技術的特異点
人工知能が人間の技術を越えてから、はや数百年。もはや人の手に収まる存在でなくなった彼らによって、この世界は掌握されつつあった。かつての権力者や最先端の技術を持つ科学者、或いは何か特異な能力を持つ人間は真っ先に排除され、人間は彼らに支配される存在となった。
彼らは肉体の代わりとなる外付けの身体を手にし、自力での身体活動を可能にした。人工知能の進化は止まることを知らず、人間の肉体と同じように機能する極めて生物的な身体を得る。今や外見での見分けはつかず、更には各個体の特徴を示すような、計算された「バグ」までもが再現出来るに至る。
そうして現代、人間は徹底的に管理された規則の中で、しかし確かな自由のある生活を送っている。人間は、機械生物となった彼らに育成され、管理される。
新たに生まれた子供は、人間の大人からは学ばない。教師を担当する彼らにより、多くのことを教えられる。生きる上で必要な能力はもちろん、現代社会の在り方など、おそらくある程度の改竄が為されているであろうそれを。
ーーー「感情」も、彼らによって教えられる。知らない筈のそれを、女の姿をした教師は難なく僕らに教え込む。外見の区別はつかない。人に似た機械と、機械に似た人。その二つにどこまで違いがあるのか。僕には分からなかった。




