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書いた言葉が世界のルールになるなんて聞いてません!

作者: 日御碕 出雲
掲載日:2026/10/20

【第29作目】思いつくまま、書いてみました。


---------------

ミサキが異世界へ転生したのは、本当に突然だった。

事故に遭った記憶はない。

神様に会った記憶もない。

チート能力を授かった覚えもない。


気が付けば見知らぬ街の路地裏で震えていて、さらに気が付けば教会のベッドの上で寝かされていた。

説明?そんなものはなかった。

理不尽である。


最初の数日は頑張った。


異世界だ。

剣と魔法の世界だ。

少しくらいワクワクもした。


だが、そんな気持ちはすぐ消え去った。

朝は鐘の音で起床。

娯楽はほぼなし。

お風呂は毎日入れない。

トイレ事情については考えないようにしている。


そして何より。

スマホがない。

致命的だった。

現代日本人にとってスマホとは生活必需品である。

情報もない。

動画も見られない。

ゲームもない。

SNSもない。

暇つぶしの方法が空を眺めることしかない。


礼拝堂で膝を抱えたミサキは天井を見上げた。

「神様……」

返事はない。

「異世界転生させるなら、せめて充電器付きでお願いします……」

当然返事はない。

知ってた。



それから半年後。

教会の保護期間が終わった。

そしてミサキは人生最大の危機を迎える。

仕事なし。

家なし。

コネなし。

見事な三拍子だった。


町の広場にある噴水の縁へ腰掛けながら、ミサキは遠い目をする。


「人生詰んだ……」

「若いのに重いこと言うねぇ」

突然声を掛けられた。

ミサキはびくっと肩を震わせる。

振り返ると、そこには赤髪の女性が立っていた。

日に焼けた健康的な肌。

動きやすそうな服装。

背後には大きな荷馬車。

旅慣れた行商人という感じだ。


「私はリタ。行商人さ」

「えっと……ミサキです」

「ミサキね」

リタは気さくに笑った。

「で、何でそんな世界の終わりみたいな顔してるんだい?」

「世界の終わりではないです」

ミサキは噴水へ視線を落とす。

「私の人生の終わりです」

「なるほど」

リタは頷いた。

「違いが分からないね」

「私もです」

リタは隣へ腰掛けた。


そして何となく会話が始まった。

町のことを聞くつもりだったミサキだが、気付けば自分の身の上話をしていた。

不思議な人だった。

話しやすいのだ。

教会を出ること。

頼れる人がいないこと。

仕事が見付からないこと。


一通り聞き終えたリタは腕を組んだ。

「なるほどねぇ」

そして質問を始める。

「教会にいたなら読み書きはできるんだね?」

「できます」

「計算は?」

「できます」

「足し算だけ?」

「掛け算もできます」

「ほう」

「割り算も」

「ほうほう」

「百分率も」

「雇った」

「早いっ!?」

反射だった。

コンマ一秒も考えていない。


リタはミサキの両肩を掴んだ。

「そんな人材を放流しておくなんて、この町の商人は何を考えてるんだい」

「人材なんですか私」

「高級人材だよ」

「初めて言われました」

「大丈夫」

「何がです?」

「うちではちゃんと労働力として扱うから」

「人として扱ってください!」

「両立するだろ?」

「しません!」

だが久しぶりに笑った気がした。


こうしてミサキはリタの助手になった。

旅は思ったより楽しかった。


朝は早い。

荷物は重い。

泥濘にハマれば馬車を押す。

決して楽な仕事ではない。


それでも。

リタといると退屈しなかった。

「リタさん」

「何だい」

「何でそんなに値切り上手なんですか」

「ああ、それは簡単さ」

リタは胸を張った。

「相手が『これ以上は無理です』って顔をしたら、そこからが本番だからね」

「怖っ」

「商人は笑顔で戦う生き物なのさ」

「今だけ戦闘民族でしたよね?」

「気付いたかい」

「隠す気ありました?」



そんなある日。

高価なガラス細工を運ぶ依頼を受けた。


朝からリタの様子がおかしい。

荷物を撫でている。

心なしか優しい。

「……頼むよ」

「?」

「割れないでおくれよ」

「完全に子供を送り出す親ですね」

「利益を送り出してるんだよ」

「最低な言い方です」

「最高の言い方さ」

商人らしい価値観だった。


出発前。

ミサキは木箱へ文字を書いていた。

『ガラス製品・割れ物注意』

さらに。

『この面を上に』

とも書く。


「何してるんだい?」

リタが覗き込む。

「注意書きです」

「必要かい?」

「前の世界では普通でした」

「ほう」

「こういうのがないと運ぶ人が泣きます」

「誰が?」

「宅配業者さんが」

「誰だいそれは」

「私も今説明できません」



数日後。

目的地へ到着した。


商品を受け取った商人が木箱を開ける。

