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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第二章 変動
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1 銀の間での討議

 ソルスト帝国の銀の間では、帝国の上位貴族達が討議をしていた。

 上等な生地で作られた衣服に、煌びやかな宝石を体のあちこちに身に着けているが、その華やかな姿に対して、彼らの顔色はよくない。


 「原因は、まだ分からないのか」


 「被害は徐々に広がっているぞ」


 「・・・ナスタからの連絡も、途絶えているらしいぞ」


 「何故、事態の収拾がができない。近衛騎士団はともかく、翼騎士団はどうした」


 「物資が足りんのだ、侵攻もままならん」


 「属領から徴収すればいいだろ!!」


 「それに魔道院も、全く役に立っていないではないか」


 「このままでは・・・」


 話している貴族達は、問題や不安に思うことを話すだけで、具体的な解決策を出そうとはしない。


 「あーもう、ぐちぐち、うっさいなぁ」


 銀の間の扉を開けてカミーユが入ってきた。

 騎士の正装ではなく、皇族が身に着ける特有の衣服を着ている。


 「皆で、辛気臭い顔してさぁ、しかも、何にも解決してないじゃん」


 カミーユは気だるそうに、部屋の中で一番豪華な椅子に座る。

 だらしなく座っているのに、その姿は寛いでいる獣のような美しさがあった。


 「カミーユ殿下」


 カミーユの登場に、ざわついていた貴族達は一斉に口を噤んだ。

 カミーユはその様子を見回し、彼らが此方に注目していることを確認すると口火を切った。


 「あ、そうだ。帝国は、コスタ以南の領地を放棄するから」


 その言葉は貴族達を混乱の渦に巻き込んだ。


 「そ、それはっ、そのような事をしては、さらに動揺が広がるのでは」


 「そうですぞ!たださえ、奴隷共の間に反抗的なものが出てきています」


 「周辺諸国へ、隙を見せることにも」


 「奴隷への対応を、もっと厳しくしたほうが」


 貴族達は口々に反対の言葉を発した。

 カミーユはその様子を黙って見ていたが、貴族達が全く静かにならないのを見ると、椅子から立ち上がり右手に嵌めていた指輪を一つ外し、部屋の中央に放り投げた。


 ピキ ペキ


 細かい亀裂が、指輪に使用されている宝石に入る。指輪は部屋の中央付近で砕け散り、中に閉じ込められていた魔術が解放された。


 眩い光が当りに広がり、貴族達は悲鳴を上げながら椅子から転げ落ちる。


 「・・・うるさいなぁ。君達、本当に現状を理解してんのぉ」


 カミーユは、椅子から転げ落ち腰を抜かして無様に這い蹲っている貴族達を、冷たい目で睥睨した。


 「コスタ周辺だけじゃなーいんだよねぇ、反乱が起きてるのは」


 「なっ!!」


 カミーユは席から立ったままで、自分の背後に置かれている帝国の地図に印をつけた。


 「ここと、ここ。それからぁ、ああ、ここも」


 帝国南部、コスタと書かれている地域と、その周辺が、赤い印で埋まっていく。


 「こんな、もんかな」 


 「そんな、馬鹿な」


 帝国の南部は、カミーユが付けた印が一直線に並んでいた。


 「ふむ、中々綺麗な線だね。そこそこ、頭のいい奴がいるんじゃない?」


 カミーユは後ろで絶句している貴族達を無視して、地図を満足げに眺めていた。


 「見てごらんよ、この点を繋ぐと一直線に繋がり、帝国の南部はここから分断される。」


 赤い点を繋ぎ、点を赤い線にするとカミーユは貴族達を振り返った。

 青ざめた貴族達を満足そうに見ると、地図をこつこつと叩きながら面白そうに話し続ける。


 「この各地で、一斉に反乱が起きたら、どうなると思う」


 にやにやと笑いながら、カミーユは何でもないように告げた。


