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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第一章 出会い
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28 別れと予感

 「じゃあな、死ななかったら、どこかで合うさ」


 ゾルウェストの砦の食堂内、エディッツは帝国騎士の鎧ではなく、皮鎧だけを身につけた軽装備で冒険者のような装いになっていた。

 下級騎士に支給される剣は持っておらず、見張りが持つ弓矢を装備している。


 「そう、ですね」


 ジュラとオズウェルも出発する準備を完了していた。

 ヴァスにある程度の荷物を載せて、ノーストは暫らくの間だけ小型化の魔法をかけ運ぶことにした。

 ノーストは猫程度の大きさになり、ジュラが抱えている。


 「ああ、まぁ、二度と会わないかもしれないけどな」


 エディッツはつまらなそうに呟くと、食料や旅に必要な小物を入れた皮袋を背負い、テーブルに置いてあった短剣を胸元の皮ベルトに差し込んだ。


 「これ、本当に貰って良いのか?」


 差し込んだ短剣を右手で触りながら、エディッツは呟いた。


 「え?ああ、構いませんよ?・・・そんな、大した物じゃないですし。元々、あなたの物ですしね」


 ジュラは不思議そうに呟く。

 その様子を見て、エディッツは何とも言えない顔をいした。

 

 「・・・ソルスト帝国からしたら、とんでもなく、恐ろしいものだけどな」


 「そうですか?その、短剣が?」


 ジュラは本当に不思議そうな顔をしている。

 エディッツは深く溜息をつくと、疲れたようにジュラに話しかけた。


 「・・・あんた、その内。気付かないうちに、面倒ごとに巻き込まれるぜ」


 「ええっ?」


 エディッツは驚いた声を上げるジュラから、その隣に佇むオズウェルに視線を移した。

 オズウェルは二人の会話に興味がないのか、全く口を挟んでこなかった。

 

 「知り合いにあったら、お前のことを伝えてもいいのか?」



 「・・・好きにしろ」


 オズウェルの返事はそっけないものだった。


 「あっそ、じゃ、好きにさせてもらうわ」


 エディッツとの別れは、あっさりと終わってしまった。装備を軽く確認すると、さっさと食堂から出て行ってしまった。


 「私達も、行きましょう」


 ジュラはエディッツが食堂の外へ出て行くのを見ていたが、オズウェルに促されて出発する事にした。


 「う、うん。その、さぁ」


 ――オズウェルは、エディッツと一緒に行かないの?


 ジュラはよく考えれば、オズウェルとの付き合いが長いのはエディッツのほうなのだから、二人が一緒に行動するほうが自然なのでは、と考えていた。


 しかし、二人の間に既知の者同士の気安さはあっても、親しい雰囲気は一切無く、会話もエディッツが一方的に的に話しかけている状態だった。


 「どうしました?何か忘れ物でも?」


 オズウェルは、今も当然のようにジュラの隣にいる。


 ――・・・まぁ、いいか


 ジュラは、オズウェルとヴァス、ノーストと一緒に黒い森ミリロコウにある自身の家へと帰って行った。




****


 

 「どうなってる!!話しと全く違うぞ!!」


 ソルスト帝国のある一室で、二人の人物が睨みあっていた。


 「・・・反応があったのは、間違いないことですぞ」


 二人の雰囲気は非常に険悪だ。

 白銀の鎧を着た騎士と、純白のローブを着た老人である。

 

 グラジオラスとドゥーバ卿だ。

 二人は、豪奢だがどこか薄暗い、窓の全くない部屋で対峙していた。


 グラジオラスは殺気だっており、ドゥーバ卿は随分と顔い色が悪い。


 「貴殿が、聖剣の気配がするというから、砦を一つ潰したのだぞ!!」


 グラジオラスの怒鳴り声に、ドゥーバ卿はあからさまに顔を顰めた。


 「それは間違いないことです。むしろ、グラジオラス殿下の手配に、不備があったのでは?」


 ドゥーバ卿の不機嫌そうな声に、グラジオラスは柳眉を逆立てた。

 

 「なんだと!私は、報告を受けてから迅速に対応したぞ!!」


 グラジオラスは顔を真っ赤にして怒鳴りはじめた。


 「そもそも!貴殿の、報告が、誤っていたのではないか!?」


 「何ですと?」


 「ふんっ!この一ヶ月間、貴殿は碌に聖剣の気配を探れていない。それが急に、あのような辺境の地に、聖剣の気配を感じるなどと言いだして、どう考えても怪しいではないかっ!!」


