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Mär if  作者: tellershi
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【黒い乙女のお話 】


 昔々あるところにとても強い力を秘めた、魔女の女の子が産まれました。

艶のある美しい黒髪から彼女は「黒き魔女」と呼ばれるようになりました。


はじめこそ誕生を喜んだ大人たちですが、次第に彼女の強大な魔力に恐れを抱くようになりました。

黒き魔女は誤解を解こうと魔力を駆使して人々の役に立ち続けました。



 数年後、彼女に妹が産まれました。妹もまた強い力を秘めた魔女です。

燃えるような美しい赤髪の彼女は「赤き魔女」と呼ばれるようになりました。


姉のおかげで妹は周囲に恐れられることなく、愛されて育ちました。

愛してもらえなかった姉は妹に少し嫉妬しますが、可愛い魔女を憎んだりすることはできませんでした。

いつだって彼女が幸せであれるようにと、姉は全ての災いを跳ね返す呪いをかけた赤い宝石を妹に贈りました。



 ある日、2番めの王子が姉妹の家にとどまることになりました。

継承権争いに負けた彼に魔女の加護を与え、命を守るためです。


わがまま放題な王子に姉妹は心底あきれます。が次第に、王子と姉は互いを意識するようになりました。


「私が大人になったら王族から抜けて、お前と夫婦になろう」


姉はとてもうれしくなりました。初めて家族以外からの愛を手に入れたからです。

彼の役に立てるよう、彼女は魔女の腕を磨き続けました。



 雪が家の窓を覆いつくすほど積もった、とても寒いある冬の日。

王子は突然国王に即位することになりました。父と兄が流行り病で死んでしまったからです。

後ろ盾が必要な彼は、家臣の勧めで隣国の姫君と結婚することになりました。


これを知った姉はひどく悲しみましたが、国と彼のためを思い潔く身を引こうとします。

しかし、彼は姉に約束をしました。


「側妃として傍にいてほしい。そのために大きな手柄を立ててくれないか」


貴族ではない姉は手柄を立てて爵位を受けるしか王族に嫁ぐことはできません。

彼女は国の東の果てにある森に住まうドラゴンを倒すことにしました。

そのドラゴンの鱗は流行り病に効く薬になるからです。

壮絶な死闘を制した彼女はドラゴンの鱗を目いっぱい抱え王城へと向かいました。


 薬によって、たくさんの国民たちの命が救われました。皆、黒き魔女をほめたたえます。

人々の喜びは国全体に広がり、セレモニーが開かれることになりました。


大勢の人が見守る中、国王によって姉妹の家には爵位が与えられました。


「この祝辞に、さらなる幸福を重ねたい!余は側妃を迎えることとする!」


人々は歓喜に湧きます。

緊張した面持ちの姉でしたが、妹の笑顔をみて少し安心しました。


「さあこちらへ、テレジーナ」


彼は妹である赤き魔女の名を呼びました。

間違いを訂正しようとしましたが、国民の歓声にかき消されその声は誰の耳にも届きませんでした。


「私、幸せになります。お姉さま」


 気が付くと、そこは国王と妃の結婚式の会場でした。


「お前たちに贈り物をしてやろう!貴様は愛しいものへの愛が顔を見るたびに憎しみに代わって

いき、自らの手で殺してしまう呪いを。お前には自分を愛しているもの以外、たとえ死神であっ

てもその命を終えられぬ呪いを!」


言い切ると同時に、黒き魔女は鈍い痛みを覚えました。赤き魔女の首元にはあの赤い宝石が飾られていたのです。


黒き魔女は力を振り絞り、海の底に逃げ込みました。



真実の愛を知らない彼女は、自分で救いを求めることも、他人に救われることも出来なくなってしまいました。



そんな黒い乙女がメルヒェンのヘクセに海の怪物と共に救われることになるのは、また別のお話。


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