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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第二章 変動
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8 それぞれの場所で

 「オズウェル?あいつが、生きているのか」


 マキシマスは訝しげに顔を顰めた、カミーユの言っている事が信じられないようだ。

 カミーユは無理も無いだろうと思う。


 「ええ、五体満足の姿で確認されました、リジュアにあるアサージュの港で」


 カミーユの話しを聞いてマキシマスは信じられないと言ったように、目を大きく見開いた。


 「そんな、馬鹿な。あいつには奴隷の印が」


 「父上」


 マキシマスの言葉を遮るように、カミーユは口を開いく。


 「今、帝国内では奴隷達の反乱が起きているのですよ?本来であれば、私達に反抗できないはずの奴隷達が?」


 「・・・まさか」


 マキシマスは呆然と呟いた。


 「オズウェルがこの事態を、引き起こしたと?」


 「考えられない事では無いでしょう。奴隷の魔術印も、聖剣の力を持ってすれば解除できるかもしれませんしね」


 「そんな、馬鹿な事が、あれはただの依り代に過ぎぬ・・・」


 「ふふふ、父上。今、帝国内では馬鹿なことばっかりおこっているのですよ?」


 マキシマスは美しく笑うカミーユの顔見た。彼は本当に楽しそうに笑っているように見える。


 「奴隷の反乱に、聖剣の紛失、揺らぐことが無いと言われていた帝国が、大きく揺さぶられている」


 「・・・カミーユ」


 「父上、お分かりでしょう?」


 ――既に、帝国は牙を抜かれ、爪もなくした獅子に過ぎないと


 

 カミーユは父、マキシマスの部屋を退出し自室へと戻っていた。

 自室にはスークとワストが待っていた。カミーユの自室は何故かがらんとしている。動かせるものは全て動かし、外に出したと言う感じだ。


 「終わった?全部?」


 「はい。全て完了しています」


 「ワストは?」


 「問題ありません。」


 カミーユは二人の話しを聞くと、軽く頷く。そして、すっかり寂しくなった自室から出ると、その足を自分の騎士団の方へと向けた。


 「出発は?」


 「直ぐにでも、かな。早ければ、早いほどいいだろうね」


 「分かりました」

 

 カミーユの足取りに迷いは無い。豪華な廊下を歩きながら、何故かそこかしこに置かれてある装飾品を手にとっている。


 「あ、これいいね。ついでに、これも」


 目に付いたものを片っ端から手にとり、スークに渡していく。スークの両腕はあっという間に一杯になってしまった。

 ワストは呆れたようにその様子を見ていたが、ふと、思い出したように口を開いた。


 「団長、皇帝陛下は」


 「あー、父上はね」


 ワストの声にカミーユは一瞬、寝台に寝ていたマキシマスのことを思い出す。

 

 ――あれはもう長くないな、香で誤魔化してたけど、・・・死臭がね


 「まぁ、元気そうだったよ」


 カミーユは肩を竦めて軽く返事した。



****


 

 ソルスト帝国のかつての属領だったコスタ。そこは現在では、帝国からの束縛から解放された人々で、活気に満ちていた。しかし、奴隷の魔術印が完全に解除されているのは数十人しかいない。

 だか、帝国の人間が全くいないので土地に縛られていながらも、彼らは仮初の自由を味わっていた。


 「エディッツ、奴隷の解放をもっと効率よくすることは出来ないのか?」


 コスタの砦にある一室には、帝国の奴隷騎士から解放されたコスタの兵士達が集まっていた。人数は三十人程度。皆一様にエディッツに注目している。

 エディッツは仲間の視線を受けて、顔を顰めた。


 ――そら、来たぞ。


 「南部の状況はほぼ落ち着いている。だが、帝国だけではなく、周辺諸国の動きも気になる」


 「今の内に、兵士以外の魔術印を解除しておきたいしな」


 「故郷に帰りたがっている者も多い」


 仲間達の言っていることは、至極もっともなことである。現在、帝国はその体制を完全にたて直せてはいない。だが、帝国が無くなってしまったわけではないのだ。此方が優勢の状態で勝ったとはいえ、解放出来ている兵士の数は、あまりにも少ない。


 「俺だって、わかってる。でもなぁ、奴隷から解放できる短剣は、これっきゃねぇんだ」


 エディッツは面倒そうにベルトに刺していた短剣を抜き、テーブルの上に置いた。


 「・・・何度見ても、ただの短剣にしかみえないな?」


 一人が手に取り上げしげしげと見ている。その短剣は、帝国の騎士が極普通に所持している短剣にしか見えない。


 「確かにな、だが、この短剣には魔法印が施されてるぞ」


 そのとき、一人の老兵が短剣を手に持った。この中では一番歳嵩のようだ。


 「魔法印?・・・魔術印、じゃないのか」


 「いや、違う。これは人間の魔術師が施せるような代物じゃない」

 

