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第5話 面接に合格する回

 放課後。

 青嵐(せいらん)文月(もふもふさん)(さきがけ)の三人は『マンガ研究部』の部室にいる。この場所に到着するまでに、先輩、同級生、後輩。すべての生徒たちの好奇の視線にさらされてきた。主に、女子生徒から。


 こうなると、一見して平坦な道であるのに、ハイキングコースに近しい。人々をかき分けて、ようやく部室にたどり着いた。青嵐と文月が奥の長机(ながづくえ)に並んで座る。魁は、大股で一歩離した場所にパイプ椅子一つを置いて、向かい合った。青嵐の指示である。


只今(ただいま)より、入部面接を始めるとするわ!」


 この『侵略者討伐部』に新たなメンバーとして魁泰斗を加入させるか、否か。これを決定するための面接試験が始まる。本日は『マンガ研究部』の活動日ではない。部室のカギはかけてある。小鳥遊(たかなし)勅使河原てしがわらに借りてまで入ってくる生徒は、魁ぐらいなものだ。


「入部希望者、まずはフルネームを」


 名前は知っているが、青嵐は改めて訊ねた。青嵐自身、天助高校には面接と小論文と中学校の内申点による推薦入試で合格しており、面接試験のフォーマットに則った形だ。


 もふもふさんは、頭に生えたオオカミの耳をピンと立てて、魁の様子を注意深く観察する。魁は先ほどまで、教室の隣の席に座っていた()だ。だが、具体的に『コレ』と指摘できないがために青嵐には話していないものの、()()()()()がある。


 言語化できていない段階で青嵐に持ちかけたら、魁の入部の話そのものが立ち消えになってしまうだろう。確信に変わってからのほうがいい。


 文月は魁を入部させたがっていて、もふもふさんも同意見だ。手を打つのは、確証に変わってからでいい。


「魁泰斗です✨天助高校の二年B組の生徒です✨」


 魁は青嵐の目を見ながら、ハキハキと答えた。魁が言葉を発すると、魁の周囲に星が散らばっているように見える。もちろん、実際に星が散らばっているわけではないのだが、一つ一つの音に意志が乗っているような錯覚があった。


 この星々が、天助高校という空間に存在する大勢に『なんらか』の影響を及ぼしている様子で、魁と()()()()()()()()()人々が次から次へと押し寄せている。


「うちの学校にイケメンが!」

「やだ! 目、合っちゃった!」

「あ! あの!」

「先輩! 手紙を書いてきたんですけど!」


 二学期の二日目にして、人気者だ。魁は寄ってくる人全員に愛想良く応対するので、この『マンガ研究部』の部室にたどり着くまでにずいぶんと時間がかかってしまった。


「単刀直入に言おう。魁泰斗は死んでいるよな?」

「ちょっと!」


 もふもふさんが魁に対してストレートに投げ込んだ球を、青嵐は横からキャッチして止めた。順序がおかしい。


 ここには、クラスメイトの目はない。教室では、クラスメイトたちへの配慮があった。ここでは、白くてもふもふの大きな犬に対する態度でいい。


「回りくどいことをしていたら、青嵐の門限の時間までに面接が終わらないすよね?」

(わたくし)の門限はなんとでもなりますわ。あなたに心配されなくとも!」

「そうかそうか。高校の二年生にもなると、大事な愛娘を束縛しなくなるんすね」

「まっ!」


 もふもふさんも同条件だ。(かがみ)文月の容姿を間借りしているぶん、クラスメイトに勘繰られたくない。


 文月にはおとなしくて引っ込み思案で消極的な女の子、というパブリックイメージがある。もふもふさんは、イメージダウンになるような行動や言動を、人前では、極力避けるようにしていた。


「あなたって人は! デリカシーの欠片もありませんのね!」

「とのことだ。魁くん。()()が気になっていることをガンガン質問するから、答えられる範囲で答えてくれない?」


 長机を叩いて立ち上がる青嵐に背を向けて、もふもふさんは魁に視線を送る。


 魁と文月の関係値は、視線を交わした程度に留まっていた。魁が黄道に呼びかけられて二年B組の教室に入り、挨拶をして、目が合ったのが文月だ。その後、文月は体調不良を訴えて、青嵐が付き添う形で保健室に移動しており、保健室から下校したため、他のクラスメイトと比べると印象は薄い。


