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オオカミ少年のもう一つの物語

作者: 淺桜雫音
掲載日:2026/07/11

昔々、緑豊かな草原の広がる村に、一人の羊飼いの少年がいました。

少年の仕事は、毎日羊の番をすること。

けれど、退屈な毎日に飽きた少年は、ある日いたずらを思いつきます。

「オオカミだ! オオカミが来たぞ!」

その声を聞いた村人たちは、鍬や鋤を手に慌てて駆けつけました。

しかし、牧場には何もいません。

「また、うそか。」

村人たちは怒って帰っていきました。

それでも少年はやめませんでした。

次の日も、そのまた次の日も、

「オオカミだ!」

と叫び続けます。

何度もだまされた村人たちは、ついに誰も信じなくなりました。

「あの子の言葉は聞く必要はない。」

そんな空気が村中に広がっていきました。

――そして、ある満月の夜。

少年は空を見上げ、小さく息をつきました。

「オオカミだ! オオカミが来たぞ!」

その声は、これまでで一番必死でした。

けれど村人は誰一人として牧場へ向かいません。

「また始まった。」

「放っておけばいい。」

誰もがそう思っていたのです。

やがて夜が明けました。

牧場には羊の姿はありませんでした。

村人たちは顔を青くします。

「本当にオオカミが来ていたのか……。」

「助けに行けばよかった。」

誰もが後悔しました。

羊飼いの少年は、うつむいたまま静かに立っています。

「怖かっただろう。」

「もう大丈夫だ。」

村人たちは少年を慰めました。

少年は小さくうなずくだけでした。

やがて村人たちが帰り、牧場に静寂が戻ります。

少年はゆっくりと顔を上げました。

その口元には、誰にも見せたことのない笑みが浮かんでいました。

「……よかった。」

少年は空を見上げ、小さくつぶやきます。

「誰も信じなかったおかげで、何事もなく終わった。」

その瞳は月明かりに照らされ、人間とは思えない黄金色に輝いていました。

少年には、誰にも知られてはいけない秘密がありました。

満月の夜だけ、狼男へと姿を変えること。

これまでの「オオカミが来た」といううそは、ただのいたずらではなかった。

誰もが自分を信じなくなる日を待つため。

そして、自分の正体を誰にも知られずに済むようにするためだった。

村人たちは最後まで、本当のオオカミを知ることはありませんでした。

本当のオオカミは、ずっと羊のそばにいたのです。

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