 「南部は、反乱が一斉に起きて、その被害は南部だけじゃ終わんないよ」


 「・・・一体、何時の間に」


 呆然と呟く貴族を冷めた目でみると、カミーユは淡々と話し続けた。


 「被害がこれ以上拡がらないように、南部に駐在している騎士達は、テリンまで後退させる。」


 カミーユは地図に今度は青い線を書いた。テリンと書かれた場所を境に引かれた線は、帝国の本領土に接地している。


 「そんな!それでは、南部の大半を失ってしまいますぞ!?」


 「そうです、それに、反乱と言っても所詮は農奴の一揆です」


 「多くの連中は、自分の生まれ故郷から引き離されていますし」


 「武器を調達することも、出来ないはずだ」


 「そうだ、領地から出る事もできない」


 貴族達の口から出てくるのは、現状の悪化を認めようとしないものばかりだった。

 カミーユは無表情にその様子を見ていた。


 ――・・・分かっていたが、馬鹿ばっかりだな


 「ああ、もう!分かった、分かった」


 「カミーユ殿?」


 いきなり背を向けて、銀の間から出て行こうとするカミーユを貴族の一人が呼びとめた。

 

 「もう、面倒臭いから、君達が決めてよ」


 カミーユは非常に面倒くさそうに呟くと、扉に向う。

 貴族達は、その様子を何とも言えない表情で見ていた。

 

 「あ、そうだ」


 扉から出る寸前、カミーユは足を止めると貴族達を振り返り、ついでのように告げた。


 「聖護天の祭りは中止ね、こんな状況じゃ、祭りなんて出来ないんで。じゃ、後よろしく」


 それだけ言い残すと、カミーユはさっさと退室してしまった。


 貴族達は暫らくの間、扉の方を見ていたがカミーユの気配が無くなると、口々に文句を言い始めた。


 「急に、帝都に帰還されたと思ったら」


 「突然、魔石の魔術を発動させるなど、野蛮な」


 「カミーユ殿下は、帝都から離れて久しい方。現状を把握していないのは、カミーユ殿下の方なのでは?」


 「いや、全く。そうに違いない」


 銀の間では、貴族達の悪態が延々と続いていた。




 「殿下、いかがでしたか?」


 銀の間を出た後、カミーユは美しい柱の並ぶ廊下を歩いていた。彼のやや後方には、一人の騎士が付き従っている。


 「・・・だめだな。全騎士の撤退は無理だ。翼騎士団だけでも、撤退させろ」


 「はっ」


 カミーユの指示に騎士は短く返答すると、素早く行動に移った。

 一人になったカミーユは豪奢な廊下を抜け、騎士団の詰め所へと向っていた。


 ソルスト帝国にはの騎士団がある。帝国の城を守る近衛騎士団。帝都クリスタバルを中心に、帝国の本領土を守る聖騎士団。属領の管理と他国への侵攻を行う翼騎士団。


 カミーユは、その三つの騎士団の内の翼騎士団の団長だった。

 カミーユは自身の執務室に戻ると、椅子に座り地図を開いた。

 そこに、入れたての紅茶が置かれる。

 

 「討議は、ああ、いや、聞きますまい」

 

 紅茶を置いた人物は、若草色のローブ纏った中年の男だ。灰色の髪に、くすんだ青い瞳、全体的にぱっとしない外見である。

 見た目からして魔術師だろう。


 「まぁ、いいさ。連中が駄目駄目なのは、分かってたことだし、それに」


 カミーユは紅茶を飲んで一息つくと、地図を睨みながら呟いた。


 「この騒動のお蔭で、聖剣の事については誤魔化せたし」


 地図の上に印を付けながら、カミーユはぶつぶつと呟く。


 「あーあ、駄目だね、ここは。もーう、駄目だね。ここも、無理っと」


 地図に色々な情報を書きこんでいたカミーユだが、突然その手を止めた。


 「ふふふふふ、あはっはは」


 カミーユは持っていた筆記具を放り出すと、笑いながら立ち上がった。


 「あー楽しい。たくさん死ぬねぇ、いっぱい殺されるねぇ」





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