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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第一章 出会い
12/48

12 血の海と少年

残酷な描写あり

 辺りには死が立ち込めていた。

 赤く染め上げられた大地、飛び散った肉片。むせ返るような血と臓物の臭いが、辺りに立ち込めている。目を背けたくなるよな凄惨な情景にも関わらず、オズウェルは平然とそこに佇んでいた。


 「・・・一体、どうなっているんだ?」


 殺気を感じ、慌てて駆けつけたジュラは目の前の情景に呆然としていた。

 傍らに寄りそうヴァスに視線を移すと、特に警戒はしていないので、敵意を持った存在はいないようだ。


 「・・・オズ」


 血の海に立っているオズウェルは、ジュラの声に反応して視線を向けた。

 その表情は無表情で何の感情も伺うことは出来ない。


 いや、オズウェルはこの状況に何も感じていないようである。


 辺りに散らばる肉片から、死んでいるのは一人や二人では無いだろう。十人近い人間がこの場で、ついさっき死んだようだ。

 

 オズウェルは血が服に着かないように、血溜まりを出来るだけ避けながらジュラの傍まで歩いてきた。


 「オズ、・・・えーと、その、怪我はしていない?」


 「ええ、大丈夫です」


 ジュラの質問に、オズウェルは軽く頷きながら答えた。その返答は、この場では不自然な程、自然だった。

 ジュラはオズウェルが無傷なのを確認すると、詰めていた息を吐き出した。

 ここで、死んでいる人間達が何者かは分からないが、とりあえず、オズウェルは無事なようである。


 「殺気を感じたから、慌てて来て見たんだけど。一体、何があったの?」


 ジュラがヴァスの頭を撫でてやりながら、困惑気味にオズウェルに尋ねた。


 「攻撃されたので、相応の対処をしました」


 「ふうん、そうかぁ。・・・んん?攻撃、された?誰に?」


 「装備からして、帝国の下級騎士のようでしたね」


 「え?なぜに?ここは、帝国騎士団も立ち入り禁止区域じゃなかったけ?」


 オズウェルの話しを聞いて、ジュラの困惑は更に深まった。


 「通常はそのはずです。ここは、ゾルウェストの森、魔の森ナロモミに近く危険ですから」


 「通常?」


 「ええ、魔獣が森から出てきて、被害が出そうだと判断された場合、近隣の砦から騎士団が派遣されることがありますので」


 「はぁ、なるほど、・・・ところで、相応の対処って?」


 「力の制御が、まだ上手くいかないもので」


 思ったよりも汚くなってしまいました。少し申し訳なさそうに話すオズウェルを、ジュラはなんとも言えない表情で見つめていた。

 オズウェルの話しから、この状況を引き起こしたのが彼だと言うことが分かる。


 「・・・えぇと、オズ。その、他に対処のしようはなかったの、かな?」


 ジュラの言葉にオズウェルは不思議そうに首を傾げた。


 「彼らは殺すつもりで攻撃してきました。ならば、彼らは同じく殺されることを、覚悟して然るべきでしょう?」


 オズウェルの異色の目は無邪気に澄んでいて、本当に不思議に思っているようだった。その様子からは、人間を大量に殺した事に対する罪悪感など、微塵も感じられない。


 殺意を持って攻撃してきたので、同じように対応した。

 

 オズウェルは、そう言っているのである。


 ――・・・そうは、言ってもねぇ


 ジュラはきょとんと首を傾げる美少年から、目の前の惨状に視線を移す。


 「これは、ちょっと、やりすぎな気がするのですよ?」


 「そうですね。次は、出来るだけ周囲も汚さないように、気をつけますから」

 

 オズウェルはそういうと、思わず目が潰れてしまいそうなほど、輝かしい笑顔を浮かべてジュラを見つめ返した。


 ――いやぁ、そうではなくてね・・・

 

 オズウェルの笑顔に目を細めながら、ジュラは重い溜息をはいた。


 「ま、いいや。とりあえず、これを何とかしましょうかねぇ」


 ジュラは無邪気に微笑むオズウェルから、視線を血の海に移した。


 「このままなのは、流石に悪いよねぇ。さっさと浄化しますか」


 右手に持っていた弓矢を構え、矢筒から矢を一本抜き出すと、血の海の中央、先ほどまでオズウェルが立っていた辺りに、矢を放った。

 矢が地面に刺さるのと同時に、周囲に広がっていた血液は消え去り、肉片も死臭すら消えていく。数十秒で、全ての痕跡が消え、平穏な森の情景が戻ってきた。


 「消滅の魔法ですか?」


 ジュラの動向を見守っていたオズウェルが、静かに尋ねてきた。


 「んーん。そんな高度なものじゃないよ。全部、大地に還しただけ」


 ジュラは魔法が正確に作動したのを確認すると、構えていた弓を下ろし、背中に背負い直した。


 「んーと、これからどうするかねぇ?」






 

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