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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第三章 魔女と人
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4 暴力と死

残酷な描写あり

 ジュラはドゥエルグの集落を飛び発った後、真っ直ぐアサージュの港へと向った。

 〈ダリアの宝石店〉に寄るだけの予定だったので、いつも利用する〈銀の子猫亭〉で部屋は取らず、直接〈ダリアの宝石店〉へと降り立った。

 しかし、残念な事に〈ダリアの宝石店〉にジュラの望むものは無かった。


 「んもう、魔女殿ったら、相変わらずなのねん。この間も言った通り、今は帝国のごたごたの所為でまともな魔石は手に入らないのよん」


 「そうですかぁ・・・」


 「残念だけどねん。・・・でも、ひょっとしたらアジュールの店には良い物が入っているかもしれないわぁ」


 「え!ほ、本当ですか!?」


 ダリアはさっきまでしょんぼりとしていたジュラが、急に元気になったのを見てクスリと笑った。


 「確実に、とは言えないけど、この間良い物を仕入れたと言っていたわん。あそこは原石を仕入れることは珍しいから、まだあるかもしれないわよん」


 「ありがとうございます!さっそく行って見ます!!」


 「そう、って、・・・あら、ちょっとぉ!?」


 ジュラは挨拶もそこそこに、商談室を出て店の正面入り口から外に飛び出して行った。

 裏口に待機している、オズウェルとヴァスのことを置いて。


 「んもう!本当に、せっかちねぇ、魔女殿ったらぁ!!」


 残されたダリアはぷりぷりと怒りながら、ジュラの連れ合いであるオズウェルとヴァスが待たされている裏口へと向った。





 ジュラはアジュールという名の鳥の獣人が経営している宝飾店に着いていた。

 〈アジュールの黄金蝶〉という名前の店にジュラが行く事はあまり無い。だが、極稀に珍しい魔石を仕入れていることがあるので、時々訪れるようにしていた。


 「ほほっ、よう御座いました。我々も少し、持余していたのですよ」


 梟の獣人である店主、アジュールはどこかほっとしたようにジュラに魔石を差し出した。


 「これは、・・・暁の涙ですか」


 「ほほっ、そうです。傷も無く、大変良い状態で手に入れたのですが、物が物ですから中々お譲りする人が居なくて、困っておりました」


 ジュラの前には拳大の魔石が淡い輝きを放っている。


 「譲って、いただけますか?」


 「ほほっ、魔女殿であればもちろんですとも!対価も十分で御座います」


 アジュールは実に満足そうに頷いている。


 「さっそく御包みいたしましょう!」


 アジュールはジュラの目の前で素早く魔石を包み、彼女に渡した。


 「ありがとうございます!」


 「ほほっ、いえいえ、お帰りは十分お気をつけ下さい。最近は素行の悪い傭兵共が、増えて居りますから」


 ジュラはアジュールに見送られて意気揚々と〈アジュールの黄金蝶〉を後にした。

 だが、そのあと直ぐに困った自体に陥ったのだ。

 

 〈アジュールの黄金蝶〉から〈ダリアの宝石店〉までは大通りを通って行けば、10分も掛からない距離である。しかし、ジュラが何時もの道を通ろうとしたとき、傭兵の集団が大通りを占拠していたのだ。おそらく、集団で戦場に向う傭兵団だと思われた。

 厳つい男達が十数人集まっているだけでも近寄りがたいが、間の悪い事にどうやら二つの傭兵団が争っているようだった。

 大通りはあっという間に人気が無くなり、路地に面している店は素早く閉店の札を出している。


 ――うわぁ・・・これは通れないなぁ。仕方ない、裏道を通るか。ええっと・・・、確か、こっちだったような?


