17 瀕死の蟲
「よし、とりあえずこれで良し!」
檻を破壊すると、ジュラは素早く別の魔法を展開した。
上空と地面に虹色の魔法陣が輝いている。
「この、・・・魔法陣は」
オズウェルは檻を中心に展開されている魔法陣を、不思議そうに見ていた。
「この魔法陣は、この狭間にアプドゥラの毒を閉じ込めるものだよ。そしてっと」
ジュラは破壊された檻の中央へと進む。中央には緑っぽい白い塊が、不気味な山を作っている。
塊からはどす黒い緑色の液体が流れ出し、液体が接触している檻の床は細かい泡が立ち、溶けているようだ。
「触れても、大丈夫ですか?」
オズウェルは、白い塊に自然に触れようとするジュラに声をかけた。
「んー?平気、平気。ちなみにオズも平気のはずだよー」
「え?」
「オズには、まぁ、どんな薬物も効かないだろうね。あ、ヴァスも薬物抵抗は強いから、大丈夫だよ」
ジュラは振り変える事もなく告げると、白い塊を手で探り出した。
「ん、んー。お、この子かなぁ?」
ずるりと、白い塊の中から何かを引きずり出した。それは、他の塊よりもやや大きく、僅かに動いているようである。
「あやや、手酷くやられてるねぇ」
ジュラはアプドゥラの幼体の様子を確認すると、手早く治療を始めた。
「助かりそうですか?」
背後に来ていたオズウェルが、ジュラの手元を覗き込む。ジュラは携帯用の治療道具で、手早く傷の手当をしていく。
傷は多いが、深いものは少ないようだ。しかし、数本の矢が深く刺さっていた。
「・・・随分、大人しいですね」
オズウェルの言葉に、ジュラは渋い顔をした。
大人しいというよりも、この幼体にはもはや暴れる体力も残っていないようだった。
「弱っているからね。んー、どうしようか、このままだと持たないかなぁ」
一通りの治療は終えたが、幼体の息遣いは弱々しい。
そのとき、ふとオズウェルが視線を上げた。
「どうか、した?」
「・・・いえ、何でもありません。この魔法陣は、侵入も防ぐ効果があるのですか?」
「侵入?外から?んー、そんな効果はないなぁ。第一、入ってきたら普通の生き物なら、骨も残さず腐り果てると思うよ」
「・・・そう、でしょうね」
ジュラはオズウェルの質問に不思議そうに答えた。実際ジュラが現在展開している魔法陣は、毒素の出入りを制限するものであって、それ以外は遮断していない。
返答を聞いたオズウェルは、チラリと周囲に視線を巡らせたが、ジュラがそちらを見ても何も見当たらなかった。
「臓器が、幾つか損傷してるのかぁ」
「・・・可能かどうか、分かりませんが。この死んでしまった幼体から、移植する事は不可能ですか?」
オズウェルの提案に、ジュラは目を丸くした。
確かに、出来ない話しではない。損傷していない臓器を探さなければならないが、どれか一体くらいはあるかもしれない。
「そうだねぇ。そのほうが、助かる可能性が高いかもしれない」
ジュラはオズウェルに手伝ってもらい、アプドゥラの幼体の臓器移植手術を行った。
結局、死んでしまっていた四匹全てを解体する事になった。損傷していた臓器は全て入れ替えることができた。
状態維持の魔法をかけながら施術をし、幼体に出来るだけ負担をかけないようにしたのだが。今の所、容態は落ち着いてる。
「はぁー、疲れたぁ」
「お疲れさまです」
「うん、オズもね。とりあえず、これで、なんとか助かりそうねぇ」
ジュラはそっとアプドゥラの背を撫でた。緑色の体液で汚れていた表面は綺麗に洗い流され、透明感のある緑がかった乳白色の表皮が緩やかに上下している。
「毒素もかなり薄まったかな?」
「この魔法陣は、上空のものが毒素を空間に封じて、地上のものが毒素を浄化してるのですね」
「うん、大体そんな感じかな?・・・ふう、あと一時間もあれば、殆ど浄化できるかな?」
ジュラは、空間の毒素濃度を魔法で測定しながらそう呟いた。
魔法陣が輝いている空は白み始め、もう直ぐ朝焼けが見れそうである。
「あー、もう、朝ですよー」
「そうですね」
「眠いのですよー」
ジュラは情けない声を出すと、アプドゥラの幼体の上にうつ伏せた。
辺りには、解体されたアプラゥドが散らばっていて、中々凄惨な光景だがジュラは全く頓着していなかった。
「あぁー、もう、ここで寝ていいかなぁ?」
ジュラは本気半分でぼそりと呟いた。
目蓋が半分落ちかけていて、非常に眠そうである。
「大丈夫ですか?」
「眠すぎて、大丈夫、・・・じゃありま、せーん」
受け答えも途切れ途切れになってきた。治療したばかりのアプドゥラの幼体にしがみつき、本格的に寝入ろうとしているようだった。
「そのまま、寝てしまうのですか?」
「うーん、オズも寝ようよぅ。・・・一緒に、さぁ」
もはや、後半は夢うつつに呟きながら、ジュラは眠りの世界に落ちていった。
「・・・この状況で寝ますか。まぁ、らしいですけどね」




