26 変化と不変
「え?そんなに、変わっていますか?」
ジュラは焦ったような声を出した。オズウェルからは現在の姿について特に苦情は聞いて無い。
というか、容姿ついての質問も無かったので、元からこのような容姿だと思い込んでいた。なにせ、始めに発見した時は顔も傷だらけだったのだ。ジュラはオズウェルの元の顔を知らないので、元の顔のままだろうと思っていた。
「いや、基本的には、俺の知ってるオズウェルなんだけどな、・・・なんつうか、微妙に違うんだよなぁ」
エディッツは自分でも良く分からないのか、不思議そうに首を傾げている。
ジュラはその話しを聞いて、納得したように頷いた。
「ああ、色んなところを入れ替えましたからねぇ。差し替えた場所に、違和感を感じるのかもしれませんね」
「入れ替えた?・・・目、とかか?」
エディッツはオズウェルの両目を見て首を傾げた。
「そうですね。見えるところだと、あとは両腕と両足、ですかね?」
ジュラは合成した時の事を思い出そうと、空中に視線を彷徨わせながら思いつく限りの事象を上げて行った。
「んー、でも、中もかなり作り変えていますからねぇ。その影響も出ているのかもしれないですねぇ。何せ、初めて作った」
「ちょっと、まて!?」
ぶつぶつと喋っていたジュラを、エディッツは遮った。
ジュラがエディッツの方に視線を向けると、椅子から腰を浮かし、半立ちになったエディッツが険しい表情でジュラを見ていた。ちなみにオズウェルェルは食器を片付けに調理場に行っている。
「ちょっと、まて。一体、何の話しをしてんだ?」
「え?えーと。オズの見た目が、どうして変化したのか?について、ですけど?」
ジュラが不思議そうに答えると、今度はエディッツが困惑の表情を浮かべた。
「なんだか、良くわからねぇけど。あんたが、オズウェルのことを助けたんだよな?」
「ええ、まぁ、そうですね」
「あいつは、一体どういう状態だったんだよ?」
エディッツの質問に今度はジュラが困惑してしまった。
オズウェルとエディッツの話しを聞くに、二人は以前からの知り合いのようだが、果たしてあの時の状況を何処まで話していいのか、ジュラには判断がつかなかった。
「えぇっと、・・・うーん。かなり、酷い、怪我をしていましたけど」
「怪我?怪我なんてもので、済んだのか?」
「え?」
深刻な声に、ジュラが驚いて顔を上げると、エディッツが険しい顔をして、腕組をしている。
「俺が最後にあいつを見たとき、俺はオズウェルが生きてるとは思わなかったぜ」
その言葉にジュラは困ったように目を瞬かせた。
ジュラが話そうと迷っていることは、オズウェルの胸に刺さっていた魔剣だ。
あれの持ち主が誰かは分からないが、魔剣はオズウェルと完全に融合してしまい、もはや分離は不可能な状況だ。
そして、展開されていたと思われる魔術の残滓。
オズウェルから全ての全容を聞いていないジュラは、何を話せばいいのか分からないし、何が話してはならないのかも分からない状態だった。
険しい表情のエディッツと、困った表情のジュラがテーブルを挟んで見詰め合っていると、するりとしなやかな腕が視界に滑りこんできた。
「お茶です。どうぞ」
オズウェルはジュラの前だけに、よい香りのするお茶の入った器を置くと、その隣に座った。
「あー、・・・そういうところ、は変わってねぇな。」
気のそがれてたエディッツは、気が抜けたように椅子に座った。
「そういう、ところって?」
ジュラが不思議そうに尋ねると、エディッツは疲れたように答えた。
「自分の興味のあること以外、どうでもいいとこ・・・」
エディッツの言葉に、ジュラは確かにそうだなと頷いた。
「昼にはここを出ましょう。今日中には、森に帰ったほうがいい」
唐突に、今まで会話に入ってこなかったオズウェルが喋りだした。
「え?どうして?」
ジュラが不思議そうに尋ねると、オズウェルがさも当然のように答えた。
