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前編(フィリア視点)

閲覧ありがとうございます。

初めての作品のため、気楽に読んでいただけますと幸いです。


執着されていることに気づかず、愛されている女の子と完全犯罪のように周りを巻き込んで

女の子を囲っている男の子の話です。


前編の不足している部分は、全て後編で補っているはずです…。


 


 ーーー6歳





「はじめまして、わたくしはフィリア。あなたは?」



 突き出した手に、小さな手が震えるように差し出され、そっと握られる。



「は、はじめまして。ぼ、ぼくはカイト。」



 春の日差しの中、それがわたしたちの出会いだった。





 街一番の大きな青い屋根の家が、フィリアの家だった。

 フィリアの父は商売に成功し爵位と領地をもらった、いわゆる成金貴族である。だからといって、金遣いが荒いなどはなく、家族と信頼する執事、メイド長、料理長など限られた人数の使用人たちと共に、自分たちでできるところはやりながら、領地の発展に尽くしていた。



 そんなある日、仰々しい馬車に乗って現れたのが、カイトだった。



「フィリア、お前と同い年の子が今度我が家にやってくるんだ。仲良くできるか?」

 朝食の席で父に急に言われたフィリアは、何を当然のことを?という表情で答えた。

「もちろんですわ。友達百人作るんですもの」


 それからすぐカイトがやってきて、馬車から降りたカイトと冒頭の挨拶を行い、フィリアの屋敷で一緒に暮らし始めた。


 フィリアの家族はみな一般的な茶色に緑色の目をしていたが、カイトは真逆で物語に出てくる王子様のような金髪碧眼だったため、とてもキラキラしていて可愛かった。

 また、自分と同い年と聞いていたが、自分よりも一回り小さいカイトを見て一人っ子のフィリアはまるで弟ができたかのように嬉しく、カイトにちょっかいをかけたが、カイトの警戒心は堅かった。そして、必ず決まった時間になったら同じことをして全くフィリアと遊んでくれなかった。



 梅雨が終わったある日、カイトがいなくなった。



 お昼を食べた後のこの時間は、いつもなら図書館で絵本を読んでいる時間帯なのにカイトがおらず、フィリアが家中を捜索しても見つからなかったため、父に相談すると屋敷のみんなで捜索することになった。


 それでも見つからない。


「フィリア様は一度お部屋で休んでください」

 そう、メイドのマリに言われ、自室に戻ったフィリアだったが、日も暮れはじめ、カイトの安否が心配で不安に駆られ、窓の外を見ていた。

 すると、怪しげなフードを被った男が馬屋に入っていくのが見えた。あ、あれは…と考えるよりも先に身体が動いていた。


 外に出ると、馬屋の近くに布を被せた荷台が止まっていた。覗こうと思ったところで馬屋から馬を引き連れたさっきの男が出てきたため、フィリアは慌てて荷台に飛び乗った。布に潜り込むと、そこには口を布で巻かれ、眠っているカイトがいた。


 男の足音が聞こえる。馬を連れてきて繋いだのだろう、荷台が走り出した。


 ガタガタ、ガタガタ。


 声は出してはいけないから必死に口を抑えながら、揺れに耐えた。

 しばらく走ると揺れは収まった。荷台から覗く景色は、森の中であった。男は馬につけている縄を木にくくり付け、どこかに向かう。



 今しかない。



 フィリアは、急いでカイトに駆け寄り揺さぶる。


「カイト、起きて」


 カイトの青色の瞳が見えるが、まだ意識が朦朧としているのか、状況を理解していないのか、ぼーっとしている。口元の布を外してあげ、カイトに状況を説明してあげたいが、それよりも一刻も早くここから抜け出すべきだった。布を咥えたまま、ぼーっとしているカイトを引っ張り、まず自分が荷台から降りる。次にカイトを荷台から引っ張り出す。


