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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

蟷螂は蛞蝓を食べない

作者: うらとも
掲載日:2026/05/20

蛞蝓:なめくじ。殺し屋。


蟷螂:かまきり。殺し屋。


 :本編


蟷螂「……うっ、ぷ。さすがに、ちょいと気持ち悪くなってきたなぁ〜。コイツで五十人目だっけか? 新記録を大幅に更新だが、何事も適度な塩梅ってもんがあるよなぁ〜。どれだけ美味い飯でも、満腹以上はただの苦痛だ。作業と化した食事ほど、かなしいものはないからよぉ〜」


蟷螂「――なぁ? そうは思わねぇかぁ? 蛞蝓(なめくじ)さんよぉ」


蛞蝓「……ほう。よく、わたしだとわかりましたね。それに、一体いつから――ここに潜んでいることを?」


蟷螂「あー……、たぶん、アンタがここに来たタイミングで、すでに、かなぁ。アンタの気配は、ちょっと独特っつーか、いや、会うのはこれが、はじめましてだけどさ――何回か、近くで仕事してんのよ、おれら。だから、その気配を覚えてたっつーか……、だがよ、そもそもの話、アンタ、気配断(けはいだ)ちしてなかったろ、わざと。さすがに気づくって。それとも、おれのこと試してたのか? にしたって、ちょーっと馬鹿にしすぎよ? おれんこと」


蛞蝓「ははっ、それは申し訳ございませんでした。ただ、別に試していたつもりもありません。むしろ、気配を断つ余裕がなかったと言うべきでしょうか。蟷螂(かまきり)――あなたが来ていることは想定外でしたし、その――あまりにも無惨な光景でしたので、面食らっておりました。それでも、うまく隠れていたつもりだったのですが――やはり、杜撰(ずさん)でしたね」


蟷螂「……そういや、アンタは綺麗好きで有名だったな。ゲテモノ喰いのおれとは正反対だ。しっかし――意外と言うなら、アンタはなんでここに来た? 雇われじゃねぇよな? まさかお茶でもしに来たのか?」


蛞蝓「いえいえ、まさか。わたしの用件は――まあ、おそらくですが、あなたと同じだと思いますよ。もし、あなたがここにいる理由が、私怨でなければ、ですが」


蟷螂「あいにく、私情じゃここまではしねぇなぁ。めんどくささが先に来る」


蛞蝓「……一応聞きますが……、死体喰(したいぐ)いも、仕事の一部と?」


蟷螂「……あー、いや。こりゃ、趣味の範疇だな。ポリシーとも言えなくはねぇが――まあ、今回は喰いすぎた。今度からは、何十人何百人殺したとしても、十人分くらいで収めることにするよ」


蛞蝓「……わたしには、理解できない世界です」


蟷螂「まあ、理解してもらおうって気はねぇよ。さて、話を戻すが――……ってぇと、一応、アンタも雇われではあるわけか」


蛞蝓「まあ、そうなりますね。付く側がちがった、というだけです」


蟷螂「ほいじゃ、どうすっか。おれが先に片しちまったし、アンタがそれでいいなら、今日はこのまま帰んなよ。後処理もやっとくしさ。雇い主には――まあ、うまい具合に言っときゃいいんじゃねぇか?」


蛞蝓「そうですね。まあ、そうするのが楽でしょうし、わたしも、そうしたいのは山々なんですが――」


蟷螂「……そーいう言い方するんなら、いっそはっきり言いなよ」


蛞蝓「はは、申し訳ない」


蟷螂「――つまるところ、他人の手柄ではまずいわけね。仮に、自分がやったと嘘をつけたとしても」


蛞蝓「ええ、まあ。そういうわけでして」


蟷螂「監視でもついてるとか?」


蛞蝓「それもありますが――まあ、あとはわたし自身のプライドというやつですね。悪しからず」


蟷螂「ふぅーん……。ちょっと意外だよ。アンタからそういうセリフを聞くとはね。アンタはもうちょっとこう――状況をうまく利用して、いい感じに立ち回る方のタイプだと思ってたからさ」