 入り組んだ裏道を通っているうちに、ジュラはあっという間に迷ってしまった。普段、人の町を歩くことがないのだ。無理もない話しである。

 そこで、ジュラは仕方なく一度大通りに出直そうと思ったのだ。細い路地から中央に繋がる大通りに出ようとしたとき、そこにも傭兵団が集まっているのが目に入った。それも、先ほどの団体よりも人数が遥かに多い。


 「・・・ええ、どうしよう。戻れなくなっちゃった」


 魔石の包みを抱えたまま大通りの様子を途方に暮れたように窺っていたジュラは、背後に迫る存在に全く気付いていなかった。


 「二人とも、・・・心配してるよなっ、うっぐ」


 突然、ジュラは背後から口と目を塞がれ、路地の奥の方へと引きずり込まれた。


 ――な、何、何!?


 視覚を失い、体も締め付けるように拘束されて、ジュラはパニックに陥った。

 何とか拘束を解こうと腕を動かしたり、足をばたつかせてみたが、拘束は一切緩まない。

 

 「んんー!!んんんーー!!」


 声を出そうとしても、篭った声しか出ず、無駄に体力を失っただけだった。

 やがて、ジュラはいきなり石畳の上に放り出された。突然のことに当然受身も取れず、ジュラは強かに右肩を石畳に打ちつけてしてしまった。


 「うっ、く・・・いったぁ」


 解放された両目に入っている光が眩しく、周囲を上手く見る事が出来ない。強打した右肩が熱くなり、そして激しく痛みだした。

 自分の周囲で誰かが話しているのが分かる。複数の男の声であるようだ。だが、体を強く打ちつけた影響か、何故か音が遠く良く聞き取れなかった。


 「・・・おい、町のやつに手を出すと、後々面倒だぞ」


 「わかってるって。見てみろよ、この髪と肌、こいつ人間じゃねぇよ」


 「・・・確かにな、それにこの格好、旅人か?」


 「それか、俺達と同じ傭兵かもな。女魔術師じゃねぇか?」


 「はっ、なら丁度いい。俺達の旅団に入れてやろうぜ!」


 「やった後に、生きてたらの話だろ」


 「おい、死体は面倒だぞ」


 「・・・ふん、帝国から逃げてきた奴隷ってことにして、外に捨てときゃ誰も気付かねぇよ!!」


 男達のだみ声は、ジュラの耳には酷く不鮮明に響き、意味の為す言葉として聞き取れなかった。


 ――ああ、だめだ。何を言っているのか、わからな、い


 「・・・ぐっ」


 ジュラは何とか体を起こそうとして腕を立てようとしたが、出来なかった。

 肩を激しく踏みつけられたのだ。


 「あぁ、うぁああああっ!」


 打ちつけた右肩を遠慮なく踏みつけられて、ごきりとジュラの肩から嫌な音がした。


 「おいおい、やるまえに、殺ってどうすんだよ」


 「ああ?多少痛めつけとかねぇと、抵抗されても面倒だろ」


 「魔術師なら、口を塞いでおいたほうが良く無いか?」


 「ん?ああ、そうだな」 


 ジュラは肩の痛みのせいで周囲の男達の声が耳に入ってこなかった。


 ――肩が、うぅ・・・

 

 もはや、ジュラは痛みに耐えることに必死で、声を出すことすら出来ずにいた。


 男の一人がジュラの口を塞ごうと手を伸ばしたとき、男の両手が血の帯を描きながら空中を舞った。


 「え?」


 ジュラを足で踏む付けて押えていた男は、その光景に思わず足をどけ後ずさる。

 両腕を突然失った男は、血を吹き上げる自身の両腕を呆然と見ていた。


 「なん、だ・・・これ、え?」


 男は痛みを感じていないのか、自分の腕を不思議そうに見つめている。

 