 ガタン。


 大きな音を立ててしまった。しかし、そんなことを考えている暇はない。おろしたカイトを支えながら、一番近くの木の影まで向かう。


 幸い、男は戻ってきていないようだ。ほっと息をついた。

「カイト、ごめんね。布取るけど、しばらく喋らないでね」

 小声でカイトに話しかけ、口元の布を取ってあげた。


 ようやくカイトも意識がはっきりしてきたようで、小さく頷いてくれた。目には涙を浮かべていた。


 足音が聞こえる。男が帰ってきたようだ。

 そして、馬の鳴き声も聞こえ、荷台は出発した。


 涙目のカイトを抱きしめる。

「よかった…」

 小さな声でフィリアは呟いた。フィリアの目にも涙が浮かぶ。


 ヒック、ヒック


 小さな泣き声が耳元で聞こえてきた。それに釣られてもフィリアも涙が堪えられなくなった。


 グス、グス


 小さな泣き声が重なり、安堵感からか泣き声は少しずつ大きくなり、二人は一緒に泣き叫んだ。そして、疲れていつの間にか眠っていた。


 そして、しばらく経った頃。


「フィリアー!カイトー!」


 自分たちを呼ぶ声が聞こえ、目が覚めた。それは聞き慣れた大好きな声だった。


「お、お父様!」


 フィリアはすぐさま立ち上がり声のする方を見る。そこには、馬に乗った父がいた。その瞬間、先ほどよりも大きな声でフィリアは泣き叫んだ。



 この事件があったせいか、おかげか、カイトはフィリアに懐くようになった。フィリアがどこに行くにもカイトはついてきた。

「フィー!遊ぼう!」

「フィー、一緒に行ってもいい?」

 フィリアは、そんなカイトが可愛くて、本当の弟のように思っていた。

「カイトがほんとに弟になってくれたらいいのに」

 フィリアの心からの願いにカイトはいつも苦笑いを返していた。


 それからしばらく経った雨の日。

 父に呼び出されたフィリアは、カイトが家に帰ることになったという話をされる。

「今までカイトのお家が大変で、一時的にうちに来ていたが、カイトのお家も落ち着いた。今月末には迎えが来るとのことだ。カイトのお家はここから遠い。悔いのないようにお別れしなさい。」



 別れは突然だった。



 フィリアは悲しくて悲しくて、その日は一日ベッドに籠っていた。


 翌日、見かねたカイトがフィリアの元を訪れた。


「フィー、遊ぼうよ…」

 ドア越しに聞こえる不安げなカイトの声にハッとなった。別れが近いなら、こうしている時間がもったいないじゃないか。

 フィリアは急いでベッドから抜け出し、パジャマ姿のままドアを開けた。

「うん、遊ぼう」

 フィリアの目はパンパンに腫れ上がっていたが、カイトは気にせずフィリアからの返事に嬉しそうに笑顔を返してくれた。


 それからは今まで以上に四六時中カイトと遊んだ。中庭の大きな木に一緒に登ったり、図書館で鬼ごっこをしたり、普段なら絶対に怒られることをしてもみんなが見逃してくれた。


「カイトー!こっちこっち!」

 丘をゆっくり登ってくるカイトに大きく手を振り、寝っ転がる。空は晴れていた。

「フィー、はしゃぎすぎだって」

 ようやく追いついたカイトが、苦笑いしながら覗き込んできた。たった二人だけで屋敷を抜け出し、近くの丘までやってきたのにはしゃがないわけがないじゃないか。

「今日だけだもん」

 そう、今日だけなのだ。カイトは明日いなくなってしまう。


「カイト様ー!フィリア様ー!」

 ふたりを呼ぶ声が聞こえ、終わりを迎える。


「カイト、ありがとね」

 フィリアはカイトにも聞こえないような声でそっと呟いた。しかし、カイトには聞こえたようでとびきりの笑顔を返してくれた。





 ーーー15歳





 あれから九年が過ぎた。

 カイトとは一回も会わず、週に一度の文通だけでやり取りを続けていた。日記のように毎回何枚もの手紙を書くフィリアに対して、カイトからはいつも一枚だけの返事で内容もそこまで変わらない内容だった。

 けれど、それがフィリアは嬉しくて楽しみだった。


 そして、今日フィリアはアウローラ学園に入学する。なんと、カイトも同じ学園に入学すると手紙に書いてあった。カイトに会える。

 ただ、あの頃は知らなかったが、成金のフィリアの家と違い、カイトは由緒正しい家の子だった。しかも、六大名家に名を連ねる国有数の公爵家の三男だという。

 学園は貴族も平民も入れ、平等と謳っているが、実際は社交界の縮図である。貴族の中では、王家が一番上で、その下に六大名家があった。

 そして、フィリアのような貴族は、貴族の中でも一番下にあり、ほぼ平民に近い。学園に入学するまでに出会った貴族の子どもたちの中にも、フィリアの家を見下してくる子ももちろんいた。そのため、フィリアはカイトと話す予定はなかった。ただ、どんな風に成長したのかだけ知りたかった。



