オオカミ少年のもう一つの物語
昔々、緑豊かな草原の広がる村に、一人の羊飼いの少年がいました。
少年の仕事は、毎日羊の番をすること。
けれど、退屈な毎日に飽きた少年は、ある日いたずらを思いつきます。
「オオカミだ! オオカミが来たぞ!」
その声を聞いた村人たちは、鍬や鋤を手に慌てて駆けつけました。
しかし、牧場には何もいません。
「また、うそか。」
村人たちは怒って帰っていきました。
それでも少年はやめませんでした。
次の日も、そのまた次の日も、
「オオカミだ!」
と叫び続けます。
何度もだまされた村人たちは、ついに誰も信じなくなりました。
「あの子の言葉は聞く必要はない。」
そんな空気が村中に広がっていきました。
――そして、ある満月の夜。
少年は空を見上げ、小さく息をつきました。
「オオカミだ! オオカミが来たぞ!」
その声は、これまでで一番必死でした。
けれど村人は誰一人として牧場へ向かいません。
「また始まった。」
「放っておけばいい。」
誰もがそう思っていたのです。
やがて夜が明けました。
牧場には羊の姿はありませんでした。
村人たちは顔を青くします。
「本当にオオカミが来ていたのか……。」
「助けに行けばよかった。」
誰もが後悔しました。
羊飼いの少年は、うつむいたまま静かに立っています。
「怖かっただろう。」
「もう大丈夫だ。」
村人たちは少年を慰めました。
少年は小さくうなずくだけでした。
やがて村人たちが帰り、牧場に静寂が戻ります。
少年はゆっくりと顔を上げました。
その口元には、誰にも見せたことのない笑みが浮かんでいました。
「……よかった。」
少年は空を見上げ、小さくつぶやきます。
「誰も信じなかったおかげで、何事もなく終わった。」
その瞳は月明かりに照らされ、人間とは思えない黄金色に輝いていました。
少年には、誰にも知られてはいけない秘密がありました。
満月の夜だけ、狼男へと姿を変えること。
これまでの「オオカミが来た」といううそは、ただのいたずらではなかった。
誰もが自分を信じなくなる日を待つため。
そして、自分の正体を誰にも知られずに済むようにするためだった。
村人たちは最後まで、本当のオオカミを知ることはありませんでした。
本当のオオカミは、ずっと羊のそばにいたのです。




