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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第一章 出会い
15/48

15 檻と蟲

 「あららー、これはまずいなぁ」

 

 「どうしたんですか?」


 ジュラは檻の様子を見てから、顔色が少し悪い。オズウェルはジュラの変化に気付き、心配そうに身を乗り出した。

 

 「あの、檻の中。アプドゥラの子どもが入ってる・・・」


 「アプドゥラ?」


 「うん。・・・ワームの一種なんだけど」


 ワームは魔獣の一種だ。ワームは下級に族するものが殆どだが、その中でアプドゥラは中級に位置する魔獣である。

 沼地や、湿地帯などに集団で棲み、十数頭から数十頭の規模の群れを形成する。成体は5メートルから、大きい物で8メートルほどの大きさに成長する。

 頭部が大きく盛り上がった、芋虫のような姿をしているが、緑色の体は鋼鉄をも跳ね返す強靭な外皮が覆っている。

 性格は温厚で、比較的大人しい魔獣だ。通常であれば。


 「・・・通常であれば?」


 「うん。動きも鈍いし、外皮が以上に頑丈だから、多少小突いたくらいなら気付かないくらいに鈍感なんだ。旅人が岩と間違えた、なんて話しもあるくらい。ただ、群れで行動するから、子ども集団で育てる性質があって・・・」


 「あって?」


 「子どもに危害を加えると、集団で襲いかかってくるんだ」


 アプドゥラは幼体の時は、皮膚が柔らかく成体になってアプドゥラと違って、容易に傷を負わせることが出来る。

 成体のアプドゥラは幼体の流す体液に反応して、攻撃体制に入る。そして、幼体の体液が付着しているものを攻撃しだす。


 「あの、檻にはアプドゥラの子どもが?」


 「うーん。傷だらけで入ってるんだよねぇ」


 ジュラが覗きこんだ檻の中は、アプドゥラの幼体が5匹、折り重なるように入れられていた。

 その体には数本の矢が刺さっており、体液が辺りに流れていた。


 「ああー、どうしようかなぁ。これは、非常にまずいなぁ・・・」


 檻の中を再確認したジュラは、更に深刻な声を出した。

 

 「どうしたのですか?」


 「5匹くらい中に入ってるけど、既に何匹か死んでるなぁ」


 「それが、何か問題に?」


 「うん。アプドゥラは毒素を体に取り込んで、それをエネルギーに変換するんだけど・・・」


 アプドゥラは沼地や湿地帯に棲み、その地域の毒素を浄化しながら生活している。また、アプドゥラの中でも独自の毒素が生成されており、それは防衛の時に使われる。

 幼体のアプドゥラは毒素を生成する能力が低く、同じように浄化する力も低い。


 「アプドゥラの子どもが死んでしまうと、体内に蓄積された毒素が全て放出されるんだけど・・・」


 檻の中にいる幼体の数は、おそらく5匹。死んでいるのは3匹以上。


 「アプドゥラの子どもの毒はねぇ。一匹で、一つの国を壊滅させるくらいの威力があってねぇ」


 ジュラは慎重に檻の周辺を調べながら、上空から少しずつ下降していった。


 「あの数だと、この地域は壊滅して、・・・百年くらいは死地になるねぇ」


 「・・・地上に降りるのですか?」


 「うん。ここは魔の森ナロモミに近いしね。影響が何処まで広がるが、ちょっと想像が出来ない規模だからねぇ」


 高度を不可視の魔法効果が切れる、ぎりぎりまで下げより近くで檻のなかを覗いた結果。檻の中にいる幼体の数は5匹、内生存しているのは一匹だけだった。


 「すでに四匹も死亡しているのに、なぜ周辺に被害がないのですか?」


 「最後の一匹が、かろうじて浄化しているからね。でも、もう限界値みたいだね」


 ジュラの言う通り、アプドゥラの入っている檻は下の方が溶解し始めていた。


 「檻の後ろ側に降りるね、オズは」


 「一緒に行きます」


 ジュラの言葉を遮るように、オズウェルが強く返事をした。ジュラは何か良いたそう顔をしていたが、結局は何も言わず一緒に地上に降りる事になった。


 檻はどの面も上部に僅かに隙間があるだけで、全て鋼鉄の板で覆われていた。

 しかし、底辺の方は緑色の泡が立ち、異臭が立ち登っていた。底の板が溶けているのだ。


 「んん?魔法抵抗が、掛けられているなぁ」


 「魔法抵抗?」


 「うん、こっそり入り口を開けようと思ったけど、半端な魔法も繊細な魔法も効果がないねぇ」


 ジュラは仕方ないと呟くと、オズウェルとヴァスに少し離れるように指示して、自分は檻の前に立った。


 「ちょっと、派手にいきますかぁ」


 両手の指先で、複雑な模様を空中に描いていく。完成した陣に、ジュラが魔力を乗せた吐息を吹き掛けると、空中で魔法陣は光輝き檻に吸い込まれいった。


 一瞬の間の後、檻は轟音を立てて大破した。

 爆破の衝撃は地面を揺らし、爆音が辺りに轟く。


 「・・・かなり、派出、でしたね」


 「そう、・・・だよねぇ」




 

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