書いた言葉が世界のルールになるなんて聞いてません!
【第29作目】思いつくまま、書いてみました。
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ミサキが異世界へ転生したのは、本当に突然だった。
事故に遭った記憶はない。
神様に会った記憶もない。
チート能力を授かった覚えもない。
気が付けば見知らぬ街の路地裏で震えていて、さらに気が付けば教会のベッドの上で寝かされていた。
説明?そんなものはなかった。
理不尽である。
最初の数日は頑張った。
異世界だ。
剣と魔法の世界だ。
少しくらいワクワクもした。
だが、そんな気持ちはすぐ消え去った。
朝は鐘の音で起床。
娯楽はほぼなし。
お風呂は毎日入れない。
トイレ事情については考えないようにしている。
そして何より。
スマホがない。
致命的だった。
現代日本人にとってスマホとは生活必需品である。
情報もない。
動画も見られない。
ゲームもない。
SNSもない。
暇つぶしの方法が空を眺めることしかない。
礼拝堂で膝を抱えたミサキは天井を見上げた。
「神様……」
返事はない。
「異世界転生させるなら、せめて充電器付きでお願いします……」
当然返事はない。
知ってた。
それから半年後。
教会の保護期間が終わった。
そしてミサキは人生最大の危機を迎える。
仕事なし。
家なし。
コネなし。
見事な三拍子だった。
町の広場にある噴水の縁へ腰掛けながら、ミサキは遠い目をする。
「人生詰んだ……」
「若いのに重いこと言うねぇ」
突然声を掛けられた。
ミサキはびくっと肩を震わせる。
振り返ると、そこには赤髪の女性が立っていた。
日に焼けた健康的な肌。
動きやすそうな服装。
背後には大きな荷馬車。
旅慣れた行商人という感じだ。
「私はリタ。行商人さ」
「えっと……ミサキです」
「ミサキね」
リタは気さくに笑った。
「で、何でそんな世界の終わりみたいな顔してるんだい?」
「世界の終わりではないです」
ミサキは噴水へ視線を落とす。
「私の人生の終わりです」
「なるほど」
リタは頷いた。
「違いが分からないね」
「私もです」
リタは隣へ腰掛けた。
そして何となく会話が始まった。
町のことを聞くつもりだったミサキだが、気付けば自分の身の上話をしていた。
不思議な人だった。
話しやすいのだ。
教会を出ること。
頼れる人がいないこと。
仕事が見付からないこと。
一通り聞き終えたリタは腕を組んだ。
「なるほどねぇ」
そして質問を始める。
「教会にいたなら読み書きはできるんだね?」
「できます」
「計算は?」
「できます」
「足し算だけ?」
「掛け算もできます」
「ほう」
「割り算も」
「ほうほう」
「百分率も」
「雇った」
「早いっ!?」
反射だった。
コンマ一秒も考えていない。
リタはミサキの両肩を掴んだ。
「そんな人材を放流しておくなんて、この町の商人は何を考えてるんだい」
「人材なんですか私」
「高級人材だよ」
「初めて言われました」
「大丈夫」
「何がです?」
「うちではちゃんと労働力として扱うから」
「人として扱ってください!」
「両立するだろ?」
「しません!」
だが久しぶりに笑った気がした。
こうしてミサキはリタの助手になった。
旅は思ったより楽しかった。
朝は早い。
荷物は重い。
泥濘にハマれば馬車を押す。
決して楽な仕事ではない。
それでも。
リタといると退屈しなかった。
「リタさん」
「何だい」
「何でそんなに値切り上手なんですか」
「ああ、それは簡単さ」
リタは胸を張った。
「相手が『これ以上は無理です』って顔をしたら、そこからが本番だからね」
「怖っ」
「商人は笑顔で戦う生き物なのさ」
「今だけ戦闘民族でしたよね?」
「気付いたかい」
「隠す気ありました?」
そんなある日。
高価なガラス細工を運ぶ依頼を受けた。
朝からリタの様子がおかしい。
荷物を撫でている。
心なしか優しい。
「……頼むよ」
「?」
「割れないでおくれよ」
「完全に子供を送り出す親ですね」
「利益を送り出してるんだよ」
「最低な言い方です」
「最高の言い方さ」
商人らしい価値観だった。
出発前。
ミサキは木箱へ文字を書いていた。
『ガラス製品・割れ物注意』
さらに。
『この面を上に』
とも書く。
「何してるんだい?」
リタが覗き込む。
「注意書きです」
「必要かい?」
「前の世界では普通でした」
「ほう」
「こういうのがないと運ぶ人が泣きます」
「誰が?」
「宅配業者さんが」
「誰だいそれは」
「私も今説明できません」
数日後。
目的地へ到着した。
商品を受け取った商人が木箱を開ける。
そして目を丸くした。
「全部無事だぞ」
