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「これが家で扱っている最高級の枝だ。これで満足できないなら、自分で取ってきてもらうしかねえな。これ以上を狙うのはもっと難しいとは思うが」
「……いや、この品質であれば十分だ。これの素材の最適化をしてしまえば、現状の杖では最上級の物が作れるだろう。いや、ここまでの品揃えだと大変に助かる。……問題は金が足りるのかって所だな」
「それは僕が居るからね。借金くらいは出来るよ? まあ、そんな事よりもいい方法があるけどねえ」
「まあ、お嬢が居るので借金は構いませんが。なんですかお嬢? そんないい方法があるんです?」
「勿論さ。レイル君に加工を担当してもらえば良いんだよ。それを売ってお金にすれば良い訳だ。この杖を作れる腕前だよ? 勿論だけど、品質は保証されたも同然だよねえ?」
「ああ、なるほど。それなら確かにこちらに損は無いな。腕のいい職人ならではの稼ぎ方だな。こっちはそれでも良いぜ? どうする?」
「……加工貿易と言う事か。まあ、それでも構わないが。品質は最上級の物を目指せばいいのか?」
「それで頼む。まあ、こっちだって何も無しでは帰れないからな。積み荷を空で帰る訳にはいかないし、こっちにはマジックバッグだってあるんだ。俺もインベントリもあるし、それに満タンにして帰りたいんだよ。向こうでも商売があるんだ。売れるものは買って帰らないと俺が怒られる」
まあ、それはそうだろうな。商人なんだからタダで働く訳にはいかない。売り上げを期待してドンと持ってきてくれたんだ。ならば、こちらも答えないといけないだろう。俺が作れる最高の物で返すのが筋だと思う訳だ。出来る限り加工して返してやりたいとは思う。そうなると、品物の目録が欲しい訳なんだけど、持っているよな? できうる限りの加工をやってやろうと思う。利益は度外視だ。エンチャントもフルで付けさせて貰う。
「加工できるものに関しては、全て預からせてもらって良いか? 結構な荷物で来て貰っているんだ。できうる限りの加工をさせてもらう。目録を見せてくれ」
「解った。これが目録だ。何処まで出来るのかは解らねえが、あの杖を見た感想を言わせてもらうと、腕はその辺の奴らよりも上だ。とびっきりの商品を期待してもいいのか?」
「ああ、とびっきりの成果を返そう。この目録の9割方を使わせてもらう。使い道はこっちで決めさせて貰って良いか? ある程度は方針を聞いても良いが、使えるかどうかで決まってくるからな。基本的に金属は合金にして武器に、木材は杖に、その他の素材はポーション関係に、後は毒も作れるがどうする? 一緒に解毒薬も作れるが、作るかどうかは任せる。使い道としては、弓矢の毒として使うのが一般的になるが。基本は魔物相手に使う事になると思う」
「毒も需要があるからな。作れるなら作ってくれ。それと9割だ? 半分くらいは使い道が不明の物のはずなんだがなあ」
「大半は合金の素材だ。属性武器の素材になってくる。これに関してはレシピスキルが無いと意味がない。しかもレシピスキルで覚えても錬金術師でないと使えない。俺なら加工できる。それだけだな」
錬金術師の本領だからな。そのくらいの加工は出来る。まあ、癖のある素材もある訳なんだけどな? 若干呪いの武器に近い物も作れてしまう。まあ、そう言うのも需要はあるだろう。特にお貴族様関連の物だとは思うぞ。呪いの武器って見た目には強さが解らないからな。使ってみて初めて真価を発揮するタイプの武器になる。特殊なエンチャントスキルを付けるので、まあ、本当に使い道を選ぶんだよ。主に対人戦闘用の武器だ。俺は魔物専門で動く予定なので使う事はないとは思う。
「未加工の値段がこんな感じだな。これを超えるように物を作って貰う訳なんだが、まあ、普通に考えりゃあ値段は超えるわな。売値はこっちで判断させてもらうが良いか? それと、蟻蜜も買いたい。全部買わせてもらおう」
「清算は後でも良いか? 出来ればその方が有難い」
「それはお互い様でさあ。でも、マジックバッグも無しにこれだけの量を持てるのか?」
「インベントリの大きさには自信がある。問題はない」
その程度の量なら問題はない。後は加工をするだけだ。……流石に丸2日は欲しい。今日は休みと考えても、明日と明後日は生産活動に没頭する事になる。久々のがっつり生産だ。イベントって感じがするよな。スタンピードのイベントだと、よくあることなんだよ。こういう生産依頼ってのは。武器がメインになることが多いが、薬なんかも大量に生産依頼が出てくるからな。こういうイベントには慣れている。生産も効率よく行うようにしないといけないだろう。まあ、本職だからな。こう言った事は得意だ。
「それでだ。俺は丸2日生産活動に没頭する事になる。そっちはどうする? 暇ならアリの巣を潰してもらいたい所なんだが」
「レベル上げもあるから、私たちだけで行くわ。けど、荷物をどうするのかよね。今まで通りにはいかないでしょ?」
「それは確かにそうだな。素材を放置するのは流石に勿体ないが、それでも仕方がないんじゃないか? 持ってくる手段が無いんだから」
「そう言うときの為の僕でしょ? マジックバックを借りれば良いんだよ。貸してくれるでしょ?」
「またお嬢は無茶を。料金はとりますよ? 流石にタダで貸してくれとは言わんでしょうが」
「勿論だよ。生産物で返すからそれも借金だねえ。まあ、この位は必要経費でしょ?」
「まあ、確かにマジックバッグを借りられれば助かるが、いいのか?」
「いいでさあね。どうせ商品も空になったんだし、金が入ってくるなら問題ありやせんよ」
「そういうものか。なら有難く貸してもらおう。清算は終わってからで頼む」
「任せてくだせえ」
そんな訳で、マジックバッグを借りることに。普通はあり得ないんだからな? マジックバッグは高級品なんだ。それを借りられるって、やっぱりロゼリアはかなりのお嬢様なんだろうなあ。いい天職も貰ったし、商会も期待をしたんじゃなかろうか。まあ、天職には関係なく、賢者になって貰うんだけどな。それは言わないでもいいだろう。本当に賢者になった暁には、ロゼリアが報告するかもしれないが、それは自由にしてくれれば良いんだし。絶対に秘密って訳でもないんだよな。言ったらお貴族様から消されるかもしれないってだけなんだよ。
まあ、それが一番のリスクな訳なんだが。それでリターンがあるかって言われると、微妙な所なんだよな。賢者を増やして良い事があるかって言われると、微妙なんだよ。結局は賢者になってからが問題なんだし。レシピスキルを揃えないとどうしてもな。基本スキルだけでは勿体ないんだよ。そりゃあダンジョンに何度も何度も潜らないといけないけど、それをする価値があるんだしな。賢者になりましただけでは話にもならないんだよ。効率のいい魔法を覚えないとな。
まあ、基本スキルだけでもかなりの強さを誇るのが賢者なんだけどな。バトルマスターもそうだし、錬金術師もそうなんだけど、基本スキルだけでも十分と言えば、そうなんだよなあ。レシピスキルが無くても十分に強いんだ。……いや、錬金術師の本分はレシピスキルを集めてからなんだけど。合成関連はレシピスキルが殆どだしな。基本スキルでも出来るものはあるけど、そこまで強い訳では無いし。まあ、今回はそれも使うんだけどな。流石に全部を加工しようと思ったら、そういう系統のスキルも使わないといけない。全部が全部最強に出来るわけではないからな。




