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「良かった! 人が居た!」
「助けを呼んで、何があったの!?」
「ゴブリンに追われているんだ! 大体200体くらいに!」
「にひゃ!?」
そういうと、全力で走って逃げた。おいちょっと待て! 助けに来たんじゃないのかよ!?
「ちょっと待って! 助けに来てくれたんじゃないのかよ!?」
「助けに来たわよ! でもそんなに多いなんて思わないじゃない!」
「見た感じ魔法職だろ!? 範囲魔法で一掃できるんじゃないのか!?」
「私はウィザードだけど、範囲魔法は使えないの! そっちこそ、なんで逃げるのよ!」
「俺は生産職なんだよ! 武器があれば戦えるけど、武器なんて持ってねえ!」
「生産職がなんでゴブリンの森に居るのよ!?」
「色々と事情があるんだよ! というか、こっちに逃げて大丈夫なのか!?」
「こっちに町があるから、最悪はそこで兵士と一緒に討伐になるわ!」
マジかよ。責任問題にならないと良いんだけどな。トレインなんて犯罪行為に近いと思うんだけど。
「あとどのくらい走るんだ? 結構走ってきているからどの程度なのかが解らん!」
「もうすぐ森を出るわ! ほら見えてきた!」
森の切れ目が見える。何とか外に出る事が出来たか。まったく、転生? 転移? させるにも場所を考えてくれよな。もっと楽な場所に転移させてくれよ。
「外に出たわ! 門に走るわよ!」
「了解した。責任問題にならないと良いなあ」
「なるわけないでしょ? 襲われただけなんだから」
トレインは重罪。そんな感じだと思っていたんだが、責任問題にならないならそれでいいか。いや、まだどうなるか決まった訳じゃないんだけど。
「すみません! 沢山のゴブリンに追われているんです! 手を貸してください!」
「何!? 解った。こっちからやってくるのか?」
「多分!」
そんな訳で門に居た兵士6人と助けに来てくれたウィザードの女の子、それと俺だな。森の近くで待機していた。そうしたら、やっぱりゴブリンが出てきた。タゲが外れている訳がないよな。面倒だ。でも、俺にだって出来る事はある。その辺の石と枝は結構入手してきているからな。投擲武器を出来るだけ作って準備しないと。
「貴方は何も出来ないでしょ? 下がってなさいよ」
「少しでも戦力が必要だろ? こういう事なら出来るから、さ!」
ものすごい勢いで石斧がゴブリンの頭を吹き飛ばす。本来ならこのくらいは出来るんだ。……森の中で多数のゴブリンに追われていなければ。
「なに、それ。普通に戦えるじゃない」
「遮蔽物が多い森の中、じゃ! まともに戦えないんだ、よ!」
投擲系の獲物は多い方が良いが、そもそも今は石斧しかない。それでもゴブリンくらいは倒せるが、森の中で確実に倒すには少々面倒なんだよ。狙いをはっきりと定める必要があるしな。
「戦えるなら何でもいいか。行くわよ! ストーンバレット!」
魔法を使うにしても、ストーンバレットか。物理魔法両方ともダメージが与えられる良い魔法だ。初期魔法の1つではあるが、有用性が高いんだよ。単純に両方共のダメージが入る分、土属性の魔法は総合威力が高いんだ。
そして、兵士の介入もあり、ゴブリンを無事に討伐出来た。……40体くらいまでしか追ってきていなかったけどな。それでも生産職にとっては脅威だし、普通なら戦闘を避ける方が無難だったんだけど。
「けど、生産職よね? 普通に戦えてたじゃない」
「まあ、武器さえあれば戦闘自体は出来るからな。問題は武器が無いことなんだけど。石斧くらいしか作れるものが無い。鉱山が近くにあればいいんだがな……」
「鉱山なら近くにあるじゃない。あの山が見えないの?」
「いや、この辺の地理に疎くてさ。ちょっと遠くから来たもんだから」
