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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第三章 魔女と人
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5 再会

ふと気が付くと、ジュラは見知らぬ石畳の上でうつ伏せに寝ていた。〈アジュールの黄金蝶〉で受け取った魔石を抱え込むようにして倒れていたようだ。


 「うぅ、・・・いたたた」


 ジュラは、怪我をしている右肩を庇うように体を起こした。多少ではあるが、自動回復作用のあるローブを身に付けている為にある程度肩の怪我は回復していた。


 「・・・ここ、どこだ?」


 体を起こし周囲の状態を観察したジュラは呆然と呟いた。ジュラが寝ていたのは石造りの教会のようなところで、教会の中央ら辺に倒れていたようだ。


 「無作為に、転移しっちゃったみたいだ。・・・これの、所為かな」


 ジュラは石の床に座りこんだ状態で、抱えたままの小包を開いた。薄茶色の皮袋に包まれていたのは、鈍く橙色に光る拳大の石である。

 〈アジュールの黄金蝶〉で手に入れた暁の涙と呼ばれている魔石だ。通常であれば道端に転がっている石と大差無い見た目なのだが、今はジュラの魔力に反応して薄っすらと発光していた。

 土の魔女であるジュラは大地に愛されている。大きな力を持つ暁の涙が、ジュラの危機に反応して転移魔法を発動したのだろう。

 しかし、転移魔法は複雑な魔法だ。混乱状態のジュラの精神に影響されて、転移先が無作為になってしまったようだった。暁の涙は魔力を放出した名残で僅かに熱を帯びている。ジュラは暁の涙を、丁寧に皮袋に包み直した。


 「はぁ、・・・どこかな、ここ。全く見覚えが無いのですが」


 ジュラは、ゆっくりと立ち上がると辺りの様子を窺った。美しく装飾のされた教会のようである。だが、あちらこちらに破壊の跡が見られる。おそらくここで戦闘があったのだろうが、かなり壮絶な戦いだったのだろう。

 教会の奥には巨大な像が安置されていた。一振りの剣を正面に構えた、男の彫像である。しかし、所々に亀裂が走り、今にも倒壊しそうだ。

 辛うじて屋根は無事だが、壁には無数の穴が空き外の景色がちらちらと見える。

 外は、かつては美しい庭園であったのだろうが、こちらも見るも無残に荒らされていた。

 そして、外も屋内にも不思議と人の気配が無い。

 

 「はて?本当にどこだ?場所が分からないと、元の場所にも帰れないや・・・」


 ジュラは教会と思われる建物の中から外の様子を伺い、途方にくれてしまった。


 ――・・・オズとヴァスも探してるよねぇ。・・・ああ、オズって怒ると、怖いんだよねぇ


 どうすることも出来ず、破壊の跡が残る壁に寄りかかり項垂れていると、誰かが此方に近づいてい来る気配を感じだ。

 どうやら人の気配は教会の外の方から近づいてくるようだった。ジュラはそちらの方に向おうとして、崩壊した壁から伸びてきた手に引きずり込まれた。

 

 「うぎゅっ!」


 ――うそっ、また!


 教会の外に引きずり出されて、ジュラはとっさに背後の存在に魔力の塊をぶつけようとした。魔法として構築されていなくても、大量の魔力を突然浴びると普通の人間であれば簡単に気を失ってしまうだろう。


 「しっ、静かにしろって」


 しかし、背後から聞こえてきた声は意外にも聞き覚えのある声だった。神経質そうな男の声である。教会に入ってきた者達に悟られないように、声を潜めている。


 ――んん?この声ってたしか・・・


 「エディッ・・・!」


 「!!静かにしろって」


 背後にいた男、エディッツはジュラの口を塞ぎ直しながら、低く叱責した。

 ジュラは思わぬ知人にあった事に驚きながら、目をぱちくりさせながらも、エディッツに了解した事を伝えるために細かく頷いた。


 「・・・静かに、しろよな?」


 エディッツに口を解放されたジュラは、自分の手で口元を覆いながら頷いてみせた。

 エディッツはジュラが大人しく黙っているのを確認すると、教会の様子を物影から確認していた。どうやら、先ほど教会に入ってきた者達はこちらには気づかなかったようだ。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 ジュラはエディッツの言いつけを守って自分の手で口を塞いだまま、エディッツの動向を見守っていた。


