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(86)逆留学

「してやられた……か?」


 ジェイド国王達が去った後の円卓の間で、思わずダイマールが思った事を直接口にしてしまった。


「いや、ダイマールよ。確かにジェイド国王は娘達が危険にさらされた事に思う所はあるようだが、こちらに非が無い事は理解しているはず。それに、仮に向こうで何かあってみろ。明らかに理不尽な報復だと思われるから、そのような事をするはずがないだろう?」


「……確かに、仰せの通りです」


 ダイマールの言葉の真意を勘違いしている皇帝の言葉を正す訳にはいかず、そのまま受け入れる流れになってしまう。


 皇帝としては言葉の通りの考えなのだが、ジェイド国王にはダイマールが確実に三人を亡き者にしようとした事が明らかになっていると判断しており、自らの嫡男をその懐に潜らせるような事は避けたかったのだが……


 皇帝の“何かある”とは少々のトラブルを想定しているのだろうが、ダイマールとしては命の危険があると思っているので意識に大きな差がある。


 他の二人の公爵も立場は同じで少々暗い顔をしているのだが、皇帝シノバルからこのような言葉が飛んでくる。


「ジェイド国王はアズロン男爵領と接しているからか仲が良くなっていると聞く。アズロンは最近ヒューレット一行と専属契約もした上、あの妖幻狼を納品したほどだ。今冷静に考えれば、いくらヒューレット一行でも……アズロンの為だけに貴重な眷属を一体差し出す事は無いだろう。恐らく当初から裏にはジェイド国王がいたに違いない。その辺り、懐に入る事で調査も可能なのではないか?」 


 皇帝シノバルからのこの一言で全てが決定されてしまい、公爵達は嫡男達に事情を説明するのだが、親として心配していたのが無駄になるくらい乗り気だった。


 曰く、何時までも自分に振り向かないスミナを相手にするよりも、まだチャンスのあるソフィア達を手中に収める方が良いだの、ジニアスやブレイド達から少し距離を取って生活したいと言った事があったのだ。


 とんとん拍子に話は纏まり、三人の嫡男達は留学期間を大幅に超過してアズロン男爵邸に留まっていたソフィア達と共にシラバス王国に向かって行ったが、その間公爵側からの余計な行動は一切なくなり、順調に復興が出来ているアズロン男爵領。


 専属契約をしているヒューレット達は事前の取り決めの通り、時折冒険者としての自由な依頼をこなして、適度……と言ってもレベル9のパーティーである為に相当額にはなるのだが、しっかりと収入を得ている。


 ジニアスが霞狐を護衛として当主家族やレンファに各一体与えたので、年がら年中アズロン男爵達の傍で警戒する必要が無くなった為に、空いた時間には男爵領に急いで向かい復興の手伝いをするほどになっていた。


 アズロン男爵領が二年分の税を納めている事になっているので、備蓄を放出したが再度無理せずに蓄える事ができる状況になっており、言葉通りにジェイド国王の援助もあって相当な勢いで復興作業が進んでいるのだが、この状況を面白く思っていないダイマール公爵達の暗部が再び余計な事をしないようにする対策でもある。


 その頃……事前にヨルダン帝国の公爵家嫡男が逆留学としてやってくる事を知らされていたシラバス王国では、急遽とある祭りが開催される運びになっていた。


 その祭りの名前は……戦闘祭り!


 もう、これ以上ない程にあからさま過ぎるのだが、配慮をする必要が一切ないと考えているシラバス王国のジェイド国王の強烈な指示の元に開催の準備が急ピッチで整えられており、その祭りに嫡男三人を強制参加させるべく、ソフィアを始めイリス、ラビリアがヒムロ、レグザ、ビルマスを道中上手い事乗せて参加させる事に成功していた。


 真の実力が見たいだのなんだの持ち上げられて、自分達が何をしたのか、どう思われているのかなど吹っ飛んでしまった三人は喜々としてその祭りに参加する事にしていたので、楽しみにしているほどだ。


 レベル7の自分達であれば負けはないと勝手に思い込んでいる事、一向に靡かないスミナよりも、目の前の女性三人の方が脈ありに見えた事で良い所を見せたいと思った事から参加を快諾した。


「ここが……シラバス王国。結構(・・)栄えているな」


 のっけから失礼な事を言ってのけるヒムロだが、間もなく祭りで合法的にボコボコに出来ると知っているソフィア達は取り繕った笑顔を浮かべているだけで特に反応はしない。


 馬車はそのまま王城に向かう事は無く、闘技場の前に停まる。


 まさか長旅直後で突然戦闘祭りに参加するとは夢にも思っていなかった三人は、少々ごねる。


「おいおい、最低限の歓待位は有っても良いだろう?俺達は国家同士の交流を深めると言う重要な立場でもあるはずだ」


「そうですね。ヒムロの言う通りです。これではシラバス王国のレベルが知れますよ?」


「まっ、どうしてもって言うのなら参加してやらねー事もないが、その代わり疲れた体を癒してもらう事が条件だ」


 すっかりこの道中で自分の立場を勘違いしてしまった三人。


 自国で行ったソフィア達に対する蛮行もなかった事になり、最大の脅威であるジニアスもいない事から以前の調子が完全に戻ってきていた。


 流石にソフィア達の護衛の騎士達が殺気立つのだが、それを片手で制したソフィアは取り繕った笑顔のままにこう告げる。


「癒しが必要なほど疲れていないでしょう?まさかこの程度で疲れる程に軟弱なのですか?だとしたら、貴方のレベルも知れますわね」


 逆にレグザの問いに反撃するかのように煽って見せた。


 沸点が低い三人は、今までの調子を取り戻した事もあってバカにされた事に腹が立ち、即座に受付に向かって参加の意志を示すと、登録用の紙を受付からひったくり碌に読まずにサインする。


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