(85)三公爵
いくら男爵の邸宅にいるとしても、門を通って帝都にいるのでジェイド国王の情報は即座に皇帝に伝わる。
もちろん三公爵にもその情報は共有され、ダンジョンで死亡した(と思っている)三人について何かを言いに来たのかと構えているのだが、ダンジョン内部での勝手な行動による事と納得しているはずであり、それはないだろうと確信している。
「恐らく、ダンジョンに近衛騎士と入るのだろうな。有り得ないが、万が一の事態があっても知らぬ存ぜぬで通せるし、何も心配する事は無い」
「確かにダイマール公爵の言う通り。しかし、三人を助けに行くにしては人数が少ないような気がするが?」
「想像になりますが、ヒューレット一行も同行するのでしょう。まぁ、何か言われても我らが息子達も三人を救出する体をとっているので、道義的にも問題はないかと」
勝手に三人で国王の行動を予想しているのだが、ある程度準備をして侵入したとしても生存できるような日数はとっくに過ぎており、三人は確実に死亡していると判断している。
そこに執事からの伝言で至急登城するようにと言う指示を聞き及び、三人共に特段慌てる事もなく揃って城に向かう。
「シラバス王国は三人を救出するためのダンジョン侵入前に、我らが公爵家の力を出すように言って来るのだろうな」
「少しの助力はやむを得ないかと思うが?今回、ダイマール公爵が留学の手配を行っていたのだろう?」
「確かにその留学中の事故なので、少々力を貸すのは仕方がないですね」
三人は、シラバス王国の国王は間違いなく留学生三人の救出に向かうのだと確信しており、そこに責任の一端……本当は全責任があるのだが、一端がある公爵家からも戦力を補充しようとしており、その申し出の為に呼び出されたと思っている。
城に着くと謁見の間ではなく円卓の間に通されて、そこには皇帝シノバルとシラバス王国のジェイド国王、そして予想していなかった人物三人……王女のソフィア、侯爵令嬢のイリスとラビリアの留学生三人も座っていた。
この三人が高貴な人物である事を知った上で始末しようと動いたダイマール公爵、スラノイド公爵、ホワイト公爵は一瞬表情がこわばるが、流石は公爵家の当主……即座に表情を取り繕うと着席する。
「あら?随分と余裕の表情ですわね。他国の留学生を平気でダンジョン深層に送るような人物ですから、想像以上に面の皮が厚いのかしら?」
少々気の強い王女であるソフィアから直球が飛んでくるのだが、事前に少し話していた通りに完全に白を切って打ち返す。
「ソフィア王女。私達は貴方が自ら望んで……希望したダンジョン中層の卵を安全に見る事ができる様、高レベルの冒険者に高い報酬を支払ってまで手配したのですよ?それをそこまで悪意のある言い方をされては、非常に心外ですな」
当然と言わんばかりの表情で返してくるダイマール公爵を睨みつけているソフィアを、父であるジェイド国王が軽く諫める。
「ソフィア、少し抑えなさい」
その様子を見ている皇帝シノバルは、今までの信頼関係がある以上ダイマール公爵の言葉を完全に信じ切っている。
「で、急ぎ登城せよとの命により馳せ参じましたが、このような言いがかりをつけられるためだけに呼ばれたのでしょうか?」
ジェイド国王がソフィアを諫めた事から追い風が吹いていると判断したダイマール公爵は、ここぞとばかりに追撃した。
「……ダイマール公爵と言ったか?知っているとは思うが、余はシラバス王国の国王であり、このソフィアの父でもある。今回の事故の件は娘達から事情を良く聞いている。そう、詳しく……な。随分とレベルの高い冒険者を使いこなしているようだな」
「はっ。皆様方の安全を確保すべく、レベル9と言う別格の強者達を多額の報酬を支払って手配しましたので」
ジェイド国王の言葉を嫌味と知りつつも直球で打ち返すダイマール公爵のこの言葉の中には、自らが護衛の冒険者を手配したが、事故については預かり知らない事であり責はないと暗に告げている。
貴族・王族であればこの裏のやり取りはすぐにわかるので、ジェイド国王もこう返す。
「フム、それは手間をかけたな。更には自らの嫡男達を同行させる程の太っ腹。余も感心している所だ」
訳すと、自らの嫡男さえも犯罪の一端を担うとはとんだ痴れ者だ……と言っている。
不穏な空気を誰しもが感じてはいるのだが、そのまま外見上は互いを褒めるかのような応酬が続き、やがて皇帝シノバルが話を纏めにかかる。
皇帝シノバルだけは完全にダイマール公爵側の言い分を信頼しきっているので、ジェイド国王の言葉の真の意味を理解している以上は少々気分を害しているのだが、大切な身内に対して危機的な状況に陥らせてしまったのは事実であり、諫める事はしなかった。
「今回の事故は、例え不慮の事故であったとしてもジェイド国王に不安を与えたのは事実。そこは謝罪しよう。だが、学生として学園の者達と共に生活をする事で親睦を深める事も出来たのではないか?異国の文化にも触れて広い視野も得る事が出来ただろう」
「……そうですな。本当に色々と学んだようですよ。そこで、返礼として是非ともそちらの公爵家の嫡男三人を我がシラバス王国に招待したい。如何かな?」
貴族・王族とは見栄の塊であり、この招待を断れば報復を恐れたと判断されかねないと思っているので、自らに非が無い事を証明する事もあってその申し出を受けざるを得ないと判断した皇帝と三公爵。
「では、日程は後日連絡しましょう。な~に、ご安心ください。しっかりと歓待させていただきますよ。ははははは」
これだけ言い残すと、ジェイド国王とソフィア達は円卓の間から退出して帰って行った。




