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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第三章 魔女と人
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2 魔剣士

 カミーユは円卓に行儀悪く腰掛けていた。ワストとマスクート、そしてスークはカミーユを取り囲むように立っている。


 「魔法具が?・・・一体、どう言うことですか?」


 ワストが不思議そうにカミーユに尋ねた。ここいる人間の内、帝国に異変が起きた後にオズウェルと会っているのはワストとカミーユのみだ。


 「私が、彼を見かけたときは、普通に見えましたが・・・」


 ワストの困惑した表情を見て、カミーユは自分の右手を閃かせた。一瞬でその右手に細身の剣が現れる。


 「もし、僕が魔剣士として覚醒していなければ、ワストと同じで多少の違和感しか、感じなかったかもしれない」


 カミーユは右手の中にある細身の剣をくるくると弄んでいる。光を反射してキラキラと輝く剣は、美しいが何処か頼りなく飾り物のような繊細さがある。

 しかし、その剣に薄っすらと浮かんで見える魔力の模様が、剣の威力が見た目通りではないことを物語っていた。


 「・・・僕は、まだ覚醒して日が浅い。それでも、あの人。兄さんが尋常ではないことは分かったよ」


 「それは、魔剣士として、ですか?」


 スークが険しい表情をしてカミーユに尋ねる。

 カミーユは右手の中にある剣に視線を移す。

 カミーユは帝国で奴隷の反乱が起き、国内が混乱に陥ったときに魔剣士として覚醒した。


 魔剣士とは、生まれながらに体の一部から武器を出現させる事の出来る者のことである。人族に稀に現れるが、その数は非常に少ない。そして、不思議な事に人間に最も多く現れる素質だった。

 

 特徴としては、肉体の何処からか武器を出現させることが出来ること。圧倒的に数が少ない事。男性が多く、女性は少ないこと。遺伝し辛い素質である事。

 そして、最大の特徴として出現させる事の出来る武器の性能が非常に高く、そして本人の身体能力も飛躍的に伸びることがあげられる。


 ソルスト帝国を建国したとされる、英雄ティベリオスは優れた魔剣士であったと云われている。

 ゆえに、帝国の皇族には稀に魔剣士の素質を持つ者が生まれることがあった。そして、その能力の高さのために帝国の領土拡大に高い貢献をしてきた。

 しかし、魔剣士の素質は非常に遺伝し辛い。父親が魔剣士だった場合、その子どもに魔剣士としての素質が表れる可能性は、十分の一以下である。


 皇帝マキシマス、第一皇子グラジオラスには魔剣士としての素質は無かった。カミーユも魔剣士の素質は無いと言われていたが、エルフの血を引いているためか魔力が高く、そこを評価されて左翼騎士団団長を任されるまでになったのだ。

 

 もし、カミーユが魔剣士として覚醒していることを帝国側が知っていたならば、帝国はここまで甚大な被害を受けなかったかも知れない。それほど、魔剣士という存在は大きく、そして強大な力を持っていた。

 

 「魔剣士として?・・・いや、あれはもはや、魔剣士なんて、生易しいものじゃないね」


 スークの質問にカミーユは秀麗な顔立ちを激しく歪めた。


 「と、言うと?」


 その様子に只ならぬものを感じたのか、ワストが緊張した面持ちで尋ねた。


 「僕が分かる範囲で、兄の体には、五十を越える魔法具の気配を感じた。それも、どれも国宝級の」


 「・・・五十!?」


 「そんな、馬鹿な」


 「・・・・・・」


 スークは驚きの声をあげ、マスクートは呆然と呟いた。ワストは口を開けたまま目を見開いている。

 カミーユは三人の様子をみてむっとしたように顔を顰めた。


 「・・・何さ、僕の言う事が信じられないっていうの?」


 「いや、しかし」


 カミーユの指摘に三人は困惑したような表情を浮かべる。だが、カミーユもその反応はしかたないと考えていた。

 建国の祖である英雄ティベリオスが魔剣士であったために、ソルスト帝国の人間は魔剣士に対する知識に詳しい。

 その希少性や、能力の高さ、素質の遺伝率の低さなどである。そして、魔剣士が宿す事ができる武器の数は、最大でも二つまでだと云われている。


 「・・・僕だって、我が目を疑ったよ。でも、確かだ」


 「それは、・・・儀式の影響でしょうか」


 険しい顔で考え込むカミーユに、ワストも同じく深刻な顔で呟いた。


 「さぁ、儀式の後に生き伸びた前例なんてないんだ。何が起こってもおかしくはないけどね」


 カミーユは右手に持っていた剣を軽く振って消し去る。


 「まぁ、いい。兄さんの事は、ここ居る者以外には話すな。今は、ベスツェートを完全に帝国と切り離すことが先だ」


 三人はカミーユの言葉に頷くことで返事を返した。


 

****



 会議室での話し合いが終わり、カミーユは一人自室に戻っていた。カミーユの部屋は多少他の騎士達よりも広い程度で、寝台や、設置されている机や椅子も極普通のものだった。


 会議は夕食後に始まったために、部屋の中は月明かりだけに照らされていた。

 カミーユは椅子に座ると、後ろで一つに纏めてある髪を解いた。美しい黄金の髪が月明かりを受けて煌いている。カミーユの秀麗な面立ちと相まって、幻想的な光景を生み出していた。

 カミーユは左手で自身の髪を無造作に掴むと、右手に剣を出現させ黄金の髪の毛を切り落とした。


 ばっさり、と音を立てて黄金の髪が床に舞う。カミーユは無表情に自分の髪を切り落としていく。

 ざくざくという音と共に、どんどん髪は切断されていく。


 カミーユの母親は、黄金の髪を持った美しい人であったと云う。カミーユの母を知るものは、誰もがカミーユとよく似た美人だったと話す。

 母は旅の薬師で、帝国が引き起こした戦争の前線で誰彼構わずに治療をしていた。そして、その腕を買われ帝国に仕えないかという話が来た。

 しかし、母はその話を断った。薬師として人々を助ける事を生業としてた母は、帝国の人間になる事を拒んだ。


 翌日、母は奴隷の魔術印を施され、帝都へと連れていかれる。そして、一年後にカミーユを産んだ。

 カミーユを出産した後、母は直ぐに亡くなったと云われている。原因は産後の肥立ちが悪く、体調が急変したと伝えられている。


 カミーユはエルフの血を引いた母親から、優れた容姿と魔力を受け継いだ。

 皇族の血を引くとはいえ、奴隷から生まれたのだ。カミーユの居場所は奥宮には無かった。


 生まれてからずっと、皇族でありながらもカミーユは奴隷だった。


 十七歳で成人を向え、翼騎士団に入団すると帝都に帰ることは殆ど無かった。

 そして、ずっと考え続けていた。帝国の呪縛から逃れる事を。


 五分と経たない内に、腰ほどまでの長さがあった髪は、肩に掛かる程度の長さになってしまった。不揃いの髪が白い首筋の周りで揺れている。

 カミーユは肩に落ちている髪を払い落とすと、短く言葉を呟いた。その言葉が終わると同時に、床に散らばっていた髪の毛は、音も臭いもさせずに燃え上がり消えていく。

 完全に髪が消えてしまったことを確認すると、カミーユは右手の剣を消し、寝台の上に置かれてあった荷物を手にとった。

 そして、部屋の窓を開け、窓枠に足をかけるとひらりと身軽に飛び降り、夜の暗闇の中に紛れてしまった。 


 翌日、ベスツェートの領主館のどこにもカミーユの姿は無かった。



 

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