 「なんだ!?幻術か!」


 その様子に、周囲でジュラを取り囲んでいた他の男達が俄かに騒ぎ出した。


 「この女じゃねぇか!?」


 「くっそ、この!!」


 逆上した男達の数人が、ジュラを押さえつけようと飛びかかった。


 「はっ?」


 「え?」


 「何、だ?」


 しかし、最初の男と同じように、男達の両腕は一瞬の内に切断されてしまった。切断された男達の両腕が、クルクルと弧を描き宙を舞って地に落ちる。


 「・・・何だ、・・・これは幻術なんかじゃ無いぞ!」


 遠巻きに全体の様子を見ていた一人の男が愕然と呟く。

 男が指摘するように、地面に広がる血の状態や臭いが、目の前で起きている事態が幻では無い事を証明している。

 両腕を失くした者達は、血を流し続けている自分の腕を呆然と見ている。その顔色は徐々に青白くなり、生気が失われ始めていた。


 「・・・おい」


 その空間に残っていた、何の被害も受けていない男二人が、お互いに目配せをしてその場から離脱しようとした。


 「・・・え?」


 「・・・そんな」


 そこで始めて、二人の男は自分達の両足が失われていることに気付いた。

 なぜか全く痛みは感じないが、両足からは尋常ではない量の血が溢れ出ている。

 慌てて両手を使って押えようとするが、両手どころか男達の両腕はいつの間にか切り落とされている。


 「なんだ、なんだ、何が」


 見渡すと、どの男達も両足両腕を失っていた。そして、同時に魂を吸われてしまったかのように無気力になっていた。


 地面には男達の体から流れ出た血が広がり、赤い湖を作っていく。男達はその様子を、ただ、ただ見つめていることしか出来なかった。虚ろな目をした男達は、何時の間にか、ジュラの姿が消えていることにすら気付いていない。

  

 ぞろり ぞろり


 やがて、赤い湖は意思を持っているかのように男達の体に纏わりつき始めた。

 男達は体の半分が自身の血液に飲み込まれると、突然、狂ったように絶叫し始めた。


 あああああぁああああぁ

 

 いてぇ いいぃいてぇ 腕が 足がぁ!


 ううああああぁあああぁぁ


 男達の断末魔の悲鳴は、やがて体と一緒に血の湖に飲み込まれていく。


 寒い 寒い ここは、寒い 目が 俺の目が

 

 ひひぃぃぃいぃぃ 


 暗い 暗い 寒い 暗い 暗い 暗い 寒い


 いいいぃいいぃいいひひひ


 男達の悲鳴の合間には、何かの泣き声のような笑い声のようなものが混ざって聞こえる。しかし、それもやがて血の湖の中に沈んでいった。


 血の湖に全てが沈んでしまうと、そこには血に濡れた双剣が地に突き刺さっているだけだった。双剣の刀身には、破壊と破滅を司るといわれる双子の邪神が刻まれている。


 ぞろり ぞろり


 不気味な音を発てて血が剣へと吸い込まれていく。やがて、全ての血が双剣の中へと消えてしまと、忽然と人影が現れた。

 漆黒の服を着たオズウェルだ。彼は双剣の上に手を翳す。すると二本の剣は溶けるように消えてしまった。


 オズウェルは誰もいなくなった路地に視線を巡らせる。そして、ある一点を見つめると軽く異色の両目を細めた。


 「あぁ、何やってんだぁ!あいつらは」


 「適当に、遊んでるんだろう」


 「遊ぶ?宿屋どころか、娼婦館も満室なんだぜ?」


 路地の奥から数人の男達の声が聞こえる。おそらく、先ほどの男達の仲間だろう。

 男達はオズウェルのいるところへと向っているようだった。


 「お前ら、何時まで・・・」


 シュッ  カ   


 「へ?」


 路地の角から顔を出した男の頭に、軽い音を発てて細い矢が突き刺さった。その矢は男の口から後頭部を貫通し、後ろにいた男の首に刺さる。

 そして、刺さった矢はどす黒い炎を上げて燃え始めた。


 「灰すら、残すな。地獄の底で、魂すら塵も残さず消え果てるがいい」


 炎は男達の全てを包みこみ、灰も残さず燃やし尽くしてしまった。


 オズウェルの右手には美しい朱金の長弓が握られている。長弓は極東で聖鳥といわれている、鳳凰の意匠が施されいた。

 その長弓も空気に溶けるように消えてしまった。


 そして、オズウェルの姿も幻のように消えてしまう。


 路地には誰の姿も無くなり、血の痕跡も、死の気配も消え、静寂だけが何事も無かったよう辺りに満ちていた。



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