 老兵士は短剣の先をエディッツに向けて、落ち着いた視線と声色で尋ねた。


 「エディッツ、お前を奴隷から解放したのは魔女だろう」


 「・・・・・・」


 エディッツは肯定も否定もせず沈黙している。しかし、老兵士の言葉に周囲はざわつき始めた。


 「魔女?」


 「魔女って、あの魔女か?」


 「カザム、なぜそう思う」


 カザムと呼ばれた老兵は、手の中で短剣を弄びながら淡々と答えた。


 「・・・以前、これと同じ魔力を宿した剣を見た事がある」


 「剣?」


 「ああ、お前達も噂くらい聞いた事があるだろう。大地の女神の刻印をもつ剣だ」


 「ユミルの魔具か!」


 カザムの言葉に兵士達は一斉に沈黙した。ユミルの魔具はその性能から、国を問わず戦う者達の間では非常に有名だった。

 しかし、ユミルの魔具は人間たちの町では手に入る事はまず無く、亜人の町でしか見かける事の出来ない代物だった。


 「その剣はどうしたんだ?」


 「コスタが帝国に占領される前、流れの傭兵が持っていた。ダスタリアンから流れてきた獣人だったがな」


 カザムは軽く肩を竦めて答えると、短剣をエディッツの方に向って投げた。

 エディッツは短剣を受け止めると、ベルトに刺し直す。


 「で、どうなんだ?」


 カザムは口では尋ねながら、自分の言った事がほぼ真実だと確信しているようだった。エディッツは疲れたように溜息をつくと、観念したかのように机にうつ伏せた。


 「そうだよ。俺の魔術印を解除したのも、短剣に魔法印を付加したのも魔女だ」


 「ユミルの魔具の魔女が、俺達に味方してくれているのか!」


 「違う!ただ、成り行きでそうなっただけだ。俺は魔女の名前も知らないし、あいつがユミルに魔具を作ってる魔女かどうかも知らねぇ!」


 色めき始めた仲間達を遮るように、エディッツが声を上げ立ち上がった。


 「それに、あいつが何処にいるのかすら知らねぇしな」


 それだけ言い終わると、力尽きたようにまたうつ伏せに倒れた。カザムはエディッツの頭を見下ろしながら尋ねた。


 「エディッツ、その魔女は、名前以外では何か言わなかったのか?」


 「あ?あー、たしか、土の魔女って言ってたような?」


 エディッツの返答を聞くと、カザムは納得したように頷く。


 「なら、間違いない。お前を奴隷から解放したのは、ユミルの魔具を作っている魔女だ」  


****



 素材を集めたジュラは、一度黒い森ミリロコウへと戻っていた。今回はそこまでいい素材が手に入らなかったので、新しく武器武具を作るか、既存の物を強化するかで迷っていた。


 「・・・くっしゅん」


 「どうしました、風邪、ですか?」


 「ううん、ちょっとむずむずしただけ」


 ジュラは武器防具を製作する工房に来ていた。工房にある広い机に素材を並べて、どの作業をしようか考えているところだった。

 工房にはジュラとオズウェル、そして作業を手伝うゴーレムが三体いる。ゴーレムは、ジュラがいない工房の掃除や管理をしていた。


 「工房に来るのは、久々だからね。ちょっと埃っぽいのかな?」


 ジュラは鼻を擦りながら、不思議そうに喋っていた。後ろでゴーレムが不満そうにわさわさと動いていたが、ジュラは特に気にしていないようだった。


 「彼らの動力は、魔石ですか?」


 オズウェルは工房を動き回っているゴーレムを眺めながら、ジュラに話しかけた。


 「え?ああ、うん、そうだよ」


 ジュラは一瞬きょとんとしたが、オズウェルがゴーレムを見ているのを見ると納得したように頷いた。


 「一人で製作するのが難しいものを作るときの手伝いとか、普段使わないときとかに工房の管理を任せてるんだ」


 ゴーレムたちは黒い光沢のある石で出来ているようで、表情の変化などは見られないが、どことなく愛嬌のある顔をしている。

 大きさは十二、三歳の子ども程度の大きさで、少しぎこちないが工房のあちこちを動き回っている。


 「うーん。どうしようかな」


 ジュラは目の前にある材料の山を見て悩んでいる。今回は良い質の魔石が手に入らなかったが、その分原材料はそこそこ集まっている。副原料がやや不足しているが、エルド大陸のあちこちで戦争の気配がするので、素材集めにもう一度出て行く気もしないのだ。


 「何を作るのか、決まらないのですか?」


 オズウェルは悩むジュラの顔を覗き込む。

 ジュラはその秀麗は顔立ちを見ていて、はっと目を見開いた。


 「そうだ、オズの服を作ろう!!」


 「・・・は?」

 

 現在、オズウェルが着ている服は、成長が著しかった彼にジュラが仕立てた最初のものだ。

 体型が整っていて姿勢のよいオズウェルは、何を着ても様になる上に、本人からの不満が無いのですっかり失念していたが、オズは数着しかないその服を着まわしていたのだ。 


 「いいジャドール絹が手に入ったしねっ!きっとオズウェルに似合うと思うよ!!」


 「ありがとう、ございます」


 何時に無く目を輝かせているジュラに、オズウェルは少し戸惑いながら返事をした。




 


活動報告におまけを載せています。

本編とは全く関係ありませんが、よかったどうぞ


おまけ「オズウェルの新しい服」



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