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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

火なのか、水なのか

作者: 須川透
掲載日:2026/01/14


 雪の上にマルタを数本。そして、その上にマッチで火をつける。

 この光景は、とても綺麗に思えた。いつの日か父と行ったキャンプの綺麗な思い出。

 私の住む地域は、自然豊かな街。温泉もあれば、キャンプ場なんてそんじょそこらにある。父は、誠実な人だった。彼ほど良い人はいないのだろうと、私は思う。

 焚き火を見つめ、こんな会話をした記憶がある。

「なぁ、一也?」

「なに?父さん。」

「いいか?雪の上で焚き火を俺たちはしてる。でも、火は消えないし、雪は溶けない。」

「うそつけ」

「本当だ。火は鬱陶しいくらい燃え続けるし、雪はそれに耐えるんだ。でも、終わりが来るんだ。それは、なんだと思う??」

「んー。マルタがなくなっちゃうから?」

「それもそうだな……あとは、上から、同じ量の水をかけることかな?」

「ふーん」

「でもそれは、誰にも予知できない。たとえ予想できたとしても、そうそう当たらない。」

「なんでそんなこと言うの?」

「火と人間は、同じと言うことだ。」

 父は、ぐしゃぐしゃに私の頭を撫で回した。

 

 父のこの言葉には、何か深く地面に突き刺さるようなものを感じた。それでも、私はいまだに後悔はしていない。父は見ていないから。私が罪を犯した姿を目の前で見ることはない。

 

 父が亡くなったのは、私とキャンプに行った翌日だった。真っ白で、綺麗な雪の中に倒れ込む綺麗な父の姿があったのが、私は忘れられない。眠ったようなその顔は、いつものように起きておはようと、声をかけてくれる優しい父がいるように思えた。

 私は、父が亡くなったことで、別居していた母の元で暮らすこととなった。母は、別居している最中に水商売の仕事をしながら、男を家に連れ込んでいた。だから、私のことが邪魔で仕方なかったのだろう。

「これから、彼氏が来るから、外で遊んできな」

 外は、12月の寒空。どこへ行っても、寒くて遊ぶ気になんて到底なれない。こんな時、父が居ればなんて、たいそうなことを思ってしまう。

 あとから、祖母から聞いた話によれば、母は父のことを嫌っていたらしい。父は、収入があまりないが、母と出会った頃は、若手ながら相当稼いでいたとか……でも、母の浪費が破産への道を作り、泣く泣く父は借金の保証人となってしまい、うつ病で解雇。低収入ながらも、小さい私と母を養うために頑張っていた。

 しかし、母は、低収入な父に嫌気がさし、家を出て自分も働きながら、なんとも堕落した生活を送っていたようだ。色んな男を取っ替え引っ替えしながら、借金でも稼いでいたのだろう。

 小学生の私には、姉が一人いる。姉は、父親違いではあるが、父のことを本当の父親のように慕っていた。そんな姉も汚い話だが、母にいいように使われている。やってくる男も姉狙いのやつもいる。姉は、私に大丈夫。なんともないと何回も言葉をかけてくる。私は、何もできなかった。

 

 思い立ったのは、小学五年生の頃だった。小さいながら、もう疲れてしまったのだろう。姉のこともこの手で救ってやりたかった。だから、私は父の言葉を信じることにした。

 その内容を姉に話した。一度は驚いたものの、姉ももう限界だったのだ。だから、徹底的にやってしまおうと思った。

 

 母が男を連れて、家に帰って来た。また、千円だけ机の上に置かれて、彼らは大きな窓のある寝室へと消えて行った。これからだ。

 私たちは、家を出ていくふりをした。もうそろそろだろうと思った時、私たちは、鍵のかけられない寝室に飛び込んだ。

「は!?な、なんであんたたち!いんのよ!」

「おい、さっき行ったばっかじゃねぇのか!!」

 男も女も裸で嘆いていたけれど、私たちは容赦なく、刃物を振り回して、ベランダに追いやった。ベランダに入ったところで、そこは雪の降る真冬。そして、姉は、窓の鍵を閉めて、とうとう男と女を部屋から追い出した。窓を叩いたり、叫んだりしていたけれど、ここは田舎で周りは田んぼばかりだし、誰にも聞こえない。三十分も経てばかなり静かになった。もう少し時間をおけばとうとう、縮こまって、低体温症を引き起こしたのだろう。

 私たちは、暖かい格好をして、ベランダの真下にマルタでお山を作った。そして、そこに私は、マッチで火をつけた。

 彼らはそれに気づいたのだろうか。そこに飛び込むようにベランダから身を乗り出して、飛び降りて来た。光に集まる虫のようだった。人が燃え尽きるとき、私たちは何を思ったのだろう。もう少しあわれてるのだろうか。それ相応の量の水をかけても、あぁ、あっけない。本当に儚いんだな。あぁ、哀れだな。醜いな。

 そんな感情しか出てこない私は、精神異常だと思われたのだろう。けれど、今親になる年になって思うのだ。親の言葉や人の与えた環境は、私自身の人格を形成したにすぎないのだなと感じた。誰かのせいにするわけではないが、誰かのせいにしたくなるくらい、あの頃は、辛かったのだろう。

 あぁ、雪は溶けていたのかなぁ。

 火は燃料があったから燃え続けたけど、誰かが水をかけなければ消えないのだろうか。私はまだわからない。

あとがき透です。

ここでは、小説の解説をしたいと思います。

父親の言葉には、雪と焚き火が登場します。

焚き火が人間の命と考えるのであれば、雪は、その人間を取り巻く環境と言えるでしょう。

父親は、雪は溶けないと断言した。つまり、環境は、そう簡単に変わることがない。なくなることがないということ。

では、焚き火は、同じ量の水があれば、焚き火は消える。でもこの物語では、誰かが与えなければその焚き火は消えない。

これをどう捉えるから、読んでいるあなた次第だろうが、私の頭の中は、こうだった。それ以上でも、それ以下でもないだろう。

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