらいはクリアできないと……あら、来たわよ!」
回廊の通路の先から、ビックモス3匹。ナイフゴブリン6匹が接近してきた。
俺は投擲短槍を引き抜いて構え、
ビックモスに投射、ビックモスの体を貫き1匹撃破する。
「オーレィ!」
イレーネから声がかかる。
そのイレーネには2匹のビックモスが迫る。
「シャッ!」
イレーネのレイピアが走り、1匹を突き、1匹を切り払いで倒す。
「オーレィ!」
今度は俺が声をかける。
ナイフを持ったゴブリン6匹が、叫びながら俺達に向かってくる。
「スゥッ!」
イレーネが先行する2匹を突き殺し、剣の打ち降ろしで3匹目を潰す。
俺は突きで1匹を殺し、斬撃で2匹目、再び突きで3匹目を潰す。
「「オーレィ!!」」
二人で叫ぶ。
戦闘開始1分で敵は全滅した。
大声で叫ぶのは気持ちいいね。
なんていうの、カラオケボックスいった後みたいに。
ドロップ品は、ナイフ、包丁、まな板、白糸、裁縫セットなどなど。
雑貨迷宮では、1階層ごとに出てくる雑貨が異なるのだ。
その後、回廊の敵を全滅させて、部屋を4つ突破し、俺達はボス部屋に入った。
ボス部屋に大剣を持ったソードゴブリンが出現。
俺達は正面から突っ込む。
ソードゴブリンは突きを放つが、その時には俺達は両サイド飛び去り、
横からソードゴブリンを剣で突きまくる。
俺は特殊剣術レベル4、イレーネは剣術レベル3だ。
ソードゴブリンにはオーバーキルといえよう。
2人で攻撃し、あっという間にソードゴブリンが沈む。
何回も来ているので、もはや戦闘はルーチンワークと化している。
ドロップ品のスコップ5本を拾って、俺達は3階層に下る……
翌日、俺は久しぶりに休日を取る事にした。
とりあえずは用事を済ませておこう。
俺は貸倉庫屋に向かう。
貸倉庫屋は大きめの建物だった。
その隣には空き地があり、プレハブみたいな木造の2階建ての倉庫が並んでいる。
見た目だけなら日本の貸倉庫屋とそうかわらない。
受付のおじさんに頼んで倉庫を貸してもらう。
今回は5メートル四方の小さな倉庫スペースを貸してもらった。
一番安いタイプで、貸賃は月銀貨5枚。
契約書に記入後、移送リングと倉庫の鍵を貸してもらう。
よし、これで俺もアイテムボックスを手に入れたぞ。
こいつは地味に便利だからな。
その後は商店に買出しに行き、布、布袋、予備の服、回復ポーション、解毒剤、酒(飲料、消毒用)、乾燥食料を購入。
借りたばかりの倉庫に押し込む。
これで迷宮探索や災害もバッチリ安心だ。
だがなんやかんやと金貨3枚を使った。
最近出費がかさむなぁ。
迷宮がんばらないとダメだな。
用事が済んだ俺は、町の大きな広場のベンチで休憩する。
時間が早いからか人はまばらだ。
「おう、坊主じゃねえか。今日は暇なのか?」
ぼんやりしてると後ろから声がしたので振り向く、
そこには闘牛武具店のガルデルさんがいた。
「あっ、どうもお久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「休日だ。週に1回の定休日さ。今日は変人の弟子の趣味のつきあいだ」
そこへフワリと白い小さな物体が飛んできた。
むう、これは、グライダーか?
子供の頃に遊んだあれに似てるな。
あの発砲スチロールっぽい部品を組み立てて、機首にプラスチックの重りをつけると飛行機になるやつ。
「どうです、よく飛ぶでしょう?」
グライダーを飛ばしたと思われる主が、声をかけてきた。
まだ歳若いドワーフだ。彼が変人のドワーフなのか?