蛞蝓「非合理的な行動は、好きではありませんよ。ですが――時にプライドというものは、そういうものでしょう。何においても、譲れないからプライドというのです」


蟷螂「……なるほど。まあ、それもそうやね。んじゃ――やりますか。殺し合い」


蛞蝓「ええ――やりましょう。殺し合い」


蟷螂「名乗りはいるかい?」


蛞蝓「ご随意にどうぞ」


蟷螂「そんじゃま――蟷螂(かまきり)と申します。よしなに」


蛞蝓「蛞蝓(なめくじ)です。こちらこそ」


蟷螂「では――参る!」


 :蟷螂、得物の二刀の鉈を構えて突撃する


蛞蝓「二刀流、(なた)の蟷螂――あいにく、あなたと近接戦を演じるつもりはありません!」


蟷螂「っ――リボルバー! だが――ッ!」


蛞蝓「怯みませんか、ならば遠慮なく!」


 :蛞蝓、一発撃つが、蟷螂はそれを鉈の側面で受け止め弾く


蛞蝓「弾道を読んで……刀身で弾いた?!」


蟷螂「阿呆かッ、こんだけ前傾姿勢で突っ込んでりゃ自然、狙いは頭に絞られんだろ!」


蛞蝓「うっ、く!」


 :蟷螂が飛びかかり、蛞蝓はすんででかわす


蛞蝓「――しかし、あなたは引き金を()く瞬間を見切っていた!」


蟷螂「そりゃあ、おれの得意分野だからなぁ。動体視力と反射神経は伊達じゃねぇぜ!」


蛞蝓「……っ、さすがは、蟷螂と言ったところでしょうかね!」


 :至近距離での二発目


蟷螂「おっ、と! 喰らうかよ!」


蛞蝓「眼前で放たれた弾丸をかわしますか……! 少し――いや、相当に厄介ですね!」


蟷螂「分かりきったことを!」


 :蟷螂の連撃が続く


蟷螂「おらおらおらおらッ!」


蛞蝓「ッ――これっ、以上っ、は……っ!」


蟷螂「そんじゃまずは利き腕もらうぜッ!」


蛞蝓「……否! ここ!」


蟷螂「なッ――!」


 :蛞蝓、体を奇妙にくねらせて鉈の一撃を受け流し、蟷螂の懐に入り込む


蟷螂「なんつー軟体性……! ほんとに人間かアンタ!」


蛞蝓「蛞蝓の名は伊達ではないということです、よッ!」


蟷螂「ぐゥ……ッ!」


 :蛞蝓、蟷螂の腹に蹴りを入れる


蛞蝓「すかさず撃ち抜く!」


蟷螂「なんの……ッ!」


蛞蝓「っ――! ……武器を投げますか。二刀流とはいえ、思い切ったことをする……」


蟷螂「アンタも、充分にイカれてると思うがな。避けきれないと見るや、逆に懐に入り込む選択肢を取るたぁ恐れ入ったよ。おかげで、まんまと腹に一蹴りもらっちまった」


蛞蝓「よく言いますよ。大して効いてもないくせに」


蛞蝓「――さて。それでは一旦仕切り直しですね。まあ、だからといって、投げた一刀を取りに行かせるような真似はさせませんが」


蟷螂「あちゃー。やっぱ駄目か。しっかしよぉ――おれだって、アンタにリロードの隙を与えるつもりはねぇよ?」


蛞蝓「構いません。まだ四発もある」


蟷螂「なら、おれだってまだ一刀が残ってる。なんら問題はない」


蛞蝓「強がりは見苦しいですよ。単純に手数が半減した分、先ほどのようにはいかないでしょう」


蟷螂「そいつはやってみなくちゃわかんねぇよ? っつーか、ちょいと勘違いしてねぇか、アンタ」


