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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第三章 魔女と人
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3 魔女の噂

リジュアにあるアサージュの港は人々で溢れていた。しかし、賑やかというよりはどこか騒々しい。普段は、港町として漁船や他国からの商船で賑わっている港町は、武装した傭兵達であふれかえりその様子を一変させていた。

港町のあちらこちらを、厳つい傭兵達がうろついていた。そのため、町にはどこか殺伐とした空気が流れている。

 

 「どうしよう、・・・迷っちゃったなぁ」


 細い路地から中央に繋がる大通りを覗き見ていたジュラは、力無く呟いた。


 「・・・はぁ、どうしようかなぁ」


 ジュラは腕に抱えている小包を抱え直しながら、細い路地裏から出られずにいた。

 ジュラがアサージュを訪れたのは、〈ダリアの宝石店〉に用があったからである。本当であれば、〈ダリアの宝石店〉に来る予定は一切無かったのだが。急遽、魔石が必要になったのだ。しかし、望むものは〈ダリアの宝石店〉には無く、少し離れたところにある〈アジュールの黄金蝶〉という店を訪れた帰りだった。


 前回の仕入れ以降、黒の森ミリロコウにある自宅で細々とした製作をしていたジュラは、ソルスト帝国が未曾有の大混乱に陥っているなど知る由もなかった。


 それを知ったのは、ここに立ち寄る前によったドゥエルグ族の集落でのことだ。

 ダンダスの工房を訪れたジュラは、その人の多さに驚いた。元々、腕のよい鍛冶士であるダンダスの元には冒険者や傭兵などがよく訪れる。しかし、ジュラが訪れたダンダスの工房は、何時もの四倍近くの人に溢れていた。


 「ええい!!そんなに一度に注文は受けられん!!悪いが他を当たってくれ!!」


 ざわざわと何時も以上に騒がしい工房内に、ダンダスの怒声が響き渡った。


 「出来んもんは、出来ん!!俺は中途半端な仕事はせんからなっ!!さぁ、出てった、出てった!!俺は仕事が立て込んでんだ!!」


 結局、工房の中に溢れ返っていた人々は、顔を真っ赤にさせて怒鳴るダンダスに追い出されてしまった。


 「なんだか、とても忙しそうだね?」


 「そうだ!忙しい!!だから注文は受けてねぇ!・・・って、なんだ、お前さんか」


 ダンダスは後ろからした声に怒鳴り返そうとして、ジュラの姿を認めると拍子抜けした顔をした。



 「忙しいなら、出直してこようかな?」


 「ああ?いや、構わねぇよ。俺も少し休みたいところだったからな」


 ダンダスはそういうと、一度工房の奥へと引っ込み小ぶりな樽を抱えて戻ってきた。


 「仕事前だからな、酒は飲めねぇがな。まぁ、これならお前さんも飲めるだろう」


 樽の中には山葡萄の果汁が満たされていた。


 「おらよっ」


 「あ、ありがとうございます」


 ジュラはダンダスから山葡萄の果汁が並々と注がれた器を受け取った。 


 がぶがぶと果汁を飲み干すダンダスの横で、舐めるように果汁を飲むジュラは感心するように話しかけた。


 「随分と忙しそうだね。何にかあったの?」


 ぶっっはぁああ


 「うっ、うわぁあ!ちょっと、どうしたの!?」


 ジュラの話を聞いたとたん、隣に座っていたダンダスが盛大に噴出した。ダンダスの正面の床は紫色に染まっている。

 ジュラはその状態を見て、正面に座っていなかった事にほっと胸をなでおろした。


 「そ、ごっほ!・・おっ、げっふ、・・・いっ、ごっほ!?」 


 「ええと、大丈夫?」


 激しく噎せるダンダスが落ち着くのに三分ほど掛かり、涙目のダンダスから訳が聞けたのは片付けが済んだ後だった。


 「・・・ああ、びっくりしたぜ!」


 「・・・うん、そうだね」


 「にしても、お前さん、何も知らねぇんだな?」


 「・・・?何をですか?」


 ダンダスは目の前できょとんとしているジュラを見て、疲れたような溜息を吐いた。


 「ソルスト帝国は、お前さんの話で持ちきりだぜ?土の魔女のよ!」


 「・・・へ?」


 帝都クリスタバルで起きた事件、帝国内で起きている暴動。そして、暴動を扇動してると言われている魔女の存在。

 ダンダスから聞いた話はジュラにとっては寝耳に水だった。

 

