(91)戦闘祭り(5)
突然自分の事を認識しているはずのないイリスが、背後から近づいているにもかかわらず正対した事で動きを止めるレグザだが、視線からは完全に捉えている様子は見受けられないので、何か音がしてしまったのかと動きを止める。
―――ボキ―――
「う、がぁ~!!」
右腕から突然発生する激痛に、思わず隠密術を維持できずに姿を現してのたうち回ってしまうレグザ。
「お~っと、漸くコソコソ隠れていたクソ野郎が姿を現したぞ!イリス様の宣言通りに右腕を折られて情けなくも無様に地面をのたうち回っている、正にお似合いの姿だ!」
追撃が無かったために、脂汗をかきながらなんとか立ち上がってイリスを睨むレグザ。
「な、何故位置が分かった!魔道具か?」
戦闘中にもかかわらずこのような言葉が出てきてしまうレグザだが、自分の力に絶対の自信があり、例え格上のレベル8とは言え自分と同じく一系統の力しか持っていない者であれば負けるとは思っていなかった。
「魔道具?ハハハハ、バ~カ!お前程度に貴重な魔道具を使うかよ!これは単純に私の鍛錬の成果によるものだ!お前程度の隠密術対策は習得済みだ!」
「流石は我らがイリス様!切り札をあっさりと破られて茫然自失のクソ野郎は、今後どうするのか!何もできずにビルマスとか言うクズと同じ運命を辿るのか?いや、辿れ!!」
アナウンスの言葉も聞こえているレグザは、ここで自分の前に戦闘してボロボロになったビルマスの事を思い出した。
「ま、待って下さい。私はもう負けを認めますから、ここで敗退と言う事……」
「アレ?クソ野郎が何か言っているようだが、審判の自分には言っている言葉が良くわからないぞ?ひょっとして、不敬にもイリス様に対してもっと本気で来いと煽っているのか?お前らもそう聞こえただろう?」
「「「うぉ~」」」
観衆もアナウンスの内容に同調し、同時にビルマスと同じように両膝に暗器による攻撃を受けて立ち上がれずに地面をのたうち回っているレグザだが。その苦痛の声は大歓声にかき消されて聞こえない。
そこからは再び徐々に体を破壊されていくしかないレグザと、その様子を渋い顔で見ているヒムロ。
ヒムロとしては、イリスはビルマスにも勝てるはずはないと思っており、最悪負けてもレグザと連戦ともなれば少なくとも大怪我を負うだろうと予想していたが、蓋を開けてみればイリスの圧勝、二人の惨敗と言う結果であり、流石に同じレベル7の二人の状況を間近で二回も見させられると勝利の道が見えなくなっていた。
「いや、まだだ。あいつも攻撃系統。俺も攻撃系統。ならば、レグザの補助魔法によって強化されれば絶対に勝てるぜ!」
自分を奮い立たせている最中でも試合終了の合図は聞こえてこずに、大観衆の声だけが聞こえる。
「漸く試合……ではない状態の一方的な戦闘が終了だ~!流石は我らのイリス様!クソ野郎に宣言通りの鉄槌を下したぞ!残るは、三バカ筆頭のヒムロだ!お前等、あれだけ偉そうな態度の三バカの親玉が、芋虫のように地べたに這いつくばる様を期待しておけよ!」
「……クッ、クソ野郎が。俺は、俺達は異国間の交流で来ている他国の公爵家の者だぞ!それを……バカにしてんのか!」
「ヒムロ!次はお前の番だ。さっさと来い!」
ヒムロ達の案内人すら被っていた猫を脱ぎ去り、完全に命令口調でヒムロを先導する。
「いや、大丈夫だ。会場について即レグザに補助魔法を付与してもらえれば楽勝だ。あいつの補助魔法があれば、絶対に勝てる!」
自分を落ち着かせるように必勝の一手を呟いているヒムロだが、この淡い希望を持たせる事もジェイド国王の指示によるもので、戦闘の順番すら意図して組まれた事を理解していない。
「着いたぞ。壇上に上がってボコボコにされてきやがれ、クズ野郎!」
先導していた者はさっさとこの場から立ち去り、残されたヒムロは補助魔法をかけてもらう為にレグザを必死で探す。
「……な!?」
何とかヒムロが見つけたのは完全に気絶して治療すらされていないレグザであり、意識が無ければ補助魔法をかけてもらう事などできはしない。
そもそもあの状態で意識があっても、強力な補助魔法をかける状態ではない事は誰の目から見ても明らかだ。
「お~っと、こっちの予想と寸分たがわぬ行動をして見せた、脳みそスカスカのヒムロ!どう見てもレグザに補助魔法をかけてもらおうとしていたぞ!だが、残念でした~!そんな事はお見通しです~!お前はさっさと闘技場に上がって体を張って祭りを盛り上げる他ないんだよ!」
まさかの事態に、足がすくんで一歩踏み出す事が出来ないヒムロ。
「おいおい、偉そうな公爵嫡男が震えているぞ!仕方がない」
このアナウンスを聞いて助かったと思ったヒムロだが、王女や侯爵令嬢を殺害しようとした三人が許されるわけはない。
「じゃあ、その場でいいから戦闘開始だ!お前等、最後の楽しみをしかとその目に焼き付けろ!」




