削除されたメッセージから始まる恋物語

作者：衣谷強

春の推理2024参加作品です。

推理要素薄目でしかも主人公ポンコツですが、よろしければお読みください。

『〓（目）してる』

　ん？

　何だこのメッセージ。

『玲子（同僚）さんがメッセージの送信を取り消しました』

　取り消された。

　今のは何だったんだ？

　単なる間違いか？

　それとも何かの暗号か？

　……玲子の性格なら暗号の可能性が高いな。

　となれば、表示されなかったこの目の絵文字の意味がキモか。

「目（め）……。眼（まなこ）……。瞳（ひとみ）……」

　うーん、どれも「してる」と繋がらないな。

「見る……。見つめる……。睨む……」

　動詞も違うようだな。

　そもそも「してる」が付いてるんだもんな。

　別の視点から……。

「視覚……。視線……。目線……」

　どうにもしっくり来ない。

　他には……、英語か？

「see……。watch……。look……」

　違うか……。

　……いや……。

「eye……」

　eyeしてる……。

　アイしてる……。

　愛してる……？

「……いや、そんな訳はない」

　玲子とは同僚。

　同期の一人にして飲み仲間。

　お互いの仕事をフォローしあう相棒。

　その打ち上げで趣味や好きな芸能人がことごとく一致しているのが判明して、週に一度は必ず飲みに行く親友。

　しかしお互い金が続かないからと、月一で家飲みをやってくれる……。

　……家飲み！

「それだ！」

　複雑に考えすぎていた！

　あれは目でいいんだ！

　目してる。

　メしてる。

　飯TEL。

　つまり次回の家飲みで何を食べたいかを電話しろという事だな！

　じゃあ早速……！

『も、もしもし！？　な、何急に電話して！』

「いや、メッセージ見てさ」

『うえええっ！？　ちょ、違うの、あれは、その、間違えて送っちゃって、だから、えーっと……！』

　成程、本来はもっと凝ったものにするつもりだったんだな。

　それは次回以降にしてもらうとして……。

「鱚（きす）が良いな」

『はあっ！？　き、きき、キスって……！』

　そろそろ旬だし、天ぷらは最高だしな。

『ま、まだそういうのは、は、早くない……？』

「そんな事ないだろう。結構待ってたし」

『ま、待ってたの！？』

　そりゃあ旬のものが一番美味いからな。

　リクエストするにも、タイミングはあるだろう。

『で、でもちょっと、その、準備とかあるし……』

　それはそうだろう。

　天ぷらは油を大量に使う。

　調理だけならともかく、片付けにはそれなりの準備が必要だろう。

「……わかった。無理を言うのは良くないよな」

『えっ、ちょっ……』

「別に今じゃなくたって良いさ。玲子の準備ができた時で良いから、慌てなくてい」

『べっ別にできないとは言ってないでしょ！　……でも、家でき、キスとかしたら、そ、その先とか……』

　その先？　あぁ、〆の天丼か。

「何だ。玲子も楽しみにしてくれているのか。嬉しいな」

『〜〜〜っ！　も、もう！　ばかっ！」

　切られた。

　あぁ、玲子も女だ。

　食い意地が張っていると思われるのは心外だったかな。

　メッセージでフォローしておこう。

「食べれるの、俺も楽しみにしてるからな」

　これでよし、と。

　お、すぐ返信が来た。

『らいしゅうまつ』

　これで予定確定か。

　あぁ、楽しみだなぁ。

読了ありがとうございます。

的外れだって推理には違いない。だろう？

だから通報ボタンからゆっくり手を離して……。

そうだ、いい子だ。

恒例のお名前紹介。

主人公は部井（ぶい）仁（ひとし）。

ヒロインは積出（つみいで）玲子（れいこ）。

さぁ、今回はここまでです。

名前の由来を推理してみてくれ（取ってつけたような推理要素）。

さて覚悟を決めた玲子と勘違いをしている仁の関係は！？

……推理するまでもないな、こりゃ……。

お楽しみいただけたなら幸いです。