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ヘイセイオブジエンド  作者: どうもネギです
第1章:オワリノハジマリ — チュートリアル開始
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第4話「ステータス画面の秘密」

 ビル地下の一角にある警備員室を、俺たちは仮の“司令室”として利用している。調達してきた水や食料、救急用品などをまとめて置き、負傷している浅海さん(浅海麻里)を椅子に座らせていた。ほかに体の不調を訴える者はいないが、皆が疲労困憊だ。

 「夜通し眠れなかったし、ちょっと休憩しよう。まあ、寝転がる場所もコンクリートしかないけど……」

 俺——霧島ハジメがそう提案すると、仲間たちは苦笑しつつも頷く。朝日が差し込んでいるかどうかも分からない地下空間だが、いまは時計を見るか、あるいは自分のスマホの表示に頼るしかない。

 もっとも、そのスマホも通信は依然として圏外のままで、Wi-Fiも通じない。街で何が起こっているのか、ネットからの情報収集はできず、テレビやラジオもほとんど雑音ばかりだ。地上の様子を断片的に見た限り、まだパニックは続いているのだろう。


 浅海さんがつぶやく。「ねえ……こんなところにずっといたら、いずれモンスターに見つかるんじゃないの?」

 彼女の不安はもっともだ。さっきまでは「ここを拠点化しよう」と言っていたが、その安全が永久に保証されるわけじゃない。ビルの入り口や地下への侵入口は完全には封鎖できていないし、仮に塞いでも強引に破壊されれば終わりだ。

 「今は、ここ以外に選択肢がない。それに、モンスターの数が減る気配もないし、外に出てもやられるリスクは同じだ」

 そう答えると、浅海さんは唇を噛みながら表情を曇らせる。リナ(宮田リナ)や中年サラリーマンの橘も黙り込むばかり。


 「でも……最初の7日間は“チュートリアル”って、神が言ってたよな。弱めのモンスターしか出ないって」

 俺の友人・佐伯ヒロキが、憮然とした様子で続ける。「正直、あれでも十分強いけど……もっと強いのが来るってことだよな? 7日後に」

 柿沼かきぬまという大学生の青年も肩をすくめた。「ゲームみたいな話ですね。いまはレベル上げ期間なんですか。笑っちゃいますよ、こんなの……」

 誰もが現実離れしすぎた状況を、どこか受け入れきれずにいる。でも、この“ステータス”や“レベルアップ”というシステムが実際に機能している以上、今さら否定しても始まらない。


 そこで俺は、一つの画面を開いてみた。自分の視界右下に常駐している半透明のウィンドウ。そこには**「ステータス」「スキルポイント」「ジョブポイント」**などの項目が並んでいる。

 - Name:霧島ハジメ

 - Lv:3

 - HP:??? / MP:???(※細かい数値表記は省略)

 - スキルポイント:2

 - ジョブポイント:1

 こんな具合に、ゲームのメニューみたいな表示だ。周囲に尋ねてみると、皆それぞれ似たようなウィンドウがあるという。レベルやポイントの値はまちまちだ。昨夜、モンスターを直接倒していない者はまだLv1のままだったりする。


 「スキルポイントって……どうやって使うんだろう?」

 ヒロキが言う。すると、リナが「こんなのがありました」と自身の画面を示す。そこには「スキル一覧」というタブがあって、**『斬撃コモン』『受け流し(コモン)』『基本回復術コモン』**などが習得候補に出ているらしい。必要ポイントは1~2と書かれているが、彼女はLv1なのでポイントが0。取得はまだできない。


 「俺はレベル3で、スキルポイントが2……いくつか覚えられるかもしれない」

 試しに意識を集中し、その「スキル一覧」を開く。すると俺の表示には、**『殴打術コモン』『斬撃コモン』『体力強化コモン』『???(???)』**といった候補が並んでいた。最後の「???」は条件が分からず習得不可能と出る。


 「殴打術か斬撃なら、パイプ椅子や刃物を振るうときに役立ちそうだな。さっき俺、素手で殴ったけど、本当はこんなのに頼らないときつい」

 「お、俺にも『基本回復術コモン』ってのがある。スキルポイント1か……でも俺はポイントがまだ1しかないけど……どうしよう」


 ヒロキが悩むそぶりを見せる。回復スキルは魅力的だが、戦闘の助けになる攻撃スキルを優先したほうがいい気もするし、悩ましいところだろう。

 「ジョブポイントってのも気になるけど……ほら、戦士とか魔術師とか、そういうのがあるのかな」

 柿沼が呟いたので、俺は画面を切り替えてみる。すると確かに“ジョブ取得”というタブがあり、**「戦士コモン」「回復士コモン」「魔術師コモン」**などが候補として出てきた。必要なジョブポイントは1。習得すれば、関連スキルが取得しやすくなるらしい。


 (本当にゲームじゃん……。こんなの、信じたくないけど、信じないと生き残れないんだろうな)


 俺は心の中で苦笑する。仲間たちも見守る中、ためらいつつも「戦士」を選択してみた。すると、体の内側から熱がこみ上げるような感触があり、ステータス画面には**「ジョブ:戦士コモン」**と追加された。


