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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第一章 出会い
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5 魔女と少年

 オズウェルは三日間程眠り続けた。

 三日の間に、ジュラはオズウェルの服を数枚制作した。靴も二足作り、ローブまで作ってしまった。

 四日目の朝。オズウェルは二階の寝室で目覚めた。


 「おはよう、オズウェル。良く寝たねぇ。気分はどう?」

 

 「・・・おはよう、・・・ジュラ、さん。・・・気分は、大丈夫、です」


 オズウェルの表情は何処か茫洋しているようで、応えもぎこちない。


 「薬湯だよ。・・・ゆっくり飲んで。」


 ジュラはオズウェルに薬湯の入った器を渡すと、飲む介添えをした。


 「オズウェル、少し話せる?無理なようなら、もう少し寝てていいよ」


 「・・・いいえ。大丈夫です。話せます」


 オズウェルが薬湯を全て飲み終えたのを確認すると、ジュラは彼に話しかけた。今度は先ほどよりも幾分、しっかりとした答えである。


 「そう?無理はしないで、ね?」


 「ええ、分かりました」


 ジュラはオズウェルの異色の目を覗きこみながら、その目がしっかりと見つめ返してくるのを確認してから、話し始めた。


 「名前は、オズウェル、で間違いない?」


 質問にオズウェルは小さく頷く。

 

 「ここは黒い森ミリロコウ。私は霊樹の根元に住む、土の魔女のジュラ。魔の森ナロモミで、オズウェルが怪我をしているところを見つけて、まぁ、助けたんだけど」


 魔の森ナロモミで一体何があったのか、そして、オズウェルと、あの魔剣は何なのか。ジュラはどれから尋ねたらよいの分からず、一旦会話を止めてしまった。

 第一、オズウェルがそのことを記憶していない可能性も高いのだ。自分が何者であったのかすら、覚えていないかもしれない。


 「私は、ソルスト帝国の騎士でした。ゾルウェストの森、魔女はナロモミと呼びますが、その近辺の集落に、魔物が出没したので討伐に出向いていました。」


 オズウェルは話すのをやめたジュラの代わりに喋りだした。


 「魔物自体は下位のスカルビーストでしたが、数が多く、討伐には数日掛かりました。魔物は森の近くの遺跡が発生源のようで、原因を突き止めるために内部に入りました。私は、小隊を率いていましたが、その30人全員が遺跡に入ると、魔法陣が発動し気付いたら、森の中にいました」


 「魔法陣?」


 「はい。天井に描かれていたので、発動するまで気付かなかったのです。」


 オズウェルはそこで、視線を逸らした。

 それまで話しを聴いていたジュラは、驚いていた。オズウェルの話しの内容にではない。

 オズウェルが全く知能を失っておらず、おそらく記憶にも甚大な欠損が見られないことに対してだ。


 「おどろいた。良く、覚えているねぇ」


 ジュラの心のからの感嘆の言葉に、オズウェルは微笑を浮かべた。

 それは、子どもの姿には似つかわしくない艶を含んだものだったのだが、


 「ええ、それ以降の事も、全て、覚えています。」


 「そう、それ以降の、事も、・・・え?」


 「身体が動かず、声さえ出ない状況でしたが」


 オズウェルの告げた言葉はジュラに思考を一時停止させた。彼が言っていることが正しければ、ジュラが施術をしている間も、彼の意識は起きていたことになる。

 四肢を別のモノにすげ替えられ、器官を組み替えられている間の三日間を、ずっと!


 「意識は、はっきりしていましたが、視界は不鮮明で良く見えませんでした。左目も潰れていましたしね。気配だけしか、分かりませんでしたが」


 ジュラはオズウェルの話していることが、すり抜けていくようだった。

 

 ソルスト帝国は中央大陸にある人間の大国の一つである。そこの騎士ということは、人間で間違いないだろう。小隊を率いていたということは、貴族であったのかもしれない。

 

 「一人で森の中にいた間は、地獄でしたね。知覚や痛覚は正常に働いていたので。心臓が脈打つたびに、灼熱の杭を打たれているようでした」

 

 オズウェルは実に穏やかに話している。子どもの姿には、些か似つかわしくない落ち着き振りでは在るが、本来の年齢でないから感じる違和感だろう。

 だが、それ以上に違和感を感じるのは


 「気が狂いそうでした。でも、正気を失いそうになると、それも正常に修復されました」


 自身が受けた惨状を、穏やかに、微笑さえ浮かべて喋っている、オズウェル自体だ。

 

 人間が、それほどの仕打ちを受けて正常でいられるわけがない。例え魔剣の力で強制的に正常に戻されていたとしても、その影響が消え、記憶だけが残った人間が、正常な精神を保てるだろうか。

 

 淀みなく喋り続けるオズウェルは、美しい少年である。数年後、美青年になることが約束されているような、容貌をしている。

 

 死にかけの人間と、半端な魔剣。寄せ集めの材料から生まれたとは思えない、完璧な肉体。

 そう、妖天の繭から出てきたオズウェルは、とても合成獣キメラには見えなかった。

 まるで、そのまま産まれ出でたかのような、完成された肉体だったのだ。


 「オズウェル」


 「何ですか?」


 「あなたは、一体、何ですか?」

 

 呆然と呟くジュラに、オズウェルは僅かに沈黙した。答えを探しているようだったが、ふと、艶やか笑みを浮かべると、ジュラに


 「さぁ、わかりません。それに、私を創ったのは、ジュラさんでしょう?」

 

 と、囁くように答えた。



 

ばたばた投稿したせいで、誤字がわんさかある気がします。


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