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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第二章 変動
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2 ドウェルグの集落にて

 中央大陸と呼ばれることもあるエルド大陸は、最も人間が多く住む大陸でもある。

 大陸に住む八割が人間であるが、人間以外の人族が住んでいないわけではない。数は少ないが、獣人やドウェルグ、エルフなども存在している。

 

 ジュラはその中で、険しい山岳部に住むドウェルグの集落を訪れていた。

 武器防具などの製作に長けている彼らは、他の種族との関わりも多い。

 人間の社会に馴染んでいる者も多く、獣人に続いて亜人の中では二番目に人間との接点が多い種族である。


 「ふむ、アステマ鉄か。在庫があった見てこよう」


 ドウェルグ族のダンダスの工房で、ジュラは材料と魔具の交換をしていた。

 ダンダスはジュラの鎖骨くらいまでしか身長が無いが、その体は岩のように厳つい。


 「ついでに、エストラ聖鉄も、あれば」


 「わかった、見てこよう」


 ダンダスは一度奥へと引っ込む。材料を探しているようだ。

 ゴソゴソと何かを探っている音がする。ジュラはカウンターから体を乗り出して、奥の様子を覗きこんだ。

 ダンダスは百歳を越える年齢だが、ドウェルグ族は二百歳ほど生きるので、人間で言えば中年になる年代である。


 「この間の、長弓、売れた?」

 

 「ああ?長弓??・・・ああ、あれか。もう、売れちまったな」


 ダンダスは材料を探しながら、大声で返事をする。小柄な体から出ているとは思えないほど、大きな声だ。

 奥の方から二つの塊を手に持ち、ダンダスが姿を現した


 「なんだ、売り物じゃなかったのか?」


 ゴトンと重々しい音を立てて、カウンターに二つの塊を置くと、カウンターの下から無造作に皮袋を取り出した。


 「ほら、代金だ。エルフの銀貨が三十枚、金貨が十枚だ」


 白い皮袋は間違いなく、エルフ族の使う物である。

 エルフの硬貨は、銅貨、銀貨、金貨と三種類あり、精霊の力が宿っている。

 金貨になるほど強く、銅貨がもっとも弱い。

 銅貨程度なら以外に流通しているが、銀貨以上は中々手に入らない。

 ジュラは皮袋を受け取ると、中身を確認した。確かに銀貨が入っており、もう一つ小さな袋が入っている。おそらく、金貨の入っている袋だろう。


 「アステマ鉄だ。悪いが、エストラ聖鉄はこれしかない」


 ダンダスはカウンターの上にある二つの塊をジュラの方に押し出した。


 「今回は、剣が二本とローブが一つ。随分少ないな」


 ジュラが今回持ってきたのは、両刃の剣が二本と、純白のローブが一枚である。

 剣はどちらも同じ形で、少し短めなので両手に持って使えそうである。

 ローブは裏地に魔法が組み込まれている。物理耐性と、魔法耐性が付けられている。普通の金属性の鎧よりも丈夫な作りである。


 「うん。ちょっと、色々、忙しくてね」


 ジュラはここ三ヶ月ほどで起こった事を説明しようと思って、面倒になってやめてしまった。

 

 「色々ね。・・・あの、色男とかか?」


 ダンダスは興味深そうにジュラを見ている。

 今回、ジュラはオズウェルと一緒にドウェルグの集落を訪れていた。


 「え?ああ、うん」


 「あいつは、人間か?エルフじゃねぇしなぁ。人間にしちゃ、えらい色男だな」


 ダンダスは、オズウェルの事を思い出しながら首を傾げたいた。

 随分と綺麗な男だったが、エルフにしては背が高く、耳も長くない。


 「うーん。人間、かなぁ?」


 「・・・なんで、疑問系なんだよ」


 ジュラの煮え切らない態度に、ダンダスは呆れた視線を向けた。

 そこへ、扉をあけてダンダスの工房に入ってきた者がいた。


 「噂をすれば、か」


 扉を開けて入ってきたのは、オズウェルとヴァスだった。

 オズウェルは右腕に何かを抱えている。カウンターの上に置かれたそれは小包のようだ。


 「受け取ってきました」


 「あ、うん。ありがとう」


 ジュラはオズウェルが持ってきた小包を開き、中を確認した。中には、生地が入っているようだ。


  「キール綿か?」


 ダンダスがカウンターから身を乗り出して中身を覗きこむ。


 「うん。あと、ジャドール絹ね」


 小包の中には二つの布が入っていた。 白い木綿のような布と、漆黒の光沢のある布だ。


 「どっちも、上物だな。そうだ、せっかくここまで来たんだ、飯でも喰ってけ」


 ダンダスはそう言い残すと、二人の返答も聞かずに奥へと入っていた。


 「・・・せっかくだし、食べていこうか」


 「そうですね」


 ダンダスの工房は住居と一緒になっているために、工房をぐるりと回って食堂に行く事ができる。

 全て石材で作られている家は、一見すると冷たい印象を受けるが、随所に置かれた毛皮やキルトの布が温かみを感じさせる部屋だ。


 部屋の中央にある巨大な石のテーブルに、様々な食事がおいてある。

 

 「おう、食え食え、酒もあるぞ!」


 ダンダスは上機嫌だ。既に多少酔っ払っているようである。

 ジュラは目の前に置かれた料理から、自分の食べる物を選んで食べている。

 テーブルの上には食べ物の他にも、酒瓶が何本か出ている。ドウェルグ族とは、総じて祭り好きで酒好きである。


 「そうだぁ!おめぇさん、人間だろ?いま、ソルスト帝国は大変みたいだなぁ?」


 酒瓶を二本ほど空けた所で、ダンダスが突然オズウェルに話し掛けた。


 「なんでも、奴隷が反乱し始めたらしいじゃねぇか。今まで、何されても大人しかったのによ」


 オズウェルは何の反応もしていないのに、ダンダスは勝手に喋り続ける。


 「あの国は、亜人嫌いだから、詳しい情報は流れてこねぇが。南部のほうで、大規模な反乱があったらしいな」


 ダンダスは四本目の酒瓶を開けつつ、喋ることも止めない。


 「こっちでも、武器の流れが激しくなってる。それに」


 そこで言葉を切ると、ダンダスはジュラの方に視線を向けた。


 「ダスタリアンの傭兵も動いてるみたいだ。直に、本格的な戦争になるぞ」



 ****

 


 ダンダスの家で昼食を取り、ジュラとオズウェルは次の目的地に出発しようとしていた。 


 「えっと、ご馳走に、なりました」


 「おう!また来いよ!」


 集落の入り口でダスタンが見送っている。

 髭面の顔は、体と同じで厳ついが、どことなく愛嬌のある顔をしている。

 ジュラはダンダスに手を振り返しながら、空へと飛び立った。


  ヴァスの背に乗り空を移動している間、ジュラは背後に乗っているオズウェルに話しかけた。


 「あの、さ」


 「はい、何ですか?」


 「ダンダスが言ってた事ってさ」


 「エディッツの出身は、帝国南部のコスタだと聞いた事があります」


 「・・・そうですかぁ」




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