 のだが…。



 入学式の日。


 少し早めにフィリアが学園の寮から出ると、そこには見目麗しい金髪の青年が立っていた。スラっと背は高く絵本の中の王子様のようなルックスの青年が。周りの女子生徒たちは、青年を見ながらザワザワしていた。

 朝からいいものを見た。そんな気持ちでフィリアが学園に向かい歩き出すと、

「ちょ、ちょっと待って」

 青年が話す声が聞こえた。声まで美しいのか。そんなことを思いながら、フィリアは歩き続ける。


 タタタッ

 なんと、その青年がフィリアの目の前で止まったのだ。ざわざわ、周りの声が大きくなったことを感じる。

 フィリアもまさか自分に声をかけていたとは思わなかったが、まずは用件を聞かなくては。

「すみません、気づかず…。私に何かご用でしょうか」

 首を傾げながら、青年を見つめると青色の瞳がとても綺麗で驚いた。


「フィー…。私を覚えていないのか…」

 とても寂しそうな声で青年が呟く。


 あれ?なんで私の愛称を知っているのかしら…。


 …


 …


 …!


「ま、まさかカイト様ですか…!?」


 びっくりして思わず大きな声が出てしまった。その瞬間、青年はとびきりの笑顔になった。

 か、変わっていない!久しぶりに見た旧友の笑顔は昔の名残があり、正直飛びつきたくなったが、周りの喧騒と聞こえてきた悲鳴のおかげでフィリアは理性を保った。


 ここは紳士・淑女を育む学園。


 一般マナーを叩きこめれてここにきたフィリアは耐えた。


「失礼いたしました。シュバルツ様。」

 淑女モードの笑顔を返す。


「シュバルツ様が話しかけているあちらの方はどなたかしら。」

「先ほど下の名前で呼んでませんでした?」


 やばい、目立っているようだ。


「久しぶりにお会いできて嬉しかったです。失礼いたします。」

 一刻も早くこの場を離れなくては…!カイトの表情など見る余裕もなく、フィリアは立ち去った。

 そう、カイトが真っ青な顔で拳を握りしめその場に立ち尽くしていたことなど、フィリアは当然知らなかった。


「ここが講堂…!」


 カイトと再会した後、フィリアは入学式が行われる講堂に向かい、その大きさと美しさに魅了された。そして、こんな素敵な場所で小説のような友人や恋人ができるのでは…!とこれからの学園生活に期待を膨らませていた。





 ーーー16歳





 期待を膨らませたはずだったのだが…一年経ってもフィリアには友人ができていなかった。その原因は…カイトであった。


 入学式まではよかったのだ。隣の席になった子とも仲良くお話できたし、一緒に教室まで戻ることもできた。一人目の友人だと思っていたのだが、教室に戻るやいなや、カイトに捕まり強制的に横の席に座らされた。

 そう、仲良くしてくれた子は、カイトの手下だったのだ。

 手下という言い方は良くないかもしれないが、あの時の軽いごめんねの表情を思い出すとやはり手下という表現が彼にはお似合いだ。


 そんなこんなでいい思い出だと、学園では絡まないだろうと思っていたカイトとほぼ一緒の生活が始まったのだった。どれくらい一緒かというと、ほんとにおはようからおやすみまで一緒にいたいのではと感じるほどだった。男子寮と女子寮が別であったことに、本当に感謝している。


 まず朝女子寮から出ると、目の前にカイトが待っているし、出発の時間をずらしても必ずいた。どうしてもカイトがいない時は、入学式で出会ったカイトの手下のオリバーがいた。カイトと同じくらい会っている。もはやオリバーが唯一の新しい友人と言える存在なのかもしれない。

 授業中もカイトの隣の席に座り、ランチもオリバー含めた三人で食堂に行く。授業終わりの夕方は、各々クラブ活動や委員会をするのだが、これも決めるときに上手いようにやられ、カイトと同じ図書委員会に所属し、担当日も同じため、一緒に過ごしている。そして、女子寮に送ってくれるまでがルーティーンだ。


 九年ぶりに会ったカイトはいい意味で変わっておらず、素直で可愛い弟のカイトだったため、フィリアも弟の希望に沿うよう動いてしまった自覚もあるのだが、女の子の友人が欲しかったのに、王都で有名なカイトとずっと一緒にいるからと女の子に嫌われてしまっていることをフィリアは知っていた。