 「何か……分かった気がする。斬撃スキルとか、今までより扱いやすくなるかも」

 そう呟いて、今度はスキルポイントを消費し**「斬撃コモン」**を取ってみた。鉄パイプや刃物で攻撃する際、威力と精度が上がるらしい。単なる説明文だけではイメージがつかないが、きっと昨夜の戦闘よりはマシになるはずだ。


 ヒロキは少し考えて「回復士」を取得していた。理由を尋ねると、「浅海さんみたいに怪我をした仲間を助けられる人がいないと困るから……」だそうだ。スキルポイントはまだ1しかないが、後々『回復術』を覚えれば治療ができると期待している。


 浅海さんやリナは、まだモンスターを倒していないためレベルが上がっていない。彼女たちのためにも、俺とヒロキ、柿沼や橘あたりで安全を確保しつつ、経験値を稼がせる手段を作ってやる必要があるかもしれない。レベル1のままでは危険な世界だ。

 「バカみたいだけど……真面目に“レベリング”しなきゃダメか」

 橘が自嘲気味に笑う。誰もが同じ気持ちだろう。この異常事態をゲーム感覚で話している自分たちが、どこか滑稽に思える。でも、これこそが今の現実なのだ。


 ステータス画面やスキル、ジョブについてひと通り検証したあと、俺たちは再び仮眠や休息を取ることにした。あまりにも疲れすぎている。少なくとも体力を回復しなければ、次にモンスターと遭遇したとき対処できない。ビル入口のほうには柿沼と橘が順番で見張りをしてくれることになった。


 まだ朝なのか昼なのか分からないが、地下にこもる俺たちにとっては一日の始まりだ。体を横たえて、コンクリートの冷たい感触を背中に受けながら、俺はまぶたを閉じる。いつ襲われるか分からない恐怖は拭いきれないが、それでも数時間の仮眠を取らないと倒れてしまうだろう。


 「……くそ。なんでこんなことに……」


 神などと名乗る存在は何を考えているのか。“最初の七日間はチュートリアル”などと宣言して、俺たちを殺し合わせるなんて悪趣味にも程がある。

 ゲームシステムを使いこなし、モンスターを倒せばレベルアップして強くなる。死ぬか強くなるか、二択を迫られているようだ。


 どこかで、これは夢であってほしいという想いが拭えないが、頬をつねっても目が覚めることはない。現実は無情だ。疲れ切った意識が徐々に暗闇へ沈んでいき、いつの間にか俺は浅い眠りに落ちた。


 ――そんな休息を経て、次に目が覚めたのは数時間後。橘が「ハジメ君、ちょっと来てくれ」と声をかけてきたのがきっかけだ。警備室に戻ると、そこにはヒロキやリナ、柿沼たちが全員集まっていた。浅海さんも足を痛むなか椅子に座っている。どうやら大した襲撃はなかったようで、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 しかし、雰囲気は暗い。何かあったのか?と橘に尋ねると、彼は苦々しい表情で言う。

 「さっき、何とか見れたテレビニュースによると……いや、もうニュースというか、映像が乱れてたんだが……どうも発電所が謎の怪物に襲われたらしい。大きさは人間の何倍もある、オーガか巨人みたいなやつだとか」

 「発電所が……それ、つまり“中ボス”じゃないのか?」

 ヒロキの顔が強張る。神の言った中ボスは、全国の発電所やインフラを破壊するとかなんとか。それが現実になりはじめたわけだ。


 「そうだろうな……映像はすぐノイズだらけで途切れたが、明らかに人間の手に負えない怪物だった」

 「もしそれが複数いるなら……電力が止まるのも時間の問題だ」

 浅海さんが青ざめて呟く。今もこのビルには一部通電が残っているが、それも長くはもたないのかもしれない。


 ただでさえ通信が遮断されかけている現状で、本格的に停電になれば混乱は一層深まる。夜になれば街は真っ暗闇。モンスターの思うがままだろう。

 「あの化け物、俺たちがどうにかできる相手じゃないよな……?」

 柿沼が怯えた様子で言う。無理もない。犬型モンスター一匹倒すのだって必死なのに、何メートルもある怪物など考えたくもない。


 「ただ、今はまだ都内全域が停電しているわけじゃない。部分的に生きてる電力がある。発電所全体が破壊されたわけじゃないにしても、時間の問題か……」

 橘が腕を組んで苦悩を滲ませる。もしやどこかに安全な避難所があればいいが、テレビやラジオも混乱していて情報がない以上、何も分からない。


 「神は“すぐに死なれるとつまらない”から、最初の七日間は弱いモンスターだけ、って言った。だけど中ボスは別腹ってことなのか……」

 ヒロキが毒づく。その通りだろう。要は弱いザコはそこかしこにいて、中ボス級は電力を破壊して回る。まさに絶望しかない。


 話し合いの末、俺たちは「とにかく当面はこのビル地下を安全地帯として死守し、周囲の状況を探る」方針に固めた。いずれ停電になれば夜間は特に危険が増すため、昼間のうちに物資を確保したり、モンスターを倒してレベルアップしたりする必要がある。

 俺たちの“生存計画”が、ここから本格的に始まるのだ。

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