「中央から、偵察が来ます。砦に辿り着くのは昼ごろでしょう。見つかると、面倒なことになりそうなので」
「偵察?・・・昼ごろに着くってことは、目を飛ばしてんのか」
オズウェルの言葉に、エディッツが嫌そうな表情をして答える。
「そうだ。ここから一番近い騎士団の駐屯地はどこだ?」
「ランザスだ。統治されて12年になる。規模も錬度も中規模だが、騎獣の調教場があるからな。足は速いぜ」
「速度重視の騎獣隊が、一個小隊で、三日程度か」
「そうだな」
ジュラは淡々と話す二人を興味深く見ていた。
――本当に、オズウェルの知り合いなんだなぁ
オズウェルとエディッツが話している雰囲気は、明らかに既知の間柄のものである。
ジュラには良く分からないが、何かよくないことが起きているようだ。
「魔獣の箱が運ばれて来たのも、ランザスか?」
「あ?ああ、そうだな。通達もなく突然な。確か・・・、四日前くらいか?俺は下っ端だから、詳しい事は何も知らねぇけどな」
エディッツは肩を竦めて答えた。
「あの、さ」
ジュラは二人の会話を聞いていて、気になった事を尋ねて見た。
「あの檻、魔獣の箱って言うのかな?あれには、ノースト、えっとこの子の事だけど、見たいな魔獣も、結構入れられていたりするの?」
ジュラの言葉に、オズウェルとエディッツは顔を見合わせる。
一瞬考える素振りを見せたエディッツが、困惑気味に答えた。
「いいや。処刑に良く使われるのは、ドルゥーガとか、アジュガスとか凶暴で大型の魔獣ばっかりだな。」
そこで、一度言葉を切ると、ジュラの足元で丸まってるノーストをちらりと見て、呆れたような視線を向けた。
「だいたい、そんなうすノロ、逆に殺されちまうぜ?」
ジュラは、殺した瞬間、ノーストの体内に蓄積した毒素で、骨も無く消えるだろうと思ったが、そこでふと気付いた。
「・・・二人とも、アプドゥラって魔獣を知らない?」
ジュラの質問に二人は小さく頷いた。
「その芋虫、アプドゥラって魔獣なのか?魔獣の割りにはちっせぇな。・・・芋虫にしては、でけぇけど」
エディッツはテーブルを周りこんで、ノーストの近くまで来ると興味深そうに観察し始めた。
ノーストは警戒しているのか、丸まっていた体勢から状態を起こし触覚を露出させている。
しかし、エディッツは特に恐れる事も無くノーストの頭部分を小突いている。
その様子を見て、ジュラはエディッツの言っていることが本当のことだと確信した。
アプドゥラの存在を知っている者であれば、警戒状態のアプドゥラには、例え子どもであったとしても触れようとはしないだろう。
アプドゥラの毒素はそれほど恐ろしい猛毒だ。
「おっ!なんか赤くなったぞ」
ジュラはエディッツの声で我に返った。
ノーストとエディッツの方を見ると、ノーストの六つの複眼のうち三つほどが真っ赤に染まり、残りの三つも紫から赤に変わりかけていた。
エディッツは不思議そうに、その様子を眺めている。
「うわっ!こら、だめだよっ、ノースト落ち着いて」
ジュラの大声に驚いてエディッツが飛びのいた瞬間、ノーストの触覚が出ている場所よりやや下側から、薄緑色の液体が飛び出した。
とっさに飛び退ったために、エディッツには一滴も掛からなかったが、地面に付着した液体は、嫌な音を立てて地面を溶かし始めた。
「・・・まじか」
エディッツはその光景を見て顔色を無くしている。
「ノースト!だめだよ」
ジュラは慌て椅子から立ち上がると、触覚を打ち鳴らして警戒音をだすノーストを宥めだした。
「まだ、完全に回復していないのに、体外に毒素を吐き出したらだめだよ」
ノーストは、ジュラに注意されて心なしか落ち込んでしまったようだ。六つの複眼も元の紫色に戻っている。
「・・・あんたも、中々いい性格してるな」
エディッツは、ノーストの頭をぺしぺしと叩いているジュラを見て、何とも言えない表情で呟いた。
活動報告におまけを載せました。
ランキングに入ったお祝いに(笑)




