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私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第一章 出会い
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1 魔の森〈ナロモミ〉にて

初投稿です

 ジュラは薬と防具の練成に使用する材料を調達し、魔の森ナロモミの空を帰途についていた。

 しかし突然、乗っていた騎獣が警戒態勢に入ったのだ。


 騎獣の様子から魔物の気配ではない。騎獣が警戒しているほうへ慎重に近づいてみる。


 やがて、騎獣が警戒していたものが何なのかジュラにも分かった。

 

 血の臭いだ。濃い血の臭いが立ち込めている。それは、上空にいる防護布を口につけている、ジュラの所まで漂ってくる。

 今は見えない地上は、どんな状態になっているのか。


 しかし、ジュラが現在いる場所は魔の森ナロモミとはいえ、その入り口付近である。最深部でもないのに、凶暴な魔物が出る事はまずない。


 「・・・はぐれ妖魔でも出たのかなぁ」


 地上には生き物の気配はない。鬱蒼と茂る木々の間から、様子を窺うことは出来ない。だが、騎獣も血の臭いを警戒しているだけで、危険はなさそうである。


 定期的に魔の森ナロモミに来る身としては、様子を確認するくらいしておいた方がいいだろう。


 騎獣に地上に降りるように指示する。ゆっくりと地上の様子が見えてくると、そこは血の海だった。


 魔の森ナロモミの大地は、土地全体が魔の瘴気を帯びているために青白い。そして草木は灰色を帯びてくすんでいる。


 だがジュラが降り立ったそこは、辺り一面、鮮やかな赤に染め上げられていた。青白いはずの地面も、灰色の草木も赤い。真っ赤だ。


 所々にみえる白っぽい物は、骨や肉片だろう。元の原型を判別するのは難しいが、人間だったようだ。


 よくみると、赤い海には剣や鎧が沈んでいる。それから判断するに、どこかの国の騎士たちの物のようだ。


 ――・・・魔術の気配がする。何かの儀式かなぁ?


 ざっと周囲の様子を見たジュラは、空間に立ち込める魔術の気配にに気付いた。魔女であるジュラが使う魔法とは構造が違うため、はっきりとは解らないが、何かを成す為に儀式的な魔術が行われていたようだ。


 ――複数の魔術の気配がする。複雑な構築をしているみたいだけど、・・・失敗したのかなぁ。


 血の渇き具合から、半日近く経っているようだ。構築されていた魔術は殆ど拡散して、その全容は掴めない。残った余韻が獣達を遠ざけているが、それも直ぐに消えるだろう。明日には僅かな痕跡を残して、獣や下位の魔物が全て片付けてしまうに違いない。


 ジュラはこの場に留まっても得られる情報はもうないと、その場を発とうとした。


 

 だがしかし、その時、微かな命の気配を感じた。

 

 この地獄のような場所の中央付近。魔術の気配が一番濃い辺りだ。

 人間がこの場で生き延びているとは思えない。気のせいかもしれないが。


 ジュラが中央に近づくと、はたしてそこには、人間が生きて居た。


 「驚いたこと。こんな状態で、生きているなんてねぇ」


 その人間は全身血まみれで、肌の色も髪の色も分からない。体格からして男だろう。だが、背丈は解らない。

 四肢が膝、肘辺りで千切れていたからだ。胸に中ほどで折れた両刃の剣が刺さっている。しかし、その胸は上下しているのだ。


 「これは、・・・この剣に生かされているのかなぁ?」


 男の状態はどう考えても人間が生きているはずのないものだ。上級魔族の中でも再生能力の高い者で無ければ、瀕死の状態だ。


 「抜けば、死ぬかな?・・・いや、うーん、剣に魔力が?魔術が半端に起動してるのか?・・・抜いたら妖霊化しそうだなぁ。」


 男に突き刺さっている剣。おそらく行使された魔術の影響で、不完全な魔剣と化しているようだ。 その剣の魔力の影響で男は死なない。しかし、半端な魔剣は、男を再生するほど魔力を持たないため男を回復させることは出来ず、結果的に


 「死ねない状態でここに・・・。剣を埋め込めば、助かるかなぁ?いや、体は治るかもしれないが・・・、精神がどうなるか」


 ジュラは男の状態を詳しく観察して、深く溜息をついた。このまま放っておけば、十中八九男は妖魔化するだろう。それも、ここに漂う数知れない無念の霊を抱えて。剣を抜けば男は死ぬが、その魂は魔術の影響を受け霊体の妖魔、妖霊となりそうだ。

 男に刺さっている剣を浄化し、抜いてしまえば良いのだろうが、


 「困ったな。このまま放置するのは物騒だが、解放することも出来ないし」


 魔女のジュラは魔法を使うことができる。魔法は人間が使う魔術よりも高度で複雑な事象ををひき引き起こすことができるが、万能ではない。

 そして、人間の使う魔術は欠陥が多く、魔法で強引に干渉すると魔力が暴発してしまうことがあるのだ。

 抜くには、中途半端に作用している魔術に魔法で干渉しなければならないだろう。


 「・・・仕方ないな。家に持って帰るかぁ」


 

 

 

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