「おう、紹介するぜ坊主。こいつはペペ・アドローバー。俺の工房の弟子だ。昔から変人でな、将来は飛行機械を作るのが夢なんだそうだ。竜騎がビュンビュン飛んでる世の中で、そんなもん役に立つかよ」
「ひどい言い様ですね。私は竜に頼らずとも、機械や魔道具で人が空が飛べることを証明したいのですよ。」
なるほど、たしかに変人だ。
この世界では、竜騎に乗れば比較的簡単に人は空を飛べてしまう。
そんな中で、飛行機を作ろうと考える人など、なかなか出てこないだろう。
それと言うのも、この世界では、半端無い数の竜騎が使われているからだ。
比較的下等な中型竜、小型竜は昔から竜騎として利用するために飼育されている。
品種改良も進んでいて、速く成長して多産の竜が開発されているのだ。
通常ファンタジー世界では、竜騎は貴重なものである設定が多いので、
多くとも1国が所有する竜騎は、せいぜい100騎程度と俺は予想していたのだが、
レオン王国では、軍事用で実に1000騎、民間で数百騎も使用されているのだ。
他の国でも、レオン王国みたいな大国だと、竜騎の数は似たり寄ったりらしい。
竜騎は、地球で言う飛行機やヘリみたいな感覚で身近で使用されているのだ。
とはいえ、民間で使用しているところは、富豪や貴族や業務用に限られるので、
平民が簡単に乗ることはできないのだが。
「竜騎はせいぜい2人程度しか乗れませんからね。飛行機械ならもっと沢山人が乗れるはずです」
「まあペペはこういう奴でな。さっきの飛行模型なんかの製作も俺が手伝ってるんだ。」
「なるほど。いい着眼点だと思います」
あくまで着眼点はね。
ただ、ここには産業的インフラがないからねぇ。
開発は難しいだろう。
そうか、魔法があるんだったな。
それを上手く利用できれば、けっして夢ではないか。
でもなぁ、俺の知識もネットでのうろ覚えだから役にたたないや。
プロペラなんか作れないし。
そう考えると便利な魔道具や竜騎ってのも考えもんだな。
新しい発明がなかなか生まれない元になってる。
研究できる資金を集めるのは難しいだろう。
ガルデルさんとペペさんは、そのままグライダーのテストに海岸に向かった。
俺は家に帰りダラダラ過ごす。
次の日、俺は朝から気合を入れて外出した。
向かう先はグラナドス牧場だ。
今日は闘牛剣と半円赤布を持って来ている。
これまでの訓練で、闘牛士の闘牛技の演技は十分できると思うのだが、最後の刺殺をまだマスターしていない。
この一撃刺殺だけは、練習することはできず、実際に魔牛を倒さないとスキルを手に入れることができないと考えている。
というわけで、今日、俺は自分の魔牛を刺殺するつもりだ。
それができなければ、俺は闘牛士にはなれない。
「やっほー、おはようソール。今日も練習かしら?」
「うん。おはようパッツィ、魔牛を出してくれるかな」
「分かったー」
パッツィは今日も可愛かった。
あいかわらず尻尾ブンブン振ってるな。
いつもあんなに振るのだろうか?
思わず掴みたくなるが、
獣魔狼族にとっては尻尾を掴むのはエロいことになるのだろうか。
牛舎からパッツィの誘導で魔牛が現れる。
魔牛の目は赤く、憎しみに染まっている気がする。
あいかわらず俺に敵意を向けてくる。
魔牛は人間には決して馴れないのだ。
「それじゃ、またお昼にね。チャオ」
そう言うとパッツィは去っていった。
最近この牧場で練習する時は、パッツィと必ず一緒に昼食を摂ることになっていた。
話すことは、たわいもない話題ばかりだけど、どういうつもりなのか?
ひょっ、ひょっとして俺に惚れてるとか?
うーん、どうなんだろう。
違うのだったら恥ずかしい黒歴史になってしまうが。
なんか気になるな。うん。童貞には分からんことだ。
どどど……童貞ちゃうわ!
いや、童貞ですけど。
乱れた思考を整え、俺は闘牛剣と半円赤布を装備。
柵を飛び越え魔牛と相対する。
魔牛は半円赤布の動きに反応。
すぐさま突っ込んでくる。
俺は半円赤布の動きだけで魔牛をさばく。
魔牛が俺のすぐ横を通り抜けるが、俺は1歩も動いてはいない。
これが闘牛技。
その後も無言の死闘が続く、複雑な動きをする魔牛。
俺はその呼吸を読んで、一歩先に動くことで魔牛を翻弄する。
そう、ここまではいいんだ。
問題は一撃刺殺。
やりかたは簡単。
魔牛の背中に細身の剣を刺し込み、骨をかわして一撃で心臓を貫く。
だが、口でいうほど簡単ではない。
実際の魔牛相手に、どの程度の速度、角度、タイミングで打ち込めばいいか。
それは剣で一撃刺殺を成功させなければ分からない。
俺は魔牛を疲れさせるために、10分間魔牛をさばき続ける。
俺と魔牛は動き続けるが、ふとした拍子に動きを止めて睨みあう。
ここだ。
俺は右手の闘牛剣を高く掲げる。
この剣は柄の部分がリング状になっており、俺はそのリングに人差し指をかけ、軽く剣をもつ。
剣先を下に向け、打ち下ろしの体勢。
俺は集中力を高める。
刹那。
魔牛が突撃する。
俺は半円赤布を回転。
巧みに誘導に成功。
俺の体の右側を抜ける軌道を魔牛はとった。
そこだ!
俺は全力で闘牛剣を振り下ろす。
ガァァァン!!
「ぐぅ!」
俺の肩に衝撃が走る。
しまった。
魔牛の体に入った剣は、骨格に阻まれ、跳ね返されたのだ。
肩の衝撃は痛みに変わる、俺は剣を落とす。
まずい!!
走り出そうとしたが、魔牛が1歩早かった。
俺は後方から激突され、数メートル吹き飛ぶ。
倒れた俺に、さらに魔牛の追撃がかかる。
魔牛は俺の体の下に角を差し込む。
俺は咄嗟に受身をとる。
その直後、激しく体を跳ね上げられる感覚がして、俺は地面に叩きつけられた。
体の痛みで全身の感覚が消えうせる。
ふと横を見ると、そこには柵があった。
いつのまにか端まで飛ばされていたのだ。
俺は残った力を振り絞り、柵に取り付き、登り始める。
柵を半分登った所で、再び魔牛に足を刎ね飛ばされる。
俺は柵の外に背中から落ちた。
「つぅ……」
痛い。体中が痛い。
俺の意識は徐々に遠のく……
「ソール! ソール!!」
遠くから誰かの叫び声が聞こえる。
ああ、これは……パッツィ
……か。
俺は意識を失った。
第10話「探索者登録」
⇒第11話「一撃刺殺」