蛞蝓「何をです?」


蟷螂「確かにおれぁ蟷螂って名前だが――」


 :蟷螂、駆け出す


蛞蝓「ッ――芸のない突進ですね!」


 :蛞蝓、一発撃つ


蟷螂「ふっ――」


 :蟷螂、かわす


蛞蝓「避けたところで――! そう易々と、何度も同じ手は喰いませんよ!」


 :蛞蝓も蟷螂に向かって駆け出す


蟷螂「ッ、自ら距離を詰めて――!」


蛞蝓「たかが一刀! その動きにさえ注意していれば、恐るるに足りません!」


蟷螂「……いや、だからそこなんだよ、蛞蝓。アンタの勘違いはさ」


蛞蝓「は――?」


蟷螂「確かにおれぁ蟷螂だが――」


蟷螂「――その前に。れっきとした、人間だってことだ!」


蛞蝓「んぐっ……?!」


蟷螂「二刀でなくても両手は健在なんだ。片や一刀を握り、片や五指を開く。そうしてアンタの顔を鷲掴みにしてやりゃあ、意表もつければ逃げ手も断てる。さァ、どうするよ。蛞蝓さんよォ」


蛞蝓「……ぺちゃくちゃと、ずいぶん調子に乗っておられるようだ」


蟷螂「そりゃあ、優勢ってやつだからな」


蛞蝓「ならば浸らずに、わたしの首を()ねてしまえば良かったものを」


蟷螂「そりゃあちぃと、面白みがないだろう」


蛞蝓「……ふ。腹の立つ。しかし――おかげで、挽回の機会を得られたというのも、また事実」


蟷螂「――やはり。あるんだろう。逆転のための一手が。奥の手か。切り札か」


蛞蝓「いえいえ――これは、ただの出し惜しみです。わたしの油断が招いた、なんとも格好のつかない、ね」


蟷螂「……ほう」


蛞蝓「――では、お披露目しましょう。蛞蝓の名の由来――それの真なるところを」


蟷螂「……っ、なんだ……、急に――肌がぬめって……! ――おいおい、嘘だろ……?!」


蛞蝓「ほら、そんなに力を込めると、余計に指が滑って――あら。抜け出ちゃいましたね」


蟷螂「……アンタ、マジか」


蛞蝓「特異体質なんです。わたしは、皮膚から特殊な粘液を生み出すことができる。昔は、うまくコントロールできずに苦悩しましたし、それこそ、思春期の頃はひどく悩みましたが――今となっては、わたしの殺し屋という仕事を支えてくれる、大事な道具のひとつです」


蟷螂「……蛞蝓なんて名前だからな。冗談半分に、そういう話を聞いたことはあったが、まさかと本気にしたことはなかった。しかし、まさかもまさか、だ。さっきの身体能力といい、アンタ、マジもんの蛞蝓だな」


蛞蝓「褒め言葉としていただいておきますよ。――さて、再びの仕切り直しでしょうか。これほど、一人の殺しに時間をかけたことはないので、新鮮な気分です。まあ、同業と相対することが、まず少ないというのはありますが」


蟷螂「……はっ。こりゃ、おれも気持ちを切り替えねぇとな。一刀と五指じゃ足りねぇや。きちんと二刀十指(にとうじっし)で迎え撃たねぇとな」


蛞蝓「できれば、このままあなたに全開の力を与えることなく仕留めたいのですが――まあ、そううまくはいかないでしょうね。あそこに転がっている、片割れの一刀――今となっては、距離がある分、逆に意識に割かなければならなくなったというのは、実に厄介な話です」