 「・・・もう、いいぜ。大声出さなきゃ大丈夫だろう」


 「あ、はい」


 再会したエディッツは、出会った当初とはかなり雰囲気が違って見えた。

 何処か投げやりで淀んでいた気配が消え、鋭い戦士の気配を纏っている。


 「・・・あんた、どうして此処にいるんだ?」


 「へ?」


 エディッツの事をぼうっと見ていたジュラは、突然話しかけられて驚いたように目を瞬かせた。

 エディッツはきょとんと不思議そうな顔をしたジュラを見て、俄かに顔を険しくした。


 「おい、あんた、此処が何処だか分かっているよな?」


 「え?えーと、・・・どこですか?ここは」


 「・・・・・・」


 なんとも曖昧な笑みを浮かべるジュラを、エディッツは呆れたように見つめた。

 ジュラ、土の魔女の姿はエディッツが別れたときとそう変化は無い。一番大きな違いと言えば。


 「おい、あんた一人か?オズウェルと、あのでけぇ虎は?」


 「え?あ、えーと。・・・はぐれ、ちゃって」


 「はぐれた?あいつと?」


 エディッツは不審そうにジュラのことを見た。


 ――・・・あんなに、執着していたのに?


 しかし、目の前にいるジュラは本当に困っているようだ。嘘を吐いている様には到底見えない。


 「ここは、ええとぉ、コスタですか?エディッツの故郷の」


 「は?・・・ああ、違ぇよ。ここは」


 ソルスト帝国、帝都クリスタバルにあるコロッテ大聖堂。大国の建国者と云われている英雄ティベリオスを祀っている、帝国最大の聖堂である。


 「コロッテ・・・大聖堂?ソルスト帝国の?」


 「ああ、そうだ。なんだって、こんなところにいるんだよ」


 「え?いや、それは・・・」


 ジュラが不審そうにこちらを見ているエディッツに事の次第を説明しようとしたとき、エディッツが鋭い視線を教会内へと向けた。


 「ちっ、気づかれたか」


 「・・・え?」


 確かに、聖堂内では先ほどは感じられなかった人の気配がしている。複数の男の声が聞こえ、此方の事を探しているようだ。

 エディッツは腰の後ろに差していた双剣を抜くと、壊れた壁からするりと屋内に入った。

 ジュラがエディッツの行動についていけず、その姿を呆然と見送ってしまうと、やがて聖堂の中で人々が争う気配がしてきた。

 エディッツの後を追うようにジュラは聖堂内を覗きこんだ。聖堂内では一人の男と、エディッツが争っている。エディッツの足元には、既に二人の男が倒れていた。倒れている男達も、エディッツと対峙している男も騎士のような出で立ちで、両刃の剣を構えている。

 皮鎧しか防具を身に付けていないエディッツの方が軽装備だが、金属鎧を身に付けている騎士の男は完全にエディッツに押されていた。


 「ぐっあ!」


 二人は暫らくの間競り合っていたが、やがてエディッツの剣が騎士の男の脇腹に突き刺さり、地面に倒れた。

 倒れた三人の下には赤い血溜まりが広がっている。おそらく、生きている者はいないだろう。


 「・・・あっ」


 その様子を物影から見ていたジュラは、思わず声を上げた。丁度、エディッツの死角になる左後ろ側の支柱から、彼を狙っている弓兵がいる事に気づいたのだ。

 ジュラの声に反応してエディッツが振り返るが、間に合わない。エディッツの首を正確に狙っていた矢は、兵士の手から放たれてしまった後だった。


 「っつ!」


 しかし、放たれた矢はエディッツの体を貫くことはなく、空中で目に見えない何かに叩き落されてしまった。


 「相変わらず、詰めが甘いね。エディッツ」


 弓兵の背後から美しいの少年の声がした。弓兵は矢を放った状態のまま固まっている。そして、力無く地に崩れ落ちた。


 「・・・カミーユ、団長」


 柱の影から兵士の死体を乗り越えて出てきたのは、肩の上辺りで切り揃えられた黄金の髪を首筋辺りで煌かせている美少年、カミーユだった。


 「あの時以来かな?」


 カミーユはエディッツと同じような軽装備で、少年傭兵のような姿をしていた。


 「・・・団長が、どうしてここに?べスツェートに居るのでは?」


 エディッツはカミーユの登場に呆然としている。


 「それは、こっちの質問だけどね。なんで、反乱拠点のコスタじゃなくて、帝都のコロッテ大聖堂にエディッツがいるのさ?」


 カミーユは右手に持っている細身の剣を軽く振りながらエディッツの方へ近づいてくる。


  繊細な装飾の施されている細身剣は、きらきらと陽光を反射しながら真っ直ぐにジュラが隠れている壁の方向を指した。


 「何か、見慣れない連れ合いもいるみたいだし?」




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