15 檻と蟲
「あららー、これはまずいなぁ」
「どうしたんですか?」
ジュラは檻の様子を見てから、顔色が少し悪い。オズウェルはジュラの変化に気付き、心配そうに身を乗り出した。
「あの、檻の中。アプドゥラの子どもが入ってる・・・」
「アプドゥラ?」
「うん。・・・ワームの一種なんだけど」
ワームは魔獣の一種だ。ワームは下級に族するものが殆どだが、その中でアプドゥラは中級に位置する魔獣である。
沼地や、湿地帯などに集団で棲み、十数頭から数十頭の規模の群れを形成する。成体は5メートルから、大きい物で8メートルほどの大きさに成長する。
頭部が大きく盛り上がった、芋虫のような姿をしているが、緑色の体は鋼鉄をも跳ね返す強靭な外皮が覆っている。
性格は温厚で、比較的大人しい魔獣だ。通常であれば。
「・・・通常であれば?」
「うん。動きも鈍いし、外皮が以上に頑丈だから、多少小突いたくらいなら気付かないくらいに鈍感なんだ。旅人が岩と間違えた、なんて話しもあるくらい。ただ、群れで行動するから、子ども集団で育てる性質があって・・・」
「あって?」
「子どもに危害を加えると、集団で襲いかかってくるんだ」
アプドゥラは幼体の時は、皮膚が柔らかく成体になってアプドゥラと違って、容易に傷を負わせることが出来る。
成体のアプドゥラは幼体の流す体液に反応して、攻撃体制に入る。そして、幼体の体液が付着しているものを攻撃しだす。
「あの、檻にはアプドゥラの子どもが?」
「うーん。傷だらけで入ってるんだよねぇ」
ジュラが覗きこんだ檻の中は、アプドゥラの幼体が5匹、折り重なるように入れられていた。
その体には数本の矢が刺さっており、体液が辺りに流れていた。
「ああー、どうしようかなぁ。これは、非常にまずいなぁ・・・」
檻の中を再確認したジュラは、更に深刻な声を出した。
「どうしたのですか?」
「5匹くらい中に入ってるけど、既に何匹か死んでるなぁ」
「それが、何か問題に?」
「うん。アプドゥラは毒素を体に取り込んで、それをエネルギーに変換するんだけど・・・」
アプドゥラは沼地や湿地帯に棲み、その地域の毒素を浄化しながら生活している。また、アプドゥラの中でも独自の毒素が生成されており、それは防衛の時に使われる。
幼体のアプドゥラは毒素を生成する能力が低く、同じように浄化する力も低い。
「アプドゥラの子どもが死んでしまうと、体内に蓄積された毒素が全て放出されるんだけど・・・」
檻の中にいる幼体の数は、おそらく5匹。死んでいるのは3匹以上。
「アプドゥラの子どもの毒はねぇ。一匹で、一つの国を壊滅させるくらいの威力があってねぇ」
ジュラは慎重に檻の周辺を調べながら、上空から少しずつ下降していった。
「あの数だと、この地域は壊滅して、・・・百年くらいは死地になるねぇ」
「・・・地上に降りるのですか?」
「うん。ここは魔の森に近いしね。影響が何処まで広がるが、ちょっと想像が出来ない規模だからねぇ」
高度を不可視の魔法効果が切れる、ぎりぎりまで下げより近くで檻のなかを覗いた結果。檻の中にいる幼体の数は5匹、内生存しているのは一匹だけだった。
「すでに四匹も死亡しているのに、なぜ周辺に被害がないのですか?」
「最後の一匹が、かろうじて浄化しているからね。でも、もう限界値みたいだね」
ジュラの言う通り、アプドゥラの入っている檻は下の方が溶解し始めていた。
「檻の後ろ側に降りるね、オズは」
「一緒に行きます」
ジュラの言葉を遮るように、オズウェルが強く返事をした。ジュラは何か良いたそう顔をしていたが、結局は何も言わず一緒に地上に降りる事になった。
檻はどの面も上部に僅かに隙間があるだけで、全て鋼鉄の板で覆われていた。
しかし、底辺の方は緑色の泡が立ち、異臭が立ち登っていた。底の板が溶けているのだ。
「んん?魔法抵抗が、掛けられているなぁ」
「魔法抵抗?」
「うん、こっそり入り口を開けようと思ったけど、半端な魔法も繊細な魔法も効果がないねぇ」
ジュラは仕方ないと呟くと、オズウェルとヴァスに少し離れるように指示して、自分は檻の前に立った。
「ちょっと、派手にいきますかぁ」
両手の指先で、複雑な模様を空中に描いていく。完成した陣に、ジュラが魔力を乗せた吐息を吹き掛けると、空中で魔法陣は光輝き檻に吸い込まれいった。
一瞬の間の後、檻は轟音を立てて大破した。
爆破の衝撃は地面を揺らし、爆音が辺りに轟く。
「・・・かなり、派出、でしたね」
「そう、・・・だよねぇ」