そして目を丸くした。

「全部無事だぞ」

「え?」

「ひとつも割れてない」

リタも驚いた。


かなり揺れたはずだった。

多少の破損は覚悟していたのだ。

「やった!」

ミサキは素直に喜ぶ。

「良かったですね!」

「そうだねぇ……」

リタも笑う。


だが。

何か引っかかっていた。



その後。

今度は紙製品を運ぶ依頼を受けた。

空は曇天。

どう見ても雨が降る。

「降りますね」

「降るね」

「濡れたらまずいですよね」

「まずいね」

ミサキは箱へ文字を書く。

『水濡れ厳禁』

大きく。

目立つように。

「またそれかい」

「注意喚起です」

「誰への?」

「世界への」

「大きく出たねぇ」



その日の夕方。

予想通り大雨になった。

馬車も荷物もびしょ濡れだ。

ところが。

到着して荷物を確認したリタは固まった。

「……」

『水濡れ厳禁』

と書かれた箱だけ乾いている。

完全に。

冗談みたいに。

周囲だけ雨を避けたかのように。

「リタさん?」

「……」

「どうしました?」

「いや」

リタは箱を見る。

文字を見る。

また箱を見る。

「気のせいかな」

「何がです?」

「世界がおかしい」

「怖いこと言わないでください」



数日後。

リタはあることを思いついた。


もし。

本当に文字に力があるなら。

もっと直接試せばいい。



翌朝。

準備中に声を掛ける。

「ミサキ」

「はい」

「荷台に言葉を書いてくれないかい?」

「広告ですか?」

「いや」

リタは平静を装った。

「商人の心得だよ」

「心得?」

「常に目に入る場所に書いて、自分を律するのさ」

「なるほど」

完全に嘘だった。

だがミサキは疑わない。

本当に素直だった。

「何て書けばいいです?」

「安全運搬」

「……」

「何だい」

「そのままですね」

「一周回って格好いいだろ?」

「二周くらい回って普通です」

そう言いながらもミサキは荷台へ文字を書く。


大きく。

力強く。

『安全運搬』


効果は即日現れた。

「……あれ?」

荷台に座っていたミサキが首を傾げる。

「どうしたんだい?」

「全然揺れません」

リタは目を細めた。

確かに揺れない。

悪路なのに。

荷物のぶつかる音も聞こえない。

馬までご機嫌だった。

「今日は当たりの日ですかね」

「そうかもねぇ」

リタは答える。

だが頭の中では鐘が鳴っていた。

違う。

これは偶然じゃない。



そして夕方。


決定打が来た。

街道の泥濘地帯。

何台もの馬車が立ち往生している。

「埋まってますね」

「埋まってるね」

「嫌な予感しかしないです」

「残念ながら通るよ」

「聞かなかったことにしたいです」

馬車は進んだ。

そのまま。

普通に。

何事もなく。

すいすいと。

まるで舗装道路でも走るかのように。

「え?」

ミサキが固まる。

「え?」

リタも固まる。

気付いた時には難所を抜けていた。

何も起きないまま。

本当に何も起きないまま。

リタは荷台を見上げる。

『安全運搬』

その文字が夕日に照らされていた。

確信する。

間違いなかった。



その夜。

焚火の前でミサキは毛布に包まる。

「おやすみなさい……」

そう言った三十秒後には寝息を立てていた。

「若いねぇ」

リタは苦笑する。

荷台を見る。

ガラスは割れなかった。

荷物は濡れなかった。

馬車は泥に沈まなかった。

全部。

ミサキが文字を書いたものだ。

「なるほどねぇ」

思わず笑みが漏れる。


教会が見落とした才能。

本人もまだ知らない力。

とんでもない掘り出し物を拾ってしまったらしい。


リタは眠るミサキを眺めた。

異世界に来てからずっと不安そうだった少女。

自分には何もないと思い込んでいる少女。

だけど違う。

彼女にはある。

しかも恐らく、とんでもないものが。

「明日教えてやるか」

静かな声で呟く。

「たぶんあんた、とんでもないスキル持ちだよ」

返事はない。

ぐっすり眠っている。

「おーい」

すぅ……

「聞いてないね」

すぅ……

「まあいいさ」

リタは小さく笑った。


明日の朝になれば話そう。

ミサキの才能について。

そして未来について。


「安心しな、ミサキ」

焚火の炎がぱちりと弾ける。

「たぶんあんたの人生、ここから面白くなるよ」

満天の星空の下。

異世界に放り込まれた少女の物語は。

ようやく、本当の意味で始まろうとしていた。


ちゃんちゃん

--------------

話がこれから始まるような書き方してますが、投げっぱなしで終わりです。

俺たちの戦いはこれかだ~展開を短編でやってみたかっただけですww


5分程度で読める短編ばかり書いています。もし、よければ以前の作品も読んでみてください。

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