「え?」
「ひとつも割れてない」
リタも驚いた。
かなり揺れたはずだった。
多少の破損は覚悟していたのだ。
「やった!」
ミサキは素直に喜ぶ。
「良かったですね!」
「そうだねぇ……」
リタも笑う。
だが。
何か引っかかっていた。
その後。
今度は紙製品を運ぶ依頼を受けた。
空は曇天。
どう見ても雨が降る。
「降りますね」
「降るね」
「濡れたらまずいですよね」
「まずいね」
ミサキは箱へ文字を書く。
『水濡れ厳禁』
大きく。
目立つように。
「またそれかい」
「注意喚起です」
「誰への?」
「世界への」
「大きく出たねぇ」
その日の夕方。
予想通り大雨になった。
馬車も荷物もびしょ濡れだ。
ところが。
到着して荷物を確認したリタは固まった。
「……」
『水濡れ厳禁』
と書かれた箱だけ乾いている。
完全に。
冗談みたいに。
周囲だけ雨を避けたかのように。
「リタさん?」
「……」
「どうしました?」
「いや」
リタは箱を見る。
文字を見る。
また箱を見る。
「気のせいかな」
「何がです?」
「世界がおかしい」
「怖いこと言わないでください」
数日後。
リタはあることを思いついた。
もし。
本当に文字に力があるなら。
もっと直接試せばいい。
翌朝。
準備中に声を掛ける。
「ミサキ」
「はい」
「荷台に言葉を書いてくれないかい?」
「広告ですか?」
「いや」
リタは平静を装った。
「商人の心得だよ」
「心得?」
「常に目に入る場所に書いて、自分を律するのさ」
「なるほど」
完全に嘘だった。
だがミサキは疑わない。
本当に素直だった。
「何て書けばいいです?」
「安全運搬」
「……」
「何だい」
「そのままですね」
「一周回って格好いいだろ?」
「二周くらい回って普通です」
そう言いながらもミサキは荷台へ文字を書く。
大きく。
力強く。
『安全運搬』
効果は即日現れた。
「……あれ?」
荷台に座っていたミサキが首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「全然揺れません」
リタは目を細めた。
確かに揺れない。
悪路なのに。
荷物のぶつかる音も聞こえない。
馬までご機嫌だった。
「今日は当たりの日ですかね」
「そうかもねぇ」
リタは答える。
だが頭の中では鐘が鳴っていた。
違う。
これは偶然じゃない。
そして夕方。
決定打が来た。
街道の泥濘地帯。
何台もの馬車が立ち往生している。
「埋まってますね」
「埋まってるね」
「嫌な予感しかしないです」
「残念ながら通るよ」
「聞かなかったことにしたいです」
馬車は進んだ。
そのまま。
普通に。
何事もなく。
すいすいと。
まるで舗装道路でも走るかのように。
「え?」
ミサキが固まる。
「え?」
リタも固まる。
気付いた時には難所を抜けていた。
何も起きないまま。
本当に何も起きないまま。
リタは荷台を見上げる。
『安全運搬』
その文字が夕日に照らされていた。
確信する。
間違いなかった。
その夜。
焚火の前でミサキは毛布に包まる。
「おやすみなさい……」
そう言った三十秒後には寝息を立てていた。
「若いねぇ」
リタは苦笑する。
荷台を見る。
ガラスは割れなかった。
荷物は濡れなかった。
馬車は泥に沈まなかった。
全部。
ミサキが文字を書いたものだ。
「なるほどねぇ」
思わず笑みが漏れる。
教会が見落とした才能。
本人もまだ知らない力。
とんでもない掘り出し物を拾ってしまったらしい。
リタは眠るミサキを眺めた。
異世界に来てからずっと不安そうだった少女。
自分には何もないと思い込んでいる少女。
だけど違う。
彼女にはある。
しかも恐らく、とんでもないものが。
「明日教えてやるか」
静かな声で呟く。
「たぶんあんた、とんでもないスキル持ちだよ」
返事はない。
ぐっすり眠っている。
「おーい」
すぅ……
「聞いてないね」
すぅ……
「まあいいさ」
リタは小さく笑った。
明日の朝になれば話そう。
ミサキの才能について。
そして未来について。
「安心しな、ミサキ」
焚火の炎がぱちりと弾ける。
「たぶんあんたの人生、ここから面白くなるよ」
満天の星空の下。
異世界に放り込まれた少女の物語は。
ようやく、本当の意味で始まろうとしていた。
ちゃんちゃん
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話がこれから始まるような書き方してますが、投げっぱなしで終わりです。
俺たちの戦いはこれかだ~展開を短編でやってみたかっただけですww
5分程度で読める短編ばかり書いています。もし、よければ以前の作品も読んでみてください。