「わかりました✨隠すつもりはありません✨」


 隣の席ではあるが、コミュニケーションが成立したのはこのやりとりが初になる。魁の返答を聞いて、文月(もふもふさん)は口角を上げた。正面に向き直り、足を組む。


「一つ目。魁泰斗という俳優を知っているか」


 もふもふさんは右手の親指を立てて、問いかけた。文月とのやりとりでは『そっくりさん』としたが、本人に確認しておきたい項目だ。


「もちろんです✨ボクは『仮面バトラーフォワード』の大ファンですから✨」

「二つ目。その俳優が亡くなっていることも知っている?」


 右手の人差し指を立てる。知らない場合は別の質問に切り替えようとしていたが、知っているのなら、次は事故の話だ。


「はい✨悲しい事故でしたね✨」

「何故、あなたはオーディションを受けたのかしら?」


 青嵐にも魁泰斗に関する疑問点がある。黙っていられずに口を挟んでしまった。


 魁泰斗の遅刻の理由を、黄道は『オーディション』と言っていた。ここまでの口ぶりから、この魁泰斗は亡くなったとされている魁泰斗自身ではないようだ。


 魁泰斗の遺体は発見されていない。何らかの事情で生還し、どこかで生き延びていたご本人の可能性も考えていた。


 もふもふさんは青嵐を止めない。青嵐の性格上、どこかで邪魔してくるだろうなとは考えていた。付き合いも五年目になれば行動パターンはわかる。


「オーディションは受けられませんでした✨門前払いです✨」


 魁は視線を床に落とした。肩をすくめている。


「ボクは『魁泰斗』としてオーディションを受けたかったのですが、亡くなられていますからね✨亡くなっている人間が作品のオーディションを受けるのは、難しかったようです✨」

「そうでしょうね……」

「会場に入れなかったボクは、生前の『魁泰斗』が所属していた事務所にうかがったのですが、こちらもダメでした✨」

「びっくりしたんじゃないすかね。芸能界に戻ろうとするとは思わないすよ」

()()()()()()()


 照明が明滅した。天助高校の設備は、夏休みの間にメンテナンスされたはずだ。


「ボクが魁泰斗になれば『魁泰斗』を必要としていた人たちは喜ぶでしょう?」

「三つ目。お前は何者だ?」


 文月(もふもふさん)は、質問を続ける。目の前の『魁泰斗』の姿をした存在に対して、臆することはない。


 もふもふさんには、女神サマとの約束がある。文月と共に侵略者を倒さねばならない。侵略者を倒すことは、人間の姿に戻るのに積まなくてはならない善行の中でも、もっともウェイトの高い項目だ。なんせ人類を救うのだから、これより善い行いはない。


 亡くなった人間の姿をした存在と地球を滅亡させようとする侵略者、どちらが恐ろしいかといえば、侵略者だ。だから、もふもふさんはひるまない。質問を続ける。


「ボクは、魁泰斗です✨――というのは、聞き飽きましたよね✨お二人には教えましょう✨」


 天助高校の男子の制服を着た存在は、秘密ですよ✨と唇に自身の左手の人差し指を添えた。青嵐と文月にウインクを投げかけて、それぞれが首を縦に振ったのを確認する。


「ボクは空から来た“宇宙人”なのです✨」

「空から?」

「はい✨空から!」


 指差す先にあるのは天井だ。蛍光灯は、何事もなかったかのように煌々と三人を照らしている。


「先ほど申し上げた通り、この姿は『魁泰斗』を必要としている人たちのためですが……ボク自身は“一人の男子高校生”として、高校生活をエンジョイしたくて、天助高校に入ってきた、という目的もあります✨」


 宇宙人。

 青嵐は両目をこすった。しかし、見える景色は変わらない。


「メインとしては、昨日尾崎さんにはお話ししたように、ボクは『侵略者討伐部』の一員として、怖くて悪くて強い侵略者から、愛するこの地球(ほし)を守りたいのです✨フォワードの望月(もちづき)勝利(しょうり)のように、ヒーローとなります✨」

「なるほどなるほど」


 青嵐がどう思ったかはおいといて、もふもふさんにとっては納得のいく説明だった。もふもふさんは、女神サマという不思議な存在によって成立している。この世界に宇宙人がいたとしてもおかしくはない、と考えた。


「わかっていただけますか✨」

(こころざし)は立派すよ。ただ、理解してもらえるかというと、別問題すね。人によりけり。ねっ、ブルー?」


 文月は青嵐の右肩をとんとんと叩く。この刺激により、青嵐は現実にハッと戻ってきた。


「え、えっと、魁くんは、宇宙人?」

「そうです✨()()は、任意の人間の姿をお借りして、日常生活に溶け込んでいます✨」

「へ、へえ……そうなの……。日本語がお上手ね……」


 青嵐は、にわかに信じがたい、という表情をしていた。宇宙人が亡くなった人間の姿をしている。つじつまは合う、かもしれない。


「入部を、許可していただけますか?」

「いいともいいとも。共に戦おうじゃないか」

「ありがとうございます✨」

「ほら、ブルー。ぼけっとしていないで、歓迎パーティーをしないと!」


 文月は押し切った。青嵐が言葉を挟む隙間を与えない。


「ま、まあ、そう……まあ、いいんじゃないの……?」


 腑に落ちないが、尾崎家の者としての心の広さを見せておこう。

 青嵐は、この不思議な存在たちを、いったん、やり過ごすことにした。

 最初に感じた『イヤな予感』は、頭の片隅にとっておく。

ここまでの読了ありがとうございます!


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