 嫌がらせをされるわけではないが、女子寮の中ですれ違うときに嫌味を言われたり、女子寮の食堂ではフィリアの席の周りに誰も座らなかったり、小さなことが積み重なっていた。


 一年、カイトの希望に付き合ったから今年からはもういいよねと思い、フィリアは女の子の友人が欲しいこと、ずっと一緒に過ごさなくていいのではないかということをカイトに伝えた。



 その結果が…



 友人探しのお茶会の開催であった…。


「フィリア、ごめんね。気が効かなかったね。今日は君と気が合いそうな令嬢を

 誘ってみたから、お話ししてみるといいよ」


 …


 そういうことではないのだが…


 お茶会はカイトの別邸で行われたため、当然のようにカイトとオリバーが参加していた。そして参加してくれた令嬢たちは、全部で三名だったが、数回話したことがあり、確かに気が合いそうだなと感じていた方々だった。

 カイトと同じく六大名家出身のサーシャに、オリバーのいとこのケイシー、そして平民のララ。生まれも育ちも違う私たちだったが、読書が趣味ということで大いに盛り上がり友人と呼べる関係になれたと感じた。


 そして、二学年に上がり、カイトは生徒会に入り、フィリアも三人の友人ができたからか、カイトといる時間は大幅に減った。

 サーシャ、ケイシー、ララとは身分はそれぞれ違うものの、とてもいい関係を築くことができていた。

 サーシャは身分が高いけれど、差別思考などはなく、逆に平民の暮らしに興味があったり、平民で流行っているロマンス小説が好きだったりする可愛い女の子だ。

 逆に、ケイシーは身分について少し古い考えのところもあるが、それは将来官吏になりたいという夢があるからで友人として過ごす上ではとても頼もしい存在だ。

 ララは、図書館に住んでいるのでは?と囁かれるほど図書館にいるため、自然と話す機会も多く、おすすめの小説などをいつもおすすめし合っている。

 週に一度、四人で金曜日の放課後には今週あったことや週末の話に花を咲かせるお茶会を行なっていた。


 カイトと話す機会は少なくなったことで、少し寂しく感じはしたものの、本来の距離はこれくらいだよなと思い、いつも通りフィリアは過ごしていた。



 そんなある日。

 フィリアのもとに父からの手紙が届いた。



「はあー」

「フィリア、どうしたの?そんなため息ついて」

 心配そうにララが覗き込んできた。

「ここ数日、心ここにあらずって感じだもんね」

 サーシャとケイシーがお互いにねーと顔を突き合わせていた。しまった、今は四人でのお茶会の最中だった。


「実は…」

 いずれ友人たちに相談しようと思っていたところだったし丁度いいとフィリアは話し出した。


「「「ええー!お見合い!?」」」

 三人の声が重なった。


「しかも今週末なの!?」

「本当に今週末?ってことは明日じゃない!いきなりすぎない?」

「そうよ、大体お見合いは一ヶ月前くらいには日程が決まるはずよ」

 実は私もそう思っていた。月曜日に父から手紙が届き、週末お見合いだよとの連絡があった。お見合いで会うだけにしても色々準備が必要だし、遅くないかと…。


「いや、そうなの、いきなり決まったみたい。お相手側からの希望でお父様も会うだけでもってことだから」

「会うことは確定なのね」


「え、シュバルツ様は知っているの?」

「なんでここでカイトが出てくるの?今みんなに初めて伝えたことだし、知らないよ」

「いや、伝えるべきね」

「そうよ、伝えなかったらどうなることか…」

「というか今知ってしまった以上、どうにか話を伝える必要があるわね」

 なぜか頷き合っている三人を見て不思議に思ったが、

「あれ?でもカイトたちって今度の生徒総会の準備で忙しい時期じゃなかったけ?」

「「「あ」」」

 丁度昨日、カイトたちに遭遇した際に忙しいという話を聞いていた。


「いや、でもそれよりも優先すべきことじゃないの?」

「どうせ会うだけ会って婚約はしないと思うから大丈夫だよー」

「会うだけならそうね…」

 サーシャは悩ましげに眉をひそめていた。


「お相手ってどなたなの?」

「それがまだどなたかも教えてもらってないの、元々伝えてた要望があるから範囲外ではないのだと思うのだけど…」

「待って、要望って初めて聞いたわ、元々婚約者探していたの?」

「え。そりゃもちろん。周りもみんな探してるでしょ。お父様は学園でいい人がいればって話だったけどそういう話にもならなそうだから、三年になる前には決めておきたいなと思って…」