蟷螂「なら、いっそ取りに行かせてくれよォ。その方が、気が楽になっていいだろう」


蛞蝓「そうはいきません。なるたけ、あなたを万全にはしたくない」


蟷螂「素手の怖さは思い知ったはずだろ〜?」


蛞蝓「それよりも、二刀を揃えられた方が恐ろしいということです。故にあなたは、蟷螂なのですから」


蟷螂「……はっ。ずいぶん認められたもんだね。こりゃ、素直にさっき仕留めとくべきだったかな」


蛞蝓「後悔先に立たず、ですよ。わたしだって、今になって、この特異体質を悠長に披露したことを後悔しているのですから」


蟷螂「……ははっ。そりゃ、お互い間抜けな話だ」


蛞蝓「ええ。まったく。ですから――ここからは、出し惜しみはしません。全力で、あなたを仕留めにいきます」


蟷螂「ふ――はっ。上等だ。なら、おれも応えなくちゃなぁ。腹ごなしにも充分なったし――久しぶりに、〝殺してやりたい〟って、心の底から思えたからよォ」


蛞蝓「同感です。私情と言われれば、それまでですが――」


蟷螂「いいのさ。殺し屋稼業――裏社会の道理なんざ、そんなもんだ」


蛞蝓「……ですね。では――あらためて」


蟷螂「応よ。――あらためて」


蛞蝓「――いざ」


蟷螂「――参る!」


 :二人、同時に駆け出す


蛞蝓「ッ――意外でした! まず一目散に向こうの一刀を取りに行くかと!」


蟷螂「アンタこそ! 銃ってのはそう何度も近接戦で使うもんじゃないぜ!」


蛞蝓「わたしはあなたを追うつもりだったのですよ!」


 :蛞蝓、立ち止まり銃を構える


蟷螂「今さら構えたところで遅い!」


蛞蝓「いいえ! 充分です!」


 :蛞蝓、残弾をすべて放つ


蟷螂「ッ?! 三発?! ――舐めんなァ!」


 :蟷螂、一発を防ぎ、残り二発をかわし切る


蛞蝓「あなたもなかなか柔軟な身体をしていらっしゃる。ですが――視線は切れましたね」


蟷螂「ッ――?!」


蛞蝓「まさか全弾かわされるとは思っていませんでしたが――いずれにせよ、狙い通りです」


 :視線が切れた一瞬をつき、蛞蝓は落ちていた蟷螂の鉈を拾っていた


蟷螂「……アンタ、刃物の心得はあるのかい?」


蛞蝓「ある程度、ですが。当然、あなたには劣るでしょうね」


蟷螂「ならば何故、おれの一刀を手に取った。わざわざ、馴染みのはずのリボルバーを使い切ってまで」


蛞蝓「まあ、特に深い意味はありません。わずかでも揺さぶりをかけられればと思ったのと――あとは、思いつきです。リロードの手間を考えるくらいなら、奪い取ってしまおうと」


蟷螂「悪手だと思うがねぇ」


蛞蝓「かもしれません。ですが――例の特異体質以外、わたしにとって、出し惜しみできるような特技も、特にありませんから。ならば、こういう手も考えるということです」


蟷螂「まあ、確かに厄介――というか、面倒ではあるけどな。実際、奪い返す手間を考えれば、打ち合いになって先に仕留めた方が早いまである」


蛞蝓「しかし、そうしてしまえば、自前の武器を駄目にしてしまうかもしれない」


蟷螂「うーん……、まあ、それもそうなんだけどさ――どっちかっていうと、その武器の恐ろしさは、おれが一番よく知ってるから。斬られたくないなぁ、って、つい尻込みしてしまうんじゃないかってな」


蛞蝓「おや、毒でも塗ってるんですか、これ」


蟷螂「まさか。そういうことじゃなくてさ――単純に、自分の武器が一番強いと思ってるっていう、まあ、自慢みたいな話だ。それでも――いや、だからこそ、単に振り回されただけでも、十二分に恐ろしいってことよ。その上で、使い手がアンタのような名のある殺し屋なら、厄介さはひとしおだ。奪い返そうだなんて余裕は、たぶん持ってられない」