「遠くって言っても限度があるでしょ? 貴方何者なの?」
「ただの生産職だよ。それ以上でもそれ以下でもないかな」
流石にゲームの世界からやってきましたなんて言えないよな。何だよそれって感じになるだろうし。しかし、鉱山も近くにあるんだな。あの山がそうか。反対側にあったんだなあ。そこで鉄やなにからも入手できるだろう。
「災難だったな。ほら、討伐部位を剥ぎ取っておいた。自分で倒した分は自分で剥がないと誰かに持っていかれるぞ? そんなことでは冒険者としてやっていくのは難しい」
「あ、すみません。ありがとうございます」
「俺はあっちの死体も貰っていいか? ちょっと金欠でさ」
「死体か? 死体なら好きに持っていけば良いとは思うが……。金になるのか?」
「皮紙としては最低限の品質ですけど、まあ、加工すれば使えるのは使えるので」
「しかし、持っていくにしても量が量だぞ?」
「あ、大丈夫です。俺は生産職なんで」
「生産職か。……なんでゴブリンの森に居たのかは置いておくとして、それなら納得だ。インベントリが、かなり大きめのインベントリが使えると聞いているからな」
「そうなんですよ。じゃあ回収してきます」
「ゴブリンを回収してインベントリ内で加工までやってしまうと。その辺はスキルにお任せだ。結構多くの皮紙を手に入れる事が出来たな。これが売れてくれないと文無しなんだよなあ」
「文無しって、貴方どうするつもりだったの? 流石にありえないでしょ。ちょっと身分証を見せてくれない? 商業ギルドか冒険者ギルドに所属しているのよね?」
「いや、それが両方とも所属してなくてさ」
「は? それならどうやって町の中に入るつもりだったのよ? 身分証が無いと門でお金を払わないといけないわよ?」
「え?」
「え? じゃないわよ。そんなの当たり前の話でしょ?」
「……文無しなんだが?」
「そうね。だから、どうやって町の中に入るのよ?」
「……お金、貸してくれないか? 出世払いで何とか返すから。宿代とかも含めて」
「はあぁぁぁ……。まあ、いいけどね。けど、詳しく色々と教えてもらうわよ?」
町に入れないのは困る。流石に冒険者ギルドと商業ギルドに登録をしておかないといけないだろうからな。そうしないと色々と困る。活動するにしても流石にな。こんな所で、こんな序盤で躓くのは勘弁願いたい。
とりあえず町には入れそうだから何とかなるとして、問題はこの後だよな。まずは鉱山で鉱石を手に入れたいところ。でも、鉱山にも魔物は居るだろうし、そもそも民間人が採掘していいのかが気になる。その辺を調べないと駄目だよな。明日直ぐにって訳にはいかなくなりそうだ。
とりあえずの金策として、薬やポーションの類を売って凌ぐしかなさそうな気がしている。どのくらいの金額で買い取ってくれるのかは解らないが、薬やポーションは高い事は無いだろう。それなりの金額にしかならないはずだ。高いと冒険者が買えないからな。その辺の値段の調整はしているはずなんだよ。
と言う事は? 暫くは借金生活の可能性がある。女の子に借金をするってどうなんだよ? いいのか? 良い訳がないよな。早々に借金を返し終わらないといけないと思う。けど、金策にしても、それ程高価なものは作れないしな。まずもって素材が無い。素材が無い事には何もならない訳で。今後の俺の行い次第な所があるんだよな。どうしろと言うんだ。
今はとりあえず、無事に町に入れたことを喜ぶしかない。本当に。何で神様もあんな場所に俺を召喚したんだよ。ゲートで飛ばすにももう少し別の場所を選んでくれよ。流石に森の中に放置はやり過ぎだと思うんだ。死んだらどうするつもりだったんだよ。ゴブリン程度ならなんとかできるって? 一応生産職なんだ。それは勘弁願いたい所なんだよ。責めてインベントリの中身を持ち込み可にして欲しかったな。