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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第一章 出会い
22/48

22 無人の砦

 オズウェルはジュラを抱えて砦の二階に来ていた。

 二階に上がって右側に、エディッツの言っていたとおり寝室らしき部屋があった。


 部屋の中には、大きいがあまり上等ではない寝台があった。

 オズウェルは僅かに迷うそぶりを見せたが、部屋の中を見渡して分からない程度に嘆息をつくと、ジュラをその寝台にそっと寝かした。

 ヴァスも我が者顔で部屋の中に入り、寝台の上に上がりこんだ。

 質素というよりも粗末な寝台は、それだけで悲鳴を上げていたが、ヴァスはあまり気にしていないようだった。


 そのとき、寝室の外がにわかに騒がしくなった。

 エディッツが悪態をつく声と、なにか物音がしている


 びったん ばったん


 「くっそ!大人しくしろよっ、地面に叩きつけるぞ!?」


 ばったん びったん


 悪態と物音はやがて寝室の直ぐ前までやってきて、扉を足で蹴り開けながらエディッツが現れた。

 

 「くっそたれ!なんだ、こい、うおっ」


 エディッツは両腕に白い物体を抱えて寝室に入ってきた。

 白い物体は腕の中でもがいているようだ。びちびちと激しく暴れている。


 「だ、から、暴れるなって、いって、る、だろうがっ」


 ばっちん


 一際大きな音がしたと思うと、エディッツは頬を強かに打たれ、白い塊を放り出した。


 白い塊、アプドゥラの幼体は床で暫らく暴れていたが、もそもそと床を這い出すと、寝台の側まで辿り着き、何かを探すような仕草を始めた。

 やがて、寝台の上に登りだしジュラの足元に丸まった。


 「あー、・・・いってぇ。何なんだよ、その芋虫」


 律儀にアプドゥラの幼体を運んできたエディッツは、疲れ果てたのか床に座りこんでしまった。


 「魔獣の檻に入っていた、魔獣だ」


 「はぁ?この、白い芋虫が?」


 エディッツは虚をつかれたような顔をした。


 「この一匹だけか?その虎も入ってたんじゃないのか?つーか、そこに寝てる奴、だれだよ?」


 オズウェルはエディッツの質問には一切答えず、無造作に首元を掴むと部屋から引きずり出し扉を閉めた。


 「いって、なんだよ一体!・・・はぁ、本当に一体何が起こってるんだ」

 

 今までの勢いが嘘のように、エディッツは床に倒れ込んだ。

 碌な手入れのされていない砦の石床は、砂利や石がそこかしこに転がっている。


 「討伐に行った団員は帰ってこねぇし、帰ってきた団長は部屋から出てこねぇ。残っていた騎士もみんな死んだ」


 そこでエディッツは急に体を起こすと、オズウェルに詰め寄った。


 「つーか、おまえなんか知ってるんじゃないか?遺跡の方とか行ってないか?昨日の朝、討伐に十人くらい向って、だれも帰ってきてねぇんだ。隊長以外は・・・」


 「そう、だろうな」


 「なんだ、知ってるのか」


 「ああ、遺跡の近くで、全員死んだ」


 「ああ、通りで・・・って、は?ちょっとまて、どう言うことだ!?」


 エディッツはオズウェルに詰め寄ったが、扉に寄りかかったまま目を閉じ、微動だにしない。

 痺れを気らして、エディッツは掴みかかろうとしたが、


 「今、この砦には、ここにいる者以外、誰もいないぞ」


 「は?そりゃ、騎士はいねぇし、隊長も部屋から出て来ねぇけど。砦には、トムスク族の奴隷もいるんだぜ」


 エディッツは戸惑うような視線ををオズウェルに向けた。

 確かに砦の異変に怖気づいているのか、全く気配を感じない。

 全く気配を感じない?もう、朝日は登りきっているというのに。


 「信じられないのなら、自分の目で、確かめるといい」


 オズウェルはそれだけ言うと、扉に寄りかかり目を閉じてしまった。

 それ以降はエディッツが何を言っても反応せず、彫像のように動かなくなってしまった。


****


 「どうなってんだ。本当に、だれもいねぇ」


 結局、エディッツはオズウェルが言った事を確かめるために、トムスク族が寝泊りしている小屋に来ていた。

 小屋には50人のトムスク族が、むき出しの床に粗末な布だけを敷いて、雑魚寝をして生活している。

 それだけの人数が居れば、物音一つしないなどありえない。たとえ、どれほど息を潜めていたとしても。

 

 エディッツが小屋の前に来た時、あまりにも辺りは静かだった。

 不自然なほどに。


 中に入って見ると、人の気配どころか誰もいなかった。


 「・・・見張りも居なくなっている」


 エディッツは小屋の中央ら辺に座りこんでいた。

 小屋の中は無人で、50人が生活していたとは思えないほど閑散としている。

 小屋の中には誰も居らず、エディッツだけが胡坐を掻いて座っているだけだった。

 

 小屋に来る前にエディッツは砦の中を調べて回っていた。

 日が上り、奴隷達が仕事を始める時間にも関わらず、砦の中には人気がない。見張りに立てていた奴隷たちも姿が見えず、念の為に砦の外も確認したが、人の出入りした痕跡は見られなかった。


 「どうなってる。隠れたわけでも、逃げたわけでもない。突然、消えた?」


 結局、そこで考えても仕方ないと、エディッツは砦に戻る事にした。



 


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