蛞蝓「なるほど。それは――いいことを聞きました」


蟷螂「素直に話しすぎたね、こりゃ」


蛞蝓「弱音というものは、つい口から漏れ出てしまうものです」


蟷螂「あ〜ぁ。しくじったなぁ」


蛞蝓「……そういえば。今さらなことを聞いても?」


蟷螂「なんだい?」


蛞蝓「なぜ――鉈なのです? 蟷螂なのだから、鎌を持て、とも言いませんが――鉈である理由が、よくわからなくて」


蟷螂「あぁ。そりゃあね――単に、最初に手に持った時に、一番馴染む感じがしたからだよ。それ以外には特にない。ただ――そういう感覚的なのって、大事だったりするじゃん? だから、コイツにしたし、ソイツにした。二刀にしたのも、それがしっくり来たからだしな。おれの初仕事からの、大事な相棒だ」


蛞蝓「なるほど……。では尚更、その相棒の片割れを奪い取ったわたしは、賢い選択をしたとも言えますね」


蟷螂「まったくだ。漫画みたいに、よくも相棒を、とか言って覚醒でもできればいいんだけどさ――あいにく、そこまでの思い入れもないからなぁ。単純に弱体化するだけだ」


蛞蝓「先ほどの一刀五指はどうしたんです? あれも、充分に厄介だと思いますが。故に、わたしも出し惜しみをやめたわけですから」


蟷螂「それとこれとは、まあ話が別ってことよ。やっぱし、使い慣れた道具と、使い慣れた戦い方ってのがあるからさ」


蛞蝓「……確かに。それは道理ですね」


蛞蝓「――さて。それでは遠慮なく」


蟷螂「やれやれ。どうしたもんかな……」


蛞蝓「――ふっ!」


 :蛞蝓、距離を詰めて鉈を振りかざす


蟷螂「――そんじゃッ!」


蛞蝓「なッ――?!」


 :蟷螂、持っていた鉈をまた投げる


 :蛞蝓、持っていた鉈でそれを弾く


蛞蝓「なぜ自ら捨てるような真似を?! 苦し紛れにしても浅はかが過ぎます! いくら練度に差があろうとも、投げつけられた武器を弾くくらい、わたしにも――」


蟷螂「あぁ、それでいい」


蛞蝓「ッ――?!」


蟷螂「――一瞬。ほんの一瞬でいい。意識が逸れれば――!」


蛞蝓「なッ……! まさか、無刀取り――?!」


蟷螂「こういう場面を、一度も想定してこなかったわけじゃない。それこそ、新人の頃は毎度のように想像してた。悪夢を見るくらいにな。だから、念のために練習はしていた。これまで使う機会はなかったが――!」