 「そんな、まさか」


 「さっきここに来てたのは、帝国の暴動に便乗しにきた傭兵か、冒険者崩れの火事場泥棒だ」


 ダンダスは渋い顔をして溜息を吐いた。


 「今、帝国内はひっでぇ事になってるって話だ。治安も何も、あったもんじゃねえ。・・・その間に、金目の物を掠め取ろうって、下種な連中だ」


 「・・・一体、何が」


 「さぁ、俺ぁてっきりお前さんが関わってるのかと思ったが、・・・その様子だと、全く知らなかったみたいだな」


 ダンダスの言葉にジュラは軽く頷いた。その顔色は青白くなり始めている。


 「そうか。・・・俺も始めは、お前さんが関わっているとは思わなかったんだ。でもな」


 顔色の悪いジュラに、心配するような視線をダンダスは向ける。


 「帝国で暴動が起きる直前、俺はたまたま近くに素材を仕入れに行っていたんだ」


 ダンダスはそのときの事を思い出すように、中空を睨んで話しだした。


 「そのとき、確かに帝国中央で焔竜王の剣の気配を感じたぞ。だから、俺はひょっとしたら本当の事なのかと・・・」


 「え、ええ!!」


 「ほら、お前さんが十五年くらい前に、どっかの遺跡で見つけて、鍛え上げてたあの魔剣だ。一度だけ、見せてくれただろう」


 目を見開いたまま固まっているジュラに気付かず、ダンダスは話し続けている。


 「いや、あれは見事な物だったな。主原料に使われているのはアダマスートで、副原料にも惜しみなく」


 「焔竜王の剣!そんな、うそだ!」


 「うぉお!?な、何だ!どうした!?」


 ダンダスは突然椅子から立ち上がり、叫びだしたジュラに驚いて椅子から転げ落ちてしまた。


 「そんな、焔竜王の剣は」


 「な、なんだ、お前さんが持っているんじゃないのか?あんなに、大事にしていたじゃねぇか」


 ジュラは厳しい顔つきで石で出来た机を睨んでいる。


 「・・・剣は、焔竜王の剣は、・・・あのとき、他の魔具と一緒に」 


 「・・・?おい、どうした?」


 ダンダスは一点を見据えて微動だにしないジュラを心配そうに覗きこんだ。

  

 「あのとき、他の魔具と一緒に、・・・どこへ?」


 「おい、大丈夫か?」


 心配になったダンダスがジュラを椅子に座らせようとしたとき。ジュラが入ってきた裏口から、オズウェルが顔を覗かせた。


 「・・・どうしました?」


 「あ・・・オズ」


 ジュラはオズウェルの声を聞いて我に返ったようだ。しかし、どこか呆然とオズウェルの事を見ている。


 「おお?!何か、すごい事になってるなぁ、おめぇ!!」


 ダンダスは工房に入ってきたオズウェルを見て感嘆の声を上げた。


 「物理耐性に物理防御強化、精神耐性に魔法反射。物理防御強化は・・・刺突、斬撃、打撃、全部か。精神耐性は・・・ん?闇と炎以外全部だな?なんで、この二つは耐性を付けて無いんだ?・・・ああ、元々この二つの耐性が高いのか。ふむ、」


 オズウェルの周囲をうろうろと動きながら、ダンダスは感心したように頷いていた。


 「いやー、こいつは久々にいい代物じゃないか!生半可な攻撃じゃあ、傷一つ、つかんな。・・・おまけに自動回復、自浄作用もついてるのか」


 最終的に、ダンダスは呆れたようにオズウェルの側から離れた。


 「・・・何つー普段着だ、信じられん」


 ダンダスの目の前には、黒を基調とした衣服を身に付けたオズウェルが立っている。一見すると何処かの軍隊の軍服のように見える。しかし、細かく施されている装飾が、増産されたものでは無い事を証明していた。軍服のような形になったのは、動き易さを考えた結果のようだ。


 オズウェルは少し長くなった髪を後ろで軽く結んでいる。帯剣はしておらず、何の武器も装備していないのだが、何故か完全装備の重騎士よりも威圧感がある。


 「良い出来でしょ?着用者の意思で、意匠を変えることも出きるんだ。少しだけだけどね!」


 「・・・・・・」


 胸をはって答えるジュラに、ダンダスは何とも言え無い視線を向けた。

  

 ――相変わらず、何処かずれてんだよなぁ


 「ところで、何の話をしていたのですか?」


 ダンダスがしみじみと思っていると、オズウェルが二人に対して尋ねた。


 「えっ?」


 「んん?ああ、ソルスト帝国で起きてる暴動の話だ」


 オズウェルの質問に、ジュラは固まってしまい代わりにダンダスが答えた。


 「まぁ、もうはや帝国とは呼べない状態だがな」


 ダンダスはそう締めくくると、軽く肩を竦めて工房の奥に引っ込んでしまった。


 「・・・大丈夫ですか?」


 「う、うん」


 オズウェルの呼びかけにジュラは何とか返事を返した。

 

 ――・・・どうなってるのさぁ。あの短剣一本じゃ、何人も解放する事は出来ないから、そんな急激な変化なんて起きるとは思っていなかったのに。・・・それに、焔竜王の剣が帝国にあるって?・・・そんな馬鹿な、人間に扱えるような代物じゃないぞ、あれは・・・


 ジュラは頭の中でぐるぐると色々な事を考えていた。なので、ダンダスが目の前に突然出した塊に、反応することが出来なかった。


 「うっわぁ!何ですか、これ?」


 「んん?この間、置いて行った双剣とローブの対価だ。どっちも、ダスタリアンの傭兵が買って行ったぞ」


 ダンダスが差し出しているものは無骨なハングルだ。特に何も装飾などは施されてはいない。しかし、ジュラは両目を見開いて、そのハングルに飛びついた。


 「アダマスート!!」


 「おうよ、しかも高純度だぜ」


 アダマスートとは貴金属レアメタルの一種であり、武器防具を造る者達の間では垂涎物の代物だった。


 ――これがあれば、あの軽量化型のポールウェポンが造れる!


 滅多にお目にかかれない主原料を目の前にして、ジュラは直ぐに頭がそのことで一杯になってしまった。


 ――あ!でも、魔石の予備がもう無いなぁ


 「よし、〈ダリアの宝石店〉に行こう!いい魔石が入っているかも!!じゃあね、ダンダス、また来るよ!!」


 「お、おう、また来いよ」


 ジュラは威勢よく言い放つと慌しく外へと出て行った。オズウェルもその後を追って、裏口から外へと出て行く。

 ダンダスは来訪者のいなくなった工房でぼそりと呟いた。


 「〈ダリアの宝石店〉っていや、アサージュの港か?おいおい、あそこは今傭兵がうようよいるんだが・・・、大丈夫か?」


 しかし、ダンダスの懸念を聞く者はもはや誰も居なかった。



 

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