 そう、家族は成金貴族だけど、他の家族と娘を婚約させて事業や領地の発展をと考えるような人たちではなかったが、このまま卒業して家に戻るのはなとフィリアは思っていた。そのため、正直お見合いについてはそろそろあるだろうなとは思っていたのだ。


「な、なんてこと…これは早急に伝える必要があるわね…」

「そうね、今日のお茶会はひとまず解散しましょう、ララ、もっと情報聞いておいて」

「かしこまりました。さあ、フィリア様、話すと楽になりますよ〜」

「いやいや話すもなにも今伝えた内容が全てよ」

 なぜか急いで退席したサーシャとケイシー。そして、目を輝かせて私に獲物を定めたララがいた。


 ララからじゃあ今回の件を最初からと聞かれ色々話していたところ、

「なにそれ!聞いてないのですがー!」

 とララの叫び声が何回か聞こえた。ララに質問攻めにされ、いつの間にか夕食の時間となり二人で寮に戻って夕食を食べて別れた。

 明日はお昼に会うからと、その後は部屋に戻ってシャワーを浴びそのまま眠りについた。



 翌日。



 父と待ち合わせてお店に向かい個室に入ろうすると、そこにはカイトと公爵様がいた。

 急いで父の手を掴み、入らずにその場で作戦会議をする。

「お父様、お見合い相手カイトなの?知り合いはやめてって言ったじゃない」

「いや、カイトくんじゃなかったはずなんだが…ちょっと確認してくるね」


 先にお父様が入り、公爵様と会話している最中、カイトがニコニコでこちらを見てきていた。


「フィリア、ごめんね。手違いだったみたいで、本当はカイトくんにだったみたいだ。」

「そんな間違いある?カイトじゃお見合いにならないじゃない」

 眉をハの字に曲げる父親の姿を見てフィリアはため息をつきたくなった。しかしながら、カイトはともかく公爵様もいる中でそれをするのはどうなのかということで心を入れ替えて個室に入った。


 結果から言うが、なぜかカイトとの婚約が決まった。公爵様とお会いするのはカイトを迎えに我が領に迎えに来られた時以来だから9年ぶりだったが、なぜかフィリアのことも覚えてくださっていて、カイトの恩人と言ってくださった。確かにそんなこともあったな程度に思っていた事件は公爵家にとっては重大な事件だったらしい。

 そして、そのお礼に色々提案していたが、父が全てお礼なんていいよ、僕らの仲じゃないかと返答していたことも初めて知った。しかも、公爵様とお父様は学園で出会った親友らしい。当時の父は平民で身分は違ったけれど、とにかく気が合って公爵様曰く父のおかげで楽しい学生生活を送れたらしい。初耳である。

 友情とは美しいものだ。

 その流れで私もカイトといい友情を育んでいると言う話をしたところ、なぜか婚約に至っていた。

 なぜ????





 ーーー18歳





 そして、学園を卒業してすぐ。

 気づいたら、私とカイトは挙式を挙げていた。


「フィー、ようやく結婚式だね。今日から一緒の家で暮らせるんだね」

「なんかあっという間だったわ」

「え、僕は十年も待ったのに」

「十年!?」

「そうだよ、急にお見合いするとか言うし、学園で婚約者探してたなんて思わなくて普通にフィーにも学園生活楽しんでもらおうと思っていたのに、急でびっくりしたよ」

「やっぱり本当はカイトじゃなかったんだね、お見合い相手」

「そりゃそうだよ、僕がいるのにお見合いさせるわけがないよ。フィーの結婚相手の条件は、お互いに尊敬し合える。不貞をしない。家族も含めて大切にできる。でしょ。そんなの僕がいいに決まってるし、僕の相手はフィーしかありえないんだから丁度よかったよね」

「丁度よかったのかなー」

「うん」


 白い衣装に身を包んだカイトと目があった。あの頃と変わらないとびきりの笑顔を見せてくれた。


「フィー、大好きだよ」


 丁度よかったんだろうな、フィリアは自分に言い聞かせてカイトと共に控え室から式場に向かった。


「わたしも」


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