 「・・・この一ヶ月間、私は聖剣の気配を探るのに、不眠不休で魔術を行使しておりました」


 ドゥーバ卿は努めて冷静に語ろうとしているのか、しきりに髭を撫でながら、憮然と喋りだした。


 「それに比べて、・・・殿下は、奴隷のものたちを無意味に、甚振っていただけではありませんか」


 「貴様!!」


 とうとう、グラジオラスは腰に佩いていた剣を抜き、ドゥーバ卿の枯れ枝のような喉元に突きつけた。


 「・・・そのような態度で、騎士団の団長が務まるとは、思えませんな」


 しかし、ドゥーバ卿は全く怯むこともなく、むしろ冷めた目でグラジオラスの事を見ていた。


 一触即発の二人だったが、重苦しい空気を破って、扉が開かれたことにより緊張していた空気が緩んだ。


 「なーんですかー、急に呼び出しなんてぇ。ちょー眠いんですけどー」


 扉から入ってきたのは、煌びやかな騎士服を纏った、美少年である。

 豪奢な金髪が華やかな顔立ちを縁取り、随分と派手な印象を受ける。少年は気だるそうに部屋に入ってくると、険悪な雰囲気の二人をみて形のよい眉を顰めた。


 「なーにぃ?その辛気臭い顔。あーあ、やだやだ。おっさんと、じじしかいない部屋なーんてぇ」


 少年は中央付近で言い争っていた二人を、押しのけるように部屋の奥に進み、そこに用意されていた椅子に座った。


 「カミーユ!どうして、お前がこの部屋に来たんだ!!」


 グラジオラスは抜いていた剣を慌てて下ろし、カミーユを問い詰めた。さっきまで、激昂していたはずなのに、グラジオラスの顔色は白くなっている。ドゥーバ卿の顔も強張っていた。


 カミーユと呼ばれた少年は、グラジオラスの大声に一瞬顔を顰めたが、直ぐに華やかな笑顔をその顔に浮かべた。

 

 「そんなの、父上に言われたからに、決まってるよ」


 カミーユの勝ち誇ったような表情に、グラジオラスの顔が歪み、ドゥーバ卿が息を呑んだ。


 「・・・馬鹿な」


 呆然と呟くグラジオラスを、カミーユは冷めた目でチラリと見ると、視線をドゥーバ卿へと移した。


 「ドゥーバ魔道大臣。あなたは、そろそろ引退なされたほうが良いのではないですか?」


 カミーユは小馬鹿にしたような態度で、ドゥーバ卿へと話しかけた。


 「ここ最近、心労が多くて、御自慢の魔術精度も落ちてるそうですし?」


 ドゥーバ卿は一切の反論をしなかったが、見開かれた両目は血走りカミーユを睨みつけている。


 「グラジオラス兄上」


 カミーユは反応のないドゥーバ卿をつまらなそうに見た後、視線をグラジオラスへと移した。


 「僕が、帝都にいない間に、随分と面白いことになってるねぇー?」


 「・・・カミーユ、何時、帰還したのだ」


 カミーユは双眸を細めた。たっぷりとした睫毛に彩られているのは紫眼の瞳である。


 「・・・半日前かなぁ?出征していたウォードから、飛んで帰ってきたよ。お蔭で、上等な騎獣を5頭も潰しちゃったけどね」


 グラジオラスを見つめるカミーユの視線は、ドゥーバ卿を見ていたときとは、比べ物にならないほど冷たい。


 「聖護天の祭りまで、一ヶ月を切ってるのに、聖剣レーヴァティンが帝都どころか、この帝国から紛失してるなんてね」


 「・・・・・・」


 強張った表情で沈黙しているグラジオラスに、カミーユは淡々と話し続ける。


 「おまけに、その消息に関して、全くと言っていいほど、情報を手に入れられていないなんて」


 カミーユは座っていた椅子から立ち上がると、グラジオラスに近づく。

 グラジオラスとカミーユの身長は頭一つ分ほどある。


 「今日、この部屋に、僕が来たって事が、どういうことか分かるよね」


 カミーユは、下からグラジオラスの青い目を見つめながら、努めて優しく話している。


 「・・・詳しくは、父上に聞くといいよ。執務室でね」 

 

 そして、ドゥーバ卿の方を振り返るドゥーバ卿にも執務室に行くように告げる。


 二人が部屋から退室すると、カミーユは椅子に座り直した。

 カミーユは足を組むと二人が出て行った、扉を睨みつけながら、凍てつく声で呟いた。


 「グズどもめ」



 ソルスト帝国で大きな変革が起きる。

 聖騎士団団長であったグラジオラス殿下と、魔道大臣であったドゥーバ卿が、突如として帝国の中枢から姿を消したのだ。



  

 

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