(97)閑話-ネル-(1) 語り手ブレイド
虐殺のネルと言う本当に不名誉な、そしてありがたくない名前で呼ばれている相棒の話をしたいと思う。
偉そうな事を言ってはいるが、自分も暴虐のブレイドと言う非常にふざけた呼ばれ方をしているが、正直もう少しセンスのある呼び名で呼んでもらいたかったと言う所が本音ではある。
彼女は精霊族で、自分と同じくジニアス様の魂に心酔している相棒であり、共に永遠にジニアス様の魂と在りたいと願う同士でもあるので、互いの信頼関係は相当ではないだろうか。
少なくとも自分は、ネルに対して絶大な信頼を置いているし、恩もある。
自分と彼女との出会いは……もう覚えていない程昔の話になるので齟齬が発生しているかもしれないが、そこは大目に見て頂けるとありがたい。まぁ、なるべく正確に思い出してみよう。
確か……自分と言う存在を認識してから暫くして、見渡す限りの荒野を当てもなく歩いていた様な……いや、今考えれば相当恥ずかしい独り言を言っていたのを思い出した!
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「フム、見渡す限りの荒野に生を受けた自分と言う存在、何のために生まれたか、これから何をすべきか、慎重に見極める必要があるな。この場所で自分と言う存在を認識した事にも深い意味があるに違いない!」
ぐるりと周囲を見回しても、見える範囲で生物は見えないし反応も伺い知る事は出来ない上、残念な事に見渡す限り同じような景色が続いているように見える。
「む、これではどちらに進めば良いのかわからないし、今後の方針すら決める事は出来ない。困ったものだ」
焦る事は無いのだが、さしあたり今の状態では何も変わらない景色しかないので別の方法を使って何かしらの変化を見つけ、その方向に進むべきだろうな。
ではどうするのか……フフフ、なるほど。
やはり自分は何かを成し遂げる為に生れてきたのだろう。
内部に溢れんばかりの力があるのを感じるぞ。
フム、レベル10と言うのは高いのか低いのか良くわからないが、攻撃、補助、防御の三系統の力が有るらしいので、この力を使えば周囲の微妙な変化を読み取れるかもしれないな。
探索術なるモノが使えるようなので、その力を使って……も何も気配を掴む事が出来ない。
おかしいぞ?自分と言う存在を見つめるために、ここで持っている力を使えば次のステップに進めるのが定石なのでは?と言う気がするのだが。
いや、待て。そうじゃない。きっとこれだけでは足りずに、もう少し別の何かを行う事で変化を見つけられるような試練になっているのが当然の流れだと考えると、フムフム、フハハハハハ、見つけてしまった。
早くも自分と言う存在が恐ろしくなるな。
この補助系統の中には補助術なるモノがあると言う事は、この力を自らに行使する事で力が底上げされるに違いないと思ったのだ。
「やはり、思った通りだ」
いや、すまない。
思わず声に出てしまったのだが、補助術を難なく行使した自分はそのままの状態で探索術を行使したのだが、とある方向に非常に微弱、つまり存在が消えかかっているのか、はたまた距離が遠すぎて感知しきれないのかは経験がないために不明だが、生物の反応を感知する事に成功した。
自分はその微弱な気配を察知しつつ移動する事にして、道中に他の変化がないのか慎重に調べているのだが、何時まで経っても微弱な気配に変化はなく、それ以外の気配を掴む事は出来なかった。
「今日はここまでにしておこう」
自分と言う存在に気が付いた初日であるのだが、無理なく行動する事を意識できている自分は凄いのではないだろうか?
歩くのを止めているのだが、特段……睡眠と言うのだろうか?休む必要性を感じなければ、何かの栄養素を取り入れなくてはいけないと言う意識もあまりないので、やる事がない事に気が付いてしまった。
「であれば、やはり進んだ方が得策なのだろうか?」
無駄に止まってしまった結果になったのだが、この余裕を持った行動が次なるステップに繋がったに違いない!
微弱な気配の方向から、力を持っている集団の気配を感じる事が出来たからな。
え?止まらなくても気配はつかめたはずだって?まぁ、その通りではあるが、余計な横槍は入れないでいただきたい。
「では、少し本腰を入れて気配をつかめている方向に……」
気を取り直して進もうとした所、そこそこの力を持つ集団に対して相当強大な……正直に言うと今の自分と同等か、悔しいが上の力を持つ者の気配が突如として現れ、そこそこの者達の気配が徐々に薄くなっていく。
そこそこの力を持つ者の内一つ……いや、二つ程の気配が何故かこちらに向かって急激に近づいているのを感じるのだが、間違いなく強大な力を持つ者から逃走しているのだろう。
「あ~、何故こちらに向かって来るのだろうか。今の自分では確実な勝利を得る事が出来ない力を持つ相手の矛先が、こちらに向きかねない。どうするか……」
また炸裂してしまった独り言ではあるのだが、このように話せる余裕があるのも、補助系統の中に隠密術なるモノを見出したおかげだ。




