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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第二章 変動
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9 魔女と人間

 一度人の口から人の耳に入った言葉とは、知らず知らずの内に広がってしまうものだ。たとえどんなに気を付けていたとしても。

 反乱の起こった、帝国南部では今回の反乱に魔女の影があるという噂が急速に広まった。

 

 あるものは、自分達を解放した魔女を称え。

 あるものは、混乱を招くのが目的ではないかと疑い。

 あるものは、その力が利用出来ないか画策し。

 あるものは、その存在自体を信じていなかった。

 

 そもそも、魔女と人間とは関わりの薄い存在である。

 世界の存在を構成する二大元素の闇と光、そして、世界の物質を構成する五大元素の土、火、水、木、風。魔女はその七元素を司り、最大で七人現れると言われている。

 種族は必ず人族であり、女性しかなることはない。

 魔女は自身が司る元素の属性を極め、世界の誰よりもその属性に優れている。


 では、なぜ魔女は人間との関わりが薄いのか。

 それは、現在に至るまで、人間の中から魔女が生まれた事が無いからだ。歴代の魔女は全て亜人や人間以外の人族だった。


 そして、強大な力を持つ魔女は時に憧憬の的であり、また脅威としても扱われた。

 ゆえに、ずば抜けた属性の力を持つ以外は極普通の人と変わらない彼女達は、常に傷つきやがて孤独に生きるようになることが多かったのだ。


 特に、異質の者達に対して敏感な人間は、歴史の上でも何度か魔女と衝突している。  

 それとは逆に、人間を救った魔女もいたが、そうした場合は人間の歴史上では聖女として扱われ、魔女という名では残っていない。


 よって、人間社会では魔女の存在は神話に出てくる神々のように、存在感を感じさせない空想上の存在に近かった。


 「魔女?魔女が奴隷たちを魔術印から解放してるって?」


 「ええ、南部の地域では、どこでもこの噂で持ちきりのようです」


 ソルスト帝国の北部、属領べスツェートの領主館にてカミーユはスートの報告を聞いていた。

 帝都クリスタバルから一週間ほど移動したこの地域は、帝国最北端であり最も古い属領の一つでもある。

 そして、カミーユに分与されている地域でもあった。

 

 「魔女ねぇ。ふうん、南部の反乱主導者達が、反乱を扇動するために流しているデマじゃないの?」


 「その可能性は、大きいです」


 カミーユ達がいる場所は反乱の起きている南部からは最も遠い、しかし、十数人の騎士達と魔術師を南部の偵察に使い、帝国内の情報は出来る限り集めていた。

 カミーユの執務室である部屋には、スートとワストの何時もの二人が集まっていた。


 「その話し、あながち間違いではないかもしれません」


 今までの間、沈黙していたワストが腕組をし何か考え込みながら話しだした。


 「どういうことさ、ワスト。ソルスト帝国は人間至上主義で通っているから、魔女にも嫌われてるはずだよ」


 カミーユは真剣に何かを考えているワストに、怪訝そうに尋ねた。


 「ええ、ですが。今回の反乱に魔女が関わっているとすると、すべてが納得のいくように繋がると想いませんか?」


 「・・・どういうことだ、ワスト」


 スートの訝しげな視線にワストが顔を上げ、口を開こうとしたとき、カミーユが唐突に話し始めた。


 「なるほど、確かにね。そう考える事もできるか」


 「ええ、それならば、聖剣の行方が全く追えなかったのも、頷けます。」


 「・・・一体、どうゆうことですか」


 話しについていけないスートが、困惑気味に二人を見ている。


 「つまり、聖剣は常に魔女と共にあるために、その気配が打ち消されているのです」


 「オズウェルが、無事に生きているのも、そこら辺に理由がありそうだ」


 「そうですね」


 「スート、その噂は何処まで広まっているんだ?」


 カミーユの問いかけに、スートは逡巡したのちに答えた。


 「既に帝国内でも広がり始めています。数日もしないうちに、帝都まで届くでしょう」


 スートの報告にカミーユは何かを考え込んでいるようだ。

 

 ――このまま、作戦を実行するのは危険か?聖剣に魔女、オズウェルの存在が不過程要素過ぎるな。


 「しかたないな、もう一度、帝都に行く必要がありそうだなぁ」


 カミーユは秀麗な顔を顰めて、非常に面倒そうに呟いた。



****



 「カザム、どうゆうつもりだよ?」


 コスタの砦の外にある鍛錬場、かつては帝国の騎士達が鍛錬をする場所であったが、現在ではコスタにいる兵士達の鍛錬場になっている。

 鍛錬場は盆地のように窪み、円形の形で三段の階段が周囲を取り囲んでいる形になっている。


 エディッツはその段の真ん中に腰掛、鍛錬場の設備を確認しているカザムに話しかけた。


 「何が、だ」


 カザムの声は使い込まれた剣の刃のように、鋭く重い。


 「・・・魔女のことだ。どうして」


 「どうして、あんな大勢の前で、わざわざ話した、か?」


 エディッツはカザムの指摘に押し黙った。それは、彼の指摘が正しかったからだ。


 「いずれ、明るみにでることだ。知らないうちに、知らない噂が広まるよりは、此方から噂を流したほうが、ある程度操作できる」


 確かにカザムの言っている通りである。どれだけ秘匿したとしても、真実とは違う噂が一人歩きをはじめるだろう。そのほうが余計な混乱や、不安を招きかねない。


 「もはや、帝国が盛り返すことはないだろう。だが」


 カザムはエディッツへと近づき、彼を見下ろす形で立ち止まった。


 「疲弊した帝国に成り代わり、我々を奴隷とする国が現れるかもしれない」


 それだけ呟くと、カザムは階段を上り、鍛錬場から出て行った。カザムはエディッツの隣を通り過ぎるとき重々しい声を落していく。


 「いま、下手をうつと、取り戻した自由だけでなく、皆の命も失うぞ」


 カザムの気配が完全に消えた後も、エディッツは一人鍛錬場に座りこんでいた。

 

 ――帝国に囚われて、何もかも失ったと思ってたけどな


 エディッツは深く溜息をついて立ち上がった。

 帝国に祖国のコスタが侵略さたとき、全てが奪われ壊されてしまったと思っていた。

 自分は死ぬまで、帝国の戦闘兵器として生きていくのだろうと確信していたのだ。

 それが、思わぬ出来事で自由の身になり、故郷の土を踏むことができ、かつての仲間と再開できた。

 

 帝国からの解放。それは奴隷とされてきた者達にとって、夢のようなものだった。それが今、現実になろうとしている。誰もが自由を得ようと必死だ。


 そのカギとなる、解放の短剣。

 誰かがそう呼び出し、今やその呼称が定着してしまった。


 今は、魔女の噂のみが広がり魔術印の解除については誰も気が回らないようだ。

 おそらくカザムの狙いはそれもあったのだろう。解放の短剣の存在は、反乱軍にとっては命綱だ。しかも、それは蜘蛛の糸のようにか細く頼りない。


 帝国側は、何故奴隷たちが魔術印から解放されたのかまだ気付いていない。ここで魔女の存在を出すことで、魔女の存在に注目させ短剣に注目が集まらないようにという考えだろう。


 「今はまだいい。みんな目の前の自由を得ようと必死だ。問題は」


 ――問題は、自由得た人間がそれだけで満足するはずがないってことだ


 「人間は貪欲だ。帝国の人間だけがそうじゃない。今まで抑圧されていたぶん、解放された人間達は貪欲だ」


 エディッツは鍛錬場から出て、食堂へと向う。食堂では解放された人々が、楽しそうに談笑しながら夕食を食べている。

 人々の顔に浮かぶ笑顔も、以前であれば考えられない情景だ。


 「おーい!エディッツー、速く来いよ!晩飯、無くなるぞ!!」


 食堂に隣接している調理場から、大声をあげて料理長が叫ぶ。


 「わかった、わかった!さっさと行くから、んな大声で叫ぶんじゃねぇよ!!」


 エディッツは怒鳴りがえしながら、賑わう食堂へとゆっくりと歩いて行った。



****



 ジュラの家の直ぐ側に聳え立つマルガゴクの巨木。もはや霊樹となっている異形の樹は、一度その命が尽きかけていたとは思えないほど、雄雄しく聳え立っている。

 オズウェルはその霊樹を登り、頂点近くに立っていた。オズウェルは幹に体を預け目を閉じいる。


 三日ほど前からジュラは工房に篭っていて、製作に没頭している。


 夕方を過ぎ、夜になるとオズウェルが無理やり家に連れ帰っているが、そうしなければ不眠不休で働くだろう。


 「・・・気付いたか」


 霊樹の幹に体を預けていたオズウェルは、そう呟くと体を話した。異色の両目の内、琥珀色の左目が魔力の光を帯びている。


 オズウェルは体重を感じさせない動作で大樹から降りる。ふわりと音をさせず着陸すると、目の前にヴァスが待ち構え得ていた。


 「もう、歯車は動き出した。いまさら、止めることは出来ない。お前にも、そして私にも」


 ヴァスは威嚇するようにオズウェルを睨んでいるが、その中には僅かに怯えが見える。


 「お前は何時もそうだったな、誰よりも近いところにいながら、ただ泣いていることしかできない子どもだ」


 オズウェルの言葉にヴァスは逆上したかのように、彼に飛びかかった。しかし、ヴァスの爪は虚し空を裂き地面の土を僅かばかり抉っただけだった。

 

 オズウェルの姿は煙のように消えていた。

 

 

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