 :無刀取り


蛞蝓「ぐッ――あぁッ……!」


蟷螂「獲った! 体勢も崩したとこで――もらうぜ! アンタの首!」


蛞蝓「ッ――粘液!」


蟷螂「なッ?! ウッソだろ! 刃も通さねぇのかよ?!」


蛞蝓「蹴り上げッ!」


蟷螂「がッ……!」


蛞蝓「顎を叩いて脳を揺らした! 気絶はせずとも、まともに動けはしないはず! その隙に――!」


蟷螂「甘ェよ!!」


蛞蝓「ぐぁッ!」


蟷螂「やっぱりな! 頭髪に粘液はついてねェ! 掴んだぜッ!」


蛞蝓「ぐッ……! しまった……!」


蟷螂「あばよ、蛞蝓! アンタとの殺し合い、最高だったぜ!」


蛞蝓「だが、粘液は全身を覆っている! 頭髪を掴もうと、頭皮には粘液の膜が張られ、刃物は通らないぞ!」


蟷螂「あぁ――だから、コイツも捨てる……」


蛞蝓「な、に……ッ?! 鉈を放り上げて……?!」


蟷螂「体表を粘液で覆ってるって言うなら――たとえばよォ、口ん中ってのはどうなんだ?」


蛞蝓「ッ――!」


蟷螂「拳を握って――口内に突っ込む!」


蛞蝓「んがッ!」


蟷螂「んでもって、頭髪を上に引っ張り、拳を下に押してやれば――!」


蛞蝓「――ガゴッ?!」


蟷螂「顎が外れた気分はどうだァ? んでさらに!」


蛞蝓「ッ?!」


蟷螂「鉈を放り上げたのは、手元に戻りやすくするためだ。――タイミングばっちしだな」


蛞蝓「ッ!」


蟷螂「まだちっとばかし狭いが、口ん中に鉈を突っ込んでやりゃあ!」


蛞蝓「がぁああッ!」


蟷螂「このまま押し倒して、貫通させた切先で地面に固定する!」


蛞蝓「ッ――アアッ!」


蟷螂「さあて――そんじゃ、こっからはアンタが決めな。なんとかしておれをどかして、無理矢理にでも鉈を引っこ抜くか――それとも、潔くここで諦めて、粘液を解除し、おれにとどめを委ねるか――ま、他の選択肢があるなら任せるが――どうするよ」


蛞蝓「…………」


蟷螂「……いずれを選んでも、おれはアンタを尊重する。それが、おれなりの、アンタへの礼儀だ」


蛞蝓「…………」


蛞蝓「……………………」


 :蛞蝓、全身から力を抜く


蟷螂「……委ねるんだな。おれに」


蛞蝓「…………あぁ」


蟷螂「……わかった。んじゃ、もう片方の鉈を取ってくるから、ちぃと待ってな。ま、その間に逃げ出すってんなら、好きにしたらいいがよ」


蛞蝓「…………」


 :蛞蝓、わずかに首を振る


蟷螂「……潔いな、アンタ。生き汚くても、おれぁいいと思うが――きっと、これも、アンタなりのプライドってやつなんだろうな」


蛞蝓「…………」


蟷螂「……んじゃ、いくぜ。これ以上苦しまねぇように、一息に首を刎ね落とす。だから、動いてくれるなよ」


蛞蝓「……ん」


 :蛞蝓、首に刺さった鉈を指差す


蟷螂「ん。抜いて欲しいのか。たぶん、めちゃくちゃ痛ぇぞ」


蛞蝓「ん」


蟷螂「…………」


蟷螂「……わかったよ」


 :蟷螂、鉈を引っこ抜く


蛞蝓「ぐッ……ああガッ――あああああッ!!」


 :蛞蝓、呼吸すら苦しそうに


 :なんとか外れた顎を戻す


蛞蝓「……負け、たよ……」


蟷螂「……アンタ、そんなこと言うために……」


蛞蝓「い、や……、ちゃ、んと……、つ、たえ、なくっ、ちゃ、と……おもっ、て……ね」


蟷螂「……はぁ。アンタ、殺し屋のくせに、律儀な奴だな」


蛞蝓「……ふ。わた、し、な、りの……れ、いぎ、と、いう……や、つ、です」


蟷螂「…………」


蟷螂「――ふ、ははっ。そうかよ。ったく、これから殺す相手だっていうのに、調子狂うぜ」


蛞蝓「ちゃ、んと……こ、ろして、く、ださ、いよ……?」


蟷螂「わーってるよ。心配すんな」


蛞蝓「……ふ。な、ら……よ、かっ、た……」


蟷螂「……もう喋んな。まだまだ言いたいこと、あるかもしんねぇが。ま、ゆっくり休めや」


蛞蝓「…………」


 :蛞蝓、返事代わりに息遣いを返し、目を閉じる


蟷螂「……じゃあな。蛞蝓」


 :蟷螂、鉈を振り上げて


 :一呼吸ののち、振り下ろした


蟷螂「……そういや、アンタのことは食わねぇからな。だが――かといって、烏どもや虫どもの餌にするつもりはねぇ」


 :蟷螂、ポケットからライターを取り出して


蟷螂「――きちっと火葬(もや)してやる。ただ――そうさな。ちぃとばっかし、灰はもらってくぜ」


蟷螂「――記念だ。いいだろ。なぁ――」


 完

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― 新着の感想 ―
タイトルに惹かれて読むことを決めました。価値観が大きく違う二人が対話で決着をつけることができずに争いに発展するという構図は、まるで人間そのもののような感じがしました。そのことを物語というフィクションを…
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