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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第一章 出会い
18/48

18 眠りの底で

 どこからか、自分を呼ぶ、声がする。


 反響しながら遠ざかり、或いは近づく声。それは、男とも女とも言い切れず、若いとも年老いているとも言える声だった。

 

 ――・・・懐かしい


 ジュラは地の底のような真っ暗な空間で、ぽつんと一人寝そべっていた。

 

 真っ暗な空間にキラキラと光る粒子が舞っている。

 それは、視界のあちらこちらで煌き、幻想的な光景を作り上げていた。


 ――・・・ああ、この場所も、懐かしい


 完全に覚醒しきれないジュラの意識を、声が揺り起こすように、或いは眠りにつかせるように呼んでいる。


 ――・・・名前を呼ばれるのは、何年振りだろう


 自分の名前を呼ぶ声は、遠ざかっては近づき、その正体は掴めない。

 だが、どこか安心する声である。

 それに何より。


 ――・・・名前を、呼ばれることが、ないからなぁ


 ジュラが黒い森ミリロコウで一人暮らしを始めて、長い年月が経った。

 ヴァスがいたため孤独ではなかったが、ジュラに話し掛ける者は誰一人居なかった。

 森で暮らし始めた当初、20年は森を出ず、森の中の環境を整えていた。その後、武器防具の材料を集める旅をしながら、各地を周り始めた。

 エルフやドゥエルグの集落では、土の魔女と呼ばれ、ジュラの名前を呼ぶものはいない。

 

 そもそも、ジュラの名前を知る者がいないのだ。


 ジュラの名前を知る者や、ジュラと親しい者はこの世界から消えてしまった。

 本来であれば、ジュラも共に消えてしまうはずだったのだ。


 ――・・・そう言えば、オズが呼んでくれたなぁ。ああ、でも


 木霊のように、自分の名前が響く中で、ジュラはふと漆黒の髪を持つ美少年のことを思い出していた。


 ――・・・オズは、目覚めて直ぐしか、・・・名前を呼ばなかったなぁ


 一月以上を共に暮らしながら、オズウェルがジュラの名前を呼んだのは覚醒して直ぐの時だけである。

 それ以外は、名前を呼ばれた記憶が無い。


 ――名前、・・・ああ、私の名前は


 段々とジュラの意識は混濁して行く。名前を呼ぶ声は、高くなり、低くなり、若くなり、年老いていく。

 それは、不思議な響きを作り出しジュラの意識を包んでいく。


 ――私は、私は、本当は・・・


 暗闇を漂っていた煌きは、ゆっくりとその輝きが薄れ、それと同調するようにジュラの意識は沈んで行った。

 

 ――・・・ああ、まだここに居たい。でも、・・・呼ぶ声が、私を、呼ぶ・・・声・・・が


 そして全ては暗闇に包まれた。




 「え?・・・あれ?」


 唐突に、ジュラは覚醒した。

 

 自分は仰向けに寝ているようだ。右側に見える黒い毛皮の山はヴァスだろう。左下の方には乳白色の塊が見える。緩やかに上下しているそれは、


 「・・・さっき治療した、アプドゥラの子ども?」


 ジュラが体を起こすと、どうやら寝台の上に寝ていたようだ。

 大型の魔獣のヴァスと、小さくはないアプドゥラの子どもが乗っても、手狭に感じない程度には大きな寝台である。

 しかし、寝台に施されている装飾や、使用されている布はそれほど質が良くない。大きくする事で粗末さを誤魔化している感じのする寝台だった。

 もちろん、ジュラには全く覚えのない寝台だった。


 「はて?ここは何処かな?」


 ヴァスが寝入っているところを見ると、危険はなさそうである。

 左下に体を丸めて寝ているアプドゥラの子どもは、瀕死だったことが嘘のように回復していた。


 「んー、我ながら良い腕だ。明日には完全に回復してるだろうなぁ」


 薄っすらと緑ががかっていた肌は、透明感のある乳白色になり健康的に艶々と輝いている。

 本来、アプドゥラの幼体の色は乳白色である。しかし、傷を負い弱っていたために、体内の毒素を上手く分解することが出来ず、体表近くに毒素が浮き出てしまっていたのだ。


 「それにしても、どこに棲んでいたんだろう?この地域には生息地帯は、ないはずなのに」


 ジュラはアプドゥラの容態を診断したあと、その背を撫でながら色々な事を考えていた。


 「第一、ここは何処だぁ?全く見覚えがないけど・・・」


 無駄に大きいだけで、粗末な装飾と布で出来ている寝台は、ジュラの趣味では当然ない。


 「ええっと、確か、この子の施術をして、気がついたら夜が明けてて、眠くなって、我慢できなくなって、それで、一緒に寝ようってオズにも・・・」


 そこで、ジュラは目を見開くと、勢い良く寝台の上に立ち上がった。


 「って、オズが、オズがいないじゃんかぁ!」


 ジュラは慌て寝台から飛び降りようとして、足元に蟠っていたシーツに足を取られ、大きくつんのめった。

 寝台の高さは膝より少し高い程度だったが、


 ――ひぃっ!い、石床っ


 一瞬視界に入った床は木製ではなく、灰色をした石材だった。上には絨毯などは敷かれておらず、顔面を強打すれば、大怪我は免れないだろう。

 

 ジュラは息を止め、痛みに備えて目を強く瞑った。


 ――・・・?あれ、い、痛くないなぁ


 しかし、何時まで経っても痛みはやってこない。それどころか、何かにしっかりと抱き込まれている気がする。

 ジュラを抱きとめた人物は、しっかりと彼女を抱きとめたまま放さない。

 小柄なジュラの体は、二本のしなやかな腕に捉えられ、自由を完全に奪われていた。

 おまけに胸に顔を押し付けられているために、相手の姿を確認することも出来ずにいた。


 「え、ええ?な、何?だ、だれ?」


 混乱の極みにいるジュラを見て、謎の相手は僅かに笑ったようだ。


 腕による拘束が解かれ見上げた先には、見た事が無い筈なのに、見覚えのある美丈夫がいた。

 切れ長の眼は鋭く近寄りがたい雰囲気を出しているが、秀麗な顔立ちなのに精悍さを併せ持ち、匂い立つような男の色気を感じさせる美丈夫である。

 体格は分からないが、ジュラを抱きしめる両腕は、しっかりとした筋肉に覆われているようで、微塵も揺らぎはしない。


 「わかりませんか?私が、だれか」


 驚きに目を見開いているジュラを、男は無表情に、だが目に面白そうな気配を漂わせて見ている。

 そして、すいっと唇の両端を動かし、艶やかな笑みをその美しいかんばせに浮かべた。


 ジュラはその無駄に艶のある微笑みに、見覚えがあった。


 「オ、オズ?」

 

 呆然と呟いたジュラに、オズウェルは一層笑みを深めた。


 「ええ、そうですよ」




 

あまりにも、誤字が多いので、直ぐに